創立者達は生まれ変わる。   作:八重歯

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06 魔法薬学(蛇と獅子)

 

 

戦いの火蓋が切られた。

ゴードンとジェームズとシリウスは見るからに闘志を燃やし教卓に立ったスラグホーンを見つめ、サラは涼しい顔をしてスラグホーンの授業を楽しみにし、セブルスはジェームズとシリウスの2人には負けてなるものがと静かに燃え、リーマスは正直参加を少し後悔し始めていた。

 

 

 

「さて、今日はしゃっくりを止める薬を作る。この薬は特に重要なものなのだが、わかる人はいるかね?」

「はいはい!」

「君は…ゴードンだね、どうぞ?」

「無言魔法を使えない魔法使いや魔女は魔力を言葉に乗せて明確に発言しないといけません。アクセントひとつで誤った魔法になる事が多く、その危険性を回避するために『しゃっくり止め薬』は必須です。…実際、呪文を唱えている最中にしゃっくりが出て、悲惨な結果になった例が毎年数多く報告されています」

「その通り!グリフィンドールに3点加点しよう」

「ありがとうございます!」

 

 

スラグホーンは満足気に笑い、ホグワーツ開始1回目の加点はゴードンのものとなった。勿論サラ達も──魔法界にやや疎いリーマスとセブルスを除いて、だが──手を上げていたが当てられたのはゴードンであり、彼はふふんと得意気な顔をすると彼らを見てにやりと笑った。

 

 

「さて、その『しゃっくり止め薬』の材料は、ペンナゴの葉に、ヂィザルヌの第2胃、海ミミズの粉末だね?──少々難しい質問になるかもしれないが…さて、これを一つ変えると、とある薬が出来る。何を変えて、どんな薬が出来るか……分かるかね?」

 

 

高らかに手を挙げたのはサラとゴードンだけだった。

「そんなの教科書に書いてたっけ?」とジェームズはシリウスにひそひそと話しかけ、シリウスも肩をすくめて分からないと首を振った。

 

 

「よろしい!…サラ、どうぞ?」

「はい。ヂィザルゲの第2胃を第5胃に変えれば『しゃっくり止め薬』ではなく、『しゃっくり促進薬』になります」

「見事!よく端々まで読み込んでいたね!スリザリンに3点加点しよう」

 

 

サラはごく当たり前のように静かに答える。スラグホーンは目をつけていた生徒2人ともかなり優秀らしいと分かると嬉しそうに何度も頷く。

しかしサラは加点を喜ぶ事なく、更に口を開いた。

 

 

「──ですが、ペンナゴの葉ではなく、ペンナゴの根…それも、5センチ以下の新根に限りますが。それとヂィザルゲの第2胃、そして海ミミズの粉末ではなく、海ミミズの髄液──まぁこれは希少素材ですが──を組み合わせ、満月の夜から次の満月まで、1ヶ月間煮込み蒸留した物は『永久しゃっくり止め薬』になります。つまり、これを一度摂取すればしゃっくりによる魔法の失敗の不安は一生涯解放されます」

「素晴らしい!よく知っていたね?スリザリンにさらに5点加点だ!──さあ、みんな、サラの頭脳に拍手!」

 

 

スラグホーンの言葉に促されたスリザリン生達が、サラを尊敬の眼差しで見つめパチパチと拍手を送る。

ゴードンは「はぁ?知ってたし、追加で言うのずるくねぇ?」とぶつぶつと呟き、ジェームズに同意を求めたが──その薬の存在を知らなかったジェームズは曖昧に笑って誤魔化した。

 

生徒達はスラグホーンが黒板にチョークを浮遊させスラスラと書き示す『しゃっくり止め薬』の作り方や効能を羊皮紙に書き取る。勿論板書されたものだけではなく、スラグホーンが時折挟む小ネタ──と称する重要そうだが、板書されない言葉もしっかりと書き写した。

 

 

「──さて、では調合に移ろうか。各自好きな大鍋について、材料は準備してあるから、それを使いなさい。制限時間は1時間……それでは、開始」

 

 

スラグホーンの号令により、生徒達は立ち上がると大鍋のある調合台へと向かう。4人が同時に作業できる机だった為、自然とゴードン、ジェームズ、シリウス、リーマスが同じ調合台を選び、サラ、セブルスとその他2名のスリザリン生が同じ調合台になった。

 

手際よく材料を刻んでいくサラを横目でチラリと見たセブルスは、教科書と板書を写した羊皮紙を見下ろして怪訝な目でサラを見る。

 

 

「…作り方が異なるのは、何故だ?」

「ああ、あの作り方はいわば──初心者向けだ。こうする方がより短時間で作れるのだよ」

「作った事があるのか…」

「まぁな」

 

 

今世では勿論、家に調合器具があるわけもなく、数々の材料を見た事すらなかった。しかし前世では何度ホグワーツで生徒達に教えたかわからない。何度も無数の魔法薬を調合し、新薬を生み出した。まだ世にない薬を生み出した時が何より心が踊り──勿論新薬を作る事は難しく、何度も失敗を繰り返したが、その時間や、問題点を考える事が楽しくて仕方がなかった。

 

 

サラは一切教科書を見る事無く迷いの無い手付きで材料を切り、大鍋の中に入れるとトロ火にかけてぐるりと優しく混ぜる。

美しいサラが口元に微笑みを浮かべながら鍋を掻き混ぜるその様子に、何人ものスリザリン生の女子がぽっと頬を赤らめた。──作っているのは愛の妙薬(ラブポーション)では無いはずなのだが。何故か魅了させる女生徒が続出していた。今作っているのはごく簡単なしゃっくり止め薬である。

 

 

ゴードンも、魔法薬学は一般的な大人程度の知識はある。だが生前それ程頻繁に魔法薬を調合したわけでは無く、サラのような中級者向けの調合方法は知らなかった。

千年前、まだ魔法使い達の数がより少なく、閉鎖的で──仲間を探す事すらなかなか難しかった時代は、今の時代のように何でもすぐに魔法薬を購入出来るわけもなく、材料を揃えるのも苦労した。

 

懐かしいな、たまに調合失敗したら、それこそサラザールに怒られたっけ。貴重な材料を無駄にするなって。その失敗作を何とかしようと頭を捻って…たまたま新薬ができた事もあったなぁ。

 

 

ゴードンはサラをチラリと盗み見て、その真剣な眼差しで鍋をかき混ぜる横顔を見て笑う。姿形は変わってしまったが、薬に対する真摯な姿は変わっていない。サラザール・スリザリンという男は、どんな簡単な薬でも──それこそ、眠ってでも作れるようなものですら、真剣に一つ一つ丁寧に作り上げていた。

 

 

「──よし!後は混ぜるだけだなー」

 

 

ゴードンは止まっていた手を再開させ、全ての材料を教科書に書かれている通りに大鍋に入れると匙でぐるぐるとかき混ぜる。後はこのまま煮込むだけであり、ゴードンは同じ机にいるジェームズ達の鍋の様子を覗き込んだ。

 

 

「お、ジェームズとシリウスも成功しそうだな」

「まぁね、これ作った事あるし」

「ああ、俺もだ。…リーマスは……」

 

 

ジェームズとシリウスの大鍋の中は薬の成功を意味する鮮やかな黄緑色になっていたが───リーマスの大鍋の薬は、何故か灰色になっていた。

 

 

「…リーマス?順番通り…調合したんだよな?」

「うーん、そのつもりなんだけど…おかしいなぁ…。…材料ちょっと足しとこうかな?」

「あ、おいちょっと──」

 

 

あんまりそれは賢いやり方では無い。個々の材料が持つ特性を理解していなければ、そもそも失敗した薬に別の材料を足すのは命取りであり、高難度で──と、ゴードンが思った時には既に遅く。リーマスはぽいぽいと何の躊躇いもなく、大鍋の中に余ったペンナゴの葉を大量に投入した。

何故、ペンナゴの葉が余っていたのか?それは簡単だ、ペンナゴの葉は1.5ミリの幅に切り刻まなければならず、失敗した時の為にスラグホーンは多めに用意していたのだ。

 

『しゃっくり止め薬』本来の作り方は、まずペンナゴの葉5gを1.5ミリ幅に切り刻む。次に、ヂィザルゲの第2胃を10gずつ小分けにしたものを6つ。海ミミズの粉末1gを7つ用意する。

沸騰した真水1クォートに、ヂィザルゲの第2胃、海ミミズの粉末、それぞれ小分けにしたものを海ミミズの粉末から交互に入れて行き、それぞれ3回ずつ入れた後でペンナゴの葉を投入する。その後はまた海ミミズの粉末とヂィザルゲの第2胃を入れるだけであり──つまり、難しいところといえば、ペンナゴの葉を1.5ミリ幅に切ることくらいだろう。

 

そして、リーマス・ルーピンという少年は、とりあえず教科書通りに──本人的には、作ったつもりだった。だがペンナゴのは1.5ミリ幅ではなく、ヂィザルゲの第2胃と海ミミズはそれぞれ決められた量ではなく──そもそも材料を入れていく内に、どれをどの順番で入れたのかわからなくなっていた。

 

 

つまり、簡単に結論を言おう。──大失敗である。

 

 

「あれ?……なんだか、固まってきたんだけど…?」

 

 

鍋をかき混ぜていた匙が重くなり、リーマスは首を傾げる。

灰色だった薬はペンナゴの葉の色である深緑に変わり先程よりはマシな色をしていたが、しかし、本来はさらさらとした水薬のはずが、何故か水飴のようにねっとりとしたものに変わっていた。

 

リーマスは不思議そうに鍋の中を見て首を捻っていたが、それをそばで見ていたゴードン達は乾いた笑いをこぼした。

 

 

結果、誰よりも早く完璧に調合したサラが3点の加点をされ。ゴードン、ジェームズ、シリウス、セブルスやその他大多数の生徒たちは時間内に完璧な薬を作り、それぞれ1点加点された。

 

サラが1回目の授業にして11点、ゴードンが6点、ジェームズとシリウスとセブルスが1点加点され──リーマスは残念ながら0点という結果で魔法薬学の授業は終了した。

 

授業終了のベルが鳴り、ゴードン達は教科書や羽ペンを鞄に詰める。

 

 

「次は俺たちは呪文学だ、スリザリンは?」

「闇の魔術に対する防衛術だ。レイブンクローと合同のな」

「へえ?いいなーグリフィンドール(俺たち)はレイブンクローとの合同授業無いんだよ」

スリザリン(僕たち)はハッフルパフとの合同授業が無いな」

 

 

ゴードンとサラは鞄の中から時間割表を取り出すと互いに交換し、内容を見た。

授業数は勿論同じだが、スリザリンは魔法薬学がグリフィンドールと合同であり、変身術がレイブンクローと合同だった。

後でローシャとルカの時間割も見てみたい、と2人は考えながら時間割表を返し、それぞれの友人の元へ向かった。

 

 

それを教卓から見ていたスラグホーンは、スリザリン生とグリフィンドール生である2人は何の抵抗もなく、仲が良さそうだと知るとさらに興味を持った。

 

 

スラグホーンという教師は、スリザリンの寮監であるが、どの寮の生徒たちも平等に見て自分の寮を贔屓する事はない。勿論、可愛がってはいるが──彼は、どの寮であっても分け隔てなく接し、何より優秀さの片鱗を持つ生徒が好きだった。そして、そのお気に入りの生徒を自分のコレクションに入れ、世話を焼き将来「スラグホーン先生のおかげです」と言われる事を何より好んだ。

そのスラグホーンが、創立者の名を叫ばれたサラとゴードンを逃す事はなく、次の授業へ向かおうとする2人に、朗らかな笑顔で声をかける。

 

 

「サラ、それにゴードン。少し話があるのだが、いいかね?」

 

 

サラとゴードンは顔を見合わせて頷き、友人達に先に行っててくれと告げ、何だろうか?と首を傾げつつも大人しくスラグホーンを見上げ話し出すのを待った。

 

 

「君たち、土曜の昼間は暇かね?一緒にランチでもどうだい?」

「え?…あー…はい?」

 

 

いきなりの誘いに訳がわからず、ゴードンは戸惑い、疑問符をつけたまま首を傾げたが、スラグホーンはそれをいい方向に解釈するとにっこりと笑い「良かった!では待ってるからね。勿論サラ、君も来るだろう?ほら、次の授業に行きなさい、遅刻させるわけにはいかないからね!」とくるりと2人を回転させ優しく押すとそのまま教室の外へ促した。

 

ぱたん、と扉が閉まったあと、ゴードンとサラは顔を見合わせて目を瞬かせる。

 

 

「あの教師は原石を集めるのが趣味らしいな?」

「…まあ…一度くらいは行っても構わないだろう」

 

 

直ぐに開心術でそれとなく心を見たゴードンはスラグホーンの真意を読み解き肩をすくめる。生徒の輝きを眺めるのが趣味だとは、いい趣味だな、と軽くゴードンは言うと階段を軽い足取りで上る。

サラもその後ろをついていき、ふと一階まで上がった先の廊下にセブルスが立って待っていることに気が付いた。

 

 

「セブルス。先に行っても良かったのだが」

「……僕の勝手だろう」

「まあ、それもそうだな。すまない。…それと、ありがとう」

 

 

サラは薄く微笑むとセブルスと共に闇の魔術に対する防衛術の教室へと向かった。

 

ゴードンはセブルスのようにジェームズ達が待ってはいないかと辺りを見渡したが──残念ながら誰もいなかった。

 

だが、ゴードンはちっとも気にすることなく呪文学の教室へと駆けて行った。

 

 

「──んん?」

 

 

呪文学の教室である2階へと向かう階段をまで向かうと、少し離れた階段の踊り場でうずくまる影を見つけ、足を止めた。

ここは動く階段の場所であり──きっと、慌てて階段に乗り、飛び移ったりしている内にどの階段を登れば良いのかわからなくなってしまったのだろう、とゴードンは考え、トン、と足先で床を蹴りふわりと浮かび上がるとそのうずくまる影の隣へ降りた。

 

 

「なあ、何してんの?」

「ひぃっ!」

 

 

いきなり話しかけれた事に驚き、その人影は悲鳴を上げたが、手すりにつかまりながら恐々と顔を上げる。ゴーストに話しかけられたわけではなく、ちゃんと生きている人で──それも、一方的に知っていたゴードンを見た途端ほっと表情を緩めた。

 

 

「き、きみは…ゴードン・ブラウン…?」

「んぁ?俺のこと知ってるんだ?お前、名前は?」

「えっと…僕、ピーター・ペティグリュー…グリフィンドールで…同級生だよ」

「そうなんだ?よろしくピーター!…んで、何でこんなとこに居るんだ?」

「うう…階段が、急に動き出しちゃって…その、教室には──あそこに行かなくちゃならないんだけど…階段が動いてくれないんだ…」

 

 

ピーターは遠くにポッカリと開いた壁の穴を指差す。そこは今2人がいる場所から最も離れ──尚且つ、見上げなければならないほど高かった。

 

 

「この階段、気まぐれだからなぁ」

 

 

動く階段って楽しそうだよね!と、ヘルガが言い出しロウェナが賛同し、魔法をかけたのである。たしかに楽しいだろうが、授業に遅れそうな時は──かなり面倒くさい。

 

 

「よーし、ちょっと鞄持って。捕まってろ!」

「え?──う、うわっ!?」

 

 

ゴードンは持っていた鞄をピーターの手に乗せると、困惑しながらも受け取ったピーターの背中と膝裏に腕を入れ簡単に抱きかかえる。

いきなり抱きかかえられるとは思わず慌てた声を上げるピーターを無視し、ゴードンはぐっと膝を折り高く跳躍した。

 

 

「わあああっ!?」

「舌噛むぞー?」

 

 

飛び上がったゴードンは空中に足場を作り、方向を変えるとまた軽く飛び、壁を蹴り上げ──踏まれた絵画がぷんぷんと怒り、ゴードンは「悪ぃな!」と叫んだ──別の場所にある階段の手すりを経由し、トントン、と簡単に呪文学の教室がある廊下へと到着した。

顔を硬らせていたピーターを腕の中から離せば、ピーターはそのまま廊下にぺたりとへたり込み、呆然とゴードンを見上げる。

 

 

「舌、噛まなかったか?」

「い──今のも、魔法…?」

「魔法と、俺の身体能力かな?…さあ、急ごうぜ、ピーター!」

 

 

よろよろと立ったピーターの背を叩き、ゴードンは太陽のように溌剌と笑う。ピーターは眩しそうに目を細めたが、次の瞬間には目を輝かせ「うん!」と元気よく頷き、さっさと行ってしまったゴードンの背中を追いかけた。

 

 

 

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