自作のTRPGに転生したんだが、こんなクソゲー作った過去の自分を殴りたい 作:三田村功
広場に踏み込むと、待ち構えていた様子の泥田髑髏が蹲った姿勢から立ち上がった。
通路まで迎えに来なかったのは、その巨体では狭い場所が不得意ということなのだろうか。
まずは左右に俺とエスタが広がる。俺が右だ。
中央でチリリが盾を構え身構える。
俺が体を入れ替えて全員を視界に納めたときには、後ろにいたジーネの頭上で数字が消えかけていた。
しまったと思ったが多分《2:4》だったので構わないだろう。
ジーネは死にそうな顔をしていたが。
スケルトンの一匹がこちらの動きを見て突進してくる。
足場が悪く打たれるが、盾が間に合う。《5:5》
スケルトンごときに抜ける盾ではなく無傷。
かえって俺の反撃を受けると、骨はよろめいた。
そこで泥田髑髏が動く。
身の丈一人半ほどの図体で、全身泥にまみれ、したたらせ続ける骸骨だ。
片手にはやはり泥まみれのでかい鍬を持っていた。
地に落ちた泥はやがて消えてしまうから、それも含めてアヤカシなのだろう。
どちらに回るかと思ったが、やはり睨みつけているチリリの喧嘩を買ってみせた。
踏み込んで、巨大な鍬を振り下ろす。
チリリは飛び離れてそれを回避した。
盾を構えたからといって正直に受ける必要はない。
ただその一撃で地の岩が砕けて飛び散り、当たったチリリの膝から血がこぼれた。
皮鎧といっても全身くまなく覆ってるわけではないので、草摺りと脛当ての間に弱点があったようだ。
あちらでもエスタがお付スケルトンを迎撃し、避けると盾を捨て両手棍棒で殴りつけたが、さすがに一撃では沈まない。
逆にそのスケルトンが、打ちつけられてよろめいたまま、体をくるりと一転させて、さらにもう一撃エスタに殴りつけた。
これをなんとか交わしたエスタが、一声おめいて頭蓋に得物を叩きつけ、砕いて相手を消し去った。
《6》の目は見えなかったが、凡打でも2度でスケルトンなら倒せるようだ。
泥田髑髏の側近は別格、とかでなくてよかった。
チリリの後ろでまたジーネが《1:2》を頭上に光らせたが、まあいつも通りである。
俺も難なく目の前の雑魚を倒し、泥田髑髏の後方に回る。
チリリが踏み込み、片手フレイルが泥田髑髏のあばらの間を抜けて胸骨まで届いた。
いくらか泥が飛んだが、どの程度効いたのかは不明である。
踏み込まれた怪物が、今度は膝蹴りをチリリに見舞う。
チリリは避けたが、魔物の頭上で《2:2》という目が見えたような?
ふと気になって左右にも注意を向けると、そこらの道からスケルトンが走りこんできた。
合わせて2匹。
しかも一匹は俺たちの来た方から。
あかん。これ【増援】持ちやん。
ゾロ目で味方が来る奴だ。
「ジーネ! 後ろに居るぞ!」
俺のその声に、三人娘がギョッとするが、チリリは目の前の巨漢を相手によそ見をする暇はない。
いや、急いで倒そうというのか、フレイルを振るい直す。
よけようとした泥田髑髏だが、かえって殻竿の先端がかする形となり、勢いの乗ったそれに、あばらの一つが砕けた。
ジーネは後ろを振り向いて「ぎゃあっ」と騒ぎ、念を込めた。《5:6》
やっと出たがなかなか迷う。
いやここは【眠りの雲】だろ。
どさっと、三体の魔物が一度に倒れた。おお。泥田まで。
全部を対象にできたうえ、抵抗突破の達成値もよかったという事か。
泥田髑髏は目覚めて残るかと思ったが。
「OK。ジーネ落ち着け。戦闘は続いている」
歓喜と驚愕のガッツポーズのまま固まってるジーネに沈静化を要求。
自分は一手待つ。
そしてチリリの攻撃対象を替える。ジーネの後ろの骸骨にだ。
プレイヤーは、管理下のNPCが誰を攻撃するかを選択できるのだ。
「え?」
チリリの移動にエスタが疑問の声を上げるが、それでも泥田髑髏を一撃する。
寝てるとファンブル以外命中、ダメージ倍。
しかしこの恩恵は最初に当てた一人だけだ。
そしてエスタが《1:6》
そうそう。こういう時出るのよ。
両手棍棒と【豪打+19】、それを倍。一人だけで48点。
泥田髑髏粉砕。
「しゃあ! 気持ちいー! 久しぶりにこの感触きたぜ!」
エスタが棍棒持った両手を天に突きあげ、勝利の叫びを上げている。
素直に喜んでおいてやるぜ。
おめでとう。
チリリや俺が先に打ったら、こういうことは起こらない。
そのあと増援二匹も、目覚める前に叩いて打ち壊した。
「あたいも【眠りの雲】でた! 今日は溜まりに溜まった凶運が裏返ったかも!」
ジーネもエスタに縋りつく。
「運気バック上げの日だね! これは天に愛されている! このあとの恩寵も期待できるね!」
すまんな。そっちは介入できんのだ。
「ええと、ただのスケルトンの魔石が、3・3・6・6といったところか。
じゃあ宝箱行くぞ」
「なんだよー。マショルカ、テンション低いじゃん。一緒に喜んでよ」
「そうだよー。あたいの魔術が初めて役に立ったというのに。
はっ、まさかこのあとまた2年発動なしなんじゃ…ウオオオ」
「いやいやもちろん喜んでいますよ。ただ冒険中なんで警戒も大事かなー、って」
エスタがニヤツキながら絡んでくるのをいなしつつ、泥田髑髏の宝箱を開ける。
あとジーネが高低差ありすぎてうざい。
「む。鋤だ」
「誰を?」
「あたい?」
異世界だが使われているのは日本語である。だが「好き」ではない。
「このタイミングでプロポーズはないでしょ。農具よ」
覗きこんでチリリが言う。
しばらく睨んで結論が出た。
「これを使った農作業がちょっとはかどる魔道具だろうな」
元のゲームがマスターいらずのTRPGのため、データは原則プレイヤーが読めるのである。
ただし転生後の半分プレイヤー半分PCな俺には、じっくりにらんで一文字ずつ見えてくるという程度で、めんどくさい。
戦闘時の行動表判定・発動判定は、まだ見えるのだが。
そしてその眼力で見出したところでは、鋤+2とある。
「農民には需要あるかもだが、銭にはならんかもなあ。金持ちで自分で農作業してる人という、限定された客を見つけるしか」
前近代である今いるこの社会、農民が大多数ではあるが、同時にそれほど豊かな階層ではない。
「なんでそんな見ただけで品物の価値がわかるの?」
とエスタが尋ねてきた。
「長年の勘?」
「そんな年でもないでしょ」
「じゃあ呪いってことで」
「都合が良すぎる」
ほんとだよな。
「ともかく、俺はコーヒー貰ったんで、こちらは皆さんのものだ。好きに扱ってくれ」
差し出すとチリリがそれを掴んだ。
チリリ「どうしよっか? 魔道具としてもそれほど高額で引き取ってくれないなら、田舎にもってく?」
エスタ「魔道具として買い取ってもらうなら、鑑定士に一筆書いてもらわんとならんしなあ。実際には違ったら鑑定代で赤字になるだろうし」
ジーネ「一度空き地で使ってみて、勝手が良かったら次に戻るときに持っていけば?」
チリリ「そうしよっか。ただあまり日がたつと、宿で盗まれないかが心配だけど…」
「お前らってふるさと一緒なの?」
俺が問うと、
ジーネ「そうよ。言ってなかったっけ」
「いや、まあそんなもんとは思うけど」
大体は故郷から来たもので最初のチームを組むものである。
「議論は迷宮出てからでもいいんじゃないかな。どうせ持ち帰るんだから」
チリリ「そうね。先を急ぎましょう」
ジーネ「じゃ、あたいが担いでいくよ」
魔術師で荷の軽いジーネが自薦している。
そして俺がまた一人斥候に出た。
◇ ◇ ◇