遊戯王VRAINS Re:Construction   作:師走F

5 / 84
第4話:Access the Data Storm

 そこは通常のネットワークの遥か下層に存在する電脳世界の隠しエリア。

 薄暗い空間に、ニ人のアバターが立っていた。

 

「首尾はどうだ?」

 

 マスクで顔を隠した男、リボルバーが正面に控える面長の顔の男、スペクターに訊ねる。

 

「はい。Go鬼塚とブルーエンジェルのお陰でプレイメーカーのデッキに関するデータは概ね揃いました。不明なのはスキルですが……」

「私にお任せください」

 

 すると、その空間にまた別の男が出現した。

 

「ファウストか」

「私が必ずや、プレイメーカーから闇のイグニスを奪ってみせましょう」

「頼んだぞ」

「仰せのままに」

 

 ファウストは深々とお辞儀をすると、その空間から消失した。

 

 ◆

 

 朝、遊作が登校すると、校門の前で島に声をかけられた。

 

「藤木、昨日のブルーエンジェルとプレイメーカーのデュエル見たか?」

「ああ。まあ」

「どっちも凄かったよなぁ」

「そうだな」

 

 遊作が適当に返答しても、島は気持ちよく話を続ける。

 

「プレイメーカーと言えば、実は極秘情報が」

「別にいい」

「聞けよ!」

「……なんだ?」

「いいか。誰にも言うなよ」

 

 島はわざとらしく周囲の様子を窺い、それから遊作に耳打ちする。

 

「プレイメーカーは、この学校にいるらしいんだ」

 

 その情報を聞いて、遊作は内心ため息をついた。

 

 昨日のSNS上にバラまかれたプレイメーカーの正体を推測する情報、その中に、彼がこの学校に通っている可能性があるというものもあった。

 

 幸い、草薙のおかげで他のダミーの情報に埋もれさせることができたが、人の口に戸は立てられない。

 

 島のように、熱狂的なプレイメーカーのファンであれば、その情報から遊作にたどり着く人間が現れてもおかしくない。

 

「絶対誰にも言うなよ」

 

 そう念押して、島は去っていった。

 

「あいつ、絶対他のやつに言ってるぞ」

 

 Aiがデュエルディスク越しに、島の背中を見ながらつぶやく。

 

「別に構わない」

「なんでだよ?」

「島の言うことなら、みんな本気にしない」

「ひでぇな。あ、あそこにいるの、財前葵じゃないか?」

 

 Aiに言われて、遊作は前を向き直る。

 彼の前を歩く葵の背中を見つけて、遊作は少し小走りをして彼女に近づく。

 

「ああ、藤木くん。おはよう」

 

 足音に気付いて、葵の方から挨拶をしてくれた。

 その声はいつもに比べて、わずかに元気がなさそうだった。

 

「財前、なにかあったのか?」

「何でもない」

 

 遊作は特に追求せず、二人は無言のまま並んで歩く。

 

「葵様」

 

 すると、彼らの後ろから別の女子がやってきた。

 

「美海、おはよう」

「おはようございます。この方は?」

 

 美海は遊作と葵の顔を見比べて、やや意外そうに尋ねた。

 

「同じクラスの藤木くん」

「どうも」

 

 遊作が軽く会釈する。

 しかし、美海の方はその名前を聞いて、眼を見開く。

 

「遊作……もしかして遊作ですか?」

「君は……」

「10年ぶりですね。覚えていますか? 湊美海です」

「美海、やっぱり美海か」

 

 普段無表情な遊作が、少し表情を崩す。

 

「二人は知り合いなの?」

「ああすみません。勝手に盛り上がってしまって。私と遊作は同じ施設の出身なんですよ」

「そうだったの」

「こんなところで再会できるなんて思いませんでしたよ。あの事件があって、みんなバラバラになってしまいましたから」

 

 そこまで言ったところで、美海はしまったと言った顔をした。

 

「事件って?」

「すみません。忘れてください……」

 

 その時、ちょうどホームルーム五分前を告げる予鈴がなる。

 

「二人とも、そろそろ行きましょう」

「ああ」

「うん」

 

 ◆

 

 放課後、遊作はデュエル部の部室を訪ねた。

 

「でさぁ、やっぱりプレイメーカーはこの学校にいると思うんだよ」

 

 先に来ていた島は、案の定、他の部員にも極秘情報とやらを話していた。

 遊作は島のことはスルーして、別のテーブルでデュエルをする葵と美海に近付いた。

 

「美海もデュエル部だったんだな」

「えぇ一応。本業の方があるので、あまり顔は出せませんが」

「本業、確か財前の家で働いているんだったな」

「はい。それと、こちらはバイトですが、SOLテクノロジーのセキュリティ部隊にも所属しています。あ、ダイレクトアタックです」

 

 デュエルはどうやら美海の方が上手らしく、葵はあっさりと負けた。

 

「本気のデッキなら……」

「私も本来のデッキじゃないんですけどね」

 

 二人が何か言っているが、遊作は特に気にしなかった。

 

「遊作もやりますか?」

「ああ」

 

 遊作はデュエルディスクからデッキを取り出す。

 

「……そのデュエルディスク、プレイメーカーと同じですよね」

「!!」

 

 美海の発言に、遊作は顔を強張らせる。

 普段から仏頂面なのが幸いして、彼の反応を怪しんではいないが、このまま何も返答がなければ、感づかれるかもしれない。

 

「そうなんだよ。こいつプレイメーカーの真似してんだよ」

 

 そこで意図せず助け舟を出したのは島だった。

 

「なるほど。遊作はプレイメーカーのファンだったんですね」

「あ、ああ」

「ん? というか、お前、いつの間に湊と仲良くなったんだ?」

「幼馴染らしいわ」

 

 島のおかげで話題が別のところに逸れてくれた。

 

「島、助かった」

「ん? 何の話だ?」

 

 後で何か礼をしてやろうと、遊作は思った。

 

 ◆

 

 美海と島のおかげで、財前葵とも少し打ち解けられ、帰り道が同じだった二人は一緒に帰ることになった。

 

「美海は住み込みで働いていたんじゃなかったか?」

「今日はSOLで仕事があるって」

「そうか」

 

 打ち解けられたといっても、元が二人ともコミュニケーション能力に難ありなため、中々会話が弾まない。

 

「ねぇ」

 

 そこで沈黙を破ったのは葵の方だった。

 

「藤木くんは、デュエルは好き?」

「俺は……」

「私、昨日ある人に会ったの」

 

 遊作が返答に迷っていると、葵が話を進める。

 

「その人はデュエルを楽しめないって。その人はデュエル中、ただの一度も笑っていなかった」

「そうか……」

「けど、その人は強かった。多分今まで戦った誰よりも」

 

 葵は視線の先にいる『その人』を見つめるように遠くを見る。

 

「それで私、分からなくなったの。なんのためにデュエルをすればいいのか」

「……別に、理由なんてなくていい」

「え?」

「理由もなく、ただデュエルを楽しめるなら、それが理想だろう。デュエルとは本来そういうものだ」

「……そうね。ありがとう。藤木くん」

 

 その言葉を聞いて、彼女は少しだけ晴れやかな顔をした。

 

 ◆

 

 LINK VRAINSのランキングデュエル、

 

「とどめよ!トリックスター・ホーリーエンジェル!」

 

 ブルーエンジェルが、上位ランカーとデュエルをしていた。

 

「決まったぁぁ!勝者、ブルゥゥゥゥエンジェルゥッ!本日これで三連勝!今日の彼女は、いつもと何かが違う!」

 

 実況の男の言う通り、ブルーエンジェルの顔はいつもより凛々しく見えた。

 

「さあ次の挑戦者は────」

「私が相手をしてもらおう」

 

 現れたのは、30代後半くらいの男だった。白いローブに身を包み、フードで素顔を隠している。

 

「あなたは……」

「ただの名もないデュエリストだ。手合わせ願おうか。ブルーエンジェル」

 

 男の異様な雰囲気に警戒心を強める。

 

「いいわよ。私と楽しみましょう」

 

 しかし、申し込まれたデュエルを断るわけにもいかない。

 アイドルのスマイルを作り、快く彼とのデュエルに応じた。

 

「「スピードデュエル!」」

 

 ◆

 

「遅くなりました」

 

 仕事を終えて、美海が部屋に戻ると、葵はVRゴーグルをつけてベッドに横になっていた。

 

「全く、しょうがない人ですね」

 

 きっとまだデュエルをしているのだろうと、自分も彼女のデュエルを見ようと、タブレットを取り出す。その時、

 

 ピコンッ

 

 ちょうどメールが着た。

 送信者は学校の連絡事項などを一斉配信する用のアドレスだった。

 

「!!」

 

 しかし、それを開いた瞬間、美海の顔が青ざめた。

 

『これを見ているプレイメーカーへ。ブルーエンジェルは預かった。返してほしければ今夜七時にLINK VRAINSのセントラルエリアにログインせよ』

 

美海はすぐさまベッドで眠る葵に駆け寄る。

 

 彼女のデュエルディスクを操作して、ログアウトさせようと試みるが、エラーメッセージを吐くだけで応答しない。

 ログイン中に無理にVRゴーグルを外せば、脳に障害を負う可能性もある。

 

「くそっ!」

 

 やりきれない思いを拳でぶつける。

 

「葵様……っ!」

 

 美海はすぐに切り替えてパソコンに向き合う。

 

(プレイメーカーが来る保証はない。ならば私が葵様を助けるために、できることをしなければ……)

 

 ◆

 

 その頃、草薙のキッチンカー内で、遊作もそのメールを受け取っていた。

 

「どうやら、うちの学校の生徒全員に送られたらしいな」

「前に、お前の通っている学校の情報が流出したからだな」

「おいおい、不味いんじゃないのか?」

「わざわざ一斉配信をしたということは、ハノイはまだ俺の正体に辿り着いていない。今はそれよりも……」

 

 ブルーエンジェルが人質にされた。

 ネットでは既にこの話が広まっており、プレイメーカーに助けを求める書き込みが大量に投稿されている。

 

「どうすんだ? プレイメーカー様」

「決まっているだろう」

 

 遊作はログイン用のスペースに入る。

 

「イントゥザヴレインズ!」

 

 ◆

 

 夜、LINK VRAINS内では浚われたブルーエンジェルを心配する人達が集まっていた。

 

「あ!来たぞ!」

 

 そこに、プレイメーカーがDボードに乗って現れた。

 

「プレイメーカー!」

「ハノイからブルーエンジェルを取り返してくれ!」

 

 人々がプレイメーカーに声援を送る。

 

「ハノイの騎士!俺はここにいるぞ!」

 

 プレイメーカーが叫ぶと、ブルーエンジェルを浚ったハノイの騎士がDボードに乗って姿を現した。

 彼の傍らには、意識を失ったまま拘束されたブルーエンジェルもいる。

 

「ブルーエンジェルを解放しろ!」

「返して欲しくば、何をすればいいか分かっているな」

 

 彼はデュエルディスクを構える。

 プレイメーカーも同じようにディスクを構える。

 

「一応名乗っておこう。私の名はファウスト。ハノイの騎士のセカンドだ。私が勝てば、君の持つイグニスを渡してもらおう」

「俺が勝てばブルーエンジェルを解放してもらう」

「交渉成立だな。では────」

 

「「スピードデュエル!」」

 

 

ターン1 プレイメーカー

 

「俺は自分フィールドにモンスターがいない時、手札のリンクスレイヤーを特殊召喚できる」

 

 リンクスレイヤーが、大剣を構えて現れる。

 

「自分フィールドにサイバース族モンスターがいる時、手札のバックアップ・セクレタリーを特殊召喚できる。さらにスタック・リバイバーを通常召喚」

 

 プレイメーカーのフィールドに、早速モンスター3体が並ぶ。

 

「現れろ!未来を導くサーキット!召喚条件はサイバース族モンスター2体!リンク召喚!現れろ、リンク2!スプラッシュ・メイジ!」

 

 さらにスタック・リバイバーの効果で、墓地から一緒にリンク素材にしたバックアップ・セクレタリーを特殊召喚する。

 

「スプラッシュ・メイジの効果で、墓地からスタック・リバイバーを特殊召喚!」

 

 スプラッシュ・メイジが杖をクルッと一回転させてから突き立てると、空間が乱れて、虚空よりスタック・リバイバーが出現する。

 

「現れろ!未来を導くサーキット!召喚条件は効果モンスター2体以上!リンク召喚!来い、デコード・トーカー!」

 

 スプラッシュ・メイジ、スタック・リバイバーの2体で、デコード・トーカーをリンク召喚させた。

 

「さらにリンク召喚!リンクスレイヤーとバックアップ・セクレタリーをリンクマーカーにセット!リンク召喚!フレイム・アドミニスター!」

 

 デコード・トーカーのリンク先に、赤いロボットのようなモンスターが召喚される。

 

「フレイム・アドミニスターの効果で、俺の場のリンクモンスターは攻撃力が800アップ!さらにデコード・トーカーはリンク先のモンスターの数×500攻撃力がアップする!パワーインテグレーション!」

 

 これでデコード・トーカーは攻撃力3600、並みのモンスターでは突破できないサイズとなった。

 

「俺はカードを1枚伏せてターンエンド」

 

ターン2 ファウスト

 

「私は予想GUYを発動!デッキからレベル4以下の通常モンスター、ゴキボールを特殊召喚!」

 

 球体の黒光りする虫が出現する。

 

「自分フィールドに昆虫族モンスターが存在する場合、魔法カード、ワーム・ベイトを発動できる。ワームトークン2体を特殊召喚」

 

「現れろ。我らの未来回路!召喚条件は昆虫族モンスター2体以上。リンク召喚!リンク3、電動蟲(モーターワーム)スプレッド女王(クイーン)

 

電動蟲(モーターワーム)スプレッド女王(クイーン)

リンク・効果モンスター

光属性/昆虫族/攻 1000/LINK3

【リンクマーカー:左/左下/下】

昆虫族モンスター2体以上

(1)このカードの攻撃力は、フィールドの昆虫族モンスターの数×700アップする。

(2)1ターンに1度、発動できる。このカードのリンク先に「ワームトークン」(昆虫族・地・星1・攻/守 0)1体を特殊召喚する。この効果は相手のターンでも発動できる。

(3)自分フィールドの「ワームトークン」は攻撃対象にならない。

(4)このカードが戦闘・効果で破壊される場合、かわりにこのカードのリンク先の昆虫族モンスターを破壊できる。

 

「スプレッド女王の攻撃力はフィールドの昆虫族モンスターの数×700アップする。そしてスプレッド女王の効果で、リンク先にワームトークンを特殊召喚!」

 

 スプレッド女王が体から芋虫のようなモンスターを産み落とす。

 

「カードを1枚伏せて、バトルだ。スプレッド女王でフレイム・アドミニスターを攻撃!」

 

 攻撃力2400となった虫の女王が、フレイム・アドミスターに迫る。

 

「俺は罠カード!リコーデッド・アライブを発動!俺のフィールドか墓地のリンク3のサイバース族リンクモンスターを除外することで、EXデッキから「コード・トーカー」モンスター1体を特殊召喚する!来い、エンコード・トーカー!」

 

 デコード・トーカーがデータに分解され、エンコード・トーカーへと再構築される。

 

「エンコード・トーカーの効果!1ターンに1度、リンク先のモンスターのバトルによる破壊とダメージを無効にする」

 

 エンコード・トーカーが投げた盾をフレイム・アドミスターが受けとり、スプレッド女王の攻撃を防いだ。

 

「私はこれでターンエンド」

 

ターン3

 

「エンコード・トーカーがいるから、このままワンターンキルで勝てるぞ」

「そう簡単に行けばいいがな」

 

 プレイメーカーはファウストの伏せカードに目をやる。

 

「俺はカードを1枚伏せる」

「ここで私は永続罠!産卵床を発動する」

「やはりか」

 

産卵床

永続罠

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1)自分フィールドに昆虫族モンスターが特殊召喚された場合、相手フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターの効果を無効にし、種族を昆虫族として扱う。

(2)自分のエンドフェイズに発動できる。自分フィールドに「ワームトークン「(昆虫族・地・星1・攻/守 0)1体を特殊召喚する。

 

「スプレッド女王の効果発動!リンク先にワームトークンを特殊召喚。ここで産卵床の効果が発動する。エンコード・トーカーの効果を無効にして、種族を昆虫族として扱う」

 

 ジェル状のタマゴがエンコード・トーカーにとりつき、その力を奪う。

 

 さらに昆虫族モンスターが増えたことで、スプレッド女王の攻撃力は3800まで上がる。

 

「くっ……俺はこれでターンエンド」

 

ターン4

 

「そろそろ決着をつけよう。私はスキル、ダブルバイトを発動!自分フィールドの昆虫族モンスター1体をリリースすることで、自分の昆虫族モンスター1体はこのターン、2回攻撃できる!」

 

 スキルの効果を受けて、スプレッド女王は緑色のオーラをまとう。

 

「そしてスプレッド女王の効果で、再びワームトークンを特殊召喚!産卵床の効果でフレイム・アドミスターの効果を無効だ!」

 

 これでプレイメーカーのフィールドのモンスターは全て効果が無効化された。

 

「フィールドの昆虫族モンスターは、合計5体これよにより、スプレッド女王は攻撃力4500。これで終わりだ!まずはスプレッド女王でエンコード・トーカーを攻撃!」

「俺は速攻魔法!サイバネット・クロスワイプを発動!自分フィールドのサイバース族モンスターをリリースし、相手フィールドのカード1枚を破壊する」

 

 フレイム・アドミスターがデータに分解され、サイバネット・クロスワイプのカードに吸収される。

 

「俺が破壊するのは、スプレッド女王!」

 

 カードから光線が放たれる。

 

「私はスプレッド女王の効果発動!リンク先の昆虫族モンスターを破壊することで、破壊を無効にする!」

「だが、昆虫族モンスターが減ったことで、スプレッド女王の攻撃力は下がる!」

「バトル続行だ。エンコード・トーカーを粉砕しろ!」

 

 プレイメーカー:ライフ4000→3200

 

「2回攻撃!プレイメーカーにダイレクトアタック」

 

 プレイメーカー:ライフ3200→800

 

「命拾いしたな。私はこれでターンエンド。エンドフェイズに産卵床の効果で、ワームトークンを特殊召喚」

 

 トラップカードから芋虫が這い出た。

 

ターン5

 

「ドロー」

 

 引いたカードを確認し、プレイメーカーは次の一手を考える。

 

「考えても無駄だ。今のお前じゃあいつには勝てない」

「お前は黙ってろ」

「黙らないね。今のお前のデッキには、この状況を覆すカードはない。今のデッキには、な」

「……どういう意味だ?」

「もうすぐだ。いい風が吹いてきた」

 

 Ai がそう言って視線を前にやると、データストリームが渦を巻いて、まるで竜巻のようになってこちらに迫っていた。

 

「データストームだ。プレイメーカー、あれに飛び込め」

「お前!何を言っている!?」

「俺を信じろ。あいつに勝ちたいんだろ?」

 

 Ai の表情からはいつものおふざけは感じなかった。

 その態度を信じて、プレイメーカーはDボードを加速させ、そのままデータストームに突っ込む。

 

「何をする気だ!?」

 

 プレイメーカーの行動に、ファウストも困惑している。

 

「これで条件は整った。今こそお前のスキルを使う時だ」

「俺のスキルだと?」

「この前デッキを弄った時に、スキルの方にも手を加えておいたんだ。データストームの中に眠る未知のモンスターを呼び寄せる、サイバースのとっておきのスキルをな」

「!!」

 

 その瞬間、プレイメーカーの耳に、龍の雄叫びが聞こえた気がした。

 その声に呼ばれるように、プレイメーカーは吹き荒れるデータの風に手を伸ばす。

 

「ぐっ……!」

 

 膨大な情報が、彼のアバターに流れ込む。

 意識が飛びそうなほどの衝撃に耐えながら、プレイメーカーは必死に『それ』を掴む。

 

「自分のライフが1000以下の時、データストームの中から、サイバース族モンスターをランダムにEXデッキに加える。風を掴め!プレイメーカー!」

「スキル発動!ストームアクセス!」

 

 データが収束して、一枚のカードを作り出す。

 

「なっ!? ストームアクセスだと!?」

 

 データストームからカードを手に飛び出したプレイメーカーを見て、ファウストは目を見開く。

 

「あのスキルはリンクセンスを持つものにしか扱えないはず……まさか、10年前の事件の!?」

「いくぞ。俺はサイバース・ガジェットを召喚!その効果で、墓地からレベル2以下のモンスター、スタック・リバイバーを特殊召喚!」

 

 サイバース・ガジェットが左腕から伸ばしたコードで、虚空からスタック・リバイバーを吊り上げる。

 

「墓地のリコーデッド・アライブの効果!自分のEXモンスターゾーンにモンスターがいない場合、墓地のこのカードを除外して、除外されている「コード・トーカー」モンスターを特殊召喚する!甦れ、デコード・トーカー!」

 

 空間に裂け目ができ、亜空間よりデコード・トーカーが舞い戻る。

 

「現れろ!未来を導くサーキット!召喚条件は効果モンスター2体!リンク召喚!リンク2、ペンテスタッグ!」

 

 黒い機械のクワガタのモンスターが出現する。

 

「サイバース・ガジェットの効果!このカードがフィールドから墓地に送られた時、ガジェットトークンを特殊召喚。現れろ!未来を導くサーキット!」

 

 再びアローヘッドが出現する。

 

「召喚条件はモンスター2体以上!俺はガジェットトークンと、リンク3のデコード・トーカーをリンクマーカーにセット!」

 

 デコード・トーカーとガジェットトークンが光になってアローヘッドに吸い込まれ、上下左右四つのリンクマーカーを描く。

 

「唸れ嵐!虚構に渦巻く旋風は、万物を震わす竜の雄叫びとなる!リンク召喚!」

 

 アローヘッドより、風が起こる。

 

「リンク4、ファイアウォール・ドラゴン!」

 

 風の中より現れたのは、機械の翼を広げる白い竜だった。

 

「こいつが、データストームより呼び寄せたモンスターか……だがどんな強力なモンスターも効果が使えなければ意味がない!私はスプレッド女王(クイーン)の効果!自身のリンク先にワームトークンを特殊召喚!」

 

 スプレッド女王(クイーン)から、再び芋虫が産み落とされる。

 

「これにより産卵床の効果!そのドラゴンの力を封じる!」

「その効果に対して、ファイアウォール・ドラゴンの効果発動!このカードと相互リンク状態のカード1枚につき、フィールド、墓地のカード1枚を手札に戻す!」

 

 ファイアウォール・ドラゴンとペンテスタッグを繋ぐように粒子が流れる。

 

「スプレッド女王を手札に!エマージェンシーエスケープ!」

 

 ファイアウォール・ドラゴンが翼をはためかせると、電撃が飛来し、スプレッド女王を撃破する。

 

「だがっ!私の場には守備表示のワームトークンが3体!このターンでライフは────」

「ペンテスタッグの効果、リンク状態のモンスターが守備モンスターを攻撃した時、貫通ダメージを与える」

「なっ!?」

「終わりだ!まずはペンテスタッグ!1体目のワームトークンを攻撃!」

 

 ペンテスタッグがその大顎でワームトークンの体を挟んで潰す。

 

 ファウスト:ライフ4000→2400

 

「ファイアウォール・ドラゴン!ワームトークンを攻撃!」

 

 ファイアウォール・ドラゴンが翼を広げ、口を開けて構える。

 背中に集まったエネルギーが円を描き、ファイアウォール・ドラゴンの体が赤く染まる。

 

「テンペストアタック!」

 

 閃光。

 放たれた光線が、ファウストを吹き飛ばした。

 

 ◆

 

「ん……」

 

 ブルーエンジェルが目を覚ますと、目の前には彼女を抱き抱えるプレイメーカーの姿があった。

 

「え!? 何!?」

「気が付いたか」

 

 プレイメーカーは無事を確認すると、あっさり手を放して彼女を立たせる。

 

「プレイメーカー、あなたが助けてくれたの?」

「ハノイを倒しただけだ」

 

 もう用は済んだと言わんばかりに、彼女に背を向けてDボードに乗る。

 

「プレイメーカー!」

「……なんだ?」

「助けてくれてありがとう。それと……」

 

 ブルーエンジェルはビシッと指差す。

 

「次は負けないから」

「……」

 

 プレイメーカーはそれには答えず、彼女を一瞥して飛び去った。

 

 ◆

 

「葵様!」

 

 ログアウトした葵を、美海が抱き締める。

 

「美海……苦しい」

「あ、申し訳ございません!」

 

 美海は慌てて手を放して、顔を赤らめる。

 

「美海、お兄様や、お父様やお母様は?」

「まだ帰られておりません」

「そう。じゃあこの事はバレてないのね」

「はい。いつも通りブルーエンジェルのログイン履歴は全て消去しておきました。しかし、SOLはおそらくこの件を調査するでしょう。葵様に使われたのは、どうやら人の意識に作用する特殊なプログラムのようでして……」

 

 美海はPCの画面を見せて、プログラムの解析結果を報告するが、その手の知識のない彼女にはさっぱり分からなかった。

 

「葵様の正体がバレないように、私もできる限りのことはします」

「いつもありがとう。美海」

「いえ、葵様のためですから」

「ただいま」

 

 その時、ちょうど晃が帰ってきた。

 

「お帰りなさい。お兄様」

 

 葵は部屋を出て、兄を迎えにいく。

 一人残された美海は、おもむろに録画したデュエルの映像をつける。

 

『……まさか、10年前の事件の!?』

「10年前……」

 

 美海の脳裏に、懐かしくも忌まわしい記憶が甦る。

 

「プレイメーカーは、あの施設の出身……」

 

 美海は一枚の写真を取り出す。

 そこには幼い六人の子供達が写っていた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。