遊戯王VRAINS Re:Construction   作:師走F

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第17話:Dive to Abyss(前編)

 昼休み、遊作、尊、美海、葵の四人は屋上に集まって一緒にご飯を食べていた。

 

「藤木くんが、プレイメーカー?」

 

 前回の会では、結局みんな帰らずにそのまま晩御飯までご馳走になってしまったため互いの正体を打ち明ける機会がなかった。

 なので、あらためてこの場で正体を明かしたのだ。

 

「で、僕がソウルバーナー」

「全然雰囲気違う……」

 

 大人しそうな尊と、熱血漢のソウルバーナーが全く結びつかず、葵は混乱している。

 

「僕も驚いたよ。財前さんがブルーエンジェルだったなんて。てっきりどこかの事務所所属だと思ってたから」

「葵様は、アマチュアのデュエリストで唯一ランキングトップテン入りをしていますからね」

 

 美海は誇らしげに主の戦績をアピールする。

 

「で、みんなは孤児院の先生、鴻上先生が遺したレポートを探してるのよね」

「ああ。今はレポート1から3まで見つかっている」

 

 遊作はレポートのデータを葵に送る。

 

「これが……」

 

 葵はレポートの内容に目を通し、表情を曇らせる。

 

「美海達は、その……子供の頃に、実験台にされたのよね?」

「……はい。今まで黙っていて、すみませんでした」

「そ、そんな!いいの!私の方こそごめん!」

 

 美海が頭を下げたので、葵は慌てて謝る。

 

「その……家に引き取られた時、なんとなく事情はあるんだなって、思ってたけど、そんな目に遭ってたなんて知らなくて……」

 

 四人の空気が重くなる。その時、

 

「まあそんな暗い顔すんなよ」

「きゃぁっ!」

 

 急に遊作のデュエルディスクからAiが飛び出したことで、葵が飛びのいて美海の後ろに隠れる。

 

「そんな驚くなよ。Aiちゃんショック……」

「ご、ごめん」

 

 葵は美海の後ろからペコッと頭を下げた。

 

「紹介する。Aiだ」

「はーい。Aiでーす」

 

 遊作に紹介されて、Aiは元気よく手を上げる。

 

「こいつは俺の────人質だ」

「そうそう人質ってちょっと待って!俺達の友情はどうしたんだよ!ウィンディと戦った時はいい感じだったじゃんか!」

「そうだな。お前は使える人質だ」

「このー!」

 

 Aiの抗議を遊作は軽く流す。その態度は、以前のような突き放すものではなかった。

 

「全く、素直じゃありませんね」

「だね。そうだ。不霊夢、君のことも紹介するよ」

「そうだな」

 

 今度は尊のデュエルディスクから、不霊夢がニュッと飛び出した。

 

「初めまして、財前の御嬢さん。私の名は不霊夢。不屈の魂、夢に非ずと書いて不霊夢だ」

「どうも」

 

 一通り挨拶を済ませた後、彼らはこれまでの出来事を整理し始めた。

 

「今分かっているのは、実験の名前はハノイプロジェクト、実験によってつくられたイグニスを追っているハノイの騎士と同じ名前だ」

「彼らはイグニスが人類を滅ぼすと言っていた。つまり、実験後のシミュレートの結果を知っていたことになります。組織の中核となる人物は実験の関係者であることは間違いないでしょう」

 

 この発言をしたのは、ファウストとスペクター、彼らはそれぞれハノイの騎士のセカンドとサード。セカンド以上が実験の関係者である可能性がある。

 

「ハノイの騎士が、以前葵様に使用した電脳ウイルス、あれを作ったのがSOLテクノロジーである。このことから、SOLとハノイの間に何かしら繋がりがあると考えられます」

「そして、イグニスのうち、四人が人間と敵対すると宣言した。今のところ、僕らが直接話したのは風のイグニスのウィンディと、」

「私と美海が出会った、水のイグニス、アクア」

「他のイグニスはどんな奴なんだ?」

 

 イグニスについて知るには、同胞の彼らに聞くのが一番だろうと、遊作はAiと不霊夢に尋ねる。

 

「地のイグニス、アース。あいつは一度決めたことは曲げない。頑固で冗談も通じない性格だから、説得するのは難しそうだな」

「後は光のイグニス、ライトニング。彼は我々イグニスの実質的なリーダーのような存在だ。今回の人間への宣戦布告も、最終的な彼が決めたことだろう。同じく説得は難しいだろうが、逆に言えば、彼さえ説得できれば、他のイグニスも考えを改めてくれるはずだ」

「でも、ハノイの騎士が攻撃しなかったら、こんなことにはならなかったのよね」

 

 葵の言う通り、引き金を引いたのは人類側である。

 そんな状態で、素直に話を聞いてくれるとは思えない。

 

「そういえば、最近ハノイの騎士の話は全然聞かないね」

「サイバース世界で返り討ちに遭って、ビビッて引っ込んでるんじゃないのか?」

「そんな連中じゃないだろう」

 

 リボルバーもそうだが、ジャックナイフ、彼が夢乃切花と同一人物かは置いておいて、あれだけイグニスに対して強い憎しみを抱いていたのに、おめおめと逃げるとは思えない。

 

「嵐の前の静けさというやつか」

 

 その時、予鈴が鳴る。

 

「そろそろ戻ろうか」

「ああ」

 

 ◆

 

 SOLテクノロジー本社、財前晃はビショップの部屋に呼び出されていた。

 

「ハノイの騎士が妙なことを企んでいる」

 

 部屋に入るなり、ビショップはそんなことを言い出した。

 

「と、言いますと……」

「LINK VRAINSのプログラムが改竄されている」

「なっ! ではすぐに修復を……」

「待て」

 

 慌てて部屋を出ようとする晃を、ビショップは呼び止めた。

 

「それよりも大元を潰すべきだろう」

 

 すると、AR空間にLINK VRAINSの地図が投影された。

 巨大な編み目のような複雑な通路の先に、赤い点がいくつかの場所に灯っている。

 

「これは、LINK VRAINSのジャンクエリアですか」

 

 ジャンクエリア。ジャンクデータを一か所に集めて消去するための、データの通り道、電脳空間の下水道とも言えるエリアだ。

 

「奴らが企てを行っている場所の候補だ。君はセキュリティ部隊の指揮を取り、ハノイの殲滅にかかれ」

「分かりました」

 

 晃は一礼して、部屋を出ていく。

 

「……さて、盗み聞きをしている暇があるなら、君にも協力してもらおうか。ゴーストガール」

『あら、バレてたね』

 

 虚空からゴーストガールの声がする。

 

「わが社のセキュリティが、君のようなネズミに突破されるわけないだろう。わざと通してやったのだ」

『通りで簡単だったわけね』

 

 平静を装っているが、マイク越しでも悔しそうな感情が伝わってくる。

 彼女が自身の腕にどれほど自信とプライドを持っていたかがよくわかる。

 

「プレイメーカーの正体は結局分からなかったのだろう? ならせめてハノイの居所を突き止めるくらいはしてもらおうか」

『えぇ。いいわよ』

 

 ◆

 

「聞きましたか?」

 

 同刻、学校の屋上で、美海はデュエルディスクからビショップと晃のやり取りをみんなに聞かせた。

 

「盗聴器を仕掛けてたのか」

「正確にはAR空間に干渉する盗聴プログラムです。といっても、この様子ではわざと見逃されたようですね」

 

 ゴーストガールすら気付かれたのだから、自分程度の仕掛けにビショップが気付かないはずがないと、美海はため息を吐く。

 

「それでどうしますか? 音声だけなので、地図データはありませんけど」

「情報がジャンクエリアってだけじゃ、探すのは難しそうだね」

「ヒントならあるだろう」

 

 すると、遊作は美海のデュエルディスクを借りて、音声を前の方から再生する。

 

『君はセキュリティ部隊の指揮を取り、ハノイの殲滅にかかれ』

「もしかして、お兄様に聞く気?」

「いや、そんなことをする必要はない。セキュリティ部隊を動かすなら、そいつらの後を付ければいい」

 

 会話の中で、候補がいくつかあると言っていた。

 SOLもハノイの居所を絞れていないなら、大人数を使っての大規模な捜索となる。それならばあとをつけるのも容易いだろう。

 

「じゃあ二手に分かれようか。僕は美海と行くよ」

「なら俺は財前とだな」

 

 遊作とペアになれて、少し気持ちが浮ついていしまうが、葵はそんな場合ではないとすぐに気を引き締める。

 

「じゃあこの後、LINK VRAINSで」

 

 ◆

 

 遊作と葵、つまりプレイメーカーとブルーエンジェルのチームは、草薙特性のステルスプログラムで身を隠しながら、SOLのセキュリティ部隊の後をつける。

 

「ここがジャンクエリア」

 

 灰色のコンクリートの壁に囲まれた狭苦しい通路、役割だけでなく見た目も下水道のような空間だった。

 

「何が起きるか分からない。慎重に行くぞ」

「えぇ」

 

 しばらくSOLの人間と適度な距離を保ちながら歩く。

 その時、

 

 パシャァッ

 

「きゃぁっ!」

 

 地面から何かが飛び出し、ブルーエンジェルはプレイメーカーの腕に抱き着く。

 

「これは……」

 

 それは魚のようなシルエットの、黒いノイズだった。

 

「壊れたAIの残骸か」

「び、びっくりしたぁ……」

 

 危険なものではないと分かったあとも、ブルーエンジェルは自身の胸をプレイメーカーの腕に擦り付ける。

 だが、不意に彼女はプレイメーカーから離れてため息を吐く。

 

「……ごめん。なんか空しくなってきた」

「?」

 

 気を取り直して、二人は先へ進む。

 またしばらく歩くと、開けた空間に出た。

 

「あれは……」

 

 地面にはSOLのデュエリスト数名が倒れていた。

 

「一体誰が……」

「……ブルーエンジェル、走れ!」

「え?」

 

 彼女がその言葉の意味を理解するより早く、それは姿を現した

 

 二メートル以上あるデータの巨人、その大きな腕を振るい無防備なブルーエンジェルの背中を狙う。

 

「くっ!」

 

 プレイメーカーは咄嗟に彼女を抱きかかえ、お姫様抱っこをして通路を駆ける。

 

「な、なんなのあれ!?」

「ジャンクデータの塊だ。普通はあんなものができる前に、データは削除されるはずなんだがな」

 

 既にハノイがプログラムを改ざんした影響は出ているということなのだろう。

 

 とにかく走るが、敵は巨体の割に素早い。

 

「Ai!あいつは食えるか!?」

「えぇー、不味そう……」

「言ってる場合か」

 

 巨人が腕による薙ぎ払いを行う。

 プレイメーカーは目視する前に跳んで回避する。

 リンクセンスのおかげで、どうにか紙一重でかわせているが、それも限界がある。

 

 加えてこの狭い場所ではDボードも使えない。

 

「Ai、頼む!」

「あーもうしょーがねぇな」

 

 Aiはデュエルディスクから飛び出し、その体を思いっきり広げて黒い六本の腕を伸ばす怪物に姿を変える。

 

「いっただっきまーす!」

 

 長い首を伸ばして噛みつく、

 

「やっぱマズ!」

 

 だが、すぐに口を離してしまう。

 当然、敵が攻撃されて黙っているはずもなく、今度はAiに向けてその剛腕を振るう。

 

 その時。

 

 パァンッ

 

 銃声のような音が聞こえたかと思うと、データの巨人は砕けて消滅した。

 

「こんな場所でデートだなんて、ちょっと趣味が悪いんじゃない?」

「あんたは……」

 

 振り返ると、そこには拳銃のようなガジェットを構えた一人の女性が立っていた。

 

「あなたと会うのは初めてね。プレイメーカー。私はゴーストガール。お金次第でなんでも引き受ける魅惑の謎の美女ってとこかしら」

「自分で美女っていうのかよ」

「あんたがゴーストガール……」

 

 美海の音声データの中には、彼女とビショップの会話もあった。

 彼女もまた、SOLの依頼でこの場所の調査をしていたのだろう。

 

「その様子だと、あなた達もハノイが狙い? だったら私と組まない?」

 

 それは彼らにとって願ってもないことだった。

 ゴーストガールならSOLから地図データを貰っているはずだ。彼女と組めば、より効率よくハノイの居場所を突き止めることができる。

 

「分かった。ブルーエンジェルもそれでいいか?」

「えぇ」

「決まりね。じゃあ、行きましょうか」

 

 ◆

 

同刻、ソウルバーナーと美海もジャンクエリアの通路を探索していたが、

 

「うわぁっ!」

 

 プレイメーカー達と同様にデータの巨人に襲われていた。

 二人は持ち前のリンクセンスと身体能力でどうにか逃げ続けるが、アバターとはいえ、精神的な疲労は溜まっていく。

 

 その時、風が薙いだ。

 

 強風にやられ、巨人の足が少しだけ止まる。

 

「こっちだ!」

「ゴッドバード!」

 

通路の奥には、ゴッドバードが立っていた。

 

「なぁあいつは……」

「味方ですよ」

 

 警戒するソウルバーナーの手を引いて、ゴッドバードの近くまで駆け寄る。

 その間に、巨人も再び動き出し、彼らに突進してくる。

 

「てめぇら、しっかり掴まってろよ」

 

 すると、足元にDボードが出現し、ゴッドバードと三人乗りするような態勢になる。

 

「ちょっ、こんな場所で乗る気か!?」

「いいから大人しくしとけ」

 

 ゴッドバードが手を伸ばすと、周囲のデータマテリアルが集まり、データのレールを作り出す。

 

「飛ばすぞ」

 

 瞬間、Dボードが急発進する。

 

 普通ならぶつかりそうな勢いだが、ゴッドバードにより敷かれたデータストリームに流されることで、曲がり角も難なく越え、通路を駆け抜けた

 

「ふぅ……ありがとうございます」

 

 巨人を振り切ったところで、ゴッドバードはDボードを停車させた。

 

「なあ、こいつは?」

「ソウルバーナーはまだ会ったことないんでしたね。紹介します。ゴッドバードです」

「こいつが……」

 

 一応、美海や遊作から彼の存在については聞いていたが、彼の記憶ではプレイメーカーのイグニスを狙っていた敵だったはずだが。

 

「俺を友達みたいに紹介すんじゃねぇよ。つーか、さっきしれっと俺のこと味方って言っただろ」

「違うんですか? 私のことをわざわざ助けにきてくれたのに」

「たまたま通りかかっただけだ」

 

 だが、彼と美海のやり取りはとても敵だった間柄には見えない。

 

「それより、あなたがここにいるのは……」

「ああ。SOLがなんか派手に動いてたからな。何か探してるなら横取りしてやろうと見に来たんだよ」

「だったら一緒に行きましょう。このエリアのどこかにハノイの騎士がいます」

「ハノイが?」

「はい。ハノイはLINK VRAINSのプログラムの一部を改竄しているようです。あなたなら見つけられますよね」

「……そういうことか」

 

 美海の言葉の意味を理解した彼は、目を閉じて意識を集中する。

 

「なぁ、あいつは何を……」

「探ってもらってるんです。LINK VRAINSの異常を」

「探る?」

「はい。おそらく彼のリンクセンスは、私やあなたのものよりも強い」

 

 ゴッドバードが目を開ける。

 

「こっちだ」

 

 ゴッドバードは歩き始めた。

 

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