自作のTRPGに転生したんだが、こんなクソゲー作った過去の自分を殴りたい 作:三田村功
その先は特に障害もなく、山のふもとに至った。
ここにダンジョンコアがあるという。
積み上がる岩塊の群のなか、家ほどもあるそいつらの間の、昏い隙間を身をかがめて入ると、奥まったところにほのかに光る、宙に浮いた球体があった。
これがコアであり、触れてのち神殿で祈ると成長を与えてくれるものである。
叩き割ると大いなる成長を遂げることができると言われているが、やると飯の食い上げになった連中に囲まれアチコチ叩き割られるので注意。
実際はどうかといえば、ゲーム中に暴走したそれを割りに行くミッションはあったが、別に成長に追加はなく、語尾が「コア」になるつまらん呪いが付いただけだった。
後そのキャラが死んだあと、その土地に迷宮が発生した。
まあそれはともかく
「折角だからヒト触りしてから戻るか」
俺が前に一歩踏みでた時である。
ハッとして左を見ると、ほとんど透明のなにかが両手を振り上げてまさに襲い掛かってくるところだった。
とっさに持ち上げた盾が、何かにガチリと挟まれる。
もう片方、相手の左手と思われる攻撃を槍で受けたが、絡むように右手ごと締め上げられる。
盾を掴んだ何かが離れ、もう一度振り下ろされる風切り音がした。
これを盾を斜めにし受け流す。
革の表が削られる擦過音が聞こえた。
「カメレオン・マンティスかよっ」
体色を変えどこにでも潜む巨大昆虫である。
コア・ルームに潜むとはなかなかやってくれる。
「死ねやっ」
掴まれた右手にとげが喰い込んで痛いが、逆に言えばそこに奴がいる。
俺は盾の縁を相手の左ひじに打ち付け、こすり下ろして半ば切断する。
左の鎌の握力がなくなった。
だが刺さったとげのせいでお互い距離はとれない。
待ち伏せタイプのこいつは初撃が厄介で、両腕で捕まると反撃が難しくなる。
片腕を盾で迎え撃てたのは幸運だった。
まあこの辺戦士+斥候の兼業職のおかげだな。
そしてこういうトラップタイプモンスターは、最初を逃れたら、正面切ってではそこまで強くない。
もう一度右手の鎌を振り落としてきたが無事避け切った。
お返しに盾の縁での鋸引きを再度やり、左の鎌を切り落とす。
痛みを我慢して槍で敵の柔らかな腹を突きとおした。
中身がぼちゃぼちゃと落ちてカマキリの力が抜け、へたりこんだかと思うと消え去った。
あとに宝箱を残して。
絡んだままだった左の鎌も消え去って、ようやく右腕の治療ができる。
【賭け治癒5】《1:5》
はい全快。
カマキリ系の強さは、両鎌で捕まえられると強い行動制限が掛かることで、ダメージ自体はそれほどでもない。
単独行で捕まると頭から喰われるが。
後は袖に破れ穴と血汚れが付いたが、これはしかたない。
「さて」
周囲の警戒を再度したが、さらなる敵はいないようである。
「宝箱の中身は?」
開けると盾が一つと、缶詰が一つ入っていた。
これはサンマの蒲焼き…?
悪魔が囁いた。むしろ耳元で叫んでいた。
◇ ◇ ◇
「これがこの迷宮のコア。どうにかたどりつけたわね」
俺の案内に従い、自然の岩屋にたどり着いたチリリの一声である。
「ほれ、先に進めジーネ。あたしが見えないじゃないか」
閉所恐怖というわけではないだろうが、物陰の多い岩の重なりのなかを、ジーネがおっかなびっくり進むため、しんがりのエスタがイラついているようだ。
「でだ、ここに来たとき待ち伏せに遭って、返り討ちにはしたんだが…」
「ひとりで倒せたのね。無事でよかったわ」
振り向いてチリリが言う。
にっこり笑って、と言いたいが、陽の遮られたなかコアの光を背にするので表情は闇に沈み、なにか恐ろしい悪意があるかのように見える。
いや、これは俺の内なる悪を他者に投影しとるのだな。
「マショルカだけでもここまで来れそうだね」
とジーネが部屋というか空洞に入っていうが
「それは無理だ。数の多いところを突破できないし、遭遇せずにここまで来るのは至難の技、そもそもそういうコースはないかもしれない」
と俺は答える。
「でも待ち伏せた魔物を倒せたんだから、可能かもしれんぜ。
あー、その魔物を倒したのはマショルカ一人だから、成果を独り占めにしたいのか?」
「そんなことはないぞ」
エスタの邪推を俺は否定する。
「これが宝箱から出た盾だ」
「金属製?」「軽そうだな」「きれいね。新品だ」
「多分魔道具だ。チリリの使っているやつより良いと思う」
「触れて何か使用法がわかった?」
「いやそういうことはないが」
エスタが期待を込めて問うが俺は否定する。
能動的に使える効果があれば、魔道具に触った時それが分かる場合が多い。
俺の場合さらに、凝視することでゆっくり性能を読み取れるが、それはまだ言わんほうがいいだろう。
「持った感じ、より頑丈で、防御しやすい」
「「「ふーん?」」」
三人娘の反応がよくないが、俺のプレイヤー的鑑定能力なんて知らんのだから無理はない。
実際店売り品より耐久力が強く、サイズの割に等級4で、防御判定でのクリティカル値+1が付いている。
悪い道具ではなかった。
「それは、マショルカがつかってもいいかも…」
「いや待ったチリリ、そういうつもりはない。これは君たちのものだ」
「おー、サイズは、ちょっとチリリのより小さいか? でも持ちやすくていいな。なんならあたしがしばらく使ってみて、よかったらチリリに渡すという手もあるぞ」
置いた盾を弄り回して、エスタがいう。
「お金に替えてもそれなりになりそうだよね。
それでマショルカ? なんで奥歯に何か挟まった顔してるの?」
ジーネが訝しげに尋ねてきた。
「うむ。うむ、実はもう一つ戦利品があってだな」
俺は内心の葛藤を続けながらも、じりじりと懐に右手を差し込んだ。
「え?」「なに?」「…ゴクリ」
知らず殺気が漏れたようで、三人娘がいくぶん身構えるのがわかった。
「こいつだ」
「魔道具?」「薬品?」「爆弾?」
「食い物だ。
そっちの取り分だ。取っといてくれ」
差し出した。
いやもうホント悩んだ。ガメてしまえと悪魔は叫んだ。
しかしいったん譲歩してもらい約束したのだ。破って人としてやっていけるだろうか。
いい加減あちこち世間に疑われている今のザマで、このうえ自身も自分を裏切ったら、もういつでも人を裏切るクズになりそう。
「うーん? サンマのき?」
ジーネがコアのほのかな明かりで読み取った。
「これはこの男、一度は猫婆しようとしていたね。あたしにはわかる」
エスタが腕を組む。鋭い。
「食べ物なの? 君の取り分にしてもいいんじゃない? 一人で相手したんだし。それに惹かれるのもまた呪いなんでしょ」
チリリが心の広さを見せた。
「そう言ってもらえたなら断るのも素直ではないなやはりもらってイテテテテ」
懐に戻そうとした手をエスタがねじってきた。
エスタ「感心しないな。それはそれでしょ。約束は守るもんよ」
ジーネ「ちょっと可哀そうかなと思うけど、全部独占されるのも腹立つよね」
「いや俺もそうは思ったから一度は差し出そうとしたじゃないかっ」
エスタ「まだ三人のうちの一人が許しただけだし」
ジーネ「お金に替えるか食べちゃうかはともかく、あたいらにも興味はあるのよ」
チリリ「なら戻ったあとで、みんなで食べてみない? 今後似たようなものを見つけても、どのくらいの価値があるのか知っておきたいわ」
ジーネ「それならいいよね。どうやって食べるの?」
俺「炊き立てのご飯に載せて、混ぜつつ食べるのが最適だ。確かに俺は少量でも味わいたいのであって、みんなで分けて食べたほうが旨いな」
エスタ「あたしたちが分けてあげるのっ。その立場忘れないように」
俺「はいすいませんでした。分を弁えます」
チリリ「まあまあそのくらいにして。みんなコアに触ったら帰るわよ」
なお締められている間密着していたが、別段エスタの肉体的魅力が分かるとかはなかった。
皮鎧が硬くて臭かっただけで。
◇ ◇ ◇
「まって。今後は先行するにせよ、私たちの目の届く範囲にしましょうよ」
戻り道の確認に向かおうとしたら、チリリ・リーダーからそう言われた。
「そんな心配せんでも大丈夫ですよ?」
彼女の表情をみてそういうが、
「だめよ、さっき単独でコアまで来て襲われたんでしょ」
「だな。専業戦士のあたしらを信用しなって」
エスタにまで言われてしまう。
「うーむ」
確かに何かあったとき駆けつけてくれるのは助かるし、彼女たちはそういうモラルの持ち主のようだ。
遭遇する敵もいつも単独行している迷宮よりは強力である。
ただし隠密慣れしていない人が近くにいるのは発見されやすくなる不都合がある。
それに俺はそれほど連携になれていない。
とはいえ帰路であれば、強力な魔物が再度発生している可能性は低いので、そうした行動の練習には向いているか。
「そうですね、じゃあお願いします。手信号には従ってください」
三人娘がうなづくのを確認して、俺は先行探索に向かった。
重なりそびえる岩クズを、時に乗り越え時にくぐって帰っていくと、ふと剣戟の音が耳に入った。
後方に手信号で「立ち止まれ」「戦闘音あり」と知らせる。
岩に跳ね返って音源がはっきりしないが、悲鳴も混じる。
いや、戦闘音から離れて、地を走る音も始まった。
骨が岩を打つ音が追いかける。
それが近づく。
(逃げてきている?)