雷獣様の兄   作:斑田猫蔵

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生誕祭とかいう最大のフラグ到来します

 玉藻御前の末裔を名乗る妖狐の鼻っ柱をへし折ってからは、割合平和な日々が続いていた。時々萩尾丸に呼び出されて戦闘訓練を受けるという日課が増えたけれど、それも基本的に和気あいあいとした(?)空気の中で進む事が常だった。

 そう言えば原作でも源吾郎は萩尾丸の部下と戦闘訓練を受けていた。それこそ、雪羽が萩尾丸の監督下に入ってからは彼と一騎打ちの訓練を繰り返していたはずだ。序盤では戦闘慣れした雪羽の前にさしもの源吾郎も苦戦してはいた。しかし持ち前の執念深さと妖狐らしい手数の多さにて雪羽を打ち負かすようになるのだ。

 そしてそれこそが、雪羽の闇堕ちのきっかけであると言っても過言では無かろう。まぁ、「九尾の子孫~」を見ていたら、それ以前にも既に雪羽の性格が仕上がっているのできっかけの一つと流す事も出来るだろうけれど。

 

 さて現状に話を戻そう。雪羽については無問題だ。存在しないはずの彼の兄として一緒に暮らし始めて数年経つが、原作の雪羽とは似ても似つかぬ存在としてそこにいて、俺に笑いかけてくれる。到底闇堕ちしそうにない。

 それどころかむしろ、健気で屈託なくて優しくて愛らしい好少年にしか見えない。ついでに言えば銀髪翠眼という目立つ特徴の上に整った面立ちの美少年だから、尚更愛されキャラにしか見えない。まぁもしかすると、兄の欲目もあるかもしれないが。

 ともあれ原作で俺が知る雪羽の存在とはまるきり異なっていた。原作で見せる彼の姿はただただ悪辣で、下劣で品性卑しい物でしかなかった。しかも途中までは主人公のライバルとして登場し、歩み寄るふりをして牙を研いでいたという事だったから尚更そのゲスぶりが際立つという仕様だ。冴えない風貌の主人公の対比として美形キャラだったのは確かにその通りだが、ゲスっぽい言動と表情でもって、もっぱらアニメでもヘイトを集めているキャラだった。

 そんな雪羽はアニメの終盤で主人公の攻撃をマトモに喰らい、数日後に衰弱死するという末路を辿る。狐火で炙られ尻尾の打撃で身体を半ば砕かれ、二目とみられない姿になっての事だ。

 全くもって容赦のない展開であるが、それを見て歓喜の声を上げたアニメファンがいるという事であるから恐れ入る。まぁ俺も、視聴者だった頃は雪羽の最期に溜飲が苦だったのは事実だが。

 

 その俺が雪羽の兄に転生したのはどのような因果なのかは解らない。解らないなりにも先を知っているから、それらを回避しようと躍起になっていた。そのために雪羽がやさぐれないように指導する事が必須だと思ったのだ。兄という立場は、そういう意味では良かった。アニメでも、長男であるはずの雪羽は兄の存在を欲していたらしいと言われていたのだから。

 まだ原作が始まるまでには四半世紀ほど余裕がある。無論油断してはいけないだろうが最初の数年にしてはまずまずの出来だと俺も思っていた。

 いや……この世界にいる雪羽は、俺がアニメで知っている彼よりもずっと利発な子だ。真っすぐな状態を維持したまま育てば、それこそその見た目に似合う良家の御曹司になってくれるのではなかろうか。もしかしたら源吾郎と真の意味でライバルになるかもしれないが、それはそれで面白かろう。

 

 

 この日はいつもより少し早い時間に起こされた。そりゃあまぁたたき起こされたとかそう言う事ではない。だけど起こしに来た春嵐さんがやけに慌てている。一体どうしたんだろう。眠い目をこすりつつ俺は眼が冴えてくるのを待った。

 

「兄様、まだ眠いの?」

 

 瞼をこする俺の隣で雪羽がささやきかける。弟は寝付きも良く、寝起きから目覚めた状態に移行するのも妙に早い。そう言えばアニメで雷獣は脳内に切り替え機構があるという話だが、その恩恵を受けているのかもしれない。

 だったら俺はどうなのか、という話である。人間としての意識が引きずられているのか、単なる個体差に過ぎないのかその辺は定かではない。また暇なときに確認すれば良いのかもしれない。

 

「んー。大丈夫だよ雪羽。まだ眠いけど」

 

 まだ眠いんだー。誠に子供らしい様子ではしゃぐ雪羽から視線を外し、世話係な春嵐さんの方を見た。

 

「早い時間にすみませんね、お坊ちゃま方。ですが今日は生誕祭がございますので、早めに起こしました。何しろ頭目たる胡琉安様を八頭衆やその重臣たちで祝う訳ですからね。念には念を入れてきちんと準備しておきたいと思っているのです。

 疾風お坊ちゃまも雪羽お坊ちゃまも、第八幹部・三國さんの甥御殿です。それに千年までは疾風お坊ちゃまのお加減もすぐれなかったので、今回はそういう意味でも重要な回になるかと思うのです」

 

 生誕祭……胡琉安……八頭衆。「九尾の子孫、~」でもかなり重要な単語たちを耳にした俺の脳は既に覚醒しきっていた。

 三國叔父さんの甥で養子でもある俺たちが生誕祭に出向かなければならないのは自明の理であろう。

 だが生誕祭に参加する。その事を耳にして心がざわつくのを俺は感じていた。

 

 雪羽と源吾郎との因縁は、それこそ生誕祭によって始まった物なのだから。




 真なる原作ではどのように雪羽君は描写されているのか。
 それは九尾シリーズでおいおいと解っていきます。
※せっかちな人はカクヨム版も覗いてみてくださいね!
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