ゴードンとサラとその友人達が加点で競っていた日の昼からの授業。
5限目、ハッフルパフ生とレイブンクロー生は合同で呪文学があり、たまたま、ローシャとパンドラ、ルカとラピーヌは同じ廊下で出会った。
ハッフルパフとレイブンクローの二つの寮の関係は、グリフィンドールとスリザリンのように歪みあってもなく、かと言って心から打ち解けているとは言えない。
レイブンクロー生は自分こそが最も優れているのだと思い、ハッフルパフは劣等生の集まりであると、口にはしないがそう思いやや見下している。
一方、ハッフルパフ生はどの寮に対してもなんとも思わずほのぼのとした空気を纏ってはいるが、やはり劣等感を持つものが多いのも事実である。
しかし、ローシャとルカの間にそのような雰囲気は一切無く。当たり前のように互いを尊重し、尊敬していた。
「ローシャ!えーっと、あなたは名前なんだっけ?」
「パンドラ・フォーサイス」
「ローシャ!パンドラ!ねぇ、一緒に呪文学の教室まで行きましょう?ね、ラピーヌもいいよね?」
「良いわよ」
「ええ、勿論良いですよ。確か…2階ですね」
4人は、和やかに会話を楽しみながら廊下を歩く。ラピーヌはローシャをちらりと盗み見て、あまりにもルカをみるその瞳が優しい事に気がついた。
2人は長年の親友のように打ち解けているように見える。もしかしてホグワーツに来る前からの友人なのだろうか。
「ねぇ、ルカとローシャは…幼馴染か何かなの?ホグワーツに来る前から知り合いなの?」
「え?ううん、昨日コンパートメントであったの、ねぇローシャ?」
「そうです…何故そんなことを聞くのですか」
まだ、出会って2日しか経っていないのか。
という事は、寮が異なる2人はそれ程会話らしい会話もしていない筈だ。それなのに2人はかなり仲がいい。──いや、2人だけではない、あのゴードンとサラもそうだ。
「え、いやぁ…すごく、仲がいいなぁって思ったから…昔からの知り合いなのかなって思ったの」
たしかに、一年生にとってコンパートメントで会う人というものは、それこそ運命の出会い──ともいえるだろう。
初めて親元を離れ、長く暮らす中で、そのドキドキと緊張の中出会った人間というものは、その後の組分けで寮が異なったとしてもかけがえのない友になることが多い。
ラピーヌはそれを鑑みてもあの4人は打ち解け過ぎだと思ったが。
「ローシャとルカは、
しかし、不思議に思っていたのはこの場ではラピーヌだけであり、パンドラは当然の事だと「何故わからないの?」と言うように首を傾げる。
ラピーヌはきょとんとしたが、そういえばこの4人は創立者の名前を叫ばれていたのだと思い出した。
まぁ、なんらかの理由はありそうだとは思っていたが、その共通点により仲良くなったのだろうか?…いや、共通点を知る組み分けが終わってから、4人は会話をする時間などあったのだろうか?たしかに、ルカは寮に来るのが遅かったけれど。
「4人は…創立者の、子孫なの?」
「うーん、多分そうかも。知らないけど」
「ええ、きっとそうです。わかりませんが」
「ふーん…?」
なんともあやふやな言葉だったが、本人であるルカとローシャがそう言うのなら、そんなものなのかもしれないとラピーヌは納得した。
しかし、この言葉こそが嘘だという事実を物語っている事に──まだ、ローシャの事をよく知らないラピーヌは気付けない。
ローシャは、あやふやな言動を好まない。きっぱりはっきりした明確な論理を大変好むのだ。それは勿論、他者にも自身にもそうだった。他者には厳しいが、ローシャは自分にも何より厳しい人間だった。
そして、パンドラ・フォーサイスという少女は他者と比べて第六感…とも言える感覚が発達し、魔法界ですらも「あり得ない」と呼ばれる超常現象や生き物の事を、心から信じていた。
いや、信じているのではない、彼女にとって当たり前のようにそばに居る他者には見えない生き物達。それは彼女の日常に溶け込んでいるのだから──信じる信じないの次元の話ではない。
しかし、パンドラはそれをあまり人には言わなかった。自分の見える色を、その色が見えない者に説明するのは困難であり、その事をよく知って
自分にしか見えない不思議な妖精や生き物の事を、それこそ幼い頃はその区別も付かず色々な人に言っていた。
家族は奇妙に思いつつも、夢見がちな子なのだろうと受け入れてくれたが──他人はそうはいかなかった。
魔法界において、
そう、彼女は──特別な魔眼を持っていた。魔法族の中でも特別清い魂のみが持つことができるその瞳。架空の生き物すらも、見通せる特別な瞳。
他者の魂の色すら見る事が出来るその瞳には、ローシャとルカ、そしてここにはいないがサラとゴードンの魂の色が他者とは異なる…いや、今まで見た事がない色をしていた。
例えるのなら、金色というべきか。
清々しい雨上がりの晴れ渡った澄んだ空気。
分厚い雲の隙間から差す天使の通り道。
そのような、色はないが、
パンドラの目に、4人の魂の輪郭はそんな色に見えていた。通常、人間の魂というものは薄い青や赤、優れた人間は黄色だったりするが──ダンブルドアの魂もパンドラには黄色に見えていた──光色なんて、見た事がない。
「あ──」
パンドラはふと、自分達が向かう廊下の先にラックスパートがいることに気がついた。
ラックスパートとは、人の耳から頭に入り込み、意識をぼうっとさせる魔法生物である。試験勉強中にいきなり何もする気が起きなくなるのは、大抵このラックスパートのせいである。
だが、ラックスパートは、他者には見えない。
パンドラは注意しようか迷い──何も言わない事にした。
奇妙な目で見られるのは特に、気にしていない。不思議ちゃんで空想家だと言われるのは慣れている。
ただ、パンドラが黙っていたのは単純にまぁ試験勉強前だし、いいか、と思っていたのだ。
パンドラは、僅かに頭を下げた。
ローシャとラピーヌは、歩く。
しかし、ルカもまた、頭を下げた。
明らかに何もない場所でお辞儀をするように頭を下げたルカに、ラピーヌは「どうしたの?」と驚き、ローシャは怪訝な顔をする。
「また、アレですか?」
「ええそう。その辺にいるわ」
「え?何かいたの?」
ラピーヌは虫かしら、とキョロキョロと辺りを見渡すが、何も見えず首を傾げる。
ルカはにっこりと笑い「もう、何処かに行っちゃったわ」と言うと何事もなかったかのように歩き始めた。
それを少し後ろで見ていたパンドラは驚き目を見開き、咄嗟にルカのローブを引っ張り、小声で話しかけた。
「…見えるの?」
「え?…パンドラもなのね!うわー!珍しいわね、私、あの子達が見える人なんて…初めて会ったわ!」
「…私も、初めて会った…」
あの子達、と言う時にルカはラックスパートが浮遊する箇所を指差した。パンドラもその指の先を見ながら、小さく頷く。
全く何がいるのかわからないラピーヌは「え?ゴーストでもいる?それとも、虫?」と不思議そうにしていたが、ローシャはため息を一つこぼした。
「私、あなたのその世界だけは理解できませんよ。ルカ…」
「まぁまぁ、そんな世界もあるのよ!ねぇパンドラ!」
「うん…そうだね」
ルカの悪戯っぽい笑顔につられるように、パンドラも笑った。
ルカ──いや、ヘルガ・ハッフルパフも同じような瞳を持っていた。
全てを受け入れる清き魂は、全ての世界を受け入れるのだ。