自作のTRPGに転生したんだが、こんなクソゲー作った過去の自分を殴りたい 作:三田村功
「ん? 開かない」
扉を押したエスタが戸惑った。
「次の間にまだいるんだろ」
と俺が言う。
「ああ、それで。あ、開いた」
扉に寄り掛かったエスタが、ちょっと焦る。
開くと男が倒れていた。
俺「死体遺棄か。しかたないな」
チリリ「この迷宮なら、持ち帰ってもよかったように思うけど…」
ジーネ「見えない」そりゃきみ後ろだからな。
ビルト「いや、瀕死だがまだ息があるぞ」
「こいつウヒョウじゃん」
一歩先んじて中に入ったエスタが、顔を覗き込んでそう言った。
見るとそうであった。
背中から致命の一撃を食らって、深い刺し傷からトウトウと血が溢れている。
「いかん」
走り寄ったビルトソークが躊躇いもなく手持ちの蘇生薬を使った。
確か等級20とか、けっこう高価な薬のはずである。
「う、…くぅ」
「大丈夫か」
意識が戻ったウヒョウに対し、ビルトソークが声掛けしているので、その間周囲の警戒をする。
運がなければここで魔物が出るかと思ったのだが、幸い出現しなかった。
「また【治癒】使おうか?」
とジーネが言ってるので
「いいんじゃね」
と我ながら雑に返事する。
チリリ「生きているのに置いて行かれたの?」
エスタ「蘇生薬がなかったとか?」
俺「だけどすぐ右の扉から外に出て、他のチームに呼びかければ、あれば売ってくれそうだが」
また三度めで、ジーネに《3:6》が出た。
「あ、 治った。助かった」
シャンとしてウヒョウが普通にしゃべった。
「ホントに人相見さんに見てもらおう。お金貯めて」
ジーネが何やらウンウンうなづいている。
「お前さん、毎回死にかけて登場するなあ」
おもわず、そう言ってしまう。
チリリ「むしろ毎回助かって、強運よ」
エスタ「なにがあったんだ?」
ウヒョウ「たぶん、リーダーに刺されたんだ」
俺「やっぱそっちか」
まーた厄介ごとではないか。
ジーネ「えー? 喧嘩でもしたの?」
ウヒョウ「うーん、心当たりがないんだが」
俺「仕事に関して不満を言ったとか?」
チリリ「仕事?」
ウヒョウ「補強した樽の中に入るんだ」
エスタ「さっきの酔っ払いも言っていたやつか?」
ウヒョウ「中に入って、強い敵が来たときには『嫌われ者』と呼ばれる薬を使うんだよ。
リーダーの判断で使うんだが。
そうすると魔物の敵意が俺に向くんだ。魔物が樽を割ってる間に、他のメンバーが後ろから狩りをする」
エスタ「えぐいな…」
ウヒョウ「だけどそれに関しては文句は言っていないよ。
加入するときに、『しばらくこれをしてもらう』と言われたわけだし、どうしようもなく危ないというわけでもない」
チリリ「分け前を出すのを嫌がったのかしら」
エスタ「裕福そうだぞ、あのチーム」
ウヒョウ「昨日は山分けしてくれたし、別段ケチな
あ、ない」
ジーネ「何が?」
ウヒョウ「財布。なんてこった。全部盗まれた」
死んだ仲間から持っていくのは普通だが…
ウヒョウ「チームの目印だから、財布にしろって渡されたんだ。派手な模様の腰袋」
エスタ「あんたらのチーム、みんな付けてたね」
ウヒョウ「掏られても分かりやすいぞ、って言われてなるほどと思ったんだがな」
死んだあと、すぐ持って行きやすいな。そういえば。
ビルト「人を殺すほどの金額か?」
俺「それ以外の装備は外していない。腰袋は彼らのチームの一員と分かるのがいやで、とっさに持って行ったのかも」
エスタ「装備剥していたら、時間過ぎて、確実にウヒョウ死んでたな。まだ運がよかった。でもなんでそうしなかったんだ?」
俺「早く立ち去れば、早く遺体が消えるからなあ」
チリリ「私たちがすぐ後ろに追いついていたのは、運がよかったのね」
俺「それもあるけど、ビルトソークがすぐ動いたのが大きいよ。俺だけなら見捨ててたかもしれない」
ビルト「少しの会話しか交わしていなくても、知人は助けたいだろう」
エスタ「そうでもないよ。鎧剥ぐ奴のが多いぞきっと」
俺「剥いだ鎧持って歩いたら、自分が一番の容疑者だ。通報するわけない。そういう意味でも、装備を剥がないのは正解だな」
ジーネ「世知辛いねー」
ビルト「君らな…」
名家の出で治安維持に関心のあるビルトソークは不満そうだが、迷宮での犯罪なんて大体迷宮入りである。短時間で犯罪の痕跡は消えてしまうからだ。
明確な根拠があるなら、当局も動かないわけではないが。
俺「で、やっぱり何か向こうの癇に障ることがあったんじゃないか。思い出してくれ」
ウヒョウ「う…うーん。
昨日今日とズロイというおじさんが、あのチームのそばに来て『子供殺し』と悪口を言うのだけど」
エスタ「ズロイ?」
ウヒョウ「酒飲みで、垢だらけ髭だらけだけど、素顔は良さそうな」
あの呑兵衛の名前、ズロイというのか。
ウヒョウ「聞き流しちゃあいたんだが、気にはなるから、迷宮に入ってから尋ねたんだ」
ビルト「ほう。それで?」
ウヒョウ「『もちろん根も葉もない』と言われたんだが、じゃあ神に誓えるね、といったら、笑ってごまかされたな」
ビルト「それだ」チリリ「それよ」
俺「え? それ?」
ジーネ「ん? マショルカわかんない?」
エスタ「神に誓えって、相当無遠慮だぞ」
俺「む。そうか。そうだな」
そうかな?
「いやちょっとまて。いくら無遠慮でも、殺すまではないだろ」
チリリ「じゃなくて、誓えないからよ」
ビルト「人に嘘をつくのはできるが、神につくわけにいかないだろ」
そう…なるのか。ここの住人だと。
俺なんか「誓えよ」と言われて「ハイハイなんぼでも」となりそうだ。
エスタ「ああ、そっちか。態度が失礼すぎるとキレたのかと思った」
いづれにせよ、誓いの押し付けは相当失礼らしい。
ジーネ「子供を殺してる、ってのはホント、ということ…?」
ビルト「さもなくば、殺してでも誓いを拒否する、とまではいかないだろう」
ウヒョウ「いや、俺も無礼ではあると思いはしたんだ。
しかし子供の命が掛かっていると考えると、確認は必要だろう。
彼も信心深い人間だから、嘘の誓いはするまいと思ってさ」
俺「訊く場所考えろ。密室になる迷宮で尋ねてどうする。死体も消えるのに」
ウヒョウ「事実でないなら、人目のあるところで尋ねては向こうが困るだろ」
エスタ「なんという糞真面目」
ジーネ「事実でも困るよ」
俺「子供を殺すのに信心深いのか?」
ビルト「信心深い山賊というのも珍しくないよ。
世界は争いに満ちている。それを作ったのは神だ。だから殺し合いは御心に適うとね」
俺「でも誓いはできない?」
ビルト「それは全然意味が違うだろう。している行いを神が許していると思うことと、偽りの誓いが許されると思う事では」
俺「嘘を禁じてない神殿に通っているなら」
ウヒョウ「君の発想はあまりにずれすぎてる。
ほとんど異端だぞ。今度ちょっと話し合おう」
見るとウヒョウが怒りだす寸前の顔をこちらに向けていた。
おっと、うかつな意見を言っていたようだ。
チリリ「ねぇ、マショルカ。
さっきカリテイモの話が出た時、急に 『あいつか!』って叫んで考え込んだわよね。『証拠はない』とか。
なにか知ってるんじゃない?」
む。この流れは乗るべきか。異端審問よりましだわな。
俺「別名のほうで聞いた覚えがあったんだ。
縄張りのうちで子供を拷問にかけると出てくる魔物。子供を守ろうとする性質がある。
それ自体は非常に素早く、容易に攻撃が当たらないけど、子供を狙って撃つとかばうので殺すことができる」
エスタ「なんだそれ? その魔物の子供をまず手に入れるのか?」
俺「あ、ちがう。そのへんの人間の子供だ。その魔物自体が、自分の子を失い探す親のナレの果てと言われているんだ。そして他人の子供を自分の子と間違える」
チリリ「なら子供の守り神のようなものね」
俺「そうでもない。手に入れた子供は攫って行くし、育てられずにゾンビにしてしまうから」
ジーネ「おそろしい…」
ビルト「よくそんな話を知っているな」
俺「臨時雇いであちこちのチームに属してきたからな」
ウヒョウ「ではそれが、クルベルトワがやってきたことだと?」
俺「いや、伝聞からの類推であって」
エスタ「でもその程度のことがないと、ウヒョウが刺されないだろ」
まあそれはそうかもしれない。がなあ。
俺「ウヒョウがあっちのリーダーに刺された、というのだって、ウヒョウの証言しかないわけで」
ジーネ「そう言えばそうだね」
エスタ「あそっか。争いの原因だって、こいつから聞いただけだ」
ウヒョウ「いや待ってくれ。神に誓うが嘘は言っていないぞ!」
俺「かもしれんけど、証拠がない。
傷も魔術で治してしまったしな。何が原因の傷か分からない」
チリリ「どういう状況でやられたの?」
ウヒョウ「あの改造樽には、背中の部分にリーダーからの指示が聞こえるよう、穴が開いているんだ。たぶんそこから突きこまれた」
チリリ「では、樽の中に血が散っているかも」
ビルト「それが確認できれば、裏がとれたと言えるな」
俺「まてまて。仮にあったとしても、あっちのチームが見せてくれるか?
ウヒョウの言うのが事実なら、その場で殺し合いになるぞ」
その言葉にウヒョウが怯んだ。
ウヒョウ「…そうだな。いや、命を助けてもらった上に、そんなことに巻き込むつもりはない。俺のことは気にしないでくれ」
チリリ「でも子供を道具にしてるというなら、それは止めたいんだけど」
彼女は相当腹に据えかねているようだ。可愛い顔なのに目がマジだ。
俺「とりあえず…
次の部屋に行かないか。そろそろ何か起きそうだ」
いったん精神もリセットするため、そう声をかける。
皆もそれは納得して、扉をくぐった。