ユウリは納得するまで戦うようです。 作:ザイエロー
苦手な方は読み飛ばして大丈夫です。
エンジンスタジアムを出て、ホップとマリィと共に『
「あれ? ソニアじゃん。なんでここにいるんだ?」
「おっ、来たな若者たちよ。無事にエントリー出来たみたいね。そっちの子は新しい友だち?」
「マリィです。ユウリたちとはさっき友だちになりました」
「おー、いいねいいね! そうやってどんどん旅の中で友だちを増やしなよ! あ、わたしはソニアね。よろしく。──で、なんでここにいるかよね」
ソニアさんが入口近くにある、剣と盾を持った人の大きな像を見上げる。
「微睡みの森にいるとされる不思議なポケモンの調査でね。ガラルの伝説を調べれば何かわかるかもって思ってさ。それでこのホテルに像があったのを思い出したの」
「そっか、ソニアもジムチャレンジしてたんだもんな」
ホップも同じように像を見上げて『カッコイイな!』と感想を零した。
「そ。ガラル地方を救ったと伝えられる英雄なんだって。気になるなら説明するけど」
「うーん、長い話は苦手だぞ」
「あたしは気になるな。そういう昔話は結構好きだし」
「そうだね。それに『
「確かに! じゃあソニア、話してくれよ!」
マリィちゃんの言葉で意見を百八十度変えるホップ。清々しいまでの手の平返しだ。
「それじゃま、簡単にね」
そうして始まる昔話。
かつてガラル地方の空に黒い渦──通称『ブラックナイト』が現れ、各地で巨大化したポケモンが暴れ回った事。それを剣と盾を持った勇気ある若者が鎮めていた事。その功績が称えられ若者は英雄となり、この像が作られた事などがソニアさんの口から語られた。
「尤も、英雄がどんな剣や盾を持っていたのかわかってないし、そもそも
溜め息を吐きながらソニアさんが言う。
話だけ聞けばよくあるような御伽噺に聞こえるけど……。
「ふーん。とにかく英雄ってのは強かったんだな。でもソニアも調べる事いっぱいで大変そうだな。もしこっちで何かわかったら教えるぞ」
「ありがと。まあなんとかなるでしょ。それよりアレ見てよアレ」
ソニアさんが視線を向けた方をあたしたちも見る。
そこにはホテルの受付があり──その前にピンクと黒の派手なメイクをした、パンクロッカー風の衣装を着た集団が集まっていた。
近くにはジムチャレンジャーと思しき人たちが立っていて、あの集団が受付に近付けさせないようにしてるように見える。
「な、何アレ……」
「さあ……でもジムチャレンジャーじゃない……よな?」
ホップが首を傾げて言う。
仮にそうだったとしても迷惑行為には違いないし、どうにかしてやめさせた方がいいとは思うんだけど……あんまりお近付きにはなりたくない感じ……。
「どうしようか、ホップ……って、マリィちゃん? どうしたの?」
「……ゴメン、二人とも……」
横を見るとマリィちゃんが頭を抱えていた。どうしてマリィちゃんが謝るのか。
疑問符を浮かべていると、マリィちゃんがあの集団へ向かって歩いていく。
「ちょっと……みんな何してんの?」
「なんですか? 我々はあるジムチャレンジャーを応援に──って、マリィ!?」
マリィちゃんに話しかけられた集団が大袈裟なくらいに驚いた。
どうやらマリィちゃんの事を知ってるみたいだけど、もしかしてマリィちゃんって有名人だったりするんだろうか。
「いや、あの、ちょっと……」
「言い訳無用。あんたたちがジムチャレンジャーを気にするのはわかるけど、ちょっと手荒過ぎるって。ほら、迷惑になるから帰って帰って!」
「う……マリィに言われては仕方ありません。撤収しますよ!」
「イエッサー!」
なんという事だろうか。かわいらしく腰に手を当てたマリィちゃんが一喝すると、あんなにも厄介そうだった人たちが去ってしまった。
どういう事かと首を捻っていると、小さく溜め息を吐いたマリィちゃんが周囲に向かってぺこりと頭を下げる。
「みんなゴメン! さっきの、エール団っていうあたしの応援団なんだけど、あたしの応援に夢中で他のジムチャレンジャーには刺々しい態度になってるの。不愉快な思いさせてゴメンね」
「え……じゃあ、さっきの連中は君のファンって事?」
「そうなるかな。だからこれはあたしの責任。本当にゴメン」
ジムチャレンジャーの一人に問われ、更に深々と頭を下がるマリィちゃん。
なんというか、マリィちゃんを見た目で少し怖いと思ってたけど、むしろ礼儀正しい常識人だ。どうしてこんなにいい子にあんなファンが……。
あたしと同じように思ったのか、周囲の人たちも困惑したような表情になる。
マリィちゃんは自分の責任と言うけど、あれはエール団とかいう団体が勝手にしでかした事であってマリィちゃんは関係無い。それは本人から注意を受けてすごすごと帰った事からもわかる。
「い、いや、君は悪くないよ。でも過激なファンが付くと困るね」
「うん、本当に……」
また一つマリィちゃんが溜め息を吐く。この様子だと以前から同じような事をしてたんだろうか。結構苦労人なのかもしれない。
「でも早速ファンがいるなんて凄いぞ! どんな形でも応援自体は嬉しいもんな!」
「それは……うん、そうだね。応援は嬉しい」
前向きホップの賞賛に、マリィちゃんが少し照れくさそうに答える。
迷惑行為は注意するけど邪険にしているというわけでもなく、一応エール団の事は憎からず思ってるみたいだ。
うーん、ファンなら応援する人の株を下げるような事はしない方がいいと思うんだけど、それも愛故の事なんだろうか。難しい問題だ。
「とにかくゴメンね。さ、早くみんなもチェックインしちゃってよ。もしまたエール団に何かされたら、マリィが怒ってたって言えばいいから」
「そうだな、そうさせてもらおう。君もあまり気に病まないでくれよ」
言って、先にいた人たちがチェックインを始めた。
もしこれでマリィちゃんが責められたりした時は何か言おうと思ってたけど、そういう事は無くて少し安心した。マリィちゃんは何も悪くないもんね。
それからは特に大きな問題も起こらず無事にチェックインが終わり、マリィちゃんと別れてソニアさんと色んなお店を回った。
その後も天気のいい日はホップとワイルドエリアに入ってポケモンを観察したり、手持ちの子を鍛えたり、そうしている間に余裕が出てきたので慎重に場所を選んでキャンプをしてみたり。
ホテルが同じだからマリィちゃんとも会う機会があり、前回出来なかった観光を一緒にしたり、ばったり会ったビートくんとホップが険悪な雰囲気になったり。
開会式が始まるまでの約一週間は楽しく、充実したものになった。
そして、その日がやってくる──。
* * *
エンジンスタジアムの更衣室で、渡されたジムチャレンジ用のユニフォームとチャレンジバンドを着用する。
背番号は『227』。由来は別の地方で伝説のチャンピオンが生まれた日だとか言ってたけど、あたしにとっては兄の背番号だ。
「おっ、ユウリ! ユニフォーム似合ってるな!」
「ホップもね。にしても……やっぱり多いね」
控え室に出ると、ホップを含めたたくさんのジムチャレンジャーたちが一堂に会していた。ジムチャレンジのホームページで見られる参加者数を確認したところ、どうやら百人近くいるらしい。
だけど、これだけいてもジムを全て突破出来るのは一握りだという。そして突破出来たとしても、
あたしたちは、そのたった一つの席を奪い合う為にここにいる。
「ユウリ」
「あっ、マリィちゃん」
ユニフォームに身を包んだマリィちゃんが話しかけてきた。言わずもがなだけど、マリィちゃんもとてもよく似合ってる。
「いよいよジムチャレンジが始まるね」
「うん。緊張してきたよ」
控え室に映るモニターでは、スタジアムのコート内でローズ委員長が挨拶をしていた。その傍らにはオリーヴさんの姿も見える。
この開会式はテレビで中継され、ガラルだけでなく全世界に放送される。今頃は母や兄もテレビで見ているかもしれない。兄の時がそうだったように。
「負けんよ」
「え?」
突然の言葉に一瞬理解が遅れる。
「ユウリやホップの事は友だちだと思ってるけど……勝つのはあたし、スパイクタウンのマリィだから。覚悟しといてよね」
ビシッと指を差して宣言する。
そうだ。ここに来たからには真剣勝負。友だちでも、兄弟でも、親子でも関係ない。最後に勝つのは一人だけなのだから。
「オレだって負けないぞ! 次のチャンピオンはハロンタウンのホップだ!」
ホップも負けじとマリィちゃんに張り合い、そして二人があたしを見た。
その目は『ユウリはどうする?』と語っていて。
「──うん。あたしも負けない。二人に、ここにいるみんなに勝つ! 勝って、ダンデさんを倒す!」
あたしは──あたしも、二人に負けたくない。
あたしをライバルだと言ってくれたホップに恥じないように、友だちになってくれたマリィちゃんと真剣に向き合う為に強くなりたい。
それがきっと二人への恩返しになると思うから。
「じゃあ、あたしたちはライバルだね。お互いに切磋琢磨していこう」
「おう! そんでここにいる三人でチャンピオンカップに出る!」
「誰が勝っても恨みっこなし、だね!」
自然と三人が手を出し、それを重ねた。
ジムチャレンジャーがぶつかり合うのは、チャンピオンカップのセミファイナルトーナメントだ。
出来る事なら、この二人と戦って優勝したいと思う。
──ワァァァァァ!!
モニターだけでなく、ドアの向こうからも大歓声が聞こえてきた。ジムリーダーたちの紹介が始まったのだ。
ローズ委員長がその名を呼び上げる度にコールが巻き起こり、ガラル最強のジムリーダーであるキバナさんが呼ばれた際は、一際大きな歓声が上がった。
ただ、名前を呼ばれたのは七人だけだった。どうやら一人来てないらしい。
「こんな大事な日なのに何してるんだかね、スパイクのジムリーダーは」
「体調が悪かったとかじゃないか? ちょっと心配だぞ」
名前を呼ばれなかったのはスパイクタウンのジムリーダー。シンガーソングライターとしても活躍する、通称『哀愁のネズ』さんだ。
確かに会場に来なかったのは心配だけど……何か事故とかに巻き込まれたりしてないだろうか。
「大丈夫だよ。どうせサボっただけだろうし」
「なんでわかるんだ……って、そうか。マリィはスパイク出身って言ってたもんな」
「そっか。それならネズさんの人柄もわかるもんね」
仮にも全世界に放送される開会式をサボるってのも、プロとしては大問題な気がするけど……。
『では続いてチャレンジャーの皆さんをご紹介しましょう! さあ選手たちよ、入場してください!』
「お、呼ばれたな。行くぞユウリ、マリィ!」
ローズ委員長があたしたちに呼びかけ、控え室にいるチャレンジャーたちがドアの先にあるスタジアムのコートへと進み始める。
あたしもそれに倣ってコートのすぐ近くまで歩くと、ドクンと心臓が跳ねた。
たくさんの人たちがあたしを見る。知らない人から家族まで。もしかしたら引っ越す前にいたところの友だちも見てるかもしれない。そう考えると緊張と不安で、うるさい程に聞こえてたはずの歓声がどこか遠くになった気がした。
あと一歩でコート上に出られる。でも、その一歩がなかなか踏み出せない。
石のように硬くなった足を無理やり前に出そうとして、でもどうしても動かなくて──。
──ぽん、と。両肩を叩かれた。
「……ホップ……マリィちゃん……」
二人が前に出る。
ホップもマリィちゃんも歩き方が少しぎこちなくて。それでもしっかりコートの上を歩いていく。
──ああ。緊張してたのはあたしだけじゃなかったんだ。
叩かれた肩から緊張が解けていく気がした。
石のように硬かった足も、今ではすっかり自由に動く。
一度大きく息を吸い込み、そして少し残った不安ごと吐き出した。
声が聞こえる。前も向ける。だから、後は一歩を踏み出すだけだ。
二人の背を追って、スタジアムのコートを踏む。
瞬間、スタジアム上から降ってくるような大歓声がダイレクトに耳に響いた。
ドクンと心臓が跳ねる。でも、さっきまでの嫌な緊張感じゃなくて、もっとワクワクするような、そんな感覚。
事前に決められた列に並んで次の段取りを待つ。この次にあるのは──。
「ではジムチャレンジャーたちへ、現ガラルチャンピオンであるダンデくんから激励の言葉をいただきましょう!」
ローズ委員長の言葉と同時、リザードンが天空より飛翔する。
そしてその背から飛び降りるのは最強無敗の絶対王者。ガラルでその名を知らない者はいない『無敵のダンデ』。
リザードンが咆哮して爆炎を空へ吐き出し、圧倒的な力と存在感を見せ付けると共に、ダンデさんがお馴染みのリザードンポーズを決める。
観衆が沸き立つ。今までとは比較にならないくらいに歓声が爆発した。
ダンデコールが巻き起こり、全ての注目をその身に集めたダンデさんがマイクを手に取る。
「皆さんこんにちは! ガラルチャンピオンのダンデです! 本日より始まったジムチャレンジ、そしてそのチャレンジャーたちよ!」
ダンデさんの声に熱が篭もる。
それは、ここにいる全ての人たちへ向けた言葉。
「強くなれ! 全てのジムを制覇し、俺の元まで駆け上がって来い! そして、その強さすら俺は超えてみせよう! チャンピオンダンデは、君たちの挑戦を待っているぜ!」
再びのリザードンポーズで言葉を締め括り、観衆たちも、そしてジムチャレンジャーたちも同じポーズを取る。
見るもの全てが魅力され、心惹かれるこの求心力はダンデさんのこれまでの積み重ねがあってこそだろう。
そんな人があたしたちの成長を心待ちにしていると言った。これで奮起しないトレーナーなんてきっといない。
マイクがローズ委員長に渡り、終わりの挨拶へ入る。
「彼ら、彼女らが今年のジムチャレンジャーです! 皆さん、ガラルの新たなスターの原石たちへ最後に盛大な拍手を!」
──ワァァァァァ!!
割れんばかりの喝采がスタジアムを満たす。
こうしてジムチャレンジの開会式は、大盛況の内に幕を閉じた。
──否。
終わりじゃない。ここから始まるのだ。
あたしたちの旅は、冒険は、今この瞬間に始まるんだ──!
* * *
開会式が終わり、元の服に着替えてスタジアムの受付前。
「ユウリ、大丈夫か?」
「はは……な、なんか力抜けちゃった……」
現在、あたしはスタジアム内にあるソファから立てなくなっていた。
といっても別に病気や怪我とかではなく、単純に緊張が解けて脱力状態になっただけの事。
コートに立ってる時はアドレナリンがドバドバ出てたんだろうけど、なんだか疲労が一気に来た感じだ。
「気持ちはわかるけどな。オレもまだ少し震えてるぞ……」
ホップに肩を貸してもらってどうにかここまで辿り着けたけど、そのホップもあたし程ではなくても手や足が震えてるのがわかった。
ちなみにマリィちゃんは案外ケロッとした顔で『じゃ、あたしは先に行くから』とさっさとスタジアムを出て行ってしまった。あの精神力は見習いたいところである。
「いよいよだな、ホップにユウリ!」
「お、アニキ……とローズ委員長! 演説カッコよかったぞ!」
ソファで休んでいると、ダンデさんとローズ委員長がこちらに歩いてきた。
わざわざあたしたちに会いに来た……というわけではないんだろうけど。
「久しぶりですね、ユウリくん。ジムチャレンジに参加してくれて嬉しく思うよ」
「はい、お久しぶりです。あの時はありがとうございました」
にっこり笑うローズ委員長に軽く会釈する。
元々あたしがジムチャレンジの参加を決意したのは、ローズ委員長の言葉があってこそだ。
兄がトレーナーを辞める事になった事情の裏側。そのヒントをくれたローズ委員長にようやくお礼を言う事が出来た。
こういう機会でもなければ滅多に会う事はないだろうし、これはラッキーだと言える。
「ふむ、二人共ダイマックスバンドを既に持っている、と。レンタル品ではありませんよね?」
「おう! 降ってきた『ねがいぼし』で作ったものだぞ!」
「いいねえ! 貴方たちはチャンピオンだけでなく『ねがいぼし』にも導かれたのですね! いやあ、今年のジムチャレンジは特に楽しくなりそうだ。是非貴方たちの手でジムチャレンジを盛り上げてください!」
とても上機嫌に言うローズ委員長。ダイマックスを絡めた今のジムチャレンジ制度を考案しただけあって、それにかける想いも人一倍強いらしい。
そうして雑談が始まりそうな時、委員長の方からピピピとタイマーのような音が鳴った。
「おっと……申し訳ないのですが、
手を振りながらローズ委員長が去っていく。
終始笑顔だったし、本当に楽しくて仕方なさそうなその姿はどこか子どものようにも見えた。
「ふっ、委員長ご機嫌だな! それで二人とも、ジムチャレンジのルールはわかっているな?」
「もちろんだぞ! まずはターフタウンだ!」
ホップが元気よく答える。
ジムチャレンジでは自由にジムに挑戦出来るわけではない。
例えばここ、エンジンシティのジムはすぐ近くだから真っ先に挑みたくなるけど、それは不可能なのだ。
ジムチャレンジではジムに挑める順番が決まっている。最初はターフタウン、次がバウタウン、その次がようやくエンジンシティというように。
これは主にメジャーリーグ内での序列がそのまま挑める順番という事になってるんだけど……とにかく、チャレンジの道筋は決められているというわけだ。
「いいか? ジムリーダーはとても強い! 勝ち上がるならポケモンだけでなく、トレーナーである自分自身も鍛えるんだ!」
ここでいう自分を鍛えるというのは筋トレ──ではもちろんなく、精神力の事を言っているのだろう。
冷静な判断力や厳しい状況でも折れない心。そういった精神面の強さがトレーナーには求められる。
……まあ『かくとう』ジムの人なんかは肉体的にも強かったりするけど、あれは流石に例外だと思う。
「よし! では行くんだ、ホップにユウリ! お前たちが勝ち上がるのを楽しみにしてるぜ!」
「おう!」
「はい!」
話している間に力が戻った。今なら立ち上がれる。
ダンデさん直々の声援を受け、あたしたちはエンジンスタジアムを出て──。
「こんにちボル〜」
「うおお!?」
「わああ!?」
──出鼻を挫かれた。
スタジアム前に立っていたのは、モンスターボールに顔を付けた被り物をした男性……多分男性。
被り物の見た目だけならリーグ公認マスコットのアレとそっくりなんだけど……その下に見える上半身がカイリキーもかくやというくらいに屈強で、正直不気味さの方が先に来る。
その癖声は作っているのかやけに高音であり、なんというか……言葉を選ばないなら完全に不審者であった。
スタジアム前にいたのは知ってたけど、努めて目に入れないようにしていた人物の登場に思わず固まる。
「キミたちはジムチャレンジャーボルね? ボクも応援してるボルよ〜!」
「あ……ど、どうも……」
流石のホップも何も言えず、差し出された空のモンスターボールを流されるままに受け取り。
「ボクの名前はボールガイ! ジムチャレンジャーたちを応援するマスコットだボルよ〜!」
言いながら紳士的な所作で道を譲るモンスターボールの人──ボールガイさん。
怪しいけど……見た目はめちゃくちゃ怪しいけど、多分きっとおそらく悪い人ではないんだと思う。もしそうならあんな目立つところにいて、リーグスタッフが何もしないって事はないだろうし。
だけど。
「……捨てよっか……」
「……おう……」
あの人には悪いけど、このボールを使う気にはなれなかった。