1日の授業が終わり、ゴードンはニコニコと満面の笑みを浮かべ夕食に向かうべく大広間の扉を開ける。その後ろにいるジェームズは悔しそうな顔をし、リーマスとシリウスは特に気にすることはなく──ただ、ゴードンの1日の加点っぷりを目の当たりにし、間違いなく学年一優秀な生徒だろうとは思っていた。
呪文学では真っ先に
さらに羽だけではなく分厚い教科書やジェームズが座っていた椅子までも浮かせたのだ。
ゴードンの浮遊呪文に呪文学教師であるフリットウィックは興奮したようにぴょんぴょんと机の上で跳ね飛び、グリフィンドールに5点を加点した。
勿論シリウスとジェームズも羽を浮遊させる事には成功し、それぞれ3点加点されたが──その前にゴードンが5点加点されているのだ、心から喜ぶ事は出来ないだろう。
リーマスも2人ほどでは無かったが、羽はふわりと宙に浮き、すぐに机の上に落ちてしまったものの、2点の加点…リーマスにとって、初めての加点を受けることとなった。
この呪文学の授業で羽を少しでも動かせたのはゴードン達4人であり、全くもって動かす事が出来なかった他の生徒は彼らを──特に、ゴードンを──羨望の眼差しで見つめた。
「ゴードンって、家で魔法とか使いまくってたの?」
「んー?…あー、ほら?サーカス団だし?ある程度盛り上げるために使ってたんだよ」
呪文学が終わり次の変身術に向かう廊下で思ったように加点されないジェームズはつまらなさそうに口を尖らせて呟く。
間違いなく、一年生の中で自分が最も優れた力を持つ生徒だと、授業が始まるまではそう信じ、疑うことはなかった。
しかし、魔法薬学ではサラの知識と調合のスピードと正確さに敵わず、呪文学では圧倒的な差をゴードンに見せつけられ──ジェームズの自尊心はやや傷付いていた。
間違いなく、ジェームズ・ポッターは優秀な魔法使いだった。
それこそ、ゴードン達がいなければ同学年の中で最も優れた魔法使いだっただろう。
入学前の努力と、持ち前の魔法センス、そして奇抜な発想により歳を重ねるにつれメキメキとその才能を開花させ、いずれは一目置かれる圧倒的存在になっていただろう。
しかし、ゴードンはゴドリック・グリフィンドールであり、サラはサラザール・スリザリンなのだ。
親から神童と呼ばれていたジェームズはたった11歳の子どもであり、その中で神童であろうとも…井の中の蛙であった、と言えるだろう。
最も偉大である創立者に──敵う者など、果たして存在するのだろうか。
「これで、俺は11点、ジェームズとシリウスが4点、リーマスは2点だな!」
「僕はもう勝てないと思うから…まぁ、ほどほどに頑張るよ…」
「…変身術がある!僕、得意科目なんだ!絶対負けない!」
「変身術かー…俺もそこそこ、自信あるけど……」
まだ勝負の行方はわからない!と、闘志を燃やすジェームズだが、リーマスとシリウスはゴードンの楽しげな表情を見て、半分諦めかけていた。
「奇遇だな、俺も変身術…得意だぜ?」
「……ゴードン、君が苦手な科目って…あるのかい?」
「んー?…そうだなぁ…」
ゴードンは少し空を見上げ──にやりと悪戯っぽく笑った。
「──無いな!」
「くっ…!」
不敵な笑みに、ジェームズは悔しそうに歯を食いしばる。これから受ける変身術も、どうやらゴードンの加点が約束されているような予感を彼らは感じ──それは、当然のように正解だった。
変身術では教師のマクゴナガルからマッチを針に変えると言う初歩中の初歩の変身魔法を教わった。
直ぐにジェームズはマッチを鋭利な針に変え、マクゴナガルから3点加点され得意げな笑みをゴードンに向けたが──勿論、ゴードンと、そしてシリウスも直ぐにマッチを針に変え、3点加点された。
ジェームズは何とか差を縮めようとマクゴナガルの授業に何度も「はいはい!マクゴナガル先生!!僕を当てて!」と挙手し存在をアピールした結果──あまりの煩さに当てるしかなかったマクゴナガルにより──何とか合計3点が加点された。リーマスもおずおずと挙手し、質問に正確に答え1点が加点されたが、それでもジェームズはゴードンの点数を抜くことは出来なかった。
1日の結果は、ゴードン14点、ジェームズ10点、シリウス7点、リーマス3点というものだった。
「あーー!悔しい!まさか、僕が負けるなんて思わなかったよ!!」
ジェームズはどかりと椅子に座ると卓に頬杖をつき、むっつりと頬を膨らませる。
それでも八つ当たりや癇癪を起こさないのは、ゴードンの確かな頭脳と魔法をこの目で見たからだ。
いや、むしろジェームズはかなり頑張った方だろう。事実、ホグワーツでは1年生1日目にして10点の加点を取れるものはなかなかいないのだ。
ゴードンは太いソーセージを食べながら溌剌と笑い、不貞腐れるジェームズの肩に手を回す。
「ははは!勝負は勝負!いやぁ、でもジェームズすごいと思うぜ?ま、あと一歩だったな!」
「…飛行術が今日だったなら、絶対に勝ってた!」
「おっ?今度飛行術でも勝負するか?」
「望むところだ!!」
「よーし、じゃあ魔女鍋ケーキ二つかけようぜ?」
「良いとも!」
ジェームズは、今まで同年代の子どもより頭一つ分は才能が抜きん出ていた。誰も、彼の土俵に上がることが出来なかった。
しかし、ゴードンという自分より紛れもなく優れた同級生が現れた──負けたばかりの今はまだ悔しさが多かったが、それでも嬉しかったのだ。
それは、ジェームズにとって、とても素晴らしい成長をうながす確かな経験となるだろう。
また新たな勝負事を決めているジェームズとゴードンに、シリウスとリーマスはちらりと顔を見合わせ苦笑した。果たして、卒業までにジェームズはゴードンに勝つことが出来るのだろうか必死なジェームズとは裏腹に、ゴードンは余裕を見せ──その本来の力をカケラほども、出していないように2人は思っていたのだ。
きっと教師がもっと高度な魔法を使うように言えば、そうしたであろう余裕と自信が、ゴードンには満ちていた。
「おやおや、まさか勝利は自分のものだと思っているんじゃないだろうね?」
くつくつと楽しげに笑いながらサラがゴードンの後ろから声をかける。少し離れた場所にむっつりとした表情のセブルスがいて、思わずジェームズは眉を顰めたが──何も言わなかった。
「俺は14点だ!んで──」
「僕は…10点だった…」
「俺は7点」
「僕は、3点だったよ」
「ほう?ならば──僕が勝者だな」
得点を聞いたサラは余裕の笑みを見せてゴードン達を見下ろした。
ゴードンは「うわっまじかよ!」と悲鳴を上げ悔しそうに顔を歪める。
「何点だったの?」
たしか、魔法薬学では11点加点されてたよね?とリーマスは首を傾げる。その後にスリザリン生がどの科目を受けたのかは知らないが、きっとその後に数点ずつ加点されていたとすれば…勝利するのはサラかもしれないと、リーマスは内心で予想を立てていたのだ。
「僕は、魔法薬学で11点。DADAで1点、薬草学で──10点の加点をされた。つまり、22点。圧倒的勝利だな。得意科目が2教科もあったからね、少々本気を出したが…手加減した方がよかったかね?」
「馬鹿言うな!勝負事はどんなに格下の相手でも本気を出す!これが騎士道だ!」
「ふふっ、それもそうだね」
ゴードンはサラに負けて悔しかったが、手を抜かれる方が許せない。
たまたまサラの得意科目である魔法薬学と、薬草学の授業があったため1日に20点を超える加点というとんでもない結果になったのだろう。1年生の1回目授業ということもあり、教授達が生徒の意欲を育てるために甘めに点数をつけているとはいえ──前代未聞の大加点には違いない。
「セブルスは何点だったんだ?」
「僕は…」
セブルスは、ちらりとジェームズとシリウスを見た。
2人は怪訝な顔をして、その視線を受け、強く睨み返す。
「魔法薬学で1点、DADAで1点、薬草学で6点加点された。…つまり、8点だ」
ジェームズには敵わなかったが、それでも憎い相手であるシリウスに僅か1点勝てている。セブルスは不敵にほくそ笑みシリウスを見下ろし、シリウスはその視線の意味に気がつくと苦虫を噛み潰したような表情で押し黙る。
「へー!中々頑張ったなぁ!ま、優勝はサラだけどな。よし、約束通りハニーデュークスに注文書送って蛙チョコ1ダース買うから。後でサラ以外で割り勘だぞー?他のお菓子は家から届いたら渡すからな」
「くそぉ…次は負けない!後でお金ちゃんと払うから!」
「…シェルターってカード集めてる?もし集めてねーならくれよ」
「ん?別に集めてない。シリウスは集めてるのか?」
蛙チョコに付属している著名な有名人のカードを集める子どもは多い。なかなかレアな魔法使いや魔女は当たらず、何百回も蛙チョコを食べても当たらない、と言う事もよくあるのだ。
シリウスは首を振り、少し優しく笑った。
「いや、俺の弟──レギュラスって言うんだけど──弟が集めててさ」
「ああ、なるほどな」
その優しい微笑みは、弟を可愛がっているのがよくわかる──兄としての微笑みだった。
「ついでに百味ビーンズも買うから…リーマスにプレゼントするぜ!」
「え?本当にいいの?…ありがとう」
リーマスは、ゴードンとシリウスとジェームズの何か企むようなにやりとした笑い方が少し気になったが、お菓子はお菓子だろう、と喜んで頷いた。
後日。
百味ビーンズと蛙チョコがフクロウ便で届き、早速ゴードンは「そういえば食べたことがない」というサラと、ついでにセブルスをグリフィンドールの長机の後方に引っ張り。
リーマス、サラ、セブルスに一粒ずつ百味ビーンズを選ばせ──食べさせた。
途端に顔を顰め口を抑えるリーマスと、「うっ」とえずくサラ、2人の反応を見て目を瞬かせるセブルスの姿があった。
ゴードンとシリウスとジェームズは腹を抱えて爆笑し、実は百味ビーンズは半分がとんでもない味であり、食べられたものではなく──一種の罰ゲーム菓子なのだと種明かしをした。
「ははは!は、腹いてぇ…!何味だったんだ?」
「…なんだろ、……土…?みたい…思いっきり砂の上を転んで口の中に土が入ったみたい…」
「土味か!あれ、不味いよなぁ!」
シリウスはリーマスが食べた味が何だか分かると「わかるわかる」と頷く。
リーマスはすぐに机の上にあったカボチャジュースで流し込んだが、それでも何かまだ味が残っているのか口の中を嫌そうにもごもごと動かしていた。
シリウスは土味だと知り、それでもまだマシな方だと笑う。これでマシだなんて、一体どんな味があるのかとリーマスは箱の中に入っている色鮮やかなゼリービーンズを見ながら思った。プレゼントすると言われたが、正直全て食べ切れる自信が全くない。
「サラは?何味?」
「……うっ……無理だ、これ、吐く…!!」
サラは口を抑え、何度も込み上がる吐き気に耐えていたが──ついに耐えきれず蒼白な顔をしてその場から駆け出した。間違いなく向かう先はトイレだろう。
「何味だったんだろ…そんなに?吐くほど…やばいのがあるの?」
「多分、腐った卵味だね。サラが選んだ色のやつ…僕も一度当たっちゃった事があって…」
リーマスの困惑した声に、ジェームズは当時のことを思い出したのかぶるりと身体を震わせ「おえーっ」と吐くような仕草をした。
「あれは、この世の食べ物じゃないよ」
「腐った卵味はなぁ…サーカスの団員が一回食べてたけど、その場ですぐ吐いてたな…ご愁傷様…。…セブルスは、その様子だと…美味しかったんだろ?」
「ああ…たぶん…いちご味、だな」
「なんだ!真っ赤だったから、臓物味かなって思ってたのに、つまんないの」
セブルスは口の中にまだほんのりと残る甘酸っぱいいちご味を味わいながらそう答えたが、ジェームズはつまらなさそうに百味ビーンズの箱を手のひらの上で投げていた。
臓物味など、絶対食べなくない。
セブルスはじろりとジェームズを睨んだが、ジェームズは「何か言いたいことあるなら言えば?」と不敵に笑う。
2人の間でばちばちとした火花が散る中、トイレから戻ったサラがいつもより顔色を悪くさせたままふらりと現れた。
そのまま無言でジェームズの手から百味ビーンズの箱を取る。
そして俯き、ゼリービーンズを取り出すと「大丈夫だったか?」と楽しげに笑うゴードンの口の中に思い切りつっこみ、驚いているジェームズとシリウスの口の中にも素早く一粒ずつ──不味そうなものを──入れた。
「──ぐっ!?」
「うぅっ!」
「──あ、俺セーフだわ」
ゴードンとジェームズは口を抑えニヤニヤとしていた笑いをさっと消し、ついでに顔色も無くしてそのまま立ち上がり──。
「「トイレっ…!」」
ばたばたと慌ただしくトイレへと向かった。