自作のTRPGに転生したんだが、こんなクソゲー作った過去の自分を殴りたい   作:三田村功

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 迷宮は多くの産物の供給地であり、特に金属・魔石・魔道具・薬品素材などはここに頼っている。すなわち銭の動く土地でもあり、近場に街が発展する。

 

 探索者相手の飯屋・酒場も多く、俺が立ち寄ったのも、そうした場所の一つだ。

 狭苦しく親父も店も汚いけど、味は良いので気に入っている。

 あくまでこの世界では、だが。

 前世と比べて調味料の質が悪く、種類も少ないゆえの不満はある。

 

「さーて、こっからどうすっかなあ」

 

 どうするも何も、またボッチで冒険するだけだが、行き詰まりを感じているのも事実だ。

 仲間がいたほうが俺の能力は映えるのだが、その能力が信頼を損なう。

 かといって、能力を説明すれば上の方から目を付けられる。

 

 今日は久しぶりに誘ってもらえたんだが。

 

「なーに黄昏てんの。さっさと注文して出来上がって、この店盛り上げてー」

 

 出口際の二人席で外を眺めていると、凹凸の少ないウェイトレスが寄ってきて、お盆をパタパタやる。クールな美青年にも見える。女装男子ではないよな。

 

「あんまり見かけない顔だな。酒より腹減ってんだ。肉味噌炒めと漬物とスープ、飯は大盛りで」

 大きめの銅粒を渡して頼む。

「おやっさーん、肉味噌炒め一丁ぅ」

「あいよー」

「お客さん釣り貰っていい?」

「よかねーよビール一杯分くらいあんだろ」

「おやっさーん、炒め方超レアで。虫が残るくらい」

「あいよー」

「あいよじゃねぇだろ。薪代節約すんな。

 わかった、ビール半分奢るわ」

「おやっさん、炒め方普通で」

「しゃーねえ」

 

 何がしゃーないのか。保健所呼ぶぞ保健所。

 釣銭ねだられるのはまだわかる。

 大概のウェイトレスは無給か超薄給で、客のチップや売春で喰ってるからな。

 

「そんで? なに悩んでんのさ」

 

 さっきのウェイトレスが錫の大ジョッキに一杯ビールを満たして持ってきた。

 それを卓上にどんとおいて向かいに座りこむ。

 

「頼んでないが」

「何言ってんのさ、半分はあたいん」

 

 そういってグビーっ、と飲む。ぷはぁ、と気持ちよさげに吐息をついた。

 

「いやぁ、やっぱ仕事終わりの一杯だよね。これこれ」

「ジーネちゃん仕事始まったばかりだからね。はい、肉味噌炒めできたよ」

「わかってますって。飯は大盛りだったね」

 

 釣銭貰うつもりが、いつの間にか俺も飲むらしい。まあいいか。

 

 ジーネというらしいその女性が、飯と炒め物と漬けた瓜の小皿、小さな椀にスープを持ってきたので、さっそく飯の上に具をのせて喰い始める。

 向かいでジーネも、もう一膳持ってきた箸で肉味噌炒めをつまみながら、勝手にビールをやっている。

 

「で? 悩み事ってのは?」

「いや、人生相談に来たんじゃなく飯食いに来たんで」

「まあまあ、お姐さんに話してごらんよ。一人で悩んでるより、もしかしたら道が開けるかもしれないじゃない」

「大したこっちゃない。ボッチになったってだけだ」

 

 ジーネ姐さんは、ああ納得、といった感じで両手を軽く広げて見せた。

 

「つらいよね。あたいも本業探索者だから何度か近いことあった。でも自分一人でも生き延びたんなら幸運と思わないと」

 

 部分的に誤解されているが、特に説明する気もない。

 

「でまあ、気分転換にそろそろよその土地にでも行ってみるか、でも旅費がなあ、てなことを考えてたわけだ」

「行かなくたって、そこらへんに人数の欠けたチームはゴロゴロしてるよ。ここじゃ物足りないってんなら旅立つのもいいけど、味方が全滅するようじゃまだそこまでの力量はないんでしょ。なら慣れてる場所のがいい。

 なんなら見繕ってあげるよ?」

 

「うーん…

 あと包み揚げと適当な漬物。できりゃカブ」

「あいよー。

 おやっさん、今言ってたやつ」

「あいよー」

 

「なに? 話題変えたい?」

「いや、そうじゃなくて姐さんが全部喰っちまったじゃん」

「ほんとだ! ごめんね。ビールもお替りする?」

「いらんわ。

 それと、ほかに人手不足のチームがあるのは知ってるけどさ。俺評判悪いんだわ」

「そんなこと自分で言わなきゃいいじゃん。人間何かしらダメなとこあるのが普通なんだし、案外みんな興味ないよ。あたいアンタ知らないし」

「俺マショルカっていうんだ」

「知ってたわ。アンタがそうか。顔見るのは初めて。

 一緒に出てきた幼馴染チーム背中突いて身ぐるみ剥いだんだって?」

「してねーよ! なんだそ「できたぞー」」

「はーい。

 もってきた。ねえほんとビールいらない?」

「いらないと言ったろ」

「しかたないなー。

 そんで?」

「俺抜きで出かけた連中が全滅したってだけだ」

「そのくらいはよくあることだけどなあ。なんで悪く言われんのさ?」

「そのあと組んだ連中から、臆病もんだの使えないだの、評価が最低なんだわ。

 そいつらがいまだに罵ってるんだろうな」

「そこまで使えないんだ」

「だから最近は一人で潜ってた」

「ん? ん?

 一人で潜れるの? 凄く強くない?」

「ミニダンジョンあるだろ。スライムと弱いオークだけの」

「あんなとこ潜ってどうすんのよ。殆ど実入り無いでしょ。あすこのコア触っても恩寵の上限低すぎるし」

「だけど霊格上げの、いや、なんでもない」

 

 NPCは霊格固定だった。

 

「?」

「なんでもない。それでも最低限の恩寵は得られるだろ」

「そりゃあそうだけど。でも枠が埋まっちゃうでしょ」

「まず生き延びる必要あったからな」

 

 

 俺たちのゲームには霊格という数値があった。枠ともいう。

 たとえば今の俺の数値は11だ。凡人の平均は10。

 

 PCもNPCも枠の数に応じた恩寵=(職業・特徴・特技・呪文など)を保持できる(個々の恩寵の必要とする枠は1が多いが、他の数もある)。

 PCはいらない恩寵を捨てることができる。そうすれば枠は空く。

 そうして自分にあった恩寵、より効果のあるモノを選んでいく。

 

 NPCであるこの世界の住人はどうやらそれができないようだ。

 ゲームではNPCの恩寵はずっと同じが普通だったので、再現するならこうなるのだろう。

 

 しかし重要な常連NPCであれば、「これはイメージじゃないから外そう」「HPは合計してしまおう」とかしていたから、できるやつはいるかもしれない。

 

 

「それと職業追加に使った。ミニダンジョンのコアだろうと、この恩恵を願うときの効果は同じだからな」

「職業追加? あんたバカじゃないの」

 

 職業追加はランダムのうえ、二つ目は2枠、三つめは3枠と場所をとる。

 そして同職を複数重ねても追加効果はない。

 さらには農民・牧夫・戦士になりやすい。

 先の二つはゲーム時代はフレーバーだったが、リアルに変われば重要な社会の要素ではある。

 しかし先達と元手なしに、いきなりその職についても喰っていくのは難しい。

 小作人としてどうにか、という程度だ。

 

 ゲームでもたまに多職NPCをランダム作成したことはある。

 農民×2+戦士1とか戦士×3で、6枠消費してるただの戦士が出来てたが実に使えない。

 吟遊詩人戦士や学士斥候といった、それっぽいのもまた出来た。

 

 プレイ中にそうしたのに遭うのもまた楽しみだったが、リアルになってみると、なかなかに使い勝手が悪い。

 

 得た職業を外せないなら、ここの住人が職業追加を厭うのも無理ない。

 

「それなりしてるのはいるぞ」

「商売人とか職人とかで、人生しくじった人がやむなくしてるだけでしょ。

 神様が寄こすんだから、適性はあるってことなんだろうけどさあ」

 

 完全にダイス目次第なんですけどね。

 でた職が得意分野になるのは事実だから結果を見るなら嘘ともいえないが。

 

「ジーネちゃん、話してるんならなんか注文して」

「わかった。

 ねえ、やっぱりビール飲まない?」

 

 店の親父が言ってきたので、そういえばこの状況は、そういう店で女の子相手に喋っているのと変わらんわ、と気付いた。

 気兼ねなく他人と会話するのは久方ぶりで、意識していなかったが随分鬱屈が溜まっていたらしい。

 それが気安く話す彼女とのやり取りのうち、いつの間にか薄れた気はする。

 なら確かに金を払う価値はある。

 

「わかった。薬茶頼むわ。そっちも一杯なんか注文していい」

「つまみは?」

「そっちの喰いたいの一つ。俺はもう腹いっぱい」

「OK」

 

「そんで?」

「そんで、つってもまあ、運よく狙った『斥候』が出たわけだ」

 

 実際には結構な回数引いては破棄している。一度はレアな『踊り子』とかでた。

 斥候を得るまではミニダンジョンであっても単独行動は危険で、低賃金労働で稼いではたまに挑み、負傷して寝て癒すを繰り返したものだ。

 

「『斥候』だといいことあるの?」

「戦士で斥候なら、危険や罠に気付きやすくなるし、それでも見つかったとして敵と戦える。一人でコアまで行けるわけだ」

「おー

 … あ、普通にチーム組んでたら要らない努力だわ」

「いや、一人だと忍び足で隠れながら行けるだろ。

 戦士や魔術師がいてはこれは無理なんだぞ

 【無音】とか使えるならともかく」

「なるほどね。

 でも一人で潜れるほど根性あるなら、臆病者って評価間違いだよね」

「どうだろな。チームが組めるなら、なるたけ後ろに居たいと思ってるのはホントだぜ」

 

「少なくとも正直ではあると。

 どう? あたいと組まない?」

「親父さんから独立する予定でも? 料理人の職をうまく引けるかどうか」

「ウェイトレスは世を忍ぶ仮の姿。あたいだって女魔術師だよ。ただちょっと不運が重なっちまって、こういう仕事で喰ってるだけ」

「確かに本業感はないな」

「若さと美貌があるから何とかもってるけどね。いつまでもできるわけじゃない。素人商売には限界あるからなあ」

「迷宮潜りのほうが寿命は短いんじゃね?」

「そうかもだけど、これあんま向いてない仕事だとは思ってるからさ、仲間がいたらまた潜りたいんだよね」

 

 綺麗だとは思うが、顔も体も色気は少ないほうで、男に金出してもらう職向きではないと思う。

 キャラは面白いが。

 

「でも姐さんなら仲間はすぐ集まるだろう」

「まあね。何人かいるよ。でももうちょっと欲しい。

 信頼できる奴がね」

「俺がそうだと?」

「勝手に飲み食いしてんのに怒りださないもんね。器はでかいんじゃない?

 それとももしかして寝たい?」

「今は本来の意味で寝たい。潜り明けで疲れてっからな。

 でもそっちの商売もしてるのか?」

「ごめんよ。最近方針転換してやめたんだ。こっち来たのもそれがきっかけ」

 

 いろいろあるんだろう。訊く気はないけど。

 

「入れてくれるなら参加するわ。連絡はどうする?」

「明後日また来てよ。それまでに渡りつけとく」

「行くならどこだ?」

「西のキグヅリ鬼崩し。多分あそこ」

「あぁ」

 

 山崩れあとに生まれた露天迷宮だ。

 出来たとき村が埋もれて迷ったとかで、人や獣のスケルトンが多いときく。

 

「新人向けより、ちょい格上んとこだな。

 でも松明いらん、見通しがましな利点はある」

「【燈明】持ちがいないんだよね。松明だと先に見つかっちゃうし」

「俺もねーな。じゃあ明後日な」

 

 そのあとは武器屋によって槍の先を取り換え、宿に帰って寝た。

 

   ◇ ◇ ◇

 

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