雷獣様の兄   作:斑田猫蔵

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モブ狐に喧嘩を売られたみたいです

 金色の翼とは、萩尾丸が運営する組織(会社?)の一般名である。組織に属する妖怪たちの階級も小雀、荒鷲、翁鳥、金翅鳥と鳥で統一しているという所は恐れ入る物だ。

 俺たちは三國叔父さんに連れられそんな金色の翼に足を運んでいた。萩尾丸と直々に挨拶するために。

 

「こんにちは三國君。それと雷園寺君たち。君が疾風君で、隣の君が雪羽君だね」

 

 萩尾丸は澱みない口調で俺たちに声をかけた。百数名いる部下たちの顔と名前を把握しているとされているが、やはりその記憶力には偽りは無さそうだ。

 もっとも、俺と雪羽は面立ちこそ似ているが髪の色や目の色が違う。それで区別が出来ただけかもしれないけれど。

 

「はい。僕は雷園寺疾風です」

「僕は雷園寺雪羽です。疾風兄様の弟です」

 

 めいめいに俺たちが挨拶を返すと、萩尾丸はその頬に笑みを浮かべた。

 

「ふふふ。力もこの年の割には強そうだけど、何より二人とも礼儀正しい良い子みたいだねぇ。三國君。君も頑張ったね」

 

 礼儀正しい良い子。萩尾丸のこの誉め言葉は俺の心の中に染み込んでいった。端的に言って嬉しかった。もちろん俺が評された事に喜んでいるのではない。雪羽が、いずれは闇堕ちするかもしれないとされる雪羽がそう評された事に俺は喜んでいたのだ。

 原作では雪羽がやさぐれるのは割と早い時期である事が示唆されていたのだから。

 萩尾丸の言葉は世辞ではなく本心からのものであろうと俺は信じている。それは(原作で)萩尾丸のひととなりを知っているからだ。彼は優秀な妖怪であるが、大天狗らしく傲慢で、尚且つ嘲弄的な言葉遣いの持ち主である。従って同僚や部下に向ける言葉に皮肉や棘が混ざっている事も珍しくはない。

 裏返せば、素直なあの言葉は最大級の賛辞と捉えても遜色ないという事だ。

 

「それじゃ、若い子たちとも会ってみようか。ボクたち。ちょっと緊張しちゃうかもしれないけれど大丈夫だからね」

「はい……」

「うん!」

 

 若い妖怪たちと会う。その言葉に雪羽は既にはしゃいでいる。

 

 

「雷園寺家の当主候補とその腰巾着だって。はっ、どんな御仁かと思えば単なるガキンチョじゃあないか」

 

 集まった若妖怪の中から、挑発的な声がにわかに上がった。他の妖怪たちが驚いてざわめく。無理もない事だろう。萩尾丸は確かに大妖怪であるが、その部下として彼が連れてきた妖怪たちはあまりにも若かった。それこそ、人間で言えば高校生くらいの連中ばかりだろう。

 ざわつく声を聞く限り、やはり仲間内で上がった挑発的な言葉に恐れおののいているらしい。

 当然の話だろう。萩尾丸は第六幹部であり三國叔父さんは第八幹部である。しかし集まっている萩尾丸の部下たちは末端の平社員に過ぎない。一方の俺たちは三國叔父さんの甥であり、しかも雷園寺家の看板を背負った名門妖怪だ。

 庶民妖怪が子供と言えども名門妖怪を愚弄する事はあってはならない。彼らは素直にそう思い、仲間の蛮行に驚いているのだろう。或いは単純に、萩尾丸の罰を受ける事を恐れているのかもしれない。

 

「おやぁ、中々のビッグマウスだねぇ」

 

 密かに青筋を浮かべて放電していた三國叔父さんが何か言いだす前に萩尾丸が呑気な声を上げていた。萩尾丸は冷静さを失ってはいないらしい。

 

「今の発言は誰がしたのかな。怒りはしないからさ、出てきておいでよ」

 

 呑気な口調そのままに萩尾丸が促す。すると妖怪たちの群衆が二つに分かれた。その別れた間から、一匹の妖怪が悠々とした足取りでこちらに向かってくる。

 出てきたのは根元が赤茶に染まった金髪の少年だった。他の仲間と同じく人間で言えば高校生くらいだろうか。俺たちのそれとは違う、フワフワした尻尾を見た瞬間、彼が妖狐である事を俺は悟った。

 態度の大きい妖狐。その存在を意識するや否や、俺は妙な胸騒ぎを感じてしまった。ここにいる筈のない主人公、島崎源吾郎の存在を思い浮かべたからだった。まだ彼が生まれるのはずっと先の話であるというのに。

 

「藻介君。やっぱり君だったのか」

 

 ずんずんと向かってきた妖狐の少年を見るや、萩尾丸は腑に落ちたと言わんばかりの声を上げた。全く驚いていないし、むしろそれどころか予想通りだと思っているようにさえ思えた。

 藻介狐は萩尾丸を一瞥したが、片頬に笑みを浮かべると俺や雪羽に鋭い視線を向けた。

 

「良いかいオチビ共よぉ。大妖怪の血筋を引いているからって、その看板に胡坐をかいているだけで良いと思ったら大きな間違いだからな。

 玉藻御前の末裔を名乗るこの俺が、直々に世間の厳しさってやつを教えてやるよ!」

 

 玉藻御前の末裔。思いがけぬこの単語に俺はごくりと唾を呑んだ。彼を見て島崎源吾郎の幻影を脳裏に浮かべたのは無理からぬ話だとも思い始めていた。彼自身も玉藻御前に関与しているのだから。

 いや待てよ。あの世界には玉藻御前の末裔を名乗る妖狐も一定数存在するという話だったはずだ。見た感じ藻介と名乗る少年は純血の妖狐みたいだし偽者だろう。

 

「兄様、どうしよう……」

 

 雪羽は心配そうな声を上げている。俺はそんな雪羽に笑い返していた。

 今俺たちは、玉藻御前の末裔を名乗る雑魚妖怪、要はモブに絡まれているだけなのだ。であれば何をどうすれば良いのかは明白ではないか。

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