遊戯王VRAINS Re:Construction   作:師走F

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ついに明らかとなったゴッドバードの正体、風間啓くんのお話


第34話:Stray Bird

 風間(かざま) (けい)、ゴッドバードの正体であり、美海達と同じ孤児院で過ごした幼馴染。

 

「啓、お久しぶりです。元気そうでよかったです」

 

 ようやく再会することができた幼馴染に、美海は微笑みかける。

 

「お、俺もその……湊さんが、元気そうで、うん……」

 

 彼は目を伏せて、しどろもどろになりながら話す。

 その弱弱しい姿は、あのゴッドバードととても同一人物には見えない。

 

「あの、その湊さんってのは止めてください。なんか余所余所しいです」

 

 美海は少し拗ねたように言う。

 

「よ、余所余所しいって……」

「昔みたいに、美海と呼んでください」

「い、いや、いきなり女子を下の名前で呼ぶのは、抵抗あるというか」

「初対面じゃないんですから」

「10年も会ってなかったなら、実質初対面みたいなもんだろ。つか、俺なんかに下の名前で呼び捨てにされたら、ふ、普通にキモイって思うだろ」

「そんなこと思いませんよ」

 

 どうにも彼は、対人能力が悪化しているなと、美海はため息を吐く。

 彼女の知っている頃から、決して活発な子供ではなかったが、今は臆病な小動物のように、目線をあちこちへやり、周囲を警戒している。

 

「じー……」

 

 見つめても一向に視線を合わせようとせず、やがて耐え切れなくなったのか、啓は顔を真っ赤にして答える。

 

「あーもう分かったよ。呼べばいいんだろ!美海!」

「それでいいんです」

 

 彼に名前で呼ばれて、美海は満足そうにうなずいた。

 

「そ、それで、旧交を温めに来たわけじゃないだろ」

「まあそういう側面もありますけど」

 

 もう少し雑談していたかったが、美海は本題に入ることにした。

 

「言った通り、私達に協力してほしいんです。ゴッドバードとしてではなく、イグニスのオリジン、その一人である風間啓として」

「どういうことだよ」

「私達は、イグニスとの和解を目指しています。そのために、彼らのオリジンとなるあなたの力が必要になる」

 

 不霊夢の仮説が正しければ、彼らのオリジンと引き合わせることは、きっと大きなプラスになると、美海は信じていた。

 

「……分かった。まあ俺にできることがあるなら、協力はさせてもらうよ」

「ありがとうございます」

「まあ正直、美海の正体には薄々感づいてたし、もっと早く正体を明かしてもよかったんだけど……」

「やっぱり気付いてたんですね。でも、それならどうして?」

 

 それは聞かれて、啓は少し考えるような顔をしてから答えた。

 

「半分は意地、かな?」

「といいますと?」

「師匠に、あいつに認めて欲しかったから……」

 

 ◆

 

 俺は事件の後、別の孤児院に引き取られた。

 実験の時に見せられたあれこれで、ほんと、あの時は人と会うのも話すのも怖くて、ずっと一人でパソコン弄ったりしてた。

 

 そんな時に、師匠、ブラッドシェパードと出会ったんだ。

 

「お前、一人か?」

 

 後で知ったんだけど、その孤児院は、元々あいつの母親が経営してたらしくて、事故で働けなくなった母親のかわりに、たまに面倒を見にきたり、出資金を出したりしてたらしい。

 

 何度か話すうちに、なんでか俺の方があいつに懐いてたんだよな。

 

「ここが今日からお前の家だ」

 

 それからあいつのとこに引き取られた。

 家はぼろかったけど、まあ子供の俺にはどうでもよかったな。

 

「あ、その……お、お父さん?」

「俺は父親じゃない」

「ご、ごめんなさい……」

「そうだな……俺のことは師匠と呼べ」

「し、ししょー?」

「そうだ。お前が一人前になるまでは、俺が面倒を見てやる」

 

 俺は師匠に色んなことを教わった。

 勉強も、ハッキングも。もちろんデュエルも。

 

「ひっ……」

 

 最初はそれこそ、カードに触るのも、見るのも怖かった。

 けど、あいつが辛抱強く教えてくれたんだ。戦う術を、恐怖に打ち勝つ術を。今思うと、俺がデュエルを嫌いにならずに済んだのは、師匠のおかげだな

 

 学校にも行かせてもらったんだけど、あんまり馴染めなくて。

 それでも、デュエルの時だけは、仲間に入れてもらえたんだ。

 

 けど、それもすぐに続かなくなった。

 

「風間とやっても詰まんねぇよ」

「え、で、でも……その……」

「あーもううぜー。行こうぜ」

 

 こんな風に言われると自慢みたいに聞こえるけど、師匠に鍛えられたおかげで、デュエルは結構強かったんだ。それで、負けた相手にデッキのアドバイスとか、プレイングミスを指摘したりして。

 別に悪気があったわけじゃない。その頃の俺には、子供のコミュニティでそういうことをすればどうなるかなんて、分からなかった。ただそれだけなんだ。

 

 それから段々、登校する頻度も減ってきて。

 中学二年くらいになる頃には、俺は不登校になっていた。

 

「啓、今日も学校には行かなかったのか」

「別に行く必要ないし」

 

 中学に上がる頃には、俺はもう師匠の仕事を手伝うようになってた。

 それで金も稼げるし、これからも師匠についていけばいい。

 

「あんたと一緒に仕事する方が楽しいし、有意義だよ。そうだ。次のターゲットなんだけど────」

「啓、お前はクビだ」

「え?」

 

 そう告げられた時、最初は何でって思った。

 捨てられたことが、認めてもらえなかったことが悔しくて、一人でもやってやるって、ハッカーとして、ゴッドバードとして活動をつづけた。

 

 あいつの家を出て行った後も、生活費とか諸々は、俺の口座に振り込まれてたけど、一切手をつけなかった。

 

 ◆

 

「まあ今はあいつの考えてたことは分かるよ。自分と一緒にいたら、その背中を追い続けることになる。実際、俺は今でも前に進めていない。育て方を間違った負い目みたいなのはあるんだろ」

「それで、もう半分の理由は?」

「……怖かったんだよ。美海と会うのが」

 

 彼は目を伏せたまま、震える唇を動かす。

 

「俺は十年前のあの頃から、何も変わっていない。みんなが俺の知らないところで成長して前に進んで、それで再会したら、がっかりされるんじゃないか。幻滅されるんじゃないかって」

「そんな、あなたは戦っていたじゃないですか」

「それは、抗っているふりをしていただけだ。俺は、本当は事件の真相なんてどうでもよかったんだ。ただ、師匠に見捨てられて、目的も他になかったから」

 

 昔から人と関わるのが苦手だった。

 人から逃げて、過去から逃げて、現実から逃げて、どこにも行くことができず、ネットワークの空を彷徨い続ける迷い鳥。

 

「それが、ゴッドバードの正体だ」

 

 そう自嘲気味に呟くと、不意に美海が彼の手を握る。

 

「にゃっ!」

 

 彼女の温かさに触れ、変な声を上げる。

 

「がっかりするなんて、私はむしろ嬉しかった」

「……俺なんて、ただの幼馴染の一人だろ」

「えぇ。あなたは私の大事な幼馴染の一人です」

 

 彼女は目を閉じて、彼の手を優しく包む。

 

「あなたにとっては、たかだが半年程度の思い出でしかないかもしれない。けれど、少なくとも私にとっては、その短い時間が、この十年、私を生かしてくれていたんです」

「美海……」

「だから、私はあなたに会えたら、ずっとこう言いたかったんですよ」

 

 そして目を開けて、彼の瞳を真っすぐに見つめた。

 

「お帰りなさい。啓」

「……た、ただいま」

 

 啓は頬を染めて、しかし目を反らさずに返したのだった。

 

「ま、まあそれは分かったけど、何も一人で来ることなかっただろ」

 

 啓はさすがに耐え切れなくなり、椅子を回転させて美海に背を向けた。

 

「私は約束を守っただけです。デュエルに勝ったら会わせろと言ったのは私ですから、他の人を連れてきたら駄目でしょう」

「別に一人でなんて言ってないんだしいいだろ。こんな、その……密室で、何かあったらとか、考えないのかよ」

「うーん、まあ……最悪啓ならいいかなって」

「あぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 少し恥ずかしそうに答えた彼女に対して、啓は突然発狂し出した。

 

「ど、どうしたんですか!?」

 

 急に大声を上げた彼に戸惑う美海、すると啓はパソコンを立ち上げて急に何かを撃ち込み始めた。

 その画面をのぞき込むと、

 

『【悲報】10年ぶりに再会した幼馴染がビッチになっていた件』

 

 そこにはそんなタイトルのスレが立っていた。

 

『名無し:それなんてエロゲ?』

『名無し:裏山』

『名無し:イマジナリー幼馴染』

『名無し:イッチの妄想力高杉』

 

「はぁぁっ!何が悲しくてこんな妄想しなきゃならねぇんだよ!妄想ならもっと自分に都合のいい妄想するわ!」

 

 彼は物凄い速さでタイピングして、書き込みに対してレスを返す。

 

「てめぇら覚えとけよ。全員特定してネットに晒してやるからな」

「あ、あの……啓?」

「……ごめん」

 

 正気に戻った啓は、スレごと書き込みを削除した。

 

「それでなんだっけ?」

「ああ。えーっと、とりあえず私の仲間を紹介したいので一度どこかで会いましょうか」

「オフ会ね。いいよ。外出るの久々だけど」

「それじゃあ場所はどうしましょうか。やっぱり草薙さんの店が……」

 

 そこでふと、彼女の目が部屋の壁にかけられたあるものに留まった。

 それは学校の制服で、暗くてよく見えなかったが見覚えのあるデザインだった。

 

「あれって、うちの制服、ですよね?」

「ん? ああ。学校一緒だったんだ」

「一緒だったんだって、なんで今まで……」

「そりゃ、俺は入学以来一度も登校してないし」

 

 そういえば先程の会話でも、中学から不登校児になっていたと話していた。

 この様子で高校から改善したなんてことがあるわけない。

 

「ち、ちなみにクラスは?」

「行ってないから忘れた。確かBだった気がする」

「同じクラスじゃないですか!!」

 

 驚愕の新事実が発覚したことで、彼女は深いため息を吐いた。

 

「とりあえず、学校行きましょうか」

 

 ◆

 

 そして翌日、美海は啓を連れて登校していた。

 

「ガクガクブルブル」

 

 啓は美海の後ろに隠れて、ビクビクしながら周囲を警戒している。

 そのせいで、周囲から奇異の視線が集まり、それに対してさらに啓が怯えて警戒するという悪循環が起きている。

 

「啓、そんなに怖がらなくても、誰もあなたを攻撃したりしませんよ」

「う、嘘だ。俺みたいな陰キャは石を投げられるってネットに書いてたぞ」

「あなたネットリテラシー高い方ですよね?」

 

 そんなやり取りをしながら教室に辿り着くと、先に登校していた尊が美海の後ろに隠れた彼の存在に気付く。

 

「あ!もしかして啓!?」

 

 尊が駆け寄ると、啓はひどく怯えた様子で美海の体にしがみつく。

 

「よ、陽キャがいる……」

「啓、僕だよ!」

「た、尊。あんまり強い刺激を与えないでください。死にます」

「え?ごめん」

 

 尊はよく分かっていない様子だったが、一旦距離を取った。

 

「で、誰なんだよこの見るからにリア充っぽいのは?」

「僕だよ。穂村尊」

「嘘つくな。尊はそんな優男みたいなルックスじゃない」

 

 すると、尊はメガネを外して前髪をかき上げた。

 

「あ、尊だ」

「なんでみんなこれやんないと分かんないの?」

 

 以前もやったやり取りに、尊はため息を吐いた。

 

「それより、啓がどうして……」

「その話はまた、遊作も交えてしましょう。もう授業が始まります」

 

 ◆

 

 そして放課後、遊作も呼んで四人で集まっていた。

 

「えーっと、遊作だよな?」

「あぁ。久しぶり」

「ほんと、啓が同じ学校だったなんてびっくりだよ」

 

 尊が話しかけると、啓はサッと身を引いて美海の後ろに隠れた。

 

「あ、あれ? なんで逃げるの?」

「……俺お前のこと嫌い」

「え……」

 

 尊は物凄くショックを受けたような顔をした。

 

「親友だと思ってたのに……」

「何が親友だよ!俺のこといじめてたくせに!」

 

 そう反発する啓に、遊作と美海は首を傾げた。

 

「いじめなんてあったか?」

「ありませんでしたよ」

「被害者の傷はいつまでも消えないんですー!」

 

 啓は大声で抗議する。

 このままだと話が進まなさそうなので、美海が仲裁を買って出た。

 

「じゃあ一応審議してあげますから、当時のエピソードをどうぞ」

「よし、よく聞けよ」

 

 そして啓は矢継ぎ早に言い放つ。

 

「ドッジボールで俺ばっかり狙うし」

「あなたが避けないからでしょ」

「貸したゲームはすぐに壊すし」

「機械音痴だからな」

「尊が先生に怒られた時、何故か一緒に謝らされるし!」

「あ、あれは僕のために一緒に謝ってくれてたんだと」

 

 その結果、無事いじめがなかったことが証明された。

 

「ていうか、普通に仲良かったですよね?」

「うん。僕が自分のデュエルディスク壊した時も、直すの手伝ってくれて」

「あれはお前が無理やりやらせたんだろ」

 

 それでもなお啓は敵意をむき出しにする。

 

「無理やりって、脅されでもしたんですか?」

「泣きつかれたら断れないだろ」

「仲良しじゃん」

 

 口では色々言うが、別に嫌ってもいなさそうなので、美海はとっとと本題に入ることにした。

 

「さて、じゃあ啓」

「ああ。うん……」

 

 彼女に目配せされて、啓はデュエルディスクから1枚のカードを取り出して、二人に見せた。

 

「そのカードは……」

 

 それは敵性機兵(エリミネーター)コンパイル・ブラスターのカード。

 ゴッドバードのエースモンスターだ。

 

「俺がゴッドバードだ」

「そうか。じゃあこの前、美海がゴッドバードとデュエルしたのは……」

 

 遊作が視線を向けると、美海は静かに頷いた。

 

「まあ俺も、風のイグニスのオリジンとしてこれからは協力してやるよ」

「どうしてウィンディだってわかるんだ?」

「消去法だよ。俺は一度地のイグニス、アースと会ってるから」

 

 この前のLINK VRAINSで行われたイベントで、啓はゴッドバードとしてアースと相対している。

 

「美海が感じたっていう妙な感覚を、俺は感じていない。つまりアースは違う。ライトニングのオリジンが仁で、アクアが美海なら、残るのは風のイグニスだけだ」

「ああ。そっか」

「で、もういい? 俺は帰りたいんだけど。後はリモートなりLINK VRAINSなりでできるだろ?」

 

 久しぶりの学校に対して、啓はかなり疲れとストレスを溜めていたらしい。

 

「ああ。待ってください。せっかくですから、このまま一緒に部活に行きませんか?」

「……絶対ヤダ」

 

 逃げようとする彼の腕を強引につかんで、美海は部室へと向かう。

 

「おう。藤木!今日も来たな……ん?」

 

 島は美海の後ろに隠れた啓の姿を見つけて、近寄る。

 

「なんだ新入りか?」

「紹介します。同じクラスの風間啓です。ほら、啓」

 

 美海に促されて、啓は顔を出してしぶしぶ会釈する。

 

「俺は島直樹。そのうちLINK VRAINSのニューヒーローになる男だ」

「……ああ。そう」

 

 興味なさそうな態度も意に介さず、新しく入ってきた────未定だが────部員に島は先輩風を吹かせる。

 

「よかったら俺がデュエル教えてやろうか?」

「何? 金とんの?」

「なんでそうなんだよ」

 

 啓の中では物を教える=料金を取られる=カツアゲという図式が成立していた。

 

「あー。彼は目に映るもの全てが敵に見える病気にかかっているので、優しくしてあげてください」

「うぅ……」

「あーよしよし。怖くないですよー」

「なんだこいつら」

 

 島だけでなく、他の部員から奇異の目で見られたところで、啓はようやく美海の後ろから出てくる。

 

「で、何? このデュエルが部内でのヒエラルキーを決めるとか、そういうやつ?」

「そんなものはありませんし、仮にあったとしても島君が最下位なので問題ありません」

「おい!」

 

 サラッと部内で一番弱いことを告げられた島が抗議する。

 

「まあ、そういうことなら」

 

 啓はデュエルディスクに手を伸ばすが、そこであることに気付いた美海が彼の服の袖を引っ張り、耳元で囁く。

 

「あなたダミーデッキは持ってるんですか?」

「ないけどそんなの」

「駄目ですよ。ゴッドバードはもう有名人なんですから」

「めんどくさいな……」

 

 これまでリアルでデュエルする機会がなかったため、今日もデュエルディスクにはゴッドバードとしてのデッキである【敵性機兵(エリミネーター)】が入っている。

 どうしようかと、啓が部内を見渡すと、棚に置かれたカードバインダーが目に入った。

 

「あれって、借りていいの?」

「えぇ。いいですよね。部長」

「構わないよ」

 

 水亀部長の了承を得て、啓は棚の方へ向かう。

 

「自分のデッキは使わないのか?」

「これ余りカード(ストレージ)

 

 適当に誤魔化して、バインダーの中のカードに目を通す。

 

「へぇ。結構いいカード揃ってるな……お、これがあるなら、あれが組めるか?」

 

 そして手早くカードを選別し、ものの五分程度でデッキが完成した。

 

「もうできたのか!?」

「う、うん……」

 

 島が驚いて声を上げると、啓は体をビクッとさせて、逃げ腰になる。

 美海に背中をさすられて、どうにか席についた。

 

「五分で組んだデッキで、俺に勝とうなんていい度胸じゃねぇか。俺がデュエルの世界の厳しさを教えてやるよ」

 

 そう息巻いていた島だったが、デュエルが始まると、その表情は絶望に染まった。

 

崇光なる宣告者(アルティメット・デクレアラー)で特殊召喚を無効」

「う……」

「神の宣告でその効果無効な」

「なっ……」

「アリアドネでカウンター罠をサーチして、墓地へ送ったイーバで天使族補給と。で、なんかある?」

 

 島に何もさせることなく、啓はデュエルに勝利した。

 

「お、俺がこんな新入りに……」

「流石だな」

 

 項垂れる島を置いておいて、遊作が啓に声をかけた。

 

「大したことないよ。世の中にはこっちが4妨害構えても平気でぶち抜いてくる奴がいるからな……」

 

 師匠であるブラッドシェパードのことを思い浮かべて、啓はげんなりした。

 

「何々? 新しい人?」

 

 その時、部室に切花が入ってきた。

 切花は啓の姿を見つけると、スキップしながら彼に近付き、その顔をグッと彼の顔に近づける。

 

「ひっ……」

 

 照れるより恐怖が勝った啓は、即座に美海の後ろに隠れた。

 

「ひっどーい。ちょっと挨拶しようとしただけなのに」

「彼は極度の人見知りなので」

「……人多い。帰りたい。しんどい」

「あーはいはい。じゃあ今日はこの辺にしましょうか」

 

 もう限界と言わんばかりの啓の様子に、美海は彼を連れて帰った。

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