遊戯王VRAINS Re:Construction   作:師走F

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第8話:Visitors(前編)

 日曜日、昼時の時間に、遊作はキッチンカーの店番をしていた。

 

「遊作、だよね?」

 

 並んでいた人が捌けた後、一人の少年が店を訪れた。

 

 歳は遊作と同じくらい。白と赤を織り混ぜた短髪に、緑のセルフレームメガネをかけた大人しそうな少年だった。

 

「お前は……」

「ほら僕だよ」

 

 彼は自分を指差してアピールするが、遊作はピンと来ていない様子だった。

 

「……これなら?」

 

 すると、彼はメガネを外して前髪を手でかきあげた。

 

「……もしかして、尊か!?」

「そうだよ。穂村尊。やっと気付いてくれた」

「気付いたというか、お前、雰囲気変わったな」

「そう? まあ10年も経てばね」

 

 尊はメガネをかけ直してはにかむ。

 

「この街に越して来て、遊作がこの辺にいるって聞いたから、探してたんだよ」

「なんだ? 遊作の知り合いか?」

 

 すると、店の奥から草薙が出てきた。

 

「初めまして。穂村尊です。遊作とは同じ施設の出身で」

「おおそうだったか。じゃあ遊作、積もる話もあるだろうし、そこで休憩してこい」

「あーいいんです。遊作とは明日また話せますし」

「明日?」

「うん。遊作と同じ学校に通うことになったから、今日は軽くその挨拶をと思って。あ、でもホットドッグ1つは貰おうかな」

 

 遊作は手早くホットドッグを包み、電子決済の機器を差し出すと、

 

「ああごめん、現金でいいかな?」

 

 尊は財布を取り出した。

 

「相変わらずだな」

「うーん、やっぱり機械は苦手で」

「昔もデュエルディスクをよく壊していた」

「その度に遊作や啓が助けてくれたよね。まあもうデュエルディスクの操作で躓いたりはしないけど。ほら、これ見てよ」

 

 すると、尊はデュエルディスクを操作してホログラムウィンドウを出現させる。

 

「これは、ソウルバーナーか?」

 

 そこに映っていたのは、遊作もよく知るカリスマデュエリストだった。

 

「これ、実は僕なんだよ」

「お前がソウルバーナー?」

「そう。今はGo鬼塚と同じ事務所でプロデュエリストをやってるんだ。良かったら今度鬼塚さんのサイン貰ってきてあげるよ」

「そこはお前のサインじゃないのか」

「僕なんてまだまだ」

 

 尊は謙遜するが、遊作の把握する限りだと、ソウルバーナーの前シーズンの順位は七位、強豪ひしめくLINK VRAINSにおいてこれは相当な実力がなければなれないだろう。

 

「それじゃあ僕はそろそろ行くよ。また明日、学校で」

「ああ」

 

 尊はホットドッグをかじりながら、店を去った。

 

 ◆

 

 その頃、財前邸で、

 

「いいねがいっぱい」

 

 葵は自室のベッドにうつぶせになり、自身のSNSを眺めていた。

 

 バズっている内容は、プレイメーカーの偽物について拡散したもので、プレイメーカーの無実を証明した彼女の行動に、賞賛の声を送っている。

 

「これで次のカリスマデュエリスト人気投票も一位間違いなしですね」

 

 美海は満足気に頷くが、葵の方は少し申し訳なさそうにする。

 

「でも、なんか売名行為に利用した感じがしない?」

「いいじゃないですか。葵様のインフルエンサーとしての力がなければ、早期にプレイメーカーの潔白を証明できなかったのですから。彼もきっと感謝していますよ」

(というかしてましたけど)

「投票といえば、去年は誰が一位だっけ?」

「前回の一位はソウルバーナーですね。熱血漢、イケメンということで男女ともに人気があります。二位がミネルヴァ」

 

 美海がタブレットで写真を見せてくれる。

 長い黒髪に長身、凛とした佇まいの女性で、同性の葵から見ても綺麗だと思う。

 

 何度か戦ったことがあるが、デュエルの腕前もかなりのもので、戦い方も堂々としている。

 

「やっぱりそういうキャラの方が需要あるのかなぁ」

「葵様はさいかわなので問題ありません。で、三位がブルーエンジェル、葵様ですね。SNSのフォロワー数は一位なので実質一位です」

「その二人がSNSやってないからでしょ」

 

 葵は視線をリプライ欄に戻す。

 すると、

 

『ブルーエンジェルはプレイメーカーと付き合ってるの?』

 

「なっ!!」

 

 葵は顔を真っ赤にして、慌ててリプを返そうとする。

 それを見た美海が、すぐさまデュエルディスクを取り上げた。

 

「美海!何するの!」

「こういうのに下手に答えれば炎上待ったなしです。無視すればいいんですよ」

「で、でも……」

 

 葵は頬を染めて、目をそらす。

 

「……そういえば、遊作とは進展はありましたか?」

「ふえっ!」

 

 葵は飛び跳ねて、動揺のあまり目を回す。

 

「な、な、な、な、なんのこと!?」

「分かりやすすぎますよ……」

「いや、藤木くんとは、美海が付き合ってるんじゃ……」

「誰がそんなことを言ったのですか? 私と彼はそのような関係ではありませんよ」

「そ、そうなんだ……」

 

 それを聞いて、葵は胸をホッと撫でおろした。

 

(あれ、私はなんで安心してるんだろう……)

 

 ◆

 

 翌日、美海の教室がざわついていた。

 

「初めまして。今日からこのクラスに通うことになりました。穂村尊です。よろしくお願いいたします」

 

 彼が歯を見せて微笑むと、女子たちから黄色い悲鳴が上がる。

 

「あ、美海!」

 

 そんな彼女達のことを意に介さず、自己紹介を終えた尊は早速旧友の元へ駆け寄る。

 

「あの……本当に尊ですか?」

「酷いなぁ。遊作もそうだけど、僕ってそんなに雰囲気変わった?」

 

 少しショックを受けたように、尊はため息を吐く。

 

「すみません。でも遊作に続いてあなたとも再会できるとは思いませんでした。そういえば、あなたの他に、もう一人転校生が来ると聞きましたが」

「うん。そっちは遊作のクラスかな」

 

 ◆

 

「初めまして、夢乃切花っていいます」

 

 遊作のクラスに転校してきたのは、小柄な女子だった。

 

 ピンクと水色の混ざったボブヘア、小さな体に似つかわしくない巨乳を揺らし、どこか小動物を思わせる人懐っこい笑顔を浮かべて、ハキハキとした口調で自己紹介を続ける。

 

「みんなと仲良くしたいです!よろしく!」

 

 彼女の笑顔に、クラスの大半の男子がメロメロにされる。

 

「はい。じゃあ夢乃さんはそこの席ね」

 

 担任の別所エマ先生の指示で、夢乃は窓際の席に座る。

 

「藤木、転校生めっちゃ可愛いなぁ」

「そうだな」

 

 島の発言を適当に流すと、なぜか財前が一瞬だけ不機嫌そうに遊作の方を見た。

 

 ◆

 放課後、教室を出た遊作は、美海と尊に出くわした。

 

「二人とも、一緒だったのか」

「うん。美海に学校を案内してもらってたんだよ」

「これから二人でデュエル部に行くので、遊作も一緒に行きましょうか」

「ボクもご一緒していいかな」

 

 不意に、一人の少女が遊作の背後から飛び出した。

 

「あなたは……」

「夢乃切花でーす。藤木君のクラスに今日転校してきたんだよ」

 

 切花は目元でピースを作り、遊作の周りをチョロチョロ動く。

 

「遊作、夢乃さんといつの間に仲良くなったの?」

「いや、俺は一度も……」

 

 話したことなどない。そう言おうとしたところで、遊作は気付く。

 

(俺は、こいつに名乗ってないよな……)

「藤木くん」

 

 その違和感を払拭する前に、葵が教室から出てきた。

 

「どうした?」

「一緒にデュエル部に……」

 

 言いかけたところで彼女の視線が、遊作に引っ付く切花の方へ向く。

 

「え、えーっと、どうして夢乃さんが?」

「ん? ボクも転校したてで、分からないことが多いから、藤木君に色々教えてもらおうとおもって」

「へ、へぇ……」

 

 葵は引きつった笑みを浮かべる。

 

「はぁ……では、みんなで向かいましょうか」

 

 そうしてデュエル部にやってきた一行。

 

「本日この学校に転校しました穂村尊です」

「夢乃切花でーす」

 

 部員への自己紹介を済ませて、各々のグループで交流する。

 

「夢乃ちゃん。俺がデュエル教えてあげるよ」

「抜け駆けするなよ!」

 

 男子部員達が切花の取り合いをしているのを横目に、遊作は美海、尊の幼馴染二人と同じ席に着いた。

 

「尊は、施設を出た後どうしてたんだ?」

「僕は別の孤児院に移ったんだ。そこのオーナーの誘いで、今の事務所に」

「事務所?」

「うん。プロデュエリ……」

「尊」

 

 美海の疑問に答えようとしたところ、遊作は即座に遮る。

 

「あまり自分の正体を軽々しく口にするな」

「ああ。ネットリテラシーってやつだよね……気を付けるよ」

 

 美海もその様子から察したようで、尊に追及せず話題を変える。

 

「こうやってまた三人で集まれるなんて、思いませんでしたよ。啓や樹にも、会えるといいんですけど」

 

 友を思い、少し寂しそうな表情を見せる。

 

「美海は啓と一番仲良かったもんね」

「えぇ。まあ私が一方的に世話を焼いていたところはありますけど」

 

 苦笑する美海。すると、葵が彼らのテーブルにやってきた。

 

「ねえ美海。よかったら、美海達が施設にいた頃の話、聞かせてくれる?」

 

 葵の何気ない質問に、美海と尊は気まずそうな顔をする。

 

「……すみません。その話を人にするのは」

「あ、ごめん……」

 

 四人の周りの空気が重くなる。

 

「あれ~みんなどうしたの~?」

 

 すると、それを察してか否か、切花が同じテーブルにやってきた。

 

「ああ。夢乃さん」

「みんなくらーい。そんなんじゃ幸せが逃げちゃうよ」

 

 そう言って、遊作の隣に、というか同じ椅子に強引に座ると、彼の頬を摘まんでムニッと動かす。

 

「ほーら、笑顔笑顔」

「ちょっ!」

 

 葵が顔を真っ赤にして立ち上がる。

 

「ゆ、夢乃さん……さっきから藤木くんに馴れ馴れしいわよ」

 

 普段感情を抑えている葵が、この時ばかりは声を静めながらも怒りをあらわにした。

 しかし、切花の方は、全く聞いている様子がなく、むしろさらに遊作に引っ付いて挑発するように笑う。

 

「え~、ボクはただ、クラスメイトと交流を深めようとしてるだけだよ~」

「だ、だからってそんな……」

「財前さんには関係ないと思うけどな~。それとも、財前さんは藤木君と付き合ってるの?」

「な、な、ななななななにいってるの!?」

 

 かつてないほど取り乱す葵を、切花はおかしそうに指をさして笑う。

 

「あははは、そうだよね~。だってあんな胸も愛想も可愛げもない女と付き合う訳な────」

 

 瞬間、切花の体が宙に浮いた。

 

「へ?」

 

 切花はいつの間にか、美海に胸倉をつかまれており、彼女に氷のような冷たい視線を向けられている。

 

「今あなた、葵様になんて言いました?」

「え、いや、な、何か言ったか────」

 

 彼女の小さい体が、また少し上に上がる。

 

「謝罪してください」

「……ご、ごめ────」

「私じゃなくて葵様にです」

 

 切花はその目に耐え切れず、葵の方を向いて、

 

「も、申し訳ございませんでした」

 

 と普段なら絶対に使わないであろう敬語で、謝罪した。

 それを聞いて、美海はようやく彼女から手を放すと、その耳元に顔を近づける。

 

「今回は見逃してあげます。ですが、次は二度と表を歩けなくするので覚悟しろよこのメスガキ」

 

 小声でまくし立てられて、さすがの切花もキモが冷えたのか、無言でデュエル部を立ち去った。

 

 ◆

 

 夕方、美海は遊作と共に草薙のキッチンカーを訪れた。

 

「やはり資料を見返しても、実験のレポートはありませんね」

 

 パソコンを借りて、解析したデータを再度隅まで見直したが、やはり目当てのものはなかった。

 

「サーバーからは全部のデータを吸い出したわけではないんですよね?」

「ああ。だが、俺とAiで関連のあるデータに当たりをつけて吸い出した」

「つまり、レポートがあそこにあった可能性は低いと」

 

 そうだとすればレポートはどこにあるのか。

 

 少なくとも、SOLが実験に関わっていたのは間違いない。なら社内のどこかに実験の経過を記したレポートも残っていると思ったが、あそこより厳重な場所を、元SOLの人間である美海は知らなかった。

 

「ていうか、こいつを公表しちまえば、SOLは終わるんじゃね?」

「それでは意味がない。俺達の目的は、事件の真相を明らかにして、先生の無実を証明することだ。この資料だけでは、先生がSOLに無理やりやらされていたという根拠にはならない」

「それにあの資料にはあくまでAIの作成方法についてしか記されていません。実際にどのような実験が行われたかという証拠にはならない。先生、鴻上博士が記したレポート、仮に鴻上レポートとしましょうか。それが手に入れば、その証拠がつかめるかもしれません」

 

 この資料はSOLテクノロジーの人間が残したもの。しかし、レポートを書いたのは鴻上聖自身、もし仮にそのレポートがSOLの手に渡っていないのだとすれば、そこに証拠となるメッセージを残している可能性がある。

 

「……LINK VRAINSにあるかもしれない」

 

 すると、遊作は不意にそんなことを言い出した。

 

「どういうことですか?」

「この前、俺の偽物を探してハノイの騎士と戦った時、奴らの近くで妙な気配を感じた」

「気配って、電脳空間ですよ? そんなことが……」

「これまでにも、何度かそういうことがあった。初めてストームアクセスを使った時も」

 

 疑わしいといった様子で、美海は遊作の話を聞く。

 

「LINK VRAINSに行ってくる」

「今からですか?」

「ああ。美海はどうする?」

「残念ながら私はご一緒できません。そろそろ戻って夕飯の支度をしなければなりません。それに、プレイメーカーと一緒にいるところを見られるわけにもいきませんし」

「分かった」

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