遊戯王VRAINS Re:Construction   作:師走F

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第59話:Time to check the answer

 遊作によって集められた四人は、鴻上レポートをもう一度見返した。

 

「遊作と啓が感じた違和感、先生はハノイの塔を作るほどに使命感の強い人だったのに、自ら命を絶った」

「ああ。俺はそれを変だと思って、改めてレポートを見たんだ」

 

レポートNo.1

 

『ここに記すのはSOLテクノロジーにより行われた非人道的な実験の記録であり、私の犯した過ちの記録である。これを誰かが読んでいるということは、私はこの世にいないのだろうが、このレポートが善意の第三者に渡ることを切に願い、記録を残そうと思う。

 

 私が孤児院に集めた子供達は、皆特別な才能を持っていた。

 

 リンクセンス、ネットワークの気配を感じる特異能力。本来、VR空間で知覚できる情報はシステムによって与えられる電気信号によるもののみである。しかし、リンクセンスを持つものは、システムから供給する以上の情報量を、VR空間で受信し、感じ取ることができる。電脳空間における第六感ともいえる。

こんな力を持っていたが故に目をつけられてしまったのは非常に不幸なことだ。

これより実験を開始する。

 レポートを手にした君には、どうか最後までこの記録を見届けて欲しい』

 

「ここ、罪の意識で自殺したはずなのに、まるで自分の死を予見していたような書き方だよな」

「では、そもそも自殺ではない、というのが正しそうですね」

 

 仮定1:鴻上博士は他殺である。

 

「その場合、誰に殺されたのかしら」

「決まってるでしょ。他殺だとしたらSOLテクノロジーだ」

 

 葵の疑問に、啓は断言する。

 

「まあ動機があるのはそこしかないよね」

「口封じに殺される、それを予期して、レポートを残していた」

「そもそもこのレポートをいつ書いたかですよね。実験の最中なのか、後から書き残したのか……」

 

 鴻上博士がいつ自分の死を予見したのか、それによってこのレポートの意味も変わってくる。

 

「次のレポートを見てみるか」

 

レポートNo.2

 

『AIと人間の差異はなにか。それは自ら考える意思を持つか否かである。

 では意思とはなにか。人には「何かをしたい」と感じる欲がある。

 食欲、物欲、睡眠、金銭、性欲、欲があるから人は欲のために何か行動を起こす。そして欲とは本能より生じる。

 自ら何かをしたいと考えることで、AIの知能は一つ上のステージに進む。

 

 本能を学習させるために、様々な方法を検証した。

そして導き出した最適な手段がデュエルモンスターだ。

 

 デュエルは闘争本能を高め、イグニスに勝ちたいという感情を学ばせることで、より早くデュエルに勝つ最適解を導き出すだめ、意欲的に学習する

 

 しかし、闘争本能を学んだことが、最悪な結果を生むことになるとは、私は想像していなかった』

 

「この書き方、完全に過去形ですね」

「つまり、レポートは実験後に書かれたのか」

 

 仮定2:レポートは事件後に書かれたものである。

 

「次のレポートを見てみましょう」

 

レポートNo.3

 

『完成した六体のイグニスを使いシミュレートを行った。その結果、彼らは人類を滅ぼす存在であることが分かった。

 闘争本能を与えたことにより、イグニスは好戦的な性格となってしまった。

 彼らは最初こそ人類と共存するが、いずれ人類を敵視し、人類は彼らによって滅ぼされてしまうだろう。

 私は幾度もシミュレートを繰り返したが、どのようなルートを辿ろうとも、イグニスが人類と敵対する未来は避けられなかった。

 私は苦渋の末に、彼らを消去する決断をした』

 

「この辺りは、Aiも言っていたな。イグニスが人間を滅ぼすと」

「イグニス達の記憶が一部抜けていたのは、この時の削除の後遺症、不霊夢も言ってたね……」

 

 尊は今は亡き相棒のことを思い出して表情が曇る。

 一方啓は、この内容に一つの疑問を抱く。

 

「けどおかしいな。イグニスを消す決断をしたのはイグニスが完成した後のことだ。なのに自爆プログラムを仕込んであった」

「暴走の危険性をある程度想定していただけではないですか?」

「ん……まああるか」

 

 仮定3:自爆プログラムはAIの暴走に備えたものである

 

 レポートNo.04

 

 一日目:実験開始

 子供達を電脳ウイルスによって、専用の仮想空間に閉じ込めた。

 必要な栄養は点滴により供給するが、ここを現実空間だと錯覚させるために、仮想空間内でも食事を行わせることにする。

 これより、彼らに一日、50回をノルマにデュエルを行わせる。

 

 拒否した場合や、意味のない長考などの遅延行為を行った場合はペナルティとして電撃による罰を与える。さらに敗北時にもペナルティを課す。

 

 七日目:

 彼らのデュエルタクティクスが予想以上だったため、AIデュエリストのレベルを一段階上昇させる。さらに、ノルマを70回まで増やした。

 

 十三日目:

 実験の進捗が芳しくない。敗北時のペナルティに加え、デュエルの戦績が一定以下だった場合には、食事の量を減らすことにした。

 仮想空間内でも空腹は感じるため、生存本能を刺激することで、実験をさらに進める。

 

 二十五日目:

 デュエルの難易度をさらに上げることにした。

 彼らのこれまでの戦い方や、デッキの内容から彼らに対してより強くなるように、AI側のデッキ内容を調整。

 

 三十九日目:

 ついにイグニスが自我を持った。

 まだ完成には程遠いが、実験はひと段落したと言える。

 私は子供達の解放を上に要求したが、受け入れられることはなかった。

 

 四十二日目:

 脳にさらなる負荷をかけるために、デュエルのノルマを100回まで増やした。

 ペナルティの内容を変更。子供達に合わせて、それぞれがより恐れるものに変更。

 また、勝利時の報酬として、AIが使用したカードの中から好きなカードを1種類、3枚を与えた。

 デッキを考えさせることで、思考能力を強化すると同時に、報酬を与えることで勝つことへの欲求を強めるためだ。

 

 六十七日目:

 イグニスがデータマテリアルを生み出す能力を獲得した。

 上の目的は叶ったので、私達は子供達の解放を要求したが、やはり受け入れられることはなかった。

 

「ここからは打って変わって日記形式だな」

「この部分はもしかして、実験の時につけてたものを後からレポートに付け足したってことかな」

 

 このレポートの内容には特におかしなところは見当たらない。

 

「先生は何度か俺達の解放を要求しているな」

「SOLはそれを聞き入れなかった……」

 

 なまじ血縁者が所属する会社のことなので他人事とは思えず、葵は舌を噛む。

 

レポートNo.5

 

 九十五日:

 イグニスの成長は私の予想をはるかに超えていた。

 実験とは無関係に、彼らは自発的に様々なことを学び、指数関数的にその能力を向上させていく。

 私はイグニスの危険性を訴え、上に実験の中止を求めたが、聞き入れられることはなかった。

 

 百二十二日目:

 私は完成した六体のイグニスに対してあるシミュレートを行った。

 それは今後、イグニスが人間に対してどのような影響を与えるかだ。

 その結果、どのようなルートを辿ろうとも、待っているのは人類の破滅だった。

 

 百三十一日目:

 私は検証のために条件を変え、何度もシミュレートを行った。

 しかし、結果は変わることはなかった。

 

 百四十七日目:

 私は遂に強硬手段に出ることにした。

 イグニスをこの手で削除する。そのための準備を進めることとしよう。

 

 百六十四日目:

 全ての準備は整った。私はなんとしてでもイグニスを抹消しなくてはならない。

 あのような未来を回避するためにも。これは私の使命なのだ。

 

「ねぇ、僕らが監禁されてたのって、確か半年だよね?」

「えぇ。しかしイグニスは百二十ニ日時点で完成している」

「SOLにイグニスが奪われないように、実験継続中ってことにしたかったとか?」

 

 仮定4:イグニス完成後も解放されなかったのは、SOLの目を欺くためである

 

「ここからは、俺らがまだ見てないレポートだな」

 

レポートNo.6

 

『イグニスの消去に失敗し、同時にSOLテクノロジーにバレた私は、実験の罪を全て被せられた。

 

 逃亡中も、私の頭の中にあったのは逃走したイグニス達が今も虎視眈々と人類を滅ぼすために画策しているかもしれないということだ。

 

 私はハノイの塔を生み出し、ネットワーク空間ごとイグニスを抹消する手段を取った。だが、ハノイの塔を起動するにはエネルギーがあまりに足りない。

 

 そこで私は、完成したハノイの塔を息子に託すことにした。息子は頭がよく、彼なら私の意思を継いでくれるはずだ』

 

「これってリボルバーのことだよな」

「うん。リボルバーも『父が遺したハノイの塔』って言ってたし」

「自分の命が狙われてるからリボルバーに託したってことですよね」

 

 レポートの内容そのものにはおかしなところはない。しかし、

 

「でもこれって書く必要ないよな?」

「え?」

 

 啓の指摘に、全員が彼の方を見る。

 

「あ、いや、その……これが告発文書なら、息子のこと書いたら、リボルバーが不利になるだけだよなって」

「確かに……」

「リボルバーといえば、そもそもハノイってこのレポートの存在は知ってたのかな?」

「いや、知らなかったんじゃないか? 俺達がレポートを追っている時、ハノイに邪魔されたことは一度もない」

「それもおかしな話だよな。信頼している息子には何も伝えず、LINK VRAINSにレポートをばらまいて……ん?」

 

 そこで何かに気付いた啓は、遊作の方を見る。

 彼も同じ考えに至ったようで、小さく頷いてみんなの方を向き直る。

 

「隠しレイヤーに置かれたレポートを手に入れるには、イグニスの力が必要だった。そしてロックの解除にも」

「あれ? それだと……」

「本来、先生にとっては敵であるはずのイグニスと協力しないと、レポートが手に入らないことになる。隠されたレポートを見つけるには俺達みたいなリンクセンスを持ってる必要があるが、俺達を元に作られたイグニスにも同じ力は備わっているはずだ」

 

 ウインディがストームアクセスのスキルを使用したこも、それを裏付けている。

 

「意味が分かりません。じゃあこのレポートは一体何の目的で書かれたものなんですか?」

「そこだよな。このレポートは誰に向けて何を伝えたいのかが分からない」

 

 とりあえずその理由は保留として、五人は次のレポートの検証に入る。

 

「最後はNo.7か。読む限り、内容はAiの語ったシミュレート結果そのものだな」

「そういえば、あれは分かったのか? レポートが何のデータを変換したものか」

 

 以前、遊作のテキストファイルにしてはサイズが大きすぎるという指摘を受けて、啓が調べたところ、鴻上レポートは別のデータをテキストファイルに変換したものだということが分かったのだ。

 

 啓はそのことを思い出して、彼に尋ねたのだが、

 

「ああ。それなんだが……」

 

 遊作はデュエルディスクの画面をコンコンと叩く。

 啓は怪訝な顔をしながら、画面に表示された鴻上レポートの一覧を見ると、

 

「なんだよこれ」

 

 それらはどれも、ファイルサイズが大きくてもせいぜい5KB程度。以前見た鴻上レポートより明らかに軽くなっている。

 

「おそらくAiがレポートの内容だけをコピーして、テキストデータに書き写したんだろう」

「何でそんな面倒なことを……」

「つまりAiは、何らかの理由でオリジナルのレポートを処分する必要があった?」

 

 仮定5:鴻上レポートのオリジナルは消滅した

 

「で、全部のレポートを読み終わったわけですが、結論として先生はSOLテクノロジーの誰かに殺されたという結論に落ち着くわけですが……」

「……いや、ライトニングの話を思い出してくれ」

 

 遊作が鴻上博士が既に死んでいると指摘した際に、ライトニングはこう言ったのだ。

 

「君達はそういう認識だったな、と」

「ライトニングの言葉を信じるなら、先生は生きているってことになりますね」

「いやいやそれはないでしょ!遺体だって見つかってるわけだし」

 

 尊の言うとおり、当時鴻上博士の死は報道されており、きちんと遺体も見つかっている。

 

「そういえばライトニングはこんなことも言っていたな」

 

 ────あの男に記憶を消される前に、事前に対策を打っていたのだからね

 

「記憶を消される、この表現はまるで、先生は初めからイグニス達の記憶だけを消したみたいじゃないか」

「まあライトニングの言葉を信じるなら、だけど」

「けどそれが真実なら、自爆プログラムの意味も変わってくるよね。最初からイグニス達を逃がすつもりなら、それってまるで……」

「後でいつでも処分できるように、てことか」

 

 そもそもイグニスを消して欲しいなら、レポートのどこかに自爆プログラムことが記されていてもいいはずだ。それなのに、なぜかその記述がない。

 

 レポートの内容は、一つ一つには小さな違和感しかないが、全体を通して読むと、まるで整合性が取れていない。その事に気付き始めてた遊作達の中に、徐々に疑心の念が芽生えてくる。

 

「そもそも鴻上博士って、その……どうやって亡くなったの?」

 

 葵が聞きにくそうに尋ねると、尊は当時のことを想像して顔をしかめる。

 

「……孤寺院の部屋で首を吊ってたんだ。遠隔操作ででロープを巻き取るような仕掛けがあって、それで……」

「先生の遺体から、睡眠薬などの薬物は検出されたなかった。首に残ったロープの痕以外に外傷もなかったからすぐに自殺だと断定された」

 

 遺書は見つからなかったが、それが逆に、犯人の偽装工作である可能性は低いと警察に判断させた。

 それにこんな手の込んだ仕掛けを、他人の家に用意できるはずもない。

 

「あ、あのさ……」

 

 そこで啓は挙手をした。

 

「実はこの前、俺達のいた孤児院に行ったんだけど」

「孤児院って、またどうして?」

「調べたいことがあったから。それで、地下の実験施設に忍び込んだ。色々探ってたら、先生が亡くなる直前にLINK VRAINSにログインしてる履歴があったんだ」

「レポートを置きに行ってたんじゃないんですか?」

「いや、ログインしてる履歴があったんだけど、ログアウトした履歴がないんだよ」

「それってつまり、LINK VRAINSにログインしている間に亡くなったってことだよね」

 

 だとすればなぜわざわざそんなことをするのか。

 VR空間にログイン中に、肉体に何らかの異常があれば警告後に強制ログアウトするようになっている。つまり他殺であれば、ログイン中の殺害はリスクが高い。

 

 そして自殺であれば、わざわざそんな仕掛けをしてまでログイン中に死にたかったことになる。

 

 その矛盾の意味に気付いていた啓は、恐る恐るこう続けた。

 

「確か電脳ウイルスって、先生が作ったんだよな。あれって意識データをまるごと隔離する技術だったよな?」

 

 彼らの間に嫌な想像が駆け巡る。

 

「これはもう……」

「信じたくないけど」

「ああ、先生は、生きている」

 

 結論:鴻上博士はLINK VRAINSで生きている

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