遊戯王VRAINS Re:Construction   作:師走F

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第12話:The Report No.2(前編)

 ある日の昼休み、遊作、尊、美海の三人は、屋上で一緒にお弁当を食べていた。

 

「レポートの場所は見つかったか?」

 

 遊作の問いに二人は首を振る。

 

「そもそも私は、遊作のように、リンクセンスとやらを自覚できているわけではないので」

「僕も、というかソウルバーナーの姿だと、人が集まっちゃって、それどころじゃなくなるんだよね……」

 

 人気ランキング一位のカリスマデュエリスト、ソウルバーナーにはこの任務は荷が重そうだった。

 

「そういえば、ソウルバーナーは有名なデュエリストですが、ハノイからの報復とかはないんですか?」

「今のところは。僕の正体もバレてないみたいだし。遊作の方は? ジャックナイフに正体バレてたんでしょ?」

 

 ジャックナイフは、確かに彼、プレイメーカーのことを「藤木遊作」と呼んでいた。

 Aiを狙っているなら、今すぐ遊作の家に襲撃があってもおかしくないはずだ。

 

「いや、今のところない」

「……もしかして、ジャックナイフ以外のハノイのメンバーは、あなたの正体を知らない?」

 

 その推測が正しければ、ジャックナイフは自分の持っている情報を仲間に共有していないことになる。

 思えば、彼は他のハノイとはどこか違って見えた。

 

 すると、Aiが遊作のデュエルディスクからニュルッと出てきた。

 

「そういえば、あいつは俺達イグニスも、遊作のことも憎んでるみたいに言ってたな」

「憎んでいる?」

「ああ。俺のことを睨みつけて、お前たちイグニスに、自分の人生は壊されたんだって」

「ひょっとして、僕らと同じ孤児院のメンバーなんじゃ……」

「それはない」

 

 尊の言葉を、遊作は即座に否定する。

 

「夢乃は孤児院のメンバーじゃなかった」

「まだ夢乃さんがジャックナイフだと疑っているんですか?」

「ああ……」

 

 確かに、彼女にはアリバイがある。

 ジャックナイフとデュエルしている間、彼女は部室にいた。理屈で考えれば彼女がジャックナイフであることはありえない。

 

「まさか、ログインしながら現実世界で活動していたなんて言いませんよね?」

「だが……」

 

 なおも食い下がろうとする遊作に、美海は肩を落とす。

 

「まあ夢乃さんでなかったとしても、ジャックナイフがあの六人の、残りのメンバーだと啓と樹ですか。そのどちらかというのはあり得ないでしょう。イグニスを恨むのは理屈として理解できますが、それなら遊作を恨む理由が分かりません」

「確かに……」

 

 ジャックナイフの正体については、ここで議論していても分からないだろうと、話題を変える。

 

「不霊夢、でしたよね」

「なんだ?」

 

 美海に呼ばれて、不霊夢がデュエルディスクから顔を出す。

 

「まだ聞いてなかったんですけど、あなたはどうやってハノイのアジトに?」

「彼がプレイメーカーに送っていた通信があっただろう? あれを辿っていったら、尊に出会ったというわけだ」

「Aiの通信に気付いたのか?」

「我々イグニスは、このネットワーク内に様々な情報網を持っている。特にここ数年は、サイバース世界再建のために、バラバラになったイグニスを集めるために、イグニスアルゴリズムを使った通信を行っているからな」

 

 不霊夢は自慢げに語る。

 

「というか、サイバース世界の情報、Aiの記憶から抜き取られたけど、大丈夫なの?」

「そこは問題ないだろう。サイバース世界の場所が割れたことは伝わった。しばらくは戻らないように、みんなには伝えてある」

「なら、他のイグニスの心配はしなくてよさそうですね」

 

 彼らイグニスとは協力関係にある。

 これからハノイや、SOLテクノジーと戦うことになる場合、他のイグニスも仲間に引き入れられるならそれに越したことはない。

 

「そういえば、Ai。君はライトニングから連絡はもらったか?」

「ん? いや、もらってないけど」

 

 不霊夢の質問に、Aiは首を傾げる。

 

「そうか。彼が近々イグニスを集めて決起集会のようなものを行うらしいのだが」

「マジか」

「私も詳細までは聞いていないからな。何か知っているかと思ったんだが」

 

 不霊夢はどうしたものかと首を捻る。

 

「まあさすがにサイバース世界に集合ということはないだろうが、今この状況で我々が一か所に集まるのはあまり得策とは言えないだろう」

「そういえば、Ai、お前記憶が戻ったんだろ?」

 

 ふと思い出したような遊作の発言に、一同がAiの方を見る。

 

「レポートがなくても、実験のことが分かるんじゃないのか?」

「確かに、えーっとちょっと待てよ」

 

 Aiが腕を組んでしばらく考え込む。

 しかし、

 

「あれ? 思い出せねぇ」

 

 Aiは惚けた顔でそんなことを言うのだった。

 

「ふざけてないで真面目に答えろ」

「いや、本当に覚えてないんだよ」

「確かに、私も記憶を探ってみたが、我々の制作時に関する記憶がない」

 

 Aiだけでなく、不霊夢も覚えていない。

 信じられないが、二人が嘘を言っているようにも見えない。

 

「AIも物忘れとかするのかな」

「そんなわけないでしょう。しかし、そうすると変ですね」

 

 美海は二体のイグニスの顔を覗き込む。

 

「それだと、ハノイに襲われる前から記憶データを抜かれていることになりませんか?」

「……」

 

 二人がそれに答える前に、屋上の扉が開いた。

 

「おお、藤木、ここにいたのか」

 

 やってきたのは島だった。

 来訪者の存在を察知して、Aiと不霊夢は既にデュエルディスクの中に納まっていた。

 

「なんかエマ先生が呼んでたぞ」

「ああ。すぐに行く」

 

 遊作は立ち上がり、二人にまた後でと言って屋上を出た。

 

 ◆

 

 同刻、保健室にて、

 

「響子先生、なんか俺、熱っぽくて」

「はいはい。じゃあちょっと見せてね」

 

 呆けた男子生徒に対して、保健室の養護教諭の女性、滝響子は冷めた顔で手を彼の額に当てる。

 短めの赤髪をかき上げ、30歳前後の色香のある顔を近づけて彼の顔を覗き込む。

 

「うん。熱はないわね」

「で、でも俺、先生のことを見てると……」

「バカなこと言ってないで教室に戻りなさい」

 

 ドギマギする男子生徒を突き放し、彼女は手元の用紙に何かを書き留める。

 

 男子生徒は諦めて教室を去っていく。

 

「モテモテだね。響子先生」

 

 それと入れ替わるように、切花が保健室に入ってきた。

 

「こんなおばさんに絆されずに、もう少し健全な恋愛をしてほしいものね」

 

 切花の言葉に、響子はため息を吐く。

 

「それで、あなたもどこか具合が悪いの?」

「違うよ~。胸糞は悪いけど、体は健康だよ~」

 

 笑顔のままそんなことを言う切花に、響子は顔を引きつらせる。

 

「それじゃあ何の用?」

「ん~。ちょっとした雑談だよ。実は最近、SOLテクノロジーが警備用のデュエルAIを作ってるんだって」

 

 その話は響子も聞いた。

 現在、SOLはセキュリティ部隊として専属のデュエリストをバイトとして雇っていたが、今後はその役目をAIに置き換えるのだと。その影響で解雇になったデュエリストが何人かいるらしい。

 

「でも別に珍しい話でもないでしょう? AIに仕事を奪われるなんて」

「いや、実はそれのソースコードのほんの一部を手に入れたんだけど、見る?」

「そんなものどこで……」

 

 言い終わる前に、彼女はデュエルディスクを操作して、ARのウィンドウを彼女の目の前に飛ばした。

 

「これは……」

 

 その中身を見て、響子は驚愕した。

 

「なんか見覚えあるよね~」

「えぇ……なんでこんなものをSOLが」

「じゃ、ボクはもう行くよ。授業始まっちゃうし」

 

 切花はそう言って、保健室を去った。

 

 ◆

 

 エマ先生に呼ばれた遊作は、四階の一番奥にある空き教室を訪れた。

 

「なぜこんなところに」

「エマ先生っていうと、お前のクラスの担任だろ」

 

 Aiはどこから入手したのか、彼女の詳細なプロフィールをデュエルディスクに表示する。

 

「別所エマ、年齢は29歳、スリーサイズは上から~」

「どこで手に入れたんだ……」

 

 彼の謎の行動力に、遊作はため息を吐く。

 

「美人で、男子生徒からの人気も高い。これはもしや」

 

 何故かニヤつくAiをデュエルディスクに押し込み、遊作は教室の扉を開いた。

 教室の中は電気がついておらず、カーテンも閉じられていた。

 

 まだ昼間なので、周りが見えないほど暗くはないが、その異様な状況に遊作は危機感を覚える。

 

「来たわね。藤木君」

 

 エマは、教室の窓際の椅子に腰かけ、指をトントンと叩いて自分の隣に座るように合図してくる。

 遊作は少し迷ってから、わずかに距離を置いて横に座る。

 

「ねぇ藤木君」

 

 すると、エマは遊作にグッと距離を詰めて、その豊満な胸が触れるか触れないかのギリギリの距離で話し始める。

 

「あなた、何か悩んでいることがあるんじゃないの?」

「特にない、です」

「隠すことないわよ」

 

 エマは遊作の手を取ると、そこに指を這わせる。

 

「例えば、何か探し物をしているとか?」

「……」

 

 遊作はその言葉にわずかに反応した。

 それを見て、エマはニヤッと笑い、遊作の手にそっと自分の手を重ねる。

 

「最近、湊さんや、転校生の穂村君とよく一緒にいるけど、何をしてるのかしら」

「先生、あんたは何を知っている?」

「私は教師として、あなたの心配をしているだけよ」

 

 エマの体がついに遊作と密着する。

 

「先生に相談してみない? 私はあなたの────」

「藤木くん」

 

 その時に明かりがつく。

 二人が振り返ると、入り口には不機嫌そうな顔で彼らを見る葵が立っていた。

 

「次の授業、始まるわよ」

「……ああ」

 

 思わぬ助け舟が入ったことで、どうにか遊作は危機を脱した。

 遊作が立ち上がると、葵は彼の手を掴んでそのまま駆け足で教室を出る。

 

「財前、助かった」

「いいけど。エマ先生には気を付けた方がいい」

 

 葵は妙に真剣な顔で言う。

 ひょっとすると何か情報を持っているかもしれないと期待したが、

 

「あの人、男子生徒とヤリまくってるらしい」

「……そうか」

 

 返ってきたのはそんな噂話程度の内容だった。

 

「そういえば藤木くん、美海が最近またSOLに呼び出されたらしいんだけど、何か知らない?」

「いや、新しいAIのモニターをやらされてるとしか。そういう話はお前の兄の方が詳しいんじゃないのか?」

「お兄様は、あんまり会社のことは話してくれないから……」

 

 葵は少し寂しそうに零す。

 遊作としてもSOLの動向は気になるところだが、当人である美海も詳しいことが分からないので、調べようがない。

 

「美海もだけど、藤木くんも最近なんか────」

 

 言いかけたところで、予鈴がなる。

 

「……行きましょう」

 

 葵は続きを言うのは諦めて、遊作と一緒に教室に戻った。

 

 ◆

 

 放課後、美海は部室には寄らずに、学校を出てSOLテクノロジー本社の地下にある巨大な空間だった。

 美海の他にも、数十人の男女がVRゴーグルを装着して、専用のベッドに仰向けになっている。

 

「では、始めようか」

 

 モニター越しのビショップの声で始まったのはデュエルだった。

 

 集められたデュエリストは、全てSOLテクノロジーの元セキュリティ部隊で、部隊が解体されたかわりに、ここでAI作成のためのデータ収集に使われている。

 

(それにしても……)

 

 美海はVR空間でデュエルを行いながら思考する。

 

 彼女はこの空間で既に数回ほどデュエルを行っている。

 ただ、その内容が妙だった。

 

『さあ、あなたのターンです』

「ああ。はい」

 

 まず相手のAIがやたらとこちらに話しかけてくるのだ。

 事前の説明でも、なるべく多く会話しろという指示を受けている。単にデュエルが強いAIを作るのが目的なら、これは意味がわかない。

 

 そしてもう一つ、

 

『私の負けです』

(弱すぎる……)

 

 正確に言えば、AI自体が弱いわけではない。

 AIが使用するデッキが、とても実戦で使えるようなものではない、お粗末なデッキであることだ。

 そのうえ、やけに長考やデュエルと無関係な会話も多いせいで、中にはイライラしてデュエル中に暴言を吐くようなものまでいたそうだ。

 

(こんなことをして、SOLは何が目的なんでしょうか)

 

 一時間程度でデータ収集は終了し、美海達はVR空間から解放される。

 この程度の内容で、貰える報酬はそれなり、むしろ前より待遇がいいとさえ感じる。

 

(プレイメーカーに負けたことを理由にクビにされましたが、それはもしかして建前か?)

 

 モニターに映るチェス駒のアバター、ビショップを一瞥する。

 彼の目に美海が映っているのかは分からない。

 

(まあ、今はいいです)

 

SOLについて探るのも大事だが、今は何よりもレポートを見つけることが最優先。

美海は急いで会社を出て、駅前にあるネットカフェに入る。

 

 適当な個室に入り、鍵をかけた室内でVRゴーグルを装着する。

 

「イントゥザヴレインズ!」

 

 ◆

 

 LINK VRAINS内、Dボードで空を駆けながら、彼女は意識を集中して感覚を研ぎ澄ます。

 

(リンクセンス、私にもあるのなら……)

 

 さらに集中する。

 不意に、頭に電撃が走る。

 

(こ、この感覚は……)

 

 目を開けると、彼女はビルの壁に激突して思いっきり頭を打っていた。

 集中し過ぎていたせいか、前方の確認がおろそかになっていたようだ。

 

「こんなことなら、遊作にコツを聞いておけば良かった……」

 

 こうやって壁にぶつかることは一度や二度ではなく、場合によっては他の人に激突したり、またスピードデュエル中のデュエリストに横から突っ込んだりを繰り返している。

 

「こんなことでは……」

 

 美海はそれでもめげずに、Dボードを再加速させる。

 

(集中、集中……)

 

「危ないっ!」

 

 その声に目を開けると、またもや眼前に壁が迫っていた。

 寸前で旋回しようとするが、速度を上げ過ぎたせいで間に合わない。その時、

 

「え?」

 

 横から彼女の体を浚うように、Dボードが高速で突っ込んできて、どうにか激突を回避した。

 

「お前、曲芸の練習でもしてやがんのか?」

「あなたは……」

 

 自分を助けてくれたのは、ゴッドバードだった。

 彼は美海を抱えたままDボードを操作し、そのまま近くの路地裏に降りた。

 

「あ、ありがとうございます」

「ありがとうじゃねぇよ。きいつけろや。ちゃんと前見て運転しろ。あのスピードでぶつかったらタダじゃすまねぇからな」

「す、すみません」

 

 何故か本気で心配してくれている様子のゴッドバードに、美海も素直に謝った。

 

「で、んなとこで何やってたんだよ」

「パトロールです」

 

 とりあえず嘘をついた。

 

「お前、クビなったって言ってただろ」

 

 速攻でバレた。

 冷静に考えれば彼に対して隠す理由がないことに気付き、美海は事情を話すことにした。

 

「実は、ある人物の記した遺書、のようなものを探しているんです」

「遺書?」

「あなたが以前、プレイメーカーから横取りしようとしたデータですよ。あれの続きが、このLINK VRAINSのどこかにあるんです」

「そいつと脇見運転がどう関係するんだよ。あぶねぇだろ」

「あなた、見た目の割に交通ルールに厳しいですね」

「アバターの見た目は関係ねぇだろ」

「いやだって、なんかうるさいだけで信号も法定速度も守る暴走族みたいな感じがして」

「俺をDQNどもと一緒にすんじゃねぇよ!」

 

 ゴッドバードは本気でキレた。

 さすがに自分を心配してくれた相手をからかうのはこの辺にしようと、美海は話を戻す。

 

「……リンクセンスって知ってますか?」

「聞いたことねぇな」

「ネットワークの気配を感じる能力です。どうもそれが私にもあるようなので」

「それって……」

 

 それを聞いてゴッドバードは、どこか思い当たる節があるような反応を示す。

 

「やっぱり、あなたにもあるんですね」

「持ってるかどうかは知らねぇよ。似たような経験があるだけだ。で、お前はバカにみたいに目を瞑って、その遺書を探してたわけだ」

「まあ、端的に言えばそうですね」

「なあ、その遺書ってのは、ひょっとして鴻上博士のものじゃねぇだろうな?」

「っ!」

 

 まさかゴッドバードの口からその名前が出るとは思わなかったので、美海は思わず反応してしまった。

 

「やっぱりそうか」

「……あなた、鴻上博士を知っているんですか?」

「ああ。昔ちょっとな」

「そういえば、あなたはイグニスを狙ってましたよね。その理由は……」

「鴻上博士が作ったAIだろ。あのジジイのことを調べるのに、必要だと思っただけだ」

 

 ゴッドバードは鴻上博士の関係者で、彼のことを調べている。

 それ以上のことは多分喋っても答えてはくれなさそうだが、これは使えると彼女は考えた。

 

「ゴッドバード、私達と手を組みませんか?」

「は?」

 

 突然の申し出に、ゴッドバードは顔をしかめる。

 

「あなたは現在、ハノイにも、SOLテクノロジーにも属していない。そして鴻上博士のことを調べたいと思っているのは私達も同じです。利害は一致している」

 

 美海の言葉をゴッドバードは鼻で笑う。

 

「利害は一致してる。確かにそうだ。だが俺は別に一人でも問題ねぇ。俺にはお前に協力して得られるメリットなんて……」

「私はプレイメーカーと協力関係にあります」

「!!」

 

 これにはさすがのゴッドバードも驚きを禁じ得なかった。

 

「プレイメーカーと彼の持つイグニス、その力を借りられるのはあなたにとってメリットでは?」

 

 考え込むゴッドバードに、美海は畳みかける。

 

「さらに言えば、私は今、イグニスを信用していない」

 

 Aiと不霊夢の実験について覚えていないという不審な発言。さらにハノイの騎士が言っていたイグニスが人類を滅ぼすということ。

 彼らを全面的に信頼すべきではないと、美海は判断した。

 

 遊作や尊は信頼しているが、彼らを通じてAiや不霊夢に情報が漏れてしまっては意味がない。

 

「だからあなたを味方に引き入れたい」

「理屈は通ってる。だが、俺がお前にとってあのイグニス以上に信用できる理由がねぇだろ。余計に裏切りのリスクが増えるだけだろ?」

「あなたに裏切るメリットがない、というのもありますが……なんとなく、あなたは信用してもいい気がして」

 

 それを聞いて、彼は急に苛立ったように美海に迫り、壁際に追い込んだ。

 

「お前、ちょっと警戒心なさすぎじゃねぇの?」

「……」

「ネットで簡単に人を信用したらどうなるか、今からその体に教えてやろうか」

 

 そう凄まれても、美海は彼から視線を逸らすことはなかった。

 

(ああやっぱり。彼は全く怖くない(・・・・・・)

 

 彼の言動、行動から悪意や敵意を感じない。

 アバターとはいえ、自分より体格のいい男に迫られているのに、抵抗しようという気が起きない。否、抵抗する必要を感じない。

 

「チッ」

 

 美海のリアクションのせいか、彼は舌打ちして彼女から離れる。

 

「悪かったな。脅すような真似して」

「いえ」

「あー、その詫びといってはなんだが」

 

 ゴッドバードは突然彼方を指さした。

 

「……ありがとうございます」

 

 その意味を理解した彼女は、Dボードに乗ってその方角へと向かった。

 

 

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