創立者達は生まれ変わる。   作:八重歯

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05 勝負!(獅子と蛇)

 

時間割が配られた。

生徒数に対して、科目を担当する教師は1人しか居ないホグワーツでは、たびたび合同授業が行われる。そうしなければ1人の教師が全学年を持つことは不可能なのだから仕方のない事だ。1つの学年を4つに分ければそれなりに少ない人数になり──年によってまばらだが、今年度の一年生は各寮で15人から20人程度だった──合同授業である事にさして問題はない。

 

つまり、犬猿の仲であるスリザリン生とグリフィンドール生の合同授業があったとしても、仕方のない事だ。

毎年のことながら、時間割を確認した生徒達から唸り声とため息が響く大広間で、ゴードン達も配られた時間割を見ていた。

 

グリフィンドールの一年生に配られた時間割の内容は以下のようなものだった。

 

 

月曜日。

1、2限目、魔法薬学 スリザリンと合同

3限目、呪文学

4限目、変身術

5限目、空き時間

 

火曜日。

1、2限目、闇の魔術に対する防衛術

3限目、空き時間

4限目、薬草学 ハッフルパフと合同

5限目、空き時間

 

水曜日。

1限目、薬草学 ハッフルパフと合同

2限目、変身術

3限目、空き時間

4、5限目 飛行訓練 スリザリンと合同

 

木曜日。

1限目、変身術

2、3限目、闇の魔術に対する防衛術

4、5限目、空き時間

夜、天文学

 

金曜日。

1限目、呪文学

2限目、魔法史

3限目、薬草学 ハッフルパフと合同

4、5限目、空き時間

 

 

 

「割と合同授業が多いな」

 

 

ゴードンは他の寮との合同授業が多い事が嬉しかったが、レイブンクローとだけ合同授業がない事がとても残念だった。しかし、隣にいるジェームズ達は複雑な表情をしながら鞄の中に時間割を片付けた。

朝食前の一件で、スリザリン寮だからとはいえ差別するのは間違っているとルカやゴードンに言われ、ジェームズは一応納得はしたが、やはり長年父親や親族からグリフィンドール寮の素晴らしさと、スリザリン寮に対する批判的な思想を植え付けられているジェームズの心はまだ納得はしていない。

この年代の子供というものは、親の考えが絶対であり、全ての指標なのだから仕方のない事だろう。

──だが、ある程度親元から離れれば、子供たちの世界は別のもので埋め尽くされる。

それは周りの環境であったり、友人だろう。若く柔軟な彼らは闇に染まるか光を掴むか、間違いなく長く付き合う友により変わると言っても過言では無い。

 

ジェームズ・ポッターも、今はまだ数多の可能性を秘めているそんな少年に過ぎない。彼が今後どう成長していくかは、やはり他の子どもと同じように──付き合う友人によるだろう。勿論、それは彼に限ったことでは無い。

 

 

1限目の授業が行われる教室に移動する為に生徒達はぱらぱらと大広間を出て行った。

ゴードン達も、その流れに乗って魔法薬学が行われる地下室へ向かう。

 

 

「記念すべきホグワーツの授業が…魔法薬学かぁ…」

 

 

それも、スリザリン生と合同だなんて。とジェームズは心の奥で呟く。

先頭を歩いていたゴードンはポケットに手を突っ込んだままくるりと振り返り、楽しげに笑った。

 

 

「苦手なのか?」

「苦手じゃ無いよ。…でも、僕は呪文学か変身術が好きかな」

「あーわかる。俺も大鍋を混ぜて細々した調合するより、杖使う方が好きだ」

 

 

由緒正しい名家出身のジェームズとシリウスはホグワーツ入学前に家で予習と称してある程度の勉強を進めていた。元々才能があり賢い彼らは特に苦手な科目など無かったが、勿論好みはある。

と、いうよりも、一般的に魔法薬学や薬草学はやや不人気であり、やはり杖を使う呪文学や変身術が人気だと言えるだろう。

 

 

「苦手ならサラに教えてもらえよ。多分、ホグワーツで誰よりも魔法薬学が得意だぜ?」

「ふーん…。まぁ、万が一…授業で躓くことがあったらね」

 

 

ジェームズはそう言って肩をすくめる。

まだ授業を受けてもいないジェームズだったが、自分が他の同学年の子どもよりは間違いなく優れていると、ジェームズはしっかりと自覚していた。

専属の家庭教師に褒められ、両親に間違いなく首席になれるだろうと言われ続けていたジェームズはそれが当然だと微塵も疑っていなかった。

 

 

「リーマスは魔法薬学得意か?」

「えっ…。…その、家で調合なんてしたことないから…わからないかな」

 

 

ゴードンの疑問にリーマスは困ったように笑う。もしかして一般的な魔法族では当たり前のように入学前に調合を行なっているのかと、既に自分はスタート地点から出遅れてしまったのかと思い、リーマスは表情を曇らせた。

人狼という性質のせいで何度も家を引っ越し、両親は仕事もままならず、ルーピン家は裕福ではない。親からの確かな愛情を感じていて不幸ではなかったが──他者から隔離された生活は、幸せでは、無かった。

ホグワーツに通う事になり、魔法使いである父はいくつかの魔法とホグワーツ魔法学校の事、一般的な他者との付き合い方を教えてくれたが、やはりそれでは不十分だったのかとリーマスは不安だった。

 

 

「俺も家で調合した事ねぇなぁ。シリウスとジェームズの家がおかしいんだよ。ふつー家に調合台とか大鍋なんてねえよ」

「え?そうなの?薬草棚も無いの?」

「調合専用部屋って…あるよな?」

「うん、僕の家には二部屋あったよ」

「俺の家もそうだ」

「ははは!普通は、ねーよ」

 

 

普通は、無い。

だがジェームズとシリウスは普通では無い環境で生きてきた。きょとんとする2人を見て何故か爆笑するゴードンに、ジェームズとシリウスは少しムッとすると「普通、あるって…」ともごもごと言い返した。

 

リーマスはこれでは2対2でどっちが普通なのかは判断できなかったが、少なくともゴードンの家にも大鍋や調合専用部屋なんてないのだと知ると少し安心する。自分がおかしいわけでは、なさそうだ。

 

 

「記念すべき学生生活1日目だ!誰が1番加点されるか勝負しないか?」

 

 

にやりとゴードンは悪戯っぽく笑う。

ジェームズとシリウスは顔を見合わせたが楽しげに同じように笑うと軽く頷いた。

 

 

「いいね!勝者には…そうだなぁ…蛙チョコ1ダースってのはどう?負けた3人で払うんだ!」

「ついでに百味ビーンズもつけるか?」

「それは余計だろ!」

 

 

さくさくと勝負の内容を決めるゴードン達に、リーマスは聞いたことのない食べ物らしき名前に首を傾げる。

 

 

「蛙チョコ…?百味ビーンズ…?」

「食べた事ないか?蛙チョコってのは、まぁ…そのままだな。蛙の形したチョコレートだ」

 

 

シリウスが指で輪をつくり、「これくらいの大きさだ、かなり甘い」と蛙チョコの説明をする。

ジェームズはくすくすと悪戯っぽく笑い頷いた後、「百味ビーンズは、素晴らしいゼリービーンズさ!まぁ、食べればその素晴らしさがわかるよ!」とちらりとゴードンとシリウスに目配せをする。

その意味がわかった2人はにやりと笑い、リーマスの肩を両隣から組んだ。

 

 

「そうそう!まじでうまいぜ?」

「ああ!あれ食べた事ないなんて勿体ねぇなぁ!うん、リーマスが一位にならなくても、俺らが奢ってやるよ!」

「あ、ありがとう…?」

 

 

リーマスは両側から肩を組まれたことなど初めてであり、この距離感は正しいのか──出会ってまだ二日しか経ってないのに──分からずぎこちなく礼を言った。

 

 

 

 

 

地下室に作られた魔法薬学の教室は調合に使う道具や並べられ、薬草独特の匂いが漂う。

既に数名のスリザリン生とグリフィンドール生が席についていたが、見事な程に教室の真ん中でカラーが分かれていて、それを見た途端ゴードンは「なんか、グリフィンドールとスリザリンが沢山居るとクリスマスみたいだな!」と、誰もが思っていたがけっして口にはしなかった事をはっきりと言い、ただでさえ寒い地下室の温度が2度は下がっただろう。

 

 

「サラ!んで、セブルス?だっけ?隣空いてる?」

「ああ、空いている」

「……そうだな」

 

 

サラとセブルスは教卓の目の前にある丁度スリザリン生とグリフィンドール生が分かれる境界線あたりに座っていた。

サラは数多くある科目の中で、サラザール・スリザリンとして生きていた時代は最も魔法薬学を得意としていた。後世に伝わっている魔法薬の幾つかは、彼が発明したものがある。尤も、世間には知られていない闇の魔法薬と呼ばれる危険な薬ばかり生み出していた為、普通の生徒では閲覧することの出来ない書物にばかり名が記されているのだが。

 

 

境界線上にいる2人の隣にグリフィンドール生のゴードンが座っても、なんら不思議ではない。

だがジェームズは眉を顰め、離れた場所にも幾つも席が空いているのを確認した後、座って教科書を机の上に広げるゴードンにだけ、声をかけた。

 

 

「僕たちは向こうが空いてるし──」

「ん?前じゃなくていいのか?教卓に近い方が、勝負に有利じゃねえの?」

「……それもそうだね」

 

 

一瞬、スリザリン生が多いこの空間に、勝負の事を忘れていたジェームズだったが、確かに教師にアピールするには前方に座り意欲を示した方がいいのかもしれないと思い直し、なんとなくゴードンの掌で転がされているような気がしないでも無かったが──ゴードンの隣に座った。

それにつられるようにして、シリウスがジェームズの隣に座り、リーマスも同じようにシリウスの隣に座った。

 

 

「何の調合だと思う?」

「一年生のレベルだからな…ポリジュース薬じゃないか?」

「あー。たしかに。…でもあれめちゃくちゃ時間かかるくねぇか?一発目だし…生きる屍の水薬とか」

「ああ…あれは簡単だからな」

 

 

どんな薬を調合するのか、楽しげに予想を立て合うゴードンとサラの会話を聞いていたジェームズ達含め、ある程度の魔法薬学の知識がある生徒達は心の中で「それは無い」とつっこんだ。

 

ポリジュース薬も、生ける屍の水薬も、どう考えても一年生で学ぶレベルを超えている。というか、この2人は教科書を見ていないのだろうか。教科書を見れば、作り方が初めの方に載っているおできを治す薬かしゃっくりを止める薬だと予想できるはずだ。

 

 

「あ!なあ、サラとセブルスも勝負に参加しないか?」

「勝負?…ほう、良いだろう」

「ちょっと、ゴードン!勝手に決めないでくれよ!」

 

 

ゴードンは良い提案だと手を叩いたが、ジェームズはすぐに噛み付くようにゴードンを睨む。

だがゴードンは意外そうな目でジェームズを見た後「ははーん?」とにやにやと意地悪げに笑う。

 

 

「勝つ自信がないか?」

「そうじゃない!」

「じゃ、いいだろ?勝負は参加者が多いほど楽しい!」

「…シェルターと…スネイプが嘘を言うかも知れないだろ?同じ授業はこれだけだしな」

「そう!それが言いたかったんだよシリウス!」

「僕は勝負事に関して、嘘を吐くなど愚かなことはしないさ」

「サラもこう言ってるしさ!…じゃあ勝者には…爆発ボンボン1ダースとスニッチキャンディも追加だ!これは俺が出す!──どうだ?」

「えっスニッチキャンディ!?あれって、入手困難じゃあ…」

 

 

渋い顔をしていたジェームズだったが、「スニッチキャンディ」の言葉にぱっと表情を変える。クィディッチが好きなジェームズは、一度そのお菓子を食べてみたいと思っていた。だが、スニッチキャンディは生産数が少なく、不定期にハニーデュークスに並ぶレア商品だ。

何度もハニーデュークスに行き、それを探したが、今まで食べた事は無かった。

 

 

「俺の家はサーカスやってるって言っただろ?贈り物で、手に入れたんだよ」

「──のった!」

「よし!交渉成立!」

 

 

ジェームズは手を上げ、ゴードンはその手をパンと叩いた。

サラとセブルスが勝負に参加するのは何となく嫌だったが、それよりもスニッチキャンディを手に入れる方がジェームズにとっては優先すべき事項であり、下り坂になりかけていた気分を一気に上昇させると鼻歌を歌いそうな程上機嫌になり教科書を開く。

 

シリウスとリーマスは、サラとセブルスが勝負に参加しようが正直、どちらでも良かった為何も言わななかった。

シリウスは実は、スニッチキャンディを貢物で食べた事があったが──なんとなく、それをジェームズに伝える事は無かった。

 

 

「……待て、何の勝負なんだ?」

 

 

口を挟む隙も無く、何故か自分まで勝負に参加する事が決定してしまったセブルスは、怪訝な顔で低く呟く。

そういえば勝負内容を聞いて無かったと、サラも思い出し、答えを求めるようにゴードンを見た。

 

 

「今日1日で1番加点されたやつが勝者!敗者達で蛙チョコ1ダースを買って、勝者に捧げるんだ」

「蛙チョコか…僕は甘いのがあまり好きではないが…まぁ、良いだろう」

「……拒否権は?」

 

 

セブルスはゴードンに聞いたが、ゴードンの「逃げるのか?」と言う言葉にそれ以上何も言わず、苦々しい顔をしたまませめてグリフィンドール生には──ポッターとブラックには勝ちたい、と内心で闘志を燃やした。

 

 

授業開始のチャイムが鳴り、少し遅れて魔法薬学教師であるスラグホーンが扉を開け、にっこりと柔和に微笑みながら教卓の前まで進み、初々しさを見せる生徒達を見回した。

 

 

その中でも最も意欲的な目を見せるゴードン達に、今年はなかなか優秀な生徒が多いかもしれない。と彼の直感が囁く。

スラグホーンは勿論、まだ一言も話してないが、組分け時に創立者達の名を叫ばれた4人の子どもたちに目をつけ、早いうちからスラグ・クラブに誘うつもりだ。──この授業が終わってから声をかけようか。

 

 

 

「さて、私はホラス・スラグホーンだ。この魔法薬学を担当する。…まず初めは出席を取ろうかな。呼ばれた者は返事をしてくれ」

 

 

こうして、ゴードンにより巻き込まれたサラとセブルスを含め6人の戦いが始まったのだった。

 

 

 

 

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