自作のTRPGに転生したんだが、こんなクソゲー作った過去の自分を殴りたい   作:三田村功

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 元のゲームだとNPCの行動、特に敵のそれはダイスを振って自動で決まる。

 各キャラには『行動表』がある。1~6の数字に対応する行動を記してある。

 戦闘時には、6面ダイスを二つ振り、小さい目のほうを選び、表を参照する。

 書かれた行動を行う。

 

 空欄の場合、次に小さい数の欄を参照する。

 欄に書かれたことが不可能・対象がいないなら空欄扱い。

 下まで下がって、1の欄の行動もできないなら待機となる。

 

 特技は、行動表のどこにでも自由に書きこめるわけではない。

 それぞれある数字以上にしか置けないことになっている。

 たとえば【倍打4】とか書かれた、最後の数字が問題となる。

 これの場合、4~6にしか置けない。

 『等級』と呼ぶ。上の例は4級だ。

 

 行動表は戦闘中には原則替えられない。

 ただしある条件で書き換えできる。

 

 戦闘時以外でも特技は使える。このときは行動表に載せていない特技も可能だ。

 

 振り方は同じで、その特技の等級以上を出せばよい。

 出し損ねれば発動失敗するだけである。

 ただし平時にピンゾロを出すと、その特技は『消耗』し、通常、次に寝て起きるまで回復しない。

 

 

 PCの場合、行動表というものはなく、戦闘中であっても平時と同じ判定をし、発動できるかを見る。

 平時との違いは、ピンゾロでも消耗しないことだ。

 

 さらに加えて、PCは二つのサイの目のどちらを参照してもよい。

 PCと同じパーティのNPCの数値も、担当プレイヤーがどちらを選んでもよい。

 

 

 

 この特別扱いの結果、PCの参加したパーティは、データはそのままにやや有利にとなる。

 

 この世界でもそれは同様 のはずである。 が、

 

 プレイヤーであり同時にPCな俺にとっては、ちょっとばかり不具合があった。

 

 

 

 まず、ここの住人たちは俺のゲームのNPCが現実化した存在だ。

 しかし自身をそんな風には認識していない。

 彼らは自分の中に『行動表』を持っている。自分で書きなおし調節している。

 が、それはあくまで、いざというときの行動を心に刻んでいるだけと思っている。

 彼らはそれを『心構え』と呼んでいる。

 

 戦場に立つと彼らは、事前に用意した『心構え』に従って行動する。

 適切とは限らないが、何かしらの行動はとる。

 特に前線に立つ戦士系はそうだ。

 上手く戦闘状態に入れないのは、よほどの素人だけだ。

 

 そして彼らは、俺も戦士と思っているから、同様の覚悟を期待するわけだ。

 

 しかし俺は戦場では迷うし、状況を読んで、それに応じた行動をとりたいと思っている。

 それは彼らには、「いまだにド素人」と映るようなのだ。

 あるいは、まともな心構えも心に刻んでいない、愚物というわけだ。

 

 さらに俺は、【賭け治癒】という魔術を持っているのだが、これ、なるべく軽傷のうちに使わないと危ないという性質を持つ。

 これのおかげで俺は生き延びている。しかし、残念なことにその使用する姿は、ただ様子をうかがっているだけにみえるらしい。

 

 建前では魔術の使えない俺は、何をしているのか説明ができない。

 

 傍から見ると「戦う気がない」「チームに貢献する気がない」としか見えない。

 ここの住人は事前に心に決めた行動を戦闘時にとるから、「最初から我が身のみ守ると決めていたな」と見做されてしまうのだ。

 

 

 

 そして他のパーティメンバーの出目を選択できること。

 

 これだけなら俺にもパーティにとっても、かなり有益だ。

 これのみに専念できるなら。

 

 プレイヤーだけしてた前世のときには、ダイスを振ってゆっくり考えてもよかったのだが、同時にPCでもある今の俺は、何かしようとしている戦友の体から浮き上がる数値に注意し、即座に選ばないとダメなのだ。

 

 傍から見ると戦闘中なのに「よそ見ばかりしてる」「助けを求めてる」と見えてしまう。

「すぐ後ろに下がろうとする使えない霊格1戦士が、キョロキョロしながら寄生虫暮らしをしている」という評価になってしまうのである。

 

 いや、言ったよ俺にはこんな能力あるって。

 実際俺が参加すると発動率上がってるし。

 

 でも神殿は「正しき信仰・行いを見て、天が御救いくださる」と説いているわけであり、「俺のいるおかげだ」というのは、まず凄い反発を受ける。

 目に見える立証が必要だ。

 

 そしてそういう立証はできない。

 「俺が願えば発動する」ではなく「発動率が上がる」だけなので失敗もするからだ。

 常に成功するならともかく、「やっぱり失敗もする」では、幼いころから神官に植え付けられた常識は覆らないのである。

 6級の特技なんて11倍も出るようになるんだがなあ。

 

 

 まだ幼馴染チームは、それでもよかった。「変わらねぇな」と笑って許してくれた。

 

 でも俺の異能で発動率があがってるなんて、ついに信じてくれなかったな。

 俺の操作に慣れてしまって、あれが当たり前の発動率なんだと誤解するようになっていたと思う。

 

 もっとちゃんと話し合うべきだった。

 

 いや、聞いてもらえた可能性はないか。

 

 今さら言ってももう遅い。

 

   ◇ ◇ ◇

 

 翌朝組合の待合に入ると、時間帯からして当然だが、結構な人がいた。新人探しや噂の交換しきりである。

 

 いわく名家の坊ちゃんが初級ダンジョンに挑んでるとか、どこそこの迷宮は最近戻りが悪いとか。

 今日行く鬼崩しの名を聞き逃さないようにしたが、なかった。

 変事は起きていないのだろう。そう期待する。

 

 見回すと、ジーネが二人の同世代女性と卓を囲み、気づいて「こっちこっち」と手で招いてきた。

 

 ジーネが(性格に似ず)綺麗系とすれば、可愛い系と親しめる系のお姉さんだ。

 可愛い系には相当デカいおっぱいが付いている。

 親しめる系は眠そうだ。

 

「おはようジーネ。

 初めまして。マショルカです」

 

「今日はよろしく。私がこの三人の中ではリーダー役のチリリ。この寝てるのがエスタ。二人とも新人レベルの女戦士なんだけど、それは聞いてる?」

 可愛い系のデカパイ姉さんが、涼やかな声で言ってきた。

 

「聞いてますよ。俺も新人に毛が生えた程度なもんです。

 もしなんでしたら、今日は連携の確認で格下の迷宮で稼ぐとかでもいいですよ」

 まずは互いに信頼できるかが重要なので、そんなことも言ってみる。

 

「それはホントに一理あるんだけど、昨日武器と防具を新調しちゃってね。できれば予定通り鬼崩しに出かけたいんだ」

 金銭的余裕が尽きているらしい。

 見れば確かに、完全新品というわけではないが、部分的に金属を貼りつけた皮鎧は直近の補修のあとがあり、スケルトン戦を想定してか、片手用メイスを装備していた。

 盾も4級くらいかな。

 

「それでもいいです。ただ入り口近辺で稼いでみて、無理と思ったら撤退しましょう」

「そうね。それで行きましょう…」

 

 どことなくチリリ・リーダーの表情が昏い。

 

「平気だって。カレ戦士と斥候の兼業なんだから。今までと違って宝箱諦めないでいいんだよっ」

 ジーネさんがはしゃいでらっしゃる。

 

「でもさー、それ嘘じゃないの?」

 卓に載せた腕を枕にしてる、もう一人の女性、親しみ系エスタさんが横やりを入れてきた。

「だってこの子霊格1なんでしょ。戦士か斥候、どっちかしかもっていないよ」

 

 皮鎧をつけ、片手でも両手でも使える長柄の大棍棒、これは槍を改造した、というか刃を守る形の重いカバーをつけたものだな、あと小ぶりの盾を脇に置いてる。

 そしてなにかもう、全部諦めたかのような雰囲気を漂わせていた。

 

「宝箱が出たら俺が開けるし、罠に備えてその場を離れてもらっていいですよ。口に出した以上その仕事はします。

 ただまあ、それをする以上は、強い敵が出てきた時に後列に下がる許可はもらいたい。

 普通斥候は守ってもらえるはずですからね」

 

「それはその通りだわ」

 チリリ・リーダーがうなずく。

 

「あんまり強そうな相手からは逃げようって話にしてるんだけど」

 エスタ姉さんが少し顔を動かし、目線をこっちに向けた。

 

「それじゃ死人出ますよ。戦って勝てる相手じゃないと、逃がしてもくれません」

 

「アンタ手があるっていってたものね。なに?」

 今日は皮鎧のジーネが、指をさしてくる。

 

「そのためにも 「なんで霊格1が偉そうに演説してんだよ」

 

 会話の途中で背後から男の声が割り込んできた。

 ボンっ、と殴る勢いで肩に手を載せてくる。

 

「今日の仕事の決め事をしてるだけだよ。邪魔だったかな?」

「目障りだね。失せろ」

 

 振り向き見上げると、ウデンタという偉丈夫だった。

 二十代前半の男戦士で、ありがちな恩恵しかとれていないが、数値はかなりいいらしく、この組合では稼ぎのいい方に属する。

 

 その分顔面数値に恵まれなかったようで、異常ブといってよい風貌を持っていらっしゃる。

 

「ごめんね。今すぐ出てくよ。みんな、残りは道々話そ」

 チリリ・リーダーがにこやかにそういって立ち上がり、他のメンバーを促す。

 

「まてよチリリ。こんなんと付き合うトコまで追い詰められてんなら、俺が助けるって言ってるだろ。

 手をとれよ、一人で抱え込むなって。面倒見させろ」

 

「あたしらもう少し頑張ってみたいんだ。悪いけどもうあたし等に」

「うるせえブス。お前にはなにも言ってねぇよ。チリリと話してんだ」

 

 エスタが口を開くが、即座に罵倒され顔を強張らせた。

 

「今日はもう仕事だから勘弁ね。ほら行くよ、えっと、マショルカ?」

「お前は美人だが好みじゃねぇ。だがうちの連中に股開くなら飯の世話くらいはしてやるぞ」

「うぇー」

 

 ジーネが首を振って立ち去ろうとする。

 

「じゃあそういうことで、ウデンタさん。俺もこれから仕事ですから、手を離してもらえませんかね」

 

 俺はそういったが、相手はギリギリと握力を高めてきた。

 皮鎧の防護のない脇の下に指をえぐりこんできて痛い。

 

「おい糞坊主。俺のチリリに傷ひとつ付けずに戻してくれよ。かすり傷ひとつごとに骨一本だ。もちろん手なんか出しやがったら、お前の道具に釣り針刺して城壁から吊るしてくれるからな。

 バカじゃなけりゃ今の言葉をよく覚えて、きちんと盾になってこい。頼んだぜ」

 

 その上腰に膝蹴りを食らって、卓にあった竹のコップに顔面を叩きつけられた。

 砕けた。

 鼻もコップも。

 

「ちっ。弱くせぇ。

 じゃあ気を付けていってこいよ、チリリ」

 

 こっちが鼻血を押さえ、砕けて唇に突き刺さった竹の繊維を抜いている間に、ウデンタは肩を怒らせて自分のチームに戻っていた。

 取り巻きの男女がこっちを見て笑っている。

 

 攻撃を受けても戦闘に入らないという選択はできる。現地人にも可能だが、臆病者と侮られやすい。

 

(くそー)

 痛みに耐えつつHPを確認すると、6点ほど減っている。

 叩きつけられたコップを間に合わせ武器ダメージ2として、追加ダメージ+4か。

 並みの片手武器なら7点。

 誰かがあいつは【倍打3】を持っていると言ってたから、発動すれば14点。

 

 うん、逆らうのやめよう。

 

 その場を離れながら【賭け治癒5】を使う。

 これは発動判定に成功すると、出目の点数だけHPを回復するもので、逆にしくじると対象にダメージを与える。

 行動表に入れられないルールがあり、NPCは平時しか使えないし、3級より良くないと使えたものではないが、俺は5でもなんとか使える。

 

 出目《1:6》

 はい全快。

 

「大丈夫だった? ごめんね、巻き込んじゃって」

 

 組合の外に出ると、チリリ・リーダーが謝ってきた。

 

「平気。あちらさんは貴方に片思いってことか」

 

「そんな上等なもんじゃなくてさ、あいつ女をとっかえひっかえしてるだけだよ」

 エスタが吐き捨てる。

「お気に入りが二人いるのに、おっぱいの大きい新人見るとすぐ引っ張っていこうとするんだ。そんで一月もしないうちにどっかに消えちゃう」

 

 皆と歩き出しながら、俺自身も思い出してみる。

 なるたけ距離を置いてるグループだが、メンバーの出入り、特に女性は多かったように思う。

 

「入ったばかりの頃は、まだ明るい娘もいるんだけど、すぐ暗い顔になるのよね。

 飽きられたら他の男たちの相手させられるという噂よ。

 そして見えなくなる。

 私はそんな風になりたくないわ」

 乳でかリーダー・チリリが嘆息する。

 

「ここはマショルカ君が得意の武術でボーンと

 ごめん、無理だった」

 言いかけて途中でジーネが失速する。しょんぼりされても困るのだが。

 

「俺は単独行に特化してるから、戦闘特化のああいうのは苦手だ。

 神官に口利いてもらうとかないのか」

 

「彼すでに霊格一杯まで恩恵貰ってるから、もう神殿行ってないんだってさ」

 エスタが答える。

 

「まれとはいえ、技が伸びたり霊格が上がったりすることあるだろう。神殿にまるでいかないのはもったいないが」

 技能値や霊格の上昇は、霊格の空きがなくても貰えて成長できる。

 

「その辺は知らないけど」とエスタ。

 

 そりゃそうだ。

 

チリリ「さあ、前を向きましょう。

 マショルカ君には何か、私たちの助かるアイデアがあるんだって?」

俺「それに付いては路上で話すことではないんで、現地についてからってことで」

ジーネ「じゃあ何かおべんと買ってから行こうよ。組合でそうしようと思ってたのに邪魔されちゃった」

 

「そう言えばいつの間にか敬語やめてるね。そっちのがいいよ」

 ふと気づいたようで、チリリ・リーダーが指摘してきた。

 

「あ、そうですね。さっきの揉め事でちょっと頭に血が上って」

 

「年齢そう変わんないだろうし、タメでいいって」

 エスタがさっきのことを思い出しイラッとしたのか、口を尖らせていた。

 

「変わらない?」

 言われてチリリ・リーダーを見る。エスタ姉さんに目を向ける。

「そういえば」

 

「待て。マショルカ君いくつ!?」

 なぜか衝撃を受けたジーネがこっちに指を向ける。

「16」

「アンタあたいのこと幾つと思ったの!」

「クール系美人だから大人のお姐さんぽく見えて」

 

「顔はそうだが態度見りゃ子供っぽいだろ」

 エスタ嬢が余計な見解を挟む。

 

ジーネ「それは認める。で、いくつと?」

「えーと、18くらい?」

「二人を見ていうなー!」

 

「正解よ。あたしら三人18歳」

 チリリ・リーダーがにっこり答える。

 

 しまった。サバ読んで若めにいったのにピタリ賞か。

 チリリさんはそんなもんだが、ジーネは20代前半、エスタさんはその間に見えるんだよなあ。

 生活環境・栄養状態悪くて肌が荒れてるのが悪いんだ。きっとそうだ。

 

「だから敬語はやめよ。先輩面できるほど技量もないし」

「ではそうする。それでこの件は終わり」

 

「終わりではない。よく考えたらあたいにはずっと敬語なしじゃん」

「イタイタイタイ。だってそういうキャラじゃないだろ」

「やめなって。路上でいちゃついたらまた絡まれる」

 

 ジーネが頬を引っ張るのを、エスタが停めてくれた。

 

「そういえばマショルカ君は、さっき怪我してたように見えたけど、跡がないね」

「その件も後ほど。

 それと呼び名も呼び捨てにしましょう。戦場では簡潔なのがいいから」

「また丁寧に戻ってるよ」

 

 チリリの指摘をはぐらかす。

 というか怪我するの見てたろうに、ジーネが容赦なさすぎる。

 

 そのあと市場でパンと漬物を購入し、後で食べることにして街を出た。

 

   ◇ ◇ ◇

 

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