遊戯王VRAINS Re:Construction 作:師走F
その日は遊作、美海、草薙の三人で持ち帰ったデータの解析をおこなっていた。
「このプログラム、Aiを構成するプログラムと同じパターンだな」
草薙は画面に羅列されたコードを見て呟く。
「イグニスと同じアルゴリズム、仮にイグニスアルゴリズムとしましょうか。なら、これを当てはめて……」
パソコンに繋がれた遊作のデュエルディスクからデータを送信する。
すると、画面上に『UNLOOK』と表示された。
「解除成功です」
「助かった美海」
「では、早速」
エンターキーを押すと、表示されたのは以下の内容だった。
『ここに記すのはSOLテクノロジーにより行われた非人道的な実験の記録であり、私の犯した過ちの記録である。これを誰かが読んでいるということは、私はこの世にいないのだろうが、このレポートが善意の第三者に渡ることを切に願い、記録を残そうと思う。
私が孤児院に集めた子供達は、皆特別な才能を持っていた。
リンクセンス、ネットワークの気配を感じる特異能力。本来、VR空間で知覚できる情報はシステムによって与えられる電気信号によるもののみである。しかし、リンクセンスを持つものは、システムから供給する以上の情報量を、VR空間で受信し、感じ取ることができる。電脳空間における第六感ともいえる。
こんな力を持っていたが故に目をつけられてしまったのは非常に不幸なことだ。
これより実験を開始する。
レポートを手にした君には、どうか最後までこの記録を見届けて欲しい』
「レポートの中身はこれだけか」
「はい。レポートナンバー1となっているので、この続きもどこかにあるのだと思います」
今回のレポートには、実験の具体的な内容について記されていなかった。
また、鴻上博士がSOLから脅しを受けていたという情報もない。だが、一つ有益な情報も得られた。
「リンクセンス、遊作がこのレポートを見つけたのも、その能力によるものなのでしょうか」
「そのようだ。レポートによると、あの孤児院にいた奴はみんな持っていたらしいが」
「私にもリンクセンスがあるということでしょうか」
思えばゴッドバードは、遊作より先にレポートを見つけていた。
彼にもリンクセンスがあるとすれば、ひょっとすると鴻上博士はリンクセンスとイグニスを持つ者に、レポートを見つけてもらうために、巧妙な手段で証拠を隠したのかもしれない。
「レポートを全て見つける。それが先生の意思だ」
「えぇ。私も引き続き調査を行います」
◆
デュエル部に着くと、切花は相変わらず他の男子部員に囲まれていた。
「あ、藤木君やっほー」
すっかりサークルの姫になっていた彼女を横目に、遊作は定位置に座る。
「遊作」
遅れてやってきた尊が遊作の正面に座った。
「美海はどうした?」
「なんかSOLから呼び出しがあったって」
「そうか……」
遊作の知る限り、彼女はセキュリティ部隊を解任されており、復帰したという話も聞いていない。
(まさか、レポートを追っていることがバレたのか?)
「ふーじきくん!」
すると、後ろから切花が両肩を叩いた。
「なんだ?」
「今みんなからデッキの組み方を教わってたんだけど、参考までに藤木君のデッキも見せてほしいなーって」
「別に構わないが」
遊作は普段持ち歩いているダミーデッキを彼女に手渡す。
慣れた手つきでカードを滑らせ、デッキの中身を見ていると、
「あれあれ~」
切花はカードを見てわざとらしく首を傾げる。
「ねぇねぇ藤木君、サイバースカードは?」
「何?」
切花の唐突なその発言に、遊作は眉をしかめる。
「何故俺がサイバースカードを持っていると思う?」
「だって藤木君、プレイメーカーのファンなんでしょ?」
切花は遊作のデュエルディスクを指さす。
「前にデータストームからカードが出た時に、カードを取りにいったんじゃないかーって」
ゴッドバードが起こした騒動、あの事件でサイバースカードの所有者は増えている。
もっとも、ハノイや例の偽プレイメーカーに奪われた人も多いだろうが。
「行ってないなんて言わないよね。だって君、島君にサイバース・ウィザードを渡してるんだし」
遊作は彼女の行動の意味が分からなかった。
これを追求することに、何のメリットがあるのか。
「手に入ったカードは、島に渡したその1枚だけだ」
「おっかしいなぁ。本当にプレイメーカーのファンなら、サイバース・ウィザードを人に渡したりしないよね?」
「えーっと、夢乃さんは、何が言いたい訳?」
謎の問答を続ける彼女に、見かねた尊が話に割り込んだ。
「別に、ただ気になっただけだよ。あ、もうデッキ返すね」
すると、あっさり追及を止めて遊作にデッキを手渡した。
「ゆ、遊作、夢乃さんと何かあったの?」
「いや……」
転校してきた直後から、彼女は妙に遊作に馴れ馴れしかった。
だが、今回の彼女はまるで何かを探るっているように思えた。
「……なあ夢乃さん」
遊作は席を離れようとする彼女を呼び止める。
「なーに?」
「俺とデュエルしないか?」
遊作からの意外な誘いに、彼女は嬉しそうに頬を緩ませる。
「いいよ。やろっか」
デュエルを通じて、彼女から何かを引き出せるかもしれない。
そう思っての提案だったが、彼女が快く応じてくれた。
「ねぇ、せっかく二人とも旧式のデュエルディスク持ってるんだし、ソリッドビジョンでやろうよ」
旧式のカード収納タイプのディスクにのみ搭載されている機能、ソリッドビジョン。
まるでそこにモンスターがいるかのような立体的な映像を空間に投影して、デュエルを盛り上げてくれる。
現在はVR空間や、ARでのデュエルが主流になってオミットされた機能だ。
「構わない」
「よーし、それじゃあ……」
「「デュエル!」」
ターン1 遊作
「俺は召喚僧サモンプリーストを召喚し効果発動。手札の魔法カード、ダイガスタ・シールドを墓地に送り、デッキからレベル4モンスター、ゴールド・ガジェットを特殊召喚。その効果で、手札からグリーン・ガジェットを特殊召喚し、効果でデッキからレッド・ガジェットを手札に」
「おおーいきなり三体のモンスター」
遊作のフィールドを見て、パチパチと手を叩く。
「俺はこのモンスター三体でリンク召喚。電影の騎士ガイアセイバー」
現れたのは電脳の機馬を駆る機械の戦士だった。
「俺は墓地の装備魔法、タイガスタ・シールドの効果発動!」
タイガスタ・シールド
装備魔法
効果モンスター以外のモンスターにのみ装備可能
このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1)装備モンスターの攻撃力は500アップし、1ターンに1度、戦闘で破壊されず、1ターンに1度、効果で破壊されない。
(2)このカードが墓地に存在し、自分の効果モンスター以外のモンスターが特殊召喚された場合に発動できる。このカードを手札に加える。
「効果モンスター以外のモンスターが特殊召喚された時、墓地のこのカードを手札に戻す。そして装備!これでガイアセイバーの攻撃力は500アップし、それぞれ1ターンに1度、戦闘と効果で破壊されない」
翠緑の大盾がガイアセイバーの左手に装備される。
「俺はこれでターンエンド」
ターン2 切花
「よーし、ボクはゾンビキャリアを召喚」
フィールドに、様々な動物のパーツが合わさったグロテスクな生物が現れる。
「アンデット族デッキか……」
「さらにマンモス・ゾンビを召喚!」
「え?」
ブブーッ!
彼女がカードを置いた瞬間、デュエルディスクがエラー音を吐いた。
「あれ、デュエルディスク壊れたかな?」
「はぁ……通常召喚は、ターンに1回だけだ」
「ああ。そっかそっか。あはははは」
彼女はうっかりしてたと笑う。
「じゃあ改めて、魔法カード、おろかな埋葬を発動。デッキからゾンビ・マスターを墓地に送る。そして魔法カード、アンデッド・リボーンを発動!墓地のアンデッド族モンスター1体を、そのモンスターと同名モンスターをデッキから除外することで特殊召喚」
ゾンビ・マスターが地面を割って、地上に這い戻る。
「リンク召喚!リンク2、ヴァンパイア・サッカー!」
現れたのは、背の白い鳥の翼から黒い爪のようなものをいくつも生やした、ワンピース姿の少女だった。
「効果で君の墓地からサモンプリーストを君の場に特殊召喚し、そのモンスターをアンデッド族に変える」
サモンプリーストの体が腐り、ゾンビとなって遊作のフィールドに蘇った。
「アンデッド族モンスターが特殊召喚されたので、ヴァンパイア・サッカーの効果で1枚ドロー。そして魔法カード、精神操作!サモンプリーストのコントロールを得る!」
見えない糸がゾンビ化したサモンプリーストに巻き付き、切花のフィールドへ移動させる。
「まだまだ行くよ!リンク召喚!ヴァンパイア・サッカー1体を素材にヴァンパイア・サッカーを……」
ブブーッ!
またもデュエルディスクがエラー音を吐いた。
「えー、リンクモンスターって、リンクマーカーの数分のモンスターになれるんじゃないの?」
「リンクモンスターはあくまで必要なLINK数の代わりになるだけだ。召喚条件まで無視できるわけじゃない。そもそもヴァンパイア・サッカーを出しなおして何をするつもりだったんだ?」
「え? もう1回効果使って、今度はゴールド・ガジェットを……」
「よく見ろ。ヴァンパイア・サッカーの効果は同名カードを含めてターンに1回だけだ」
「あーほんとだ」
切花はペロッとしたを出して、可愛いポーズを取る。
遊作はそれを冷めた目で見て、早く続けるように手を仰ぐ。
「もう。ちょっとは反応してよ。ボクは手札の魔法カード1枚を捨てて、サモンプリーストの効果発動!デッキから達人キョンシーを特殊召喚!」
フィールドにモンスター3体が並ぶ。
「行くよ!リンク召喚!リンク4!零氷の魔妖-雪女!」
フィールドに吹雪が吹き、現れたのは真っ白い髪をなびかせる着物姿の美しい女性だった。
「墓地のゾンビキャリアの効果発動!手札1枚をデッキの上に置くことで、このカードを墓地から特殊召喚!墓地からモンスターが特殊召喚されたことで、雪女の効果発動!フィールドの表側表示モンスター1体の効果を無効にし、攻撃力を0にする!」
雪女が杖を振ると、吹雪がガイアセイバーを襲い、その体を凍り付かせる。
「バトル!雪女でガイアセイバーを攻撃!」
「ガイアセイバーはタイガスタ・シールドの効果で、1ターンに1度、戦闘で破壊されない」
「でもダメージは受けてもらう」
遊作:ライフ4000→1100
「ゾンビキャリアでアタック!」
遊作:ライフ1100→700
「ボクはこれでターンエンド」
ターン3 遊作
「俺は魔法カード、死者蘇生を発動。お前の墓地のヴァンパイア・サッカーを俺のフィールドに特殊召喚」
「墓地からモンスターが特殊召喚されたから、雪女の効果発動!ヴァンパイア・サッカーの効果を無効にし、攻撃力を0にする」
「俺はレッド・ガジェットを召喚し、再びガイアセイバーをリンク召喚!」
切花のヴァンパイア・サッカーを使って、再びガイアセイバーをフィールドに呼び戻した。
「墓地のタイガスタ・シールドを効果で手札に戻し、装備。バトルだ。ガイアセイバーで、ゾンビキャリアを攻撃!俺はこの瞬間、手札から速攻魔法!リミッター解除を発動!自分の機械族モンスターの攻撃力を2倍にする!」
「ならボクも手札から速攻魔法!突進を発動!これでゾンビキャリアの攻撃力を700アップ」
ブブーッ!
「速攻魔法って手札からいつでも使えるんじゃないの?」
「えーっと、夢乃さん。速攻魔法を相手ターンに使うには、一度場に伏せる必要があるんだよ」
尊は呆れ気味に解説する。
「ああ。そっか」
「ていうか、そもそも攻撃力700上げても、ガイアセイバーの今の攻撃力は6200なんだから、意味ないよ」
「あ、本当だ。ボクのライフ0だね」
「切花ちゃんなにやってんだよ~」
「かわいいな~」
ほとんどの部員は切花の行動を、初心者にありがちなプレイングミスだと判断した。
しかし遊作は違った。
(こいつ、今のはわざと……)
彼女はもとより、デュエル初心者であることを公言しており、序盤からルールミスを連発しまくったこともあって、他の誰も疑問には持っていない。
遊作も途中までは、ただの初心者だと思っていた。
しかし、いくら何でもさっきのはあり得ない。
遊作の残りライフはちょうど700。突進の効果で上昇する攻撃力も700。
つまり彼女は前のターンの攻撃で突進を使っていれば、このデュエルは勝利していた。
デュエル初心者でも引き算ができればそれくらいはすぐにわかるはずだ。
カードを使い忘れたというのもなくはないが、彼女の残りの手札は1枚、つまり突進だけだ。それで攻撃力アップの魔法を使い忘れたとは考えにくい。
それに途中でリンク4を出して、遊作を追い詰めるまでの展開は、初心者の手つきには見えなかった。
「あー負けた負けた。藤木君強いね~」
切花は遊作に握手を求める。
どうすべきか迷ったが、ここで断っても不自然だろうと、彼は右手を差し出した。
すると
「えい」
突然、切花は掴んだ腕を引っ張り、遊作の体を自分の元に引き寄せた。
油断していた遊作はそのままバランスを崩し、頭から彼女の豊満な胸に突っ込んだ。
「お、お前!」
「藤木!お前何やってんだ!」
男子部員が口々に彼に文句を言う。
その時、
「藤木くん、何やってるの?」
教室が冷えた。
皆が一斉に振り返ると、入り口には財前葵が、光を失った目で遊作を見つめていた。
「財前……」
「ねぇ、何してるの藤木くん」
「あ、ボク用事思い出したー」
切花はサッと遊作の体を突き飛ばし、そのまま反対の入り口から逃げるようにして去っていった。
◆
LINK VRAINS某所、そこは普段人が立ち入らない進入禁止エリア、その建物の屋上に、一人の少年が座っていた。
中性的な顔立ち、紫と赤が混じった短髪、そして服はハノイの騎士と同じデザイン白いポンチョ。
彼が静かに眼下の風景を眺めていると、着信がありホログラムウィンドウを開いてビデオ通話を始める。
「もしもーし」
『ジャックナイフ、どこで油を売っているんですか?』
画面に映るスペクターから、ジャックナイフと呼ばれた彼は、めんどくさそうに頭を掻く。
「別にサボってるわけじゃないよ。プレイメーカーをおびき出すための仕込みをしてたんだから」
『リボルバー様はあなたにそんな指示は出していないはずですが』
「ボクらの目的は、イグニスを殲滅すること。ならそのための効率的な手段を取るのは当然じゃない?」
『あなたにプレイメーカーを倒せると?』
そう尋ねられて、彼はふふっと子供のように笑う。
「当然」
ジャックナイフは立ち上がると、ひょいっと建物から飛び降りる。
「まあ楽しみに待っててよ。ボクが成果を上げるところをね」
そう言って、彼は一方的に通話を切ってしまった。