遊戯王VRAINS Re:Construction   作:師走F

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第49話:Those left behind

 ライトニングの暴走により発生した事件から、数日が経過したある日、

 

「なんだ。藤木のやつ、今日も来てないのか」

 

 島は遊作の姿がないことを確認して肩を落とす。

 

「うん……」

 

 事情を知る葵は、暗い表情で返す。

 さすがの島も、ここでしつこく絡むほど空気の読めない男ではない。

 

「あれ~。財前さん元気な~い」

 

 そこへ空気を読めない女が一人、切花が葵の前に現れてその顔を覗き込む。

 

「ほら、笑顔笑顔、幸せが逃げちゃうよ」

 

 切花は葵のほっぺたを掴んでぐにぐにするが、葵が冷たい目で見つめ返すと、切花はスッと手を放す。

 

 葵もここで切花の相手をしてやれるほどの余裕はなかった。

 

「なにがあったんだ?」

「さあね」

 

 切花はそっけなく返して、自分の席に着いた。

 

 ◆

 

 放課後、尊と美海、葵の三人は帰路についていた。

 

「遊作、今日も学校こなかったね」

「仕方ないですよ。遊作は、自分で……」

 

 ライトニングが、仁の意識データと共に消滅する瞬間、その光景を思い出して美海は苦しそうな顔をする。

 

「風間くんも学校に来てないのよね?」

「えぇ。啓はあれからずっと家に引きこもってるみたいで……」

 

 美海は昨日、彼の家を訪ねたが、インターホンを押しても彼が返事をすることはなかった。

 

「遊作も電話に出てくれなくて。一応、家にも行ってみたんだけど、草薙さんからそっとしておいてやってくれって……」

 

 三人の表情は暗い。

 

「このままでは駄目です。私はもう一度二人の家に行ってみます」

「……そうだよね。友達が辛い目にあってるのに、放っておくなんてできないよ」

「では私は早速啓の家に行ってきます。遊作は草薙さんがいるので大丈夫でしょうけど、啓はまともにご飯も食べていないかもしれませんし」

 

 善は急げと言わんばかりに、美海は小走りでその場から去っていった。

 

 ◆

 

 そして、美海はスーパーで食材をいくつか購入した後、啓のマンションの扉の前までやってきた。

 

「スゥー」

 

 息を大きく吸い込んで、気合を入れてから、インターホンを押した。

 

 ピーンポーン

 

 しばらく待ってみるが、返事はない。

 

「……啓、私です。美海です。その……ちゃんとご飯食べてますか? 辛いのは分かりますが────」

 

 ガチャン

 

 喋っている途中で扉が開き、中から啓が出てきた。

 

「あぁ。美海……おはよう」

 

 もう夕方だというのに、そんな惚けた挨拶をする啓は、大あくびをした。

 

(あれ、思ったより平気そう……)

 

 啓は目の下に濃いクマができているものの、特に精神的に不安定といった様子ではなかった。

 

「あの……啓?」

「ん、ああ。ごめん。昨日久しぶりに寝たから、まだちょっと寝ぼけてて」

「寝てなかったって……」

「五徹か、六徹か、あれ? そもそも今日って何日だっけ?」

 

 まだ頭が働いていない彼は、眠そうな顔で虚空を見上げた。

 ともかく自分の心配が杞憂だと分かり、美海はため息を吐いた。

 

「あの、とりあえず上がっていいですか?」

「え。ああ。どうぞ……」

「お邪魔します」

 

 きちんと一礼してから彼の家の敷居を跨ぎ、玄関で靴を脱ごうとしたその時、

 

「ああそうだ」

 

 不意に啓がこちらを振り返り、思い出したように呟いた。

 

「遊作、できれば他のみんなも呼んで欲しい」

「どうしてですか?」

「見せたいものがあるんだ」

 

 ◆

 

 そして、遊作、尊、葵の三人を加えた五人が啓の部屋に集まった。

 遊作は最初は来ようとしなかったが、意外にも啓が強い口調で呼びつけたことで、重い脚を運んでくれた。

 

「で、見せたいものって」

 

 啓は答えるかわりに、キーボードを操作して、ディスプレイに何かを表示した。

 

「これは……地図、ですか?」

 

 画面上には無数の線が編み目のように張り巡らされている。

 

「正確には回線図だな。VR空間内でのデータの流れを映している」

「これが見せたいもの?」

 

 すると、啓はその回線図上を動いている赤い点に、マウスカーソルを合わせてクリックする。

 

 ウィンドウがホップアップして、そこへ文字の羅列が映し出される。

 

「うわー……」

 

 コンピューターが苦手な尊は、見るのもいやというような反応を示す。

 しかし、それに対して遊作はその文字列に対して何かに気付いたような顔をした。

 

「イグニスアルゴリズム」

「正解、これはライトニングだ」

「「ライトニング!?」」

 

 啓の発言に、美海と葵は同時に声を上げた。

 

「ど、どういうことですか?」

「俺はずっと気になってたんだ。ライトニングが仁の意識データを使っていた理由を」

「そ、それは……自分が消えないようにするためじゃ……」

 

 イグニス全員には、デュエルに負けると消滅するような自爆プログラムが仕込まれていた。

 だから、ライトニングは仁に代わりにデュエルさせることで、それを回避しようとした。みんなはそのように解釈していた。

 

「なら、別に仁である必要はない。あいつの言葉を信じるなら、ライトニングは回収した仁の意識データをわざわざ修復して使っていたんだからな」

 

 それは以前、遊作に対してライトニングの発言だった。

 

 ────これは人聞きが悪い。私は彼の破損した意識データをここまで修復してやったのだ

 

「そこまでするってことは、仁に何かしらの価値を見出していたってことだ。それがこれだ」

 

 啓は画面上の赤い点、ライトニングを指さす。

 

「遊作、仁は生きている」

「!」

「ライトニングは多分、仁と融合することで、自爆プログラムを除去したんだ。あいつだって、その方法を探していなかったわけじゃないはずだ」

「それじゃあ仁は……」

「まだ取り返せる」

 

 その事実が発覚したことで、遊作の顔に光が戻った。

 

「もしかして、それを言うために、徹夜してたのですか?」

「え、あ、まあ……」

 

 それを指摘されて、啓は急に照れ臭そうに目を逸らす。

 

「ま、まあ俺は、仁とも、他のイグニスとも付き合いは短いし、一番ショックが少なかったから……」

「啓……」

「そ、それに、俺だけの力じゃないし」

 

 すると、啓はパソコンの横に置かれた装置から一枚のカードを引き抜き、それを見せる。

 

「Gゴーレム・クリスタルハートって……」

「アースのカード、ていうのも正確じゃないな。元はアクアのカードらしい」

「それをどうして啓が?」

「樹に借りたんだよ。調べてみたら、どうもこいつにはイグニスアルゴリズムが使われている。それを使って、ライトニングのパターンを割り出して、どうにか居場所を突き止めたんだ。このカードがなかったら、プログラムの構築にはもっと時間がかかってただろうな」

「なぁ」

 

 それを聞いて、遊作が口を開いた。

 

「それを使えば、Aiの居場所も分かるのか?」

 

 現在、遊作のデュエルディスクの中にAiはいない。

 あの一件の後、Aiは行方をくらませてしまった。

 遊作が落ち込んでいた理由のもう半分はそれだった。

 

「……ああ。これを組んだ目的のもう一つはそれだ」

「なら早く……」

「お、落ち着けよ。まずは、お前のデュエルディスクを貸してくれ。探すならAiのデータがあった方が効率がいい」

「分かった」

 

 遊作はデュエルディスクを外して、机の上に置く。

 啓がそれをケーブルでパソコンに繋ぐと、画面に無数の文字の羅列が出現する。

 

「とりあえずデータは吸い出した」

 

 ケーブルを外して、デュエルディスクを返した。

 

「見つかったらすぐに連絡する」

「ありがとう。啓」

 

 ◆

 

 遊作達が帰った後、啓は珍しく一人外出すると、とある場所を訪れた。

 

 そこはかつて彼らが過ごした孤児院の裏手にある、大きな木がある広場だった。

 

「樹」

 

 その木の前で、物思いにふけるように立っていた樹の姿を見つけて、啓は声をかけた。

 樹は振り返ると、鬱陶しそうにため息を吐いた。

 

「何の用ですか? というより、どうやって私の連絡先を?」

「俺はウィザード級のハッカーだから。要件ならメールで話しただろ」

 

 啓はデュエルディスクにしまっていた一枚のカードを取り出して、樹に手渡した。

 

「これ、返す」

 

 クリスタルハートのカードを受け取り、樹はまたため息を吐いた。

 

「別に、あなたが持っていてもよかったんですよ」

「そうはいかないだろ。お前の大事な……半身? から託されたんだから」

「まあ、そうですね」

 

 樹はカードをデッキケースにしまった。

 

「そういえば、一つ聞きたかったんだけど、アクアがそのカードを託した理由、アースから聞かなかったか?」

「特に話していませんでしたが」

「そうか」

 

 啓は残念そうに肩を落として、目の前の巨木の下に腰を下ろした。

 

「あなたは……」

「いいだろ。減るもんじゃないし」

 

 咎める樹を無視して、大きな幹に体を預ける。

 

「……尊から何も聞いていないんですか?」

「なにが?」

「……まあ、風潮するような性格ではありませんか」

 

 啓はよく分からなかったが、特にその意味は考えず、空を見上げた。

 

「お前ら、やっぱりイグニスは抹殺すべしって感じなの?」

「それがリボルバー様の意思ですから」

「あそ」

 

 啓は興味なさそうに返す。

 

「あなたは、どうしてイグニスに肩入れするんですか?」

「俺は別に、イグニスに肩入れしてるつもりはないよ」

「では美海のためですか?」

「……まあ、それもある」

 

 言い当てられて、啓は恥ずかしそうを目を逸らす。

 

「今は、友達のために、できることをしたい」

「そうですか」

「じゃあ、俺は帰るよ」

 

 啓は立ち上がり、振り返らずに去っていった。

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