また、誤って食べないようにするように注意する事も必要です。
生誕祭。雉鶏精一派の頭目・胡琉安の誕生日を祝う組織公認のイベントである。表向きでは八頭衆と呼ばれる幹部陣とその重臣が胡琉安の誕生日を祝って飲食し談笑する会合なのだが……そんな和やかな一面だけではないのが実情だ。
というか実際の所、互いの幹部勢力の力量を見定めたり、話術でもって相手を牽制しあったりする場でもあるらしい。社交の場でもあり戦場でもあるという事だ。
そんなおっかない場所に俺たちのような子供など出る幕は無いだろう……とは思う。だが俺も雪羽も三國叔父さんの甥であり、雷園寺家の子息たちに当たる。生誕祭出席は不可避案件なのだ。
ちなみにアニメの方でも雪羽は生誕祭にがっつり出席していた。しかし酒癖が悪く獣妖怪の女子に絡むという習性が出来てしまっていたために問題を起こしていたのだ。源吾郎が初めて生誕祭に関与した時も、ウェイトレスに変化していた源吾郎に絡み、何やかんやあって自分で積み上げたグラスタワーを崩落させるという事故を起こしてしまう。
余談だが源吾郎が女子に変化するという設定は、アニメではなく書籍由来らしい。萩尾丸の嗜好と言い源吾郎の変化バリエーションと言い原作者は中々エッジの利いた感性の持ち主らしい。まぁ源吾郎の美少女変化はそこそこ人気があるみたいなんだけど。
まぁそんなわけで俺たちは用意された子供用のスーツを着込んでいた。言うて普通に出社するときもスーツなのだが、今回のために奮発したらしい。普段よりも高級なスーツだった。デザインとかブランドとか子供妖怪の俺にはてんで解らないけれど、肌触りとかが滑らかで高価そうだなって思った感じだ。
こんな良い物を着せてもらって馬子にも衣裳にならないかちょっと心配になってしまった。だけど叔父さん夫婦も春嵐さんも他の妖怪たちも様になるって褒めてくれたんで俺は素直に安心している。実は俺、自分の見た目は弟の見た目でちゃっかり判断している。髪と瞳の色以外は、俺と雪羽の見た目はそっくりであると結構前に知ったからだ。俺美形だぜ! みたいな事を言っちゃうと自意識過剰で痛い奴と思われるかもしれないがそれはまぁ仕方ない事だ。だって雪羽が超絶美形だという事実は覆らないんだからな!
揃いのスーツを着込んだからもう準備万端であろう。そう思っていると月華さんがすこし屈みこんで俺たちに声をかけてくれた。
「疾風君に雪羽君。お料理はバイキング形式だから、取り分ける時に注意するのよ。ネギ類を使ったお料理とか、チョコレートを使ったお菓子は食べないようにするのよ。そうでないと、生命に関わるからね」
月華さんの注意に俺は気を引き締めた。普段のほわほわした雰囲気はなりを潜め、真剣そうな様子で俺たちを見つめている。
この世界での妖怪の食性は、割と実在の動物に近い所が多い。妖狐なら雑食性だが小鳥やマウス、チーズなどが好物であるとか、雉や鶏の妖怪は臆せず蛇を襲って食べるとか、そういう感じなのだ。俺たち雷獣が草食に近い雑食性なのもそう言う所に起因している。
そして、犬猫などの多くの動物にとってネギ類やチョコレートが毒であるという設定も、一部の妖怪たちにばっちりと当てはまってしまっているのだ。
なお俺はこの肉体にとってチョコレートが有害なものである事は身をもって知っている。転生して数年後、回復して自由に動けるようになったある日、俺はこっそりチョコレートを買って口にしたのだ。まぁほんの出来心だった。
しかし食べた後に原因不明の体調不良に見舞われ、すぐさま医者(もちろん妖怪の医者)を呼ぶ羽目になった。そこで俺はチョコレート中毒を起こしていると判明したのだ。
月華さんたちが俺たちの、特に俺の口にする物に神経質になるのはそう言う事があったからだった。
「うん。そう言うのは危ないから気を付けるよ月姉」
「月華さん。ネギ類を使った料理とそうでない料理って区別はつくのかな?」
「ネギ類を使った料理はお皿にきちんと模様が入ってるわ。入ってないお皿はネギを使ってない料理なのよ」
この度気を付けた方が良いのは料理に関する事だなと、俺は静かに思っていた。原作の雪羽は酒を嗜んでいたらしいが、今ここにいる雪羽は酒なんて一滴も飲まない。まだ子供だから、と言われればそれまでかもしれない。とはいえ素面だったら素面だったで生じるトラブルも少ないだろうから喜ばしい事だ。
※
生誕祭の会場にて。俺たちはひとまず三國叔父さんや月華さんにくっつき食事を楽しんでいた。側近の春嵐さんはいない。他の妖怪組織との打ち合わせが入ったとかでそっちに向かっているらしい。そう言えばアニメでもそんな話があった気がする。
「兄様! マムシボールを貰って来たから一緒に食べよ」
俺たちから離れていたと思っていた雪羽が戻ってくる。マムシボールという言葉に面食らっていると、雪羽は自分の皿を俺に見せてくれた。ミートボールに名前は似ているが、揚げ物らしく見た感じ丸っこいナゲットにそっくりだ。原材料がマムシであるという事に僅かな抵抗感があったが、漂ってくる香りを前に食べてみたいという気持ちもむくむくと湧き上がってくる。
そう言えば源吾郎もマムシボールを振舞われたんだっけ。そう思っている間にマムシボールが二個、俺の皿の上に乗せられていた。物思いにふけっている間に雪羽が気を回して分けてくれたらしい。
「マムシボールって、もしかして紅藤様が作ったやつ?」
「そうだよ疾風」
俺の呟きに応じたのは三國叔父さんだった。
「紅藤様はマムシがお好きなんだけど、この度胡琉安様や他の皆にご賞味してもらおうと原料調達から加工・調理に至るまで御自ら行ってくださったものなんだ」
真面目に告げる三國叔父さんを前に、俺は思わず笑ってしまった。原料調達・加工・調理と言われたら何か工場の量産品みたいだけど、要はマムシを捕まえて捌いてミンチ肉を丸めて揚げたという事である。
それでも俺は雪羽から分けて貰ったマムシボールを口にしてみた。原料のおどろおどろしさとは裏腹にあっさりとした味わいが印象的だ。肉質は鶏の胸肉と白身魚の中間くらいだろうか。中々どうして美味しいじゃないか。これなら二つと言わず三つ四つイケそうだ。
「……三國さん、雷園寺家のお坊ちゃま方、ごきげんよう。楽しんでいるかしら」
マムシボールに夢中になっていた俺は、自分たちの傍に来訪者がやってきている事に気付かなかった。そして来訪者を見て一瞬固まった。
中国風のドレスらしきものを身にまとったその来訪者は、大妖怪にして雉鶏精一派最大の功労者と言われる女傑、紅藤様だったのだから。
知人に聞いた話ですと餃子にマムシの肉を入れて包んだという内容を聞いた事があります。血の巡りが良くなって身体が熱くなるとか。