リリカルなのは The Dark Knight   作:紅乃 晴@小説アカ

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闇で蠢くもの

 

 

 

クラナガン首都からMMで三時間ほどで、沿岸部の港口に着くことができる。ミッドチルダも広い。首都が経済拠点ではあるが、大きな大陸に住む人々の食糧事情は馬鹿にならない。海洋を挟んで向かい側の大陸は巨大な穀倉地帯であり、この港はそこから輸入される物資の搬入で利用されていた。

 

と言っても、それは次元航行技術が発展する前の話だ。今は大規模な輸送事業は管理局が管轄しており、船舶による海上輸送よりも転送システムのほうが安上がりになってしまった。

 

港には廃棄された巨大コンテナ輸送船が並んでいて、海から流れてくる潮風が、廃墟と化した船の骨格の隙間を通って不気味な音を響かせていた。

 

そんな廃れた港だが、誰も見向きもしない場所は犯罪者たちの格好の根白となる。その日も輸送用MMが出入りしており、積載された積荷を複数人の男が下ろすと、別のMMへと載せ替えていた。

 

受け取っている男たちは、違法船舶で次元航行を行なっている密輸グループで、その背後には巨大な犯罪シンジケートが潜んでいる。ミッドチルダは時空管理局が座する第一管理世界でもあると同時に、次元世界で最も魔法技術が発展した世界だ。その場所は次元世界の経済網の中心であり、物が出て、物が入る物流の要でもあった。

 

彼らは入り乱れる経済活動の足音に隠れて、密輸を繰り返していた。そして、今回の商品は不法に回収されたストレージデバイスだ。

 

 

「今回の取引、やばくないか?例のイカれコスプレ男の話もある」

 

「あぁ、空を飛ぶ蝙蝠男か。心配することはない。あんな自警団如きが我々の仕事を邪魔できるものか」

 

 

不安そうな顔をする密輸グループのリーダーから金を受け取り、中身を確認する男。彼は運送企業の重役でありながらも、小遣い稼ぎのために密輸グループの痕跡を改竄したりしていた。最近ではブツにも手を出すようになっており、仕入れた違法デバイスを高値で密輸グループに売り払っているのだ。

 

この取引は公的な記録には一切残らない。データ上でやり取りするものは全て改竄されている上に、帳簿も全て紙媒体のやり取りだ。今の時世、何でも電子データ化されるわけだが、その分紙でのやり取りというのが抜け穴となっているのだ。データは残り続けるが、紙媒体なら燃やして終わりだ。証拠など残らない。

 

受け取った木箱の蓋を壊し、男たちは梱包されたデバイスを取り出す。ストレージデバイスは、インテリジェント式とは違い補助AIが無い分、頑丈で安価だ。扱いも単純なので少しの訓練で使用することもできる。

 

 

「ロンダリングは?」

 

 

密輸グループの一人が問いかける。ロンダリング……つまりデバイスデータの洗浄とは、管理局が開発、運用しているデバイス全てにシリアルデータが搭載されていることに起因する。製造されたデバイスに組み込まれたデータは、持ち主の記録を取得し続け、ブラックボックスに保管していくのだ。そのブラックボックスとシリアルデータがある限り、デバイスを外部に持ち出せばすぐに管理局に特定される。

 

だから、違法デバイスはロンダリングする必要がある。もちろん専門的な機材も必要なので、男はそれも用意した。簡単なロンダリング程度なら安価で出来る上に、その費用もふっかけて売ることもできるのだ。

 

 

「すでに終わってる。管理局による限定仕様など、誤魔化しにもならない」

 

 

 

 

「だが、俺の目は誤魔化せない」

 

 

 

 

にこやかに言った男の言葉に連なるよう、地獄の底のような声が響いた。途端、港に灯っていた街灯が全て消え去ると同時に、密輸品グループのリーダーを大きな黒い影が横合いから連れ去っていった。闇の中に響く男の叫び声が、残されたものたちの恐怖心を煽った。

 

腰にぶら下げていた懐中電灯を付けると、人数がさらに一人減っていた。

 

 

「周りを警戒しろ!どこかに潜んで……」

 

 

鈍い音と共に声を荒げていた男の気配が消えた。思わず仲間がいた方へ灯りを向けると、真っ黒なケープが翻った。悲鳴が上がって、静かになる。

 

取引相手が襲われている中、灯りを頼りに逃げた男は大急ぎで自分の乗ってきたMMの鍵を開ける。そしてドアノブに手をかけた瞬間、壮絶な力で襟首を引っ張られた。

 

 

「このイカれ野郎!!」

 

 

こう見えても男には魔法素質があった。懐から取り出したデバイスを起動させ、反撃に出ようとしたが、その行為が男の運命を決定付けた。襟首に引っかかったフックが巻き上げられ、男の体は最も容易く闇の中へと吊り上げられた。悲鳴と共に男はせっかく起動したデバイスを落としてしまった。

 

コンテナの運び出し用クレーンの最上部まで一気に連れてこられた男は、逆さまの状態でクレーンの上に立つケープの男を目撃した。

 

 

「違法デバイスの取引をしていたな!取引相手は誰だ!」

 

 

首を掴まれて怒声のような声を浴びせられるが、男はニヤリと余裕を含んだ笑みを浮かべて啖呵を切る。

 

 

「誰が口を割るものか」

 

「そうか」

 

 

あまりにもあっさりとした返しだと思う間もなく、男の体は一気に落下を始めた。

 

 

「ぎゃああああーーー!?」

 

 

クレーンの高さは30M。そこから地上に落ちれば命はない。悲鳴を上げて落下してゆく男は、地面スレスレで反対方向へと引き上げられた。

 

落下、停止、上昇。

 

それだけで男の体も精神もボロボロになった。股関節の関節が外れ、筋肉の筋だけで体を支えられたので、下半身から腰にかけて激痛が走る。痛みに顔を歪める男へ、マスクの男は詰め寄った。

 

 

「口を割る気になったか?」

 

「た、たのむ……殺さないで……」

 

「俺の聞きたい言葉じゃないな」

 

 

そう言ってマスクの男は再び相手を地面めがけて落下させた。今度は悲鳴じゃなくくぐもった声だった。地面に当たるスレスレでワイヤーがピンと張り詰めて、再び巻き上げる。

 

吊り上がり終えた頃には、男の顔色は真っ青を通り越して土色に変貌していた。

 

 

「答えろ。このデバイスはどこから手に入れている」

 

「わかった…わかったぁ…話す……管理局からだ」

 

 

息も絶え絶えな男から出た言葉は衝撃的な事実だった。正確には監査部門。管理局の中でも入出国を管理している部門であり、そこにはミッドチルダの全ての貿易運送の履歴とデータが舞い込んでくる。そして密輸入されようとしていた違法な物品もだ。

 

 

「外世界から違法に密輸されようとしたものを保管してる部門。密輸品を横流ししているのか……」

 

「俺が知ってるのはこれだけだ!だから助けぁあああああぁあーーー!?」

 

 

最後に全てを吐いた男を下へと丁重にお送りした。地面に当たるギリギリでとめて、フックの返しをオフにすると、宙吊りになっていた男はパタリと地面に倒れ、動かなくなっていた。

 

それを見送り、男を釣り上げていたグラップネル・ランチャーを折りたたんで腰のウェポンフックに収納する。

 

しかし、あの男が言っていたことが事実なら、管理局の中にも裏切り者がいることになる。そんなことが世間に露呈すれば、ミッドチルダ……果ては各次元世界からの信用も一気に地に落ちることになる。

 

入手した紙媒体の輸出目録を撮影し、懐に仕舞い込む。密輸グループが運んでいたのはデバイスだけじゃない。さまざまな魔法技術の資料……そして危険遺失物もだ。

 

 

「調べる必要があるな」

 

「その必要はないわ」

 

 

一人で呟いていた言葉だと思っていたが、真後ろから声をかけられてゆっくりと振り向く。そこには黒の軍服のようなバリアジャケットと、上から白いマントをつける一人……フェイト・テスタロッサ・ハラオウンが立っていた。

 

彼女は愛機であるバルディッシュを何回転かさせ、身構えながら口上を述べた。

 

 

「管理局所属、執務官、フェイト・テスタロッサ・ハラオウンです。貴方を私刑罪、および暴行の容疑で逮捕します」

 

 

どうやらこの取引に勘づいていたのは自分だけではなかったようだ。この港施設にはすでに複数名……フェイト指揮下の魔道士たちが潜入しており、機会を窺っていたのだろう。それをバットマンが全て台無しにしたわけだが、フェイトとしても、私刑をする自警団気取りのバットマンを無視することもできなかった。

 

バットマンはフェイトを睨みつけたまま、クレーンの淵へと足をすすめる。彼女は反射的にバルディッシュを構えていた。

 

 

「どうか、大人しくしてください」

 

 

ガシュッとバルディッシュの先端が駆動し、色鮮やかな黄色の魔力光刃が出現する。抵抗をするなら無力化してでも連行する。フェイトはその覚悟を胸に、バットマンと対峙していた。だが、彼は首を横に振って答えた。

 

 

「お前には俺は捕まえられない。なぜならお前には覚悟がないからだ」

 

 

覚悟?そう言葉を発するよりも、バットマンの方が早かった。

 

 

「人を痛めつける覚悟だ」

 

 

腰に付けていた折りたたみ式のグラップネル・ランチャーのスイッチを押す。すると、遠隔操作できるワイヤー巻き取り機が甲高い音を立てて回転し始めた。

 

その瞬間、フェイトの視界がぐるりと反転した。足元にあったワイヤーの上にフェイトはいた。足にワイヤーが絡みつき、凄まじい力で金網の上をひきづられ、飛行魔法を展開する間もなく、彼女の体はクレーンの外へと放り出された。

 

そのまま足に食い込むワイヤーで制限された落下を味わい、最終的にフェイトはクレーンの鉄骨に顔を強打することになった。鼻から血が滴り落ちながら、意識が朦朧とするフェイト。

 

そんな相手を見下ろしながら、バットマンは鼻を鳴らしてつぶやいた。

 

 

「魔法に頼りすぎるからそうなる」

 

 

海側の空へと身を投げ出したバットマンは、そのままケープをグライダー状に広げて、夜闇の海へと消えた。

 

その後、周辺にいた魔道士やオペレーターによる捜索が行われたが、結局2日をかけてもバットマンに繋がる証拠も、手がかりすらも見つけることができなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やぁ、ゲイツさん。待っていましたよ」

 

 

3日後。世の中は休暇という曜日の日に、俺は個人的に付き合いがあるレジアス・ゲイズをカレイドヴルフ邸へと呼び出していた。

 

「随分と派手にやってるそうじゃないか、バットマン」

 

「はて、なんのことか」

 

「惚けても無駄だ。まったく……君を庇うためにどれだけ労力をつぎ込んでいるか。君の父君がいなければとっくに見捨てている」

 

 

普段の階級章がたんまりとついた管理局制服とは違い、落ち着いた雰囲気の私服に身を包むレジアスは、忌々しいと言わんばかりの表情でアルナージが出したハーブティーを口につけた。

 

レジアス・ゲイツは管理局……今は少将であり地上本部における最も強い権力を持つ存在に上り詰めている人物だ。なぜ、そんな相手と面識があるかというと、それは俺の父親の話まで遡ることになる。

 

当時、まだ権力を持たないレジアスを父が支援したのがきっかけだった。レジアスと父は昔馴染みの付き合いであり、彼が管理局の上層部に上がり、このクラナガンの治安の悪さを是正することを目指すと知った父は、彼の後ろ盾として協力するようになったのだ。

 

レジアスはさまざまな面で父に助けてもらい、人望も相俟って管理局の少将まで上り詰めることができたのだ。

 

だが、その道の途中で両親が事故で他界。レジアスは今まで受けた恩を少しでも返すために、こうやって俺との時間を作るようにしてくれたのだ。

 

ちなみに俺がバットマンの正体であることを知る人物であり、あとは執事のアルナージしか俺の正体を知る者はいない。

 

 

「先日の港の件。ハラオウン執務官が動いたのは彼女の独断性が強い。ああ言ったやつは諦めが悪いぞ。どうする?行動制限と言っても限界はあるぞ、ノア」

 

「わかってますよ。だから、こうやって休みの日だというのに貴方を呼び出したんです」

 

 

それだけ言って俺はレジアスの前に資料を出した。ティーカップを横にずらして、彼が資料を見るとその顔が見る見るうちに青ざめてゆくのがわかった。

 

 

「こいつは冗談がキツイな。まさか……うちの組織から横流しがあったとは……」

 

「えぇ、巧妙に隠されていました。いくつものダミー会社を経由している。その中に興味深いものがありまして」

 

 

光学モニターをタップして、調べ上げた資料の一部をレジアスに見せる。そこには管理局お抱えの技術企業の名があった。しかもそれだけじゃない。添付された写真をアップにすると、企業の何人かに出迎えられる……群青色の管理局制服を着た高官が親しげに挨拶をする光景が写っていた。

 

 

「押収したデバイスの修繕と復元をする企業か。……たしかに興味深い。だが、どうやって調べる?正面から行けば隠されるか、変に警戒されるだけだぞ」

 

「えぇ、ですから……俺がいくんです」

 

 

そう言って、俺は夕暮れが迫るクラナガンの街並みを見た。雲が出始めている。

 

どうやら、今夜は雨になりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

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