遊戯王VRAINS Re:Construction 作:師走F
夏休み、LINK VRAINSの危機も去り、しばしの平穏が訪れたデンシティの高校で、補修授業を終えた遊作が教室から出てきた。
「あ」
そこで、同じく隣の教室から出てきた啓と遭遇した。
「お前も補修受けてたのか」
「まあ、出席日数足りてなかったし……」
啓はやや気まずそうに目を反らす。
夏休み初日ということもあり、がらんとした校舎の中を、二人はそのまま並んで廊下を歩く。
「お前、この後予定あるか?」
「ないな」
「最近LINK VRAINSにもログインしてないだろ? なにやってるんだ?」
「これだ」
遊作はスマホの画面を見せる。
そこには机の上でちょこんと立つ小さな四足のロボットが映っていた。
「仁がプログラミングを覚えたいと言っててな。実際に動くところが見えた方がいいと思って、初心者向けのロボットプログラミングのキットを買ってきて、二人で作ってるんだ」
「へぇ。けど、ロボットプログラミングなら、言語も全然違うだろ? お前、分かるのか?」
「分かるというか、俺が最初に覚えたのはこっちなんだ」
「そうなのか?」
「引き取られたばかりで、俺が塞ぎ込んでいた時に草薙さんがな。子供が興味を持ちそうなもので、色々俺達に見せてくれたものの一つだったんだ」
「……」
「お前こそ、美海と遊びに行ったりしないのか?」
「うっ……まあそのうちは……」
痛いところをつかれて、啓は再び目を反らす。
「そうだ。お前今日昼飯どうする?」
「特に決めてないが……うちの店に来るか?」
「行かねぇよ。つーかことあるごとに営業すんな。お前のせいでもう3日続けてホットドッグ生活なんだぞ」
「チーズドッグとチリドッグもあるぞ」
「全部ソーセージじゃねぇか」
遊作の謎の両腕をクロスさせたポーズに突っ込みを入れる。
「いや、尊がラーメン食べに行こうって言ってるから、遊作も来るかと思って」
「構わないが、ひょっとしてあいつも補修受けてるのか?」
「あの顔で勉強できないからな。落としたのはギリギリ一教科だけらしいけど」
「俺達が言えたことじゃないがな」
「俺は赤点は取ってねぇんだよ。出席日数足りてないだけで!ギリギリな!」
そこでふと、啓は思い出したように尋ねる。
「お前のクラスは誰が受けてたんだよ」
「ん? ああ、切花と島だ」
「島はともかく、アイツも勉強できなかったのかよ……」
「授業中は寝るかスマホを触ってるな」
彼女の正体が判明する前から、担任のエマからは電子黒板用のタッチペンをよく投げつけられていた。
「で、その二人は一緒じゃないのか?」
「あいつらの補習はまだ終わってない」
「それ俺より進級危うくないか……」
◆
そんな進級の危うい二人は、エマと三人だけで取り残された教室で勉強に励んでいた。
「島くん、どうしてボク達はここにいるんだろう……」
正確には励んでいない。
完全に手が止まった切花と、教卓の前で教鞭(物理)を振るうエマを、島はおろおろと交互に眺める。
「ほ、ほら切花ちゃん、早くしないとまたエマ先生に怒られるって」
「えぇ……」
そう言われても、切花は完全にやる気を失っていた。
「全く、またお・し・お・き、されたいのかしら?」
笑顔のまま鞭をパンッと鳴らすエマ。
普段であれば歓喜していた島も、この時ばかりはさすがに引いていた。
「先生!」
すると、切花は突然立ち上がり、勢いよく手を挙げる。
「やっぱりおかしいと思います!」
「何が?」
「学生の貴重な青春の時間を、こんなことに浪費していいのでしょうか!」
「あなたがその貴重な時間を無駄にしたからでしょ」
エマが冷ややかな目で正論をぶつける。
「分かりました。先生、ここは……」
しかし、切花は折れることなく、鞄をごそごそと漁り、
「デュエルで決めましょう!」
デュエルディスクを装着して高らかに宣言した。
「ボクが勝ったら補修は免除、負けたら大人しく補修を受けます!」
「……それ、私に何かメリットある?」
「うるさい生徒が黙ります」
「切花ちゃん……」
当然エマがそんな要求を受けるはずがないと、島は考えた。
しかし、エマはしばらく頬に指を当て、色っぽい仕草で考えたのち、パッと明るい笑顔で手を合わせる。
「分かったわ。その勝負、乗ってあげる」
「イエーイ!」
「といっても、さすがに全部免除とはいかないわ。私に勝てたら。補修は今日1日にしてあげる。今日だけ真面目に勉強すれば後は自由に夏休みを満喫しなさい」
「はい!」
切花は跳び跳ねて喜んでいるが、島はエマの笑顔の裏を感じ取っていた。
「いや、切花ちゃん、やめときなって、あの顔は絶対何か企んでるよ!」
「関係ないよ。ボクが勝てばいいんでしょ」
切花はかつてのジャックナイフの時のような顔を浮かべ、デュエルディスクを構えた。
「「デュエル!」」
ターン1 エマ
「私はオルターガイスト・マリオネッターを召喚!」
エマのフィールドに下半身がクラゲのようになった緑色の人形が現れる。
「その効果でデッキからオルターガイスト・プロトコルをセットする」
マリオネッターの後ろの空間が歪み、裏向きのカードが出現する。
「私はカードをさらに一枚伏せて、ターンエンド」
ターン2 切花
「ボクは永続魔法、ミイラの呼び声を発動!1ターン1度、自分フィールドにモンスターが存在しない時、手札からアンデット族モンスターを特殊召喚できる!いでよ、死霊王ドーハスーラ!」
竜と人の頭骸骨を組み合わせたような頭から二股に分かれた蛇のような胴体を伸ばす異形の怪物が現れた。
「確か、アンデット族の効果発動に反応するモンスターだったかしら。けど、私のデッキにアンデット族は入っていないわ」
「先生知ってるでしょ? アンデット族にはこれがあるってことを!ボクはフィールド魔法、アンデットワールドを発動!」
教室内に暗雲が立ち込める。
「これで互いのフィールドと墓地のモンスターはすべてアンデット族として扱う」
「私は永続
先程フィールドにセットされたカードが開く。
「これで私のオルターガイストの効果の発動は無効化されない。ドーハスーラの効果は受けないわ」
「それ、無効にされないってだけだよね? ボクはさらに牛頭鬼を召喚。効果発動!デッキからアンデット族モンスターを墓地へ送る。それにチェーンしてドーハスーラの効果発動!フィールドか墓地のモンスター1体を除外する!」
ドーハスーラの頭蓋骨から黒いエネルギーが放たれる。
「オルターガイスト・プロトコルの効果発動!マリオネッターを墓地へ送り、モンスター効果の発動を無効にして破壊する!」
直後、空間が歪み、マリオネッターが消失する。エネルギーは歪んだ空間に吸い込まれ、逆にドーハスーラへと跳ね返された。
「牛頭鬼の効果解決。デッキから馬頭鬼を墓地に送り、そのまま効果発動。自身を除外することで、墓地のアンデット族を特殊召喚する。甦れ、ドーハスーラ!」
暗闇の中から、再びドーハスーラが姿を現した。
「バトルだ!ドーハスーラ、牛頭鬼、ダイレクトアタック!」
二体のアンデットが、エマに襲い掛かり、彼女のライフを食いつくした。
「やったー!ボクの勝ち!」
「ほ、ホントにやったぁぁっ……って、切花ちゃんって、こんなに強かったっけ? 確か初心者じゃ……」
疑問を呈する島を無視して、切花はエマにスキップで近付く。
「ねぇねぇ今どんな気持ち?」
「えぇ。私の完敗だわ」
煽る切花に対して、なぜかエマは笑顔で応じる。
「それじゃあ今日の補習の続きをしましょうか」
「はーい。今日一日で終わりならやる気出てきたなー」
意気揚々と机に向かう切花だったが、その表情は絶望に変わる。
「あの……先生、なにこれ?」
切花は目の前に積み上げられたプリントの束、否、もはや山と呼ぶべき量を指差して尋ねる。
「何って補習の課題よ。残りの15日分全部のね」
「あれー今日だけって……」
「えぇ。今日で残りの課題をすべて終わらせるのよね?」
エマは微笑むが、その目は笑っていない。
「言っておくけど、終わるまで帰れるなんて思わないでね?」
「い、いやだぁぁぁぁぁぁっ!」
校舎内に切花の絶叫が響いた。