ユウリは納得するまで戦うようです。   作:ザイエロー

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ユウリはジムチャレンジに参加するようです。

「あれ? ソニアだ! おーい!」

 

「ん? ホップかな? おーい──って、なんでずぶ濡れなの!?」

 

 ヤケクソになりながらワイルドエリアを突っ切り、どうにかこうにかエンジンシティに辿り着くと、何故か先にいたソニアさんが驚きの表情であたしたちを出迎えた。

 その姿にひどく安心してしまい、あたしはおいおい泣きながら濡れた身体でソニアさんに縋りついた。

 

「うう……ホップがぁ……ホップがぁ……!」

 

「……あんた、何したの?」

 

「いやー……反省はしてるんだぞ……」

 

 ソニアさんに頭をよしよしされて少しだけ救われる。

 事の経緯はこうだ。

 まずどうあってもホップが退く様子を見せないのと、あたし自身ワイルドエリアに興味があったから多少の危険は承知でワイルドエリアに踏み込んだ。

 そして開幕うららか草原にいた明らかに場違いなイワークに睨まれた。

 相性どうのこうのではなく、どう見ても(レベル)上だったので絶対に勝てないと判断し即逃走──した先にこれまた格上のホルード。

 Uターンしてイワークと会わないルートを選び全力で離脱したものの、現在地がわからなくなりあわや遭難。この時点で半泣きになる。

 それでもどうにかスマホロトムのマップが機能し、今いる所がこもれび林の近くらしい事が判明。少し元気を取り戻す。

 最短ルートとはいかなくなったけど、どういう道を選んでも最終的にはエンジンシティに着くので、比較的安全なこのエリアで木の実を採集したりポケモンを鍛えたりしていたところ、キテルグマの姿が近くに見えた。一瞬心臓が止まった気がした。

 愛らしい見た目で大きく手を振るキテルグマだけど騙されてはいけない。あれは威嚇のポーズである。

 刺激しないようポケモンをボールに戻して距離を取りつつ、その場を離れて見張り塔跡地へ。日中だというのに周りが『ゴースト』ポケモンだらけかつ、その全てが格上。正気を失いそうになるも、ここで倒れたらそれこそ終わりなのでなんとか堪えた。

 そうしてゴルーグに見送られながらキバ湖の西エリアを抜けて、ついにエンジンシティに繋がる東エリアへ。

 案の定というか傘が機能するような環境ではなく、豪雨と強風が吹き荒び、どちらかといえば『もうどうにでもなれ』という心境で雨に打たれるがままだった。

 この時ホップの後ろにいて本当によかったと思う。強風で思いっきりスカートが捲れてしまったから。

 さておき強そうなポケモンは避け、こそこそと移動して計五時間くらいかけてようやくゴールしたのが現在である。

 キテルグマと会った時は本当に生きた心地がしなかった。もう当分ワイルドエリアには行かない。

 

「あー……なんかあんたたち見てたら自分のジムチャレンジを思い出すなぁ……ダンデくんはワイルドエリア走り回っては迷子になってたし、わたしも最初はこんな感じだったわ……」

 

「ワイルドエリア怖いぃ……!」

 

「おーよしよし。もうちょっと旅に慣れてから行こうねー」

 

 あんなところ、旅を始めてすぐの人間が行くところじゃない。行くにしてもエンジンシティ周辺からは絶対に出ない。

 少なくともワイルドエリア駅からここまで突っ走るのは、ある程度旅慣れた人間じゃないと自殺行為に等しいと身に染みてわかった。

 

「思ってたよりヤバいところだったんだぞ」

 

「いや、強いのは縄張り決まってるしちょっかいかけなきゃそこそこ安全なんだけどね。最初に会ったっていうイワークも追ってはこなかったでしょ?」

 

「そんなの初見で判断出来るわけないんだぞ」

 

「そういうのはこれから覚えてくんだよ。ともあれ、どんな形でもワイルドエリアを抜けてきたのは凄いね。とりあえずはポケセンで着替えてきたら?」

 

 あたしもホップも雨の中を突っ切ってきたので、水の中に飛び込んだかのようにずぶ濡れだ。

 このままの姿でジムチャレンジの受付に行くわけにはいかないし、確かに着替えたいところではある。

 

「そうするぞ。ほら、ユウリ行こうぜ」

 

「やぁ〜……!」

 

「あらら、重症ね……」

 

 けど、今ソニアさんと離れたらあたしは多分号泣してしまう。

 今のあたしはソニアさんとくっつく事で精神の均衡を保っている状態なのだ。これ以上あたしに試練を課さないでほしい。

 

「うーん、仕方ない。ユウリはわたしが預かっとくからホップは着替えておいで。後でポケセン近くのカフェに集合ね」

 

「サンキューソニア。じゃあまた後でな! うひー、パンツまでびちょびちょだぞ」

 

 言いながらホップの足音が遠ざかっていく。その間もあたしはソニアさんにしがみつくのをやめない。

 

「さて、と。それそろ離れてくれるとソニアさん歩きやすいなーって思うんだけど」

 

 ふるふると首を振る。今は少しでも人の温もりを感じていたい。

 

「ダメかぁ〜。でもホントに歩きにくいし、あなたも着替えないと風邪引いちゃうよ? ほら、手繋いであげるから。ね?」

 

 ソニアさんの諭すような言葉に少し考えて──あたしは渋々ながらその手を取った。

 

 

 * * *

 

 

 ソニアさんが取ったというホテルに連れられ、そのまま浴室に案内され湯船に浸かって一息吐く。

 しばらく浸かっていると気持ちも落ち着いてきて、やっぱりお風呂の力は偉大だなと思った。

 冷えた身体も温まったところで浴室を出て、とりあえずパジャマに着替えて、洗濯し終わった服を乾燥機に入れてから脱衣所を後にする。

 

「おー、すっかりほこほこだね。気分は落ち着いた?」

 

「お陰様で。ありがとうございます」

 

「いいのいいの。元気になったならよかったわ」

 

 ベッドに腰掛けたソニアさんにぺこりと頭を下げる。

 びしょ濡れの状態で抱き着いたというのに、ソニアさんは嫌な顔一つせずあたしをここまで連れてきてくれた。

 なんて心が広く優しい人なんだろう。あたしのソニアさんに対する好感度が天井知らずに上昇していく。

 

「で、ワイルドエリアはどうだった? 素直な感想を言ってごらん」

 

 自分の隣をぽんぽんと叩いてあたしを座るよう促してくる。断る理由も無いのでその通りにした。

 

「……正直、怖かったです。1番道路や2番道路の子たちは友好的だったけど、ワイルドエリアのポケモンはなんていうか、好戦的っていうか……」

 

「うんうん。正直でよろしい。まあワイルドエリアは厳しい環境だからね。ポケモンも自然とそうなっちゃうんだよ」

 

 多種多様なポケモンが集まるワイルドエリア。それはつまり、様々なポケモン同士でぶつかる事も往々にしてあるという事だ。

 厳しい自然を生き抜く為には自らは強く、そして外敵に対して敏感でなくてはならない。

 当たり前の事なのに、あたしやホップは夢を見るばかりで現実を知らなかった。

 

「それで、ポケモンが怖くなっちゃった?」

 

「……それ、は……」

 

 ソニアさんの問い。

 確かに怖いポケモンもいた。襲われそうになったし、死ぬかもとも思った。

 でも──。

 

「……わかりません。でも、ヒバニー(ニーバ)ワンパチ(イチ)は怖くないです。ホップのウールーやサルノリも」

 

 あたしの手持ちの子たちはすごくいい子で、ワイルドエリアで会ったポケモンとは違う。

 あたしを襲ってきたりしないし、とても穏やかでいつも笑顔を見せてくれる。でも、それと同じような対応を野生のポケモンに求めるのは無理な話だろう。

 訥々と零した言葉を聞いて、ソニアさんがうんと頷いた。

 

「怖いと思うのは恥ずかしくなんかないし大事な事だよ。無鉄砲に突っ込むだけじゃ本当に危ない事もあるからね。だから周りの様子やポケモンをよく見るの。そうすれば何が危険で、何が安全かがわかるようになってくるから」

 

 わたしやダンデくんもそうやってワイルドエリアの歩き方を覚えたから、とソニアさんが続けて。

 

「あなたはまだポケモンの事を知らないだけなんだよ。そういうのをこれから覚えていくの。それがポケモントレーナーってやつなんだから」

 

「ポケモン……トレーナー……」

 

 言葉を噛み締める様に呟く。

 そうだ。あたしはまだポケモンの事を全然知らない。

 知識としてはいくらかあるけど、実際に見てみると全く違う印象になる事だってたくさんあるはず。

 博士が色んなポケモンに会いなさいと言ったのも、きっとそういう意味なのだと思う。

 

「……ソニアさん。あたし、ちゃんとしたポケモントレーナーになりたいです。もっと成長して、お母さんやお兄ちゃんを驚かせたい」

 

 あたしの目的はダンデさんを倒して兄をトレーナーの道に戻す事。それは変わってない。

 だけど、それとは別にトレーナーとして立派になった自分を見てほしいという気持ちもある。

 こんなに成長出来たよ、旅でこんな経験をしたよと、色んな話をしたい。

 そして、そうなるには怖がってばかりではダメなのだ。未知のものに飛び込む勇気。それをこの旅で身に付けるのだ。

 そう、ホップのように。

 

「うん、その気持ちがあれば大丈夫! 今は怖くてもそのうち慣れるよ! 頑張れポケモントレーナー!」

 

「はい!」

 

 まだワイルドエリアに行くには少し怖いけど、それは後から慣らしていけばいいのだ。

 先人たちがそうしたように。

 

 

 * * *

 

 

 服も乾いたので、いつものピンクのリボンワンピースとグレーのニットパーカーに着替え、ポケモンセンター近くのカフェにてホップと合流。

 

「ゴメンなユウリ。ユウリとワイルドエリアを回れると思ったら楽しみで仕方なかったんだぞ。嫌がってたのに無理強いするのはよくないよな」

 

「ううん、あたしも泣いちゃってゴメンね。その、ホップが悪いとかは全然思ってないから。あたしもワイルドエリアに行くのは楽しみだったわけだし」

 

 別れ際にホップと少しぎくしゃくしてしまったので仲直りしようと決めていると、先にホップに謝られてしまった。

 慌ててあたしも謝り、二人で笑いあって仲直りする。ホップの気持ちもわかるし、それを責めるつもりはない。

 ただ少し気持ちが逸ってしまっただけで、ホップに悪意があったわけじゃないのだから。

 

「ところでなんでソニアがここ(エンジンシティ)に? 何か用でもあったのか?」

 

「何言ってんの、あんたたちを応援に来たんでしょーが──って言いたいところだけど、おばあ様に言われたのよね」

 

「博士に?」

 

 ホップがカツサンドを頬張りながら聞くと、ソニアさんは手に持ったパフェのスプーンをクルクル回しながら答える。

 

「ほら、わたしって一応おばあ様の助手なんだけど、なんにも成果を残せてないのよね。だからわたしも旅に出て色々学んできなさいって」

 

「た、大変ですね……」

 

 マグノリア博士は優しそうに見えたけど、実の孫には若干厳しいようだ。

 

「ま、わたしも久々の旅だから楽しむつもりだけどね。研究者としての目線で見ると違う発見もあるし! それにあんたたちが森で出会ったポケモンの事も気になるし、ちょっと調べてみようかなって。何かわかればそれが成果に繋がるかもだし」

 

「ふーん、やっぱ大人って大変なんだな」

 

「まあわたしの事はいいのよ。それより、あんたたちがエンジンシティに来た目的はわかってる?」

 

「もちろん! ジムチャレンジに参加する事だぞ!」

 

 ソニアさんの問いにホップが元気よく回答する。

 ジムチャレンジとは、年に一度開催されるガラルの一大イベントの一つであり、各地の有力者から受け取った推薦状をエンジンスタジアムに提出する事で参加出来る。

 約八ヶ月を開催期間とし、その間に八つのジムを制覇しバッジを全て集めればチャンピオンカップという大会に出場出来て、そこで優勝すればダンデさんへの挑戦権を得られるのだ。

 その様子はテレビで生中継されたりするので、あたしなんかは兄がインタビューに答えているところを録画したりした。

 ともあれ、何をするにもまずはエントリーを済ませない事には始まらない。参加締切まではまだ日数に余裕があるけど、早く済ませるに越した事はないだろう。

 

「それ食べ終わったらエントリーしてきなよ。そうすれば『スボミーイン(ホテル)』を無料で使えるようになるはずだからさ。そんでそれが終わったら一緒にブティックとか行きましょ。せっかく旅に出たんだしオシャレしなきゃね!」

 

「わあ……! あたし、自分で服とか選んだ事無いから楽しみです!」

 

「うんうん。ユウリかわいいし素材もいいからなんでも似合いそう。選び甲斐があるわー」

 

「よし、そうと決まればエンジンスタジアムに直行だぞ!」

 

 そうしてホップが最後のカツサンドを平らげ、少し遅れてあたしもパンケーキを食べ終わった。

 奢ってくれるというソニアさんにお礼を言って店を出て、スタジアム前にあるエンジンシティ名物の大きな歯車のような昇降機に乗ると、時計の針が回転するように足場が上昇した。

 昇降機を降り、そのまま直進して時計塔のような建物が見えた。あれがエンジンスタジアムだ。

 そのまま中に入ると、ジムチャレンジに参加するのであろう人たちがたくさんいた。もちろん今はここにいない登録し終わったチャレンジャーもまだまだいるのだろう。

 

「おお……ここにいるやつらがジムチャレンジャー(ライバル)か。ワクワクしてきたな!」

 

 ここで『緊張』ではなく『ワクワクする』と言えるホップはとても強いと思う。

 あたしはといえば……やっぱり少し緊張するから。

 

「それじゃあエントリーしようぜ。ちょっと並ばなきゃだけど」

 

「そうだね。早く済ませちゃおう」

 

 そうして受付前の行列に並んで順番を待つ事十数分。ようやくあたしたちの番が来た。

 

「次の方、どうぞ」

 

「おう! オレたちだぞ!」

 

「──待ちなさい。ぼくが先です」

 

「あん?」

 

 ──かと思えば、ピンクと紫の中間色のようなコートを着た天然パーマのようなクセのある髪の男の子が、突然あたしたちの前に割り込んできた。

 

「なんだよオマエ、ちゃんと並べよ!」

 

「ふん。ぼくはリーグ委員長に推薦状を貰った、言わばエリートオブエリート。そんなぼくが優先されるのは当然の事です」

 

 髪を掻き揚げながら言う男の子。その仕草はどこか挑発的で、ホップも少しムッとしたような表情になった。

 

「そんなの関係無いぞ! オレたちだって順番を待ったんだからルールは守れよ!」

 

「無駄な時間を使わせるなと言っているのです。エリートであるぼくの貴重な時間を奪うなんて罪深い事ですよ。それとも──今、ここであなたを叩きのめして差し上げましょうか?」

 

「なんだと!?」

 

 まさに一触即発。あと少し何かがあればケンカ(バトル)が始まってしまいそうだ。

 受付の人もあわあわしてるし、あたしもどうすればいいのかわからずおろおろしていると。

 

「おお、着いた着いた! ありがとうマリィ!」

 

「なんでこんなおっきい建物を見失うんだか……それより、サインの約束忘れんでね」

 

「もちろんだ! ……って、ん? 何か騒ぎでもあったのか?」

 

「アニキ!?」

 

 スタジアムの自動ドアが開き、また新たなチャレンジャーがエントリーしに来たのかとそちらを向けば、そこにはなんとダンデさん──と、ピンクのワンピースの上にパンクな黒のジャケットを着た、剃り込みのあるツインテールの女の子がいた。

 

「ホップか! それにユウリも! 無事にエンジンシティに辿り着けたんだな! それで、一体何をしてるんだ?」

 

「聞いてくれよアニキ! コイツが──!」

 

 そうしてホップが何があったのかをダンデさんに説明する。

 ナイスタイミングだった。偶然なんだろうけど、ダンデさんを連れてきてくれたこの女の子には感謝しないと。

 

「……なるほどな。話はわかったぜ。それは君がよくないな」

 

「横入りなんて子どものする事だね。素直に並んだ方がよっぽど早く済むだろうに」

 

「……チッ……わかりましたよ。並べばいいんでしょう」

 

 ダンデさんと女の子にも言われて、露骨に不機嫌になる天然パーマの男の子。

 流石に我を押し通すには分が悪いと悟ったのだろう。男の子はすごすごとあたしたちの後ろに移動した。

 

「よし、素直に動けるのは偉いな! 喧嘩もいいが、後で仲直りしておけよ!」

 

「喧嘩なんてしていませんよ。喧嘩とは同じレベルの者同士でしか発生しない。ぼくとこの男とではステージが違う」

 

 この期に及んでまだ挑発的な態度を崩さない天然パーマの男の子は続ける。

 

「あなたの天下も今年で終わりですよ、チャンピオンダンデ。ローズ委員長に選ばれしエリートであるこのぼく──ビートがあなたを倒しますからね」

 

 ビートと名乗った男の子の言葉に、ダンデさんが一瞬面食らったような顔をして──それからニッと笑い。

 

「ああ、待っているぜビート! 俺はどんな相手からの挑戦も受ける! 成長したお前たちとバトルするのが楽しみだ!」

 

 リザードンポーズを決めて、挑発に乗るどころかむしろ発破をかけていった。最後の言葉はきっとここにいる全員に言ったのだろう。

 これがガラルのチャンピオン。十年間無敗を誇ったダンデという男の在り方なのだ。

 歓声が上がり、先程までの嫌な空気が吹き飛ぶ。

 

「ねーダンデさん、サインください!」

 

「俺も! あと握手も!」

 

「いいぜ! だが順番だ! いくら俺でも一人しかいないからな!」

 

 ひとまずケンカの気配が消えたところで、ダンデさんの周りに人が集まり始める。どうやらここでファンサービスをしていくらしい。

 ともあれ順番はあたしたちなので、ホッとしている受付の人に推薦状を見せ、背番号を決めてエントリーを終えると、ホテル『スボミーイン』の無料宿泊券が貰えた。これでジムチャレンジ期間の間はいつでも無料で宿泊出来る。

 ダンデさん(チャンピオン)の推薦は初めてだということで驚かれたりもしたけど、後ろのビート……くんが『チャンピオンよりも更に上であるローズ委員長から推薦されたぼくの方が偉い』とか呟いた事でまた険悪な雰囲気になりかけた。

 基本温厚なホップだけどダンデさん絡みだと頭に血が上りやすく、そこを突いてくるビートくんとはどうやら相性が悪いらしい。こんなに機嫌が悪そうなホップを見るのは久し振りだ。

 ともあれ、この後にユニフォームの採寸があるらしいので、ホップと雑談しながらそれまでの時間を過ごしていると。

 

「ねえ、あんたたち」

 

「ん? お、アニキを連れてきてくれたやつだな」

 

 黄色い体に茶色と黒の模様がある小さなポケモンを連れた、剃り込みツインテールの子が話しかけてきた。

 顔立ちもとても整っていてクールな美少女という印象だけど、風貌だけを見ると不良のような感じもする。

 

「あたしはマリィ。あんたたち、チャンピオンの推薦なんだって? 凄いね」

 

「おう! オレはホップ! ダンデの弟にして未来のチャンピオンだぞ!」

 

「それ、さっきも言ってるの聞いた。それであんたは?」

 

「ゆ、ユウリです。よろしく……」

 

 言葉を投げられ、おずおずと自己紹介する。

 ちょっと怖い。

 

「ん、よろしく。それでこっちが──」

 

「ペコー!」

 

「──モルペコのうらら。よろしくだって」

 

 片手を挙げて元気に挨拶してくるモルペコ──改めうららちゃん。

 確かモルペコはその可愛らしい見た目に反して、非常に手のかかるポケモンだったはず。

 特に空腹時には『はらぺこもよう』という全体的に黒い姿に変化し、食べ物を求めて暴れ回る性質がある。

 そんなポケモンを連れていて、それでいて仲がよさそうな辺り彼女のトレーナーとしての技量が垣間見える。

 

「で、何か用か?」

 

「用って程じゃないんだけど、同年代のチャレンジャーが少ないからさ。仲良くしとこうかなって」

 

「お、いいぞ! 早速友だちが増えたな、ユウリ!」

 

「う、うん……」

 

 意外と友好的というか、表情はあまり変わらないけど見た目より怖い子じゃないのかもしれない。

 人を見た目で判断するなとは定番のように言われるけど、ホップはあまりそういう事をしないのが偉いと思う。

 

「……話しかけた側から言うのもなんだけど、情報を取りに来たとか疑わないわけ?」

 

「え? そうなのか?」

 

「いや、違うけど」

 

「ならいいんだぞ! それに情報を取りに来るって事は警戒されてるって事だろ? オレはチャンピオンになる男だからな! それくらいは当然なんだぞ!」

 

 ふんすとホップが胸を張る。

 どこまでもポジティブ。それがホップの強みであり最大の長所なんだけど、少し心配になる部分でもある。

 

「……あんた、いいやつだね。チャンピオンが推薦した理由もなんかわかる気がする」

 

 そんなホップの言葉を聞いて、マリィちゃんが微かに微笑んだ……気がした。

 一瞬だったから気のせいだったかもしれない。

 

「うん。やっぱりあたし、あんたたちと友だちになりたい。いいかな?」

 

「もちろんだぞ! これからよろしくな、マリィ!」

 

 ホップとマリィちゃんが握手を交わす。なんというコミュ力。あっという間に仲良くなってしまった。

 

「ほら、ユウリも」

 

「え、あ、あたしも?」

 

「うん。ホップと友だちって事はあんたもいいやつでしょ? だからユウリとも友だちになりたい」

 

 そうしてマリィちゃんが手を差し出してきた。

 これは……ホップのオマケなのだとしても嬉しい。

 ガラルに引っ越してきてからホップ以外に友人と呼べる人は今までいなかったし、しかも同年代の女の子。旅を始めてこんなにすぐに友だちが出来るなんてラッキーだ。

 もしかしたら『ねがいぼし』には本当にご利益があるのかも、なんて手の平を返すような事を考えて握手に応じる。

 

「えっと……じゃあこれからよろしく、マリィちゃん」

 

「うん、よろしくユウリ」

 

「ペッコ♪」

 

「あれ、珍しいね。兄貴にもあんまり懐かないのに」

 

 あたしの足元に擦り寄ってきたうららちゃんを見て、マリィちゃんが少し驚いたような声をあげる。

 人懐っこい子なのかなと思ったけど、お兄さんにも懐かないのならそういうわけでもなさそうだ。

 

「ねえ、この後用事ある? 無いなら一緒にこの街を見て回らん? あたしも田舎から出てきたから興味あるんだ」

 

「あ、ごめん……気持ちは嬉しいんだけど、実は先約があって……」

 

 この後はソニアさんと一緒にショッピングする約束をしている。マリィちゃんの申し出はありがたいけど、そっちを破るわけにはいかない。

 

「そう、なら仕方ないね。だったらホテルのチェックまでは一緒に行こうよ。それくらいならいいでしょ?」

 

「うん。それなら大丈夫」

 

「ユウリさーん、こちらへどうぞー」

 

「あ、呼ばれた。それじゃあ行ってくるね」

 

「ん。行ってらっしゃい」

 

 話している間に採寸の順番が来たので、立ち上がってリーグスタッフの方へと歩く。

 列車の足止めに始まり散々なスタートを切ったと思ったけど、その代わりにいい出会いもあったから、案外悪くないんじゃないかと思った。

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