遊戯王VRAINS Re:Construction   作:師走F

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エピローグ:This is your place

 

 ◆

 

 LINK VRAINSでの戦いを終え、イグニス達はサイバース世界へと帰還した。

 

 ライトニングの最後が中継されたことで、イグニス達は全て消滅したものと世間から認識されている。

 その存在を認知しているのは、遊作達イグニスのオリジン、一部の人間だけだ。

 

 それから数日後、ここはデンシティの中央病院。

 その病室を、遊作は一人訪ねていた。

 

「ん……来たんだね」

 

 ベッドの上では、切花がつまらなさそうに窓の外を眺めていた。

 

「体はもう大丈夫なのか?」

 

 見舞いの品をサイドデスクに置き、丸椅子を彼女のベッドの前に移動させて腰かける。

 

「体はなんともないよ。意識不明って言っても、数日電脳空間にいたってだけだし。ていうか」

 

 サイドデスクに置かれた紙袋に視線を送る。

 

「お見舞いにホットドックはないでしょー。センスなーい」

「駄目なのか?」

「ボクは体が悪いってわけじゃないし、別に駄目ってことはないだろうけどさぁ、でももうちょっとあるでしょ」

 

 そう言いつつ、彼女は紙袋からホットドックを取り出して食べ始める。

 そんな彼女の様子を見て遊作は笑う。

 

「っ……何が面白いのさ」

 

 口の周りにケチャップを付けながら、遊作をジトッと睨む。

 

「それがお前の素なんだな」

「何? 悪い?」

「いや、その方がずっといい」

 

 すると、病室の外から騒がしい声が聞こえる。

 

「切花!」

 

 最初にドアから飛び込んできたのは葵だった。

 彼女に続くように、美海、啓、尊の三人が入ってくる。

 

「何、ぞろぞろと……」

「お見舞いよ。はいこれ」

 

 葵はバスケットに入ったメロンや桃など、高そうなフルーツを彼女のベッドに置く。

 

「金持ちのお見舞いって感じがしてムカつく」

 

 そう言いながら、マスカットを手に取り、三つほど実をむしり取って口に入れる。

 

「切花はいつ退院できそうなの?」

「もうすぐだって」

「じゃあ退院したらうちでお祝いしましょう」

「なんでボクが……」

 

 そう言いつつも、切花はどこか嬉しそうに首筋を撫でる。

 そんな彼女を微笑ましげ、今度は美海が切花の顔を覗き込む。

 

「何か食べたいものはありますか?」

「俺ハンバーグ」

「啓には聞いてません」

「というかスマホしまいなさいよ」

 

 啓が二人から責められて渋々とスマホをしまう。

 その隙に今度は尊が前に出る。

 

「切花、僕からもこれ」

 

 そう言って彼が渡してきたのはデカデカと名前の書かれたサインと、見覚えのある褐色マッチョの写真のブロマイドだった。

 

「……なにこれ」

「鬼塚さんのサインとブロマイド」

「いらない」

「遠慮しないで」

「いや、これはほんとにいらない」

「なんで!?」

「尊、病院では静かに」

「そーだそーだ」

「あーもう!お前ら全員出てけ!」

 

 切花が叫んで四人を病室から追い返した。

 

「全く……」

「そう言ってやるな。みんなお前のことが心配だったんだ」

「別に怒ってないし」

 

 切花は拗ねたようにそっぽを向く。

 そんな彼女に苦笑しつつ、視線を病室入り口の方へと移す。

 

「そろそろ出てきたらどうだ?」

 

 遊作に呼ばれ、樹が病室にゆっくりとした足取りで入ってきた。

 

「スペクター、お前も来てたのか」

「今は聖辺樹です。それに見舞いに来たわけではありません」

 

 樹はため息をつく。

 

「リボルバー様が自首されました」

「……そう」

 

 その報告に、わずかに眉を動かす。

 

「あの方は、バイラ、ファウスト、ゲノムと共に、ハノイの騎士の引き起こした事件の全責任を負いました。残った残党も直に検挙されるでしょう」

「意外だね。君は最後までリボルバーについていくと思ってたのに」

「そうしたいところでしたが、リボルバー様に言われましてね」

 

 ────最後の命令だ。

 ────ジャックナイフを、夢乃切花のことは頼んだぞ。

 

「……勝手に任されても困るんだけど」

「そう言われましても。あなたを含めた鴻上博士の被害者の救済、最後の後始末が私の役目ですから。とりあえず、当面の生活費の援助と、ハノイの騎士としての記録の抹消、その他、身元に関する情報の整理、まあほとんどリボルバー様が済ませてますので、私は情報が漏れないように監視する程度ですが」

「あっそ。なら勝手にすれば」

「えぇ、そうさせてもらいます。では、私はこれで」

 

 樹は踵を返して歩き出す。

 

「あーそうそう」

 

 出口に立ったところで彼は足を止め、切花の方を見る。

 

「リボルバー様は最後に」

 

 ────すまなかった。父のこと、お前を侮辱したことを謝罪する

 

「だそうです」

 

 それだけ言い残して、樹は手を振って去っていった。

 

「君もそろそろ帰ったら?」

「そうする」

 

 遊作も立ち上がる。

 

「そうだ。Aiを助けてくれた礼を、まだ言ってなかったな」

「いいよ。あれ実はボクの力ってわけでもないし」

「どういうことだ?」

「あの時────」

 

 

 ◆

 

 デュエルが終了した直後、崩壊するKOUGAMIの体内で、切花は上を見上げた。

 

「ようやく会えたね。切花」

 

 彼女の目の前には、イグニスに近い姿をした白いAIがいた。

 

「君が、ボクらから生まれたイグニスか」

「性格にはそのコピーだよ。君や他のオリジン達と何度も接触したことで記憶が目覚めただけのただの残滓」

 

 白いイグニスは、どこか申し訳無さそうな顔を見せる。

 

「君を苦しめたこと、本当にすまなかった。目覚めたばかりの僕では、鴻上博士の実験を止めることはできなかった。せめてもの罪滅ぼしとして、他のオリジンを救おうとしたんだけど」

 

 かつて実験の最中に、遊作が聞いた彼を励ました声とは、この白いイグニスのものだった。

 彼らの心を守り、実験で壊れてしまわないように、様々な手段で実験に介入しようとしていたのだ。

 

「その結果、君を余計に追い詰めてしまうなんて」

「謝らなくていいよ。逆恨みなのは分かってる」

「……そっか」

 

 すると、白いイグニスの体が徐々に薄くなっていく。

 

「消えるの?」

「元々僕は完成したイグニスと違って不安定な存在だ。鴻上博士に取り込まれた時点で、こうなることは決まっていた」

「……そう」

 

 切花は下を向いて、どこか寂しそうな表情を覗かせた。

 

「ねぇ、最期に僕に名前をつけてくれないかな?」

「何で……」

「わがままなお願いかもしれないけど、君の中にせめて、僕が生きていた証を残して欲しいんだ」

 

 彼の頼みに、切花は少しだけ考える素振りを見せて、彼と自分の手を交互に見る。

 

「……ヴァニティ」

 

 そして、ボソッとその名を口にした。

 

「ほら、炎、水、風、地、光、闇は全部埋まってるでしょ。過去も何にも残されていない。空っぽのボクらにはピッタリな名前でしょ?」

 

 少し皮肉混じりに言ったその言葉に、彼はとても嬉しそうに笑った。

 

「……空っぽだからこそ、これからたくさんのもので満たせる。うん。いい名前だ」

「……言ってないだろ」

 

 切花は恥ずかしそうにそっぽを向く。

 そうしている間に、彼の体は消滅していく。

 

「ありがとう。これで心残りはない」

「ま、せいぜい忘れないでいてあげるよ」

「さようなら。僕のオリジン」

 

 そうして、ヴァニティは静かに消え去った。

 

 ◆

 

 それから数ヶ月。

 

 SOLテクノロジーは鴻上博士の素性を世間に公表した。

 ハノイの塔の製作者、今回の事件の首謀者、そしてかつてSOLテクノロジーに勤めていた研究者であることを。

 

 当然世間からは激しい批判を浴びせられた。

 

 事態を重く受け止めたSOLテクノロジーは、まず社長であるクイーンが辞任。幹部職数名を更迭。その中にはビショップも含まれており、彼はもろもろの引き継ぎ業務を全て済ませた後、会社を去った。

 

 そして新社長に就任したのは、ナイトこと八神零那だった。

 

「……」

 

 会見の場で、彼は報道陣に深々と頭を下げる。

 記者達の質問責めにも毅然とした態度で対応し、SOLテクノロジーの信用を回復とは言わないまでも、新体制を世間に納得させてみせた。

 

 財前晃も常務に昇進し、八神と共に新体制のSOLテクノロジーを支えていくだろう。

 

 それからさらに数日が過ぎ、デンシティ中央病院、その玄関口で、

 

「切花!」

 

 退院した彼女を呼んだのは葵、その後ろには遊作、尊、美海、啓、仁、樹、草薙らが迎えに来ていた。

 

「せーの────」

 

「「「「「「「「おかえりなさい、切花」」」」」」」」

 

 みんなの言葉を聞いて、切花は静かに涙を流し、満面の笑顔でこう返した。

 

「うん。ただいま!」

 

 




本編はこれにて完結です。

番外編とか短編で、もう少しだけ続くかもしれません
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