創立者達は生まれ変わる。   作:八重歯

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02 蛇と獅子

 

 

校長室を出た4人は一先ず今日は寮に戻ろうか、同級生達が心配するだろうし。と──ローシャだけはこっそりと図書館へ向かった、彼女の知識欲は止められるものではない──1人を除き各寮へ向かった。

 

 

ゴードンは千年前と場所が変わってませんように。と呟き、ポケットに両手を突っ込んだまま廊下を走る。目指す先は勿論己の名がついたグリフィンドール塔だ。

 

 

「あら、あなた新入生?合言葉は聞いてるかしら?」

「はいはいまた後でな」

「な──」

 

 

太った婦人(レディ)を手で押し退けるように払えば簡単に寮への扉は開いた、太ったレディの喚きを魔法で消しながら、昔は獅子の石像に合言葉を言う仕様だった筈だがいつ変わったんだろう、と首を傾げながら寮の談話室に入る。

 

そこではもう部屋を確認し、これから七年共に過ごすルームメイトと親交を深める新入生や、夏休みを経て懐かしい友人達と和やかに話す生徒達で溢れていたが、皆ゴードンを見ると一瞬言葉を飲み込んだ。

 

 

ゴドリック・グリフィンドール。

組分け帽子が叫んだその言葉に、当初は彼らもマクゴナガルと同じで言い間違いだと思っていた。だが、その後他の創立者の名前が告げられた事から間違いなく、何らかしらの意図を感じた。

こそこそと会話がされる中、ゴードンはちっとも気にせず談話室を見回す。

好きな赤と金のカラーで彩られたグリフィンドール寮の談話室は優しく彼を迎え入れる。

 

ああ、懐かしい。

千年前、ここを訪れて良く生徒達と遊んでたっけなぁ。

 

ゴードンは、ゴドリック・グリフィンドールである。

つまり、彼にとっては数々の好奇の視線や無遠慮な囁きも、最早慣れたものなのだ。過去何度もその視線を向けられた、心無い言葉をかけられた。──だが、彼は一般人ではない。ゴドリック・グリフィンドールなのだ。ただの幼い子ども達の視線や言葉を、彼が気にするわけがない。

 

 

談話室を大股で闊歩し横切るとまるでスキップでもしそうな足取りの軽さで男子寮へ向かう。──さて、部屋はどこだろうか。

 

 

 

「──おっと、ここか」

 

 

ゴードンは勢いのまま通りすぎそうになった足に急ブレーキをかけ──間に合わず数歩戻ったが──扉に貼られた羊皮紙に自分の名前がある事を確認しそのまま扉を開けた。

 

ここは、どうやら4人部屋らしい。

中には今後同室になる3人の少年が居た。

 

 

「よお、俺はゴードン・ブラウン。よろしくな!」

「僕はジェームズ・ポッターだ、よろしく!」

「シリウス・ブラックだ」

「…リーマス・ルーピンだよ、よろしくね」

 

 

にっこりと明るく笑うゴードンを見て、3人は少々ぎこちない笑みを浮かべた。

実は彼らは、ゴードンがここにくる前に彼の事について話し合っていたのだ、インパクトのある組分けであり──ゴードンは今、グリフィンドール生の話題の中心だ。…いや、彼を含め他の3人も同じだが。

 

 

「ねえ、君ってゴドリック・グリフィンドールと関係があるの?組分けで創立者の名前を言われた人なんて…前代未聞だよ!」

 

 

何に対しても好奇心旺盛で、グリフィンドール寮が大好きなジェームズは──何故なら尊敬する家族達、皆グリフィンドール寮なのだ──興奮したように鼻息を荒くし目を輝かせる。

 

 

「さてね、子孫とかじゃねーの?知らんけど」

「…俺、お前の次の組分けだったけどさ。…めちゃくちゃやりにくかった」

「ははは!悪ぃな!」

 

 

シリウスは低い声で呟く。

そう、シリウスはゴードンの次の組分けだった。代々スリザリン生しか排出しないブラック家ではじめてのグリフィンドール生になったシリウスの周りの反応は、それこそゴードンよりも冷ややかでどこか信じ難い懐疑的な目で見られていた。同じ寮生であっても、ブラック家が何たるかを知っている者達はかなり困惑していた。まあ、それでもシリウスはグリフィンドールに選ばれた、ならばきっと──闇に深い人ではないのだろう。そうわかっていても心情というものは折り合いがつきにくいものだ。

最も、汽車のコンパートメント内で既に打ち解け友人関係にあったジェームズは、シリウスがグリフィンドールに組分けされてとても嬉しかった。

 

 

「俺の事は気軽にゴードンって呼んでくれよ、俺もお前らの事勝手に呼ぶから!」

「勝手に呼ぶのかよ!」

「ゴードンは愉快な人だね!」

 

 

ジェームズは潑剌とした裏表のなさそうなゴードンの表情にすぐに彼を気に入り楽しげに笑う。シリウスもジェームズの笑いにつられるようにしてけらけらと笑った。

明るく、第一印象としては悪くない雰囲気を漂わせる室内で、リーマスだけが居心地の悪そうな顔で曖昧に、人畜無害そうな表情で微笑みながらベッドに座っていた。

 

リーマスは、実は人狼である。

満月の日に人の生命と運命を脅かす人狼へと変貌してしまう辛く哀れな性質を持っている少年だ。

彼は、正直なところ、自分は1人部屋だとばかり思っていた。でなければ、同室の彼らはすぐに月に一度消える自分に気がついてしまうだろう。

 

 

僕は人狼だ。友達は、つくらない、ただ勉強するだけだ、知識を得るために、この学校に来た。

 

 

ホグワーツに入学するにあたり、何度も心の中で呪いのように唱えた言葉が早くも解かれそうな足音を響かせる。

リーマスが飼っている内に秘めた獣は、人狼だけでは無い──他者との関わりという欲望を、彼は奥底で抱えていた。

 

 

「さて!寝巻きに着替えるか!明日から授業だしなぁ!いやー!楽しみ!」

 

 

ゴードンはベッドの脇に置かれた自分の大きなトランクを開けて中から寝巻きを取り出すと、何の恥じらいも無く──男同士なのだから当然だが──脱ぐ。

 

 

「…!ブラウン…その、傷は…?」

「おいおい…リーマス、俺の事はゴードンと呼べ!」

 

 

ゴードンは上半身裸のままくるりとリーマスを怪訝そうな目で見て指を振り窘める。

彼の引き締まった筋肉質な身体には、無数の傷跡が残されていた。それは古傷もあったが、中には真新しそうなものまであり──リーマスの体につく傷跡と、よく似ていた。

 

 

 

「あ、これ?俺の実家サーカスやってるんだ。んで、その魔法生物達と戯れてたらこうなった」

「うわー…痛そうだね」

「魔法生物って…ヒッポグリフとか?」

「ヒッポグリフも居るけど、観客は派手なのが好きだからなぁ。ヌンドゥとか白虎とかドラゴンとか人狼とか」

「…じ、んろう?」

 

 

ゴードンは同じ仲間達を指折り数えながらとんでもない事を口にした。

人狼、という言葉にリーマスはさっと表情を変える。シリウスとジェームズも顔を見合わせ少し不安げに眉を寄せたが──2人とリーマスの考えは異なっていただろう。

 

まさか、そんな、見せ物として扱われるなんて。…そりゃ、人狼の時は、魔法生物に分類されてもおかしくは無い。それでも彼らは──僕は、人間だ。

 

ゴードンはリーマスの揺れ動く困惑と深い悲しみ──そして怒りの感情をその目から読み取り、ほぼ無意識のうちに開心術でリーマスの全てを知った。

何せ、彼は組分け帽子の生みの親だ。誰よりもすぐれた開心術士であり、彼に比類する者は他の創立者ですら、居ない。

 

 

「──ああ、誤解するなよ。グインは…あ、その人狼の奴だけど。…まぁそいつは俺の家のサーカスで普通に雑用係として来てたんだけどさ、まぁ人狼だってわかって…行く当てなんて無いのに逃げようとしたからさ。そのままここにいろよって言ったら、自分から満月の日の特別ショーで、人狼として働きたいって言ったんだぜ?」

「…自分から、見せ物に?」

「おいおい!俺の家のサーカスは見せ物小屋じゃねーよ!」

 

 

ゴードンはからからと大口を開けて笑うと、蒼白な顔をするリーマスに近づき隣に無遠慮に座る。他人とここまで近づいた事が初めてであるリーマスはぎくりと肩を強張らせたが、ゴードンは気にせずリーマスの肩に自身の腕を回す。

 

 

「俺も出演するしな!俺って、魔法生物に好かれるんだよ。夏休みにはサーカスに戻って2ヶ月限定でまた復帰する予定だし、今度みんなで見に来いよ!満月の夜に来りゃ人狼が観れるぜ?」

「サーカスかあ、僕一度だけ父さんに連れられて見に行った事あるよ!楽しみだなぁ!」

「……人狼って、危険じゃねーの?何するんだ?」

「俺と人狼とで戯れ合うんだよ」

「じゃれ…っ!?そ、それは…よく親が許可したね?」

 

 

人狼と戯れ合う。

こんな恐ろしい言葉をリーマス達は生きていて初めて聞いた。…きっと、ゴードンの口以外ではこの言葉を聞くことはないだろう。

 

 

「ははは!サーカスでは全て自己責任さ!それに、俺は魔獣使いだからな、どんな魔法生物も俺にとっちゃ可愛い子猫ちゃんさ!」

「いやー…なかなかの大猫ちゃんだと思うよ」

「まぁ今度観に来いって!リーマス、お前もな!」

 

 

ゴードンはバシバシとリーマスの背中を叩き──線の細いリーマスの体は前後に大きく揺れた──笑いながらようやくリーマスの隣から自分のベッドに戻り着替えを再開させた。

「うん、いつかね」とリーマスは曖昧に答えながらも──同族と、少し会ってみたい、会って、話をしてみたい。そう考えた。

 

──同時に、この人なら…ゴードンなら、僕が人狼だと言っても受け入れてくれるんだ、と思い、また胸の奥の獣が貪欲な叫びを上げるのを聞いた。

 

 

 

ーーー

 

 

 

サラは確か地下室だったか、当時は寮で飼っていた蛇にとっていい環境にするために地下室にしたが、当時はちょっと寒かったな。まぁ、常に暖炉に火は灯っていたが。──などと考えながら地下へ向かう。

 

階段を降り湿った剥き出しの石壁の前で足を止める。トントン、と手でノックすれば簡単に扉は開かれた。

 

 

荒削りの石造りの天井や壁はどこか冷たい印象を与えるが、暖炉や椅子は壮大な彫刻が施されてあり寮全体がゴシック様式の作りとなっていて、美しい。

 

サラ本人が魔法をかけ作った彫刻は千年の時を経ても、変わらずそこにあり、懐かしさからサラは椅子の少し角が丸まった彫刻を指で撫でた。

 

 

「君は…あの組分けの──…。私はルシウス・マルフォイだ、五年生で、監督生をしている」

「サラ・シェルターだ。監督生…ふむ、監督生とは…?」

 

 

サラは形のいい唇に手を当て首を傾げる。そんなもの、作った当初は無かったのだが。

 

 

「…君の親は、ホグワーツについて教えてくれなかったのかね?」

「ふむ……?」

 

 

まさか、マグル生まれか。とルシウスは軽蔑混じりの嘲笑を浮かべる。

サラは小首を傾げたまま目を細め、ルシウスの心を開心術で読み解き──サラザール・スリザリンの純血主義がこんな影響を与えていることに、内心苦笑した。…いや、きっと前世の自分なら両手を上げて喜んでいただろう。

 

 

「──僕の親はサプライズが好きでね、この学校について何も教えてくれなかったのだよ」

「…そうか。…サラ…君は、サラザール・スリザリンに…何か関わりがあるのか?」

 

 

ルシウスの直接的な問いかけに、談話室内が静まり返る。組分けの一件から、スリザリン生皆がそれを気にしていた。創立者の名前が呼ばれたのは、きっと帽子ミスでは無い、と。

 

 

「ふむ…。明言は避けよう。こんなご時世だしな。…さてさて、ルシウス。僕のペットのレギーだ」

「……蛇?」

 

 

まさか、蛇を飼っているだけで創立者と関わりがあるとでも言いたいのか、とルシウスは怪訝そうに眉を寄せる。勿論蛇をペットにする事は──まぁ、珍しいかもしれないが、居ないわけではない。ペットショップにも、蛇は陳列されている。

 

 

サラは「レギー?」と優しく呟く。

すると空気の漏れ出すような鳴き声を上げながら、するりと真っ白な蛇がサラの襟元から顔を出した。 

 

 

「サラ、この人は?」

「ルシウスと言うらしい、マルフォイ家のご子息サマだ」

「へー、興味ないね」

「レギーは食事の事と僕以外に何も興味無いだろう?…だが、この子どもは僕に興味があるらしい」

「ふーん?」

「さて、ルシウス、そしてこそこそ話を盗み聞きしている諸君。僕は蛇語使いだ。──これでいいかね?」

「…まさか…。…サラザール・スリザリンの子孫…?」

「ご想像にお任せしよう」

 

 

サラは何故か怯えたような目で驚愕するルシウスに笑いかけ、そのままくるりと談話室内を眺め、こちらを見ていた生徒達に不敵に微笑むともう用は無いとばかりに男子寮へ向かった。

 

 

「──おや、ここか」

 

 

サラは一つの扉の前で足を止め、ノックせず扉を開く。

どうやら、2人部屋らしい。スリザリン生は他の生徒と比べて何故か少ないため、まぁ部屋が有り余っているのかもしれない。

 

 

「やあ。僕はサラ・シェルター。7年間よろしく頼む」

「…セブルス・スネイプだ。…よろしく」

「そうか、セブルス。──さてさて。君は蛇は好きか?いや、嫌いでもいいが、僕は蛇を飼っている。嫌いなら諦めて好きになるよう努力しろ」

 

 

セブルスが何か言う隙も与えずつらつらとサラは言うと蛇をベッドに優しく乗せた。蛇は鎌首をあげ部屋中を見渡す。

 

 

「割と広いね?」

「そうだな、作り的に言えば4人部屋だからな。ふむ、快適に過ごせそうだ」

 

 

あまりに無遠慮な物言いに苦情と嫌味の一つでも言い返そうと思ったセブルスだったが、その言葉は蛇とサラから漏れる空気の掠れるような音により消えた。

魔法界を知るものなら──蛇語が何を意味するのか、知っている。

 

 

「蛇語…。…まさか…?」

「ご想像にお任せしよう」

「…闇の魔法を…知ってるのか?」

「…ふむ…?」

 

 

サラは顔を歪な興奮で歪めるセブルスの心を読み──成程、この少年は闇の魔術に傾倒しているらしい。

今の魔法界で、ヴォルデモートの出身寮だったスリザリンへの風当たりは強い。さらにヴォルデモートは蛇語使いだと知られており──まぁ、蛇語を話せ、組分けでサラザール・スリザリンの名を叫ばれた僕の事を闇の魔法使いだと思ってもおかしくはないか。

 

 

「知っていたとしても、会ったばかりの君に言う理由は無いな」

「……、…そうか」

 

 

ばっさりと切り捨てられた言葉に、セブルスはぐっと言葉に詰まると、目を伏せた。

リリーと離れてしまった今、この寮で知り合いは居ない。だが──同じ魔法族だ、きっと、新たな友人なれる、そうセブルスは密かに期待していたのだが、サラの冷たい言葉に出鼻を挫かれた。

 

 

「…ま、今日は初日だ。君が信頼に足る人だとわかれば…色々教えよう」

「…、…ああ」

「セブルス、僕の事をサラと呼ぶ事を許そう」

 

 

7年間同室のよしみだ、嬉しいだろう。と美しく笑うサラに、セブルスは何とも言えず喉の奥で「サラ…」と呻くように呟いた。

とても美しく、飄々としていて掴み所のない人だ、そうセブルスは思った。

 

 

 

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