はざまのくに   作:湯たぽん

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はざまのくにが狂う、そのほんの少し前。
魔女ラニは、奇妙な陰謀を目の当たりにしてしまったようです。シリアスなようで、でもやっぱりはざまのくに。


商会の陰謀

エルデンリングは、間もなく砕ける。

 

そう直感したその日。私はふらりと立ち上がり、魔術師塔を出た。

 

「おや、おでかけとは珍しいですなラニ様」

巨人族のイジーが声をかけてきた。お気をつけて、と見送る彼はいつもどおり穏やかだ。

 

カーリアの城を横切り、レアルカリアの魔法学校を見下ろしながら空中散歩。神の魔法とは便利なものだ。

リムグレイブのストームヴィル城を過ぎたあたりで、私は気紛れにふわりと地面に降り立った。周囲には帽子をかぶった農民姿の人間たちが、農具も持たずにぶらぶらと歩いていた。ここ、はざまのくにに住む人々は、皆ロアレーズンを食べて暮らしている。祝福の光、ルーンに満ちたこの大地には果物や穀類、獣肉やエビカニなども豊富に捕れるが、あらゆる場所に自生する「ロアの実」を加工したもの、ロアレーズンが主食になっている。

 

そして、そのロアの実を加工するのが…

 

 

 

「やぁ、美しいお嬢さん」

 

思考を遮る声を後ろからかけられふり向くと、赤い服を着たぼさぼさ頭の男がロバに乗っていた。

 

「あぁすまない、驚かすつもりは無かったんだが。馬上から声をかけるのは流石に失礼だったな」

ロバを降りながら、荷物の中から小ぶりな袋を取り出し、その男はこちらへと差し出した。

 

「ロアの実を見つめていたね。これが、欲しいんじゃないのかい?」

 

男が手に持ち差し出してきたのは、ツール鞄だった。ロアの実や獣肉などを加工するための小刀やすり鉢などが入った小袋で、商人から買うことでしか手に入らないものだ。ロアレーズンを必要としない私には不要なものだが…

 

「…いくらだったかな」

 

多少、無愛想な物言いになってしまったことを自覚しながら私が言うと、商人の男は分かりやすく顔を輝かせた。

 

「…!おぉ、やはりツール鞄が欲しいのだね。こちら300ルーンだよ」

 

嬉しそうに手を差し出す男を見て、ついついイタズラ心が芽生えてしまった。ルーンは、この世界の通貨であると共に命の輝きでもある。そして私は、ルーンを活性化させてヒトに与えることで、所謂「ルーンに酔った」状態にする事ができる。

 

「…?ふぁい?さんびゃくるーんだねウェへへへ」

 

ずいぶんとあっさりべろんべろんになるものだ。商人はすぐさま相好を崩すとその場に座り込んだ。

 

「いや〜ねぇ?この商売も楽じゃないのよ〜ぉ?」

 

何故か口調が気持ち悪くなったが、面白くなりそうだ。私も受け取ったツール鞄を適当に放り投げて商人のわきに座った。

 

「…そんなことはないだろう。そのツール鞄、今や誰もが持っている。大した儲けになっているのではないか?」

 

酌までする気はないが、少し話を聞いてやるのも一興だろう。人間たちの主食であるロアレーズンは、ツール鞄が無ければ作れない。大袈裟でなく、その流通量は相当であるはずだ。

 

「そ〜んなわけな〜いじゃな〜い?たったの300ルーンよ?今の平和なはざまのくにじゃあ、この値段じゃないと買えない貧乏人ばっかだしぃ?」

 

ルーンは命の輝き。生き物同士命を奪い合うことで流通する通貨であるため、戦争のない今はルーンの価値は高いが変動も少ない。商人としては面白くはないのだろう。

だが、エルデンリングが砕けてしまえばそうはいかない。そもそもこの商人たちが生き残れるかどうかも…

私は少しだけ、忘れかけていた心の揺れを感じた。

 

「でもぉ?アタシたちだって黙ってはいないわよぉ?」

 

私の心配をよそに、ルーンに酔ったオネェ商人はさらに上機嫌になり語り始めた。

 

「今のところイントン商会だけだけどぉ?石像の牙鬼インプを使役するのに成功したのよぉ!」

 

…なんだと?

私は首を傾げた。魔物や過去の戦士の魂を召喚することは、確かにできる。しかしそれは私の従者、魔術師セルブズの研究成果であり、それが商会に横流しされ…いやありうるか、セルブズなら。むぅ

 

「あらァん?あなた、心当たりあるって顔したわねん」

 

一瞬、私がもの思いにふけったすきにか、商人の顔が目の前に来ていた。

 

「でも、カーリアの魔術師のモノマネじゃな〜いのよぉ!確かにインプの遺灰も扱えるようになったけど!」

 

やはり遺灰か、セルブズあの食わせ者め。しかし、どうやらそれだけではないらしい。

 

「さすがの商魂だな。だが、インプを売るにしても護衛用ならば犬を飼いならしたほうが良いのではないか?」

 

少しだけ、商人のプライドに振れる言い方を意識してやると案の定、よりテンションの上がった商人は立ち上がり喚き散らした。

 

「おバカさんねぇ!牙鬼インプの使い道っていったら、戦いだけじゃな〜いのよ〜う!」

 

完全にルーンに酔っ払い、足元もおぼつかない様子ではあったが、どうやら全部話してくれそうだ。

 

 

 

「インプの1番の使い道は、封印の石像に決まってるでショ!」

 

 

 

あ、あれか…!

インプをかたどった石像は、世界各地に存在する。それらは襲って来ることはないが、ダンジョンの入口や宝箱のある小部屋を封印するのに使われている。最近、急に増えた気がしていたのは、気のせいではなかったのか…

 

「そしてぇ!インプ像の封印を解除する石剣の鍵を現在大絶賛量産中よぉ!アタシたちの専売にしちゃうと、ダンジョンや宝箱部屋を封印して回ってるのバレちゃうからほどよく各地にばら撒いて置くのがポイント♡インプちゃんの遺灰がないと立ち入れない魔術師塔も、セルブズちゃんが用意してくれる手筈なのよ!」

 

なんとも下衆な計画を、酔った勢いでベラベラと。興冷めも良いところなので、私は立ち上がった。

 

「なるほどな…」

 

ルーン酔いを解除すると、正気に戻り青ざめる商人。それを見てももはや気の毒には思わなかった。

 

「商人の鈴珠を集めて回る褪せ人の姿が、目に浮かぶな」

 

陰謀の夜がまた一歩、近付いたのを感じたが。

 

 

 

私の心はもう、揺れ動かなかった。

 

 

 

 

 

 




牙鬼インプの遺灰を売っている隠遁商人。石剣の鍵も、一周目の世界であればそこそこ迷う程度のお値段で売っています。
そして、インプ像の封印、インプの遺灰で開く魔術師塔…
さらに、魔術師セルブズもなかなかの外道っぷりをイベント中見せてくれます。

つまりは、そーゆーことなのです。

ちなみに、各地にいる商人を殺害すると、「商人の鈴珠」というアイテムが入手でき、鈴珠を扱うお婆ちゃんに渡すことで商人機能を集約することが可能です。

最初にネット記事で商人の鈴珠集めについて知ったときはなんと非道な…と思いましたが。きっとそれを始めた褪せ人はこのシステムに気がついたのでしょうね。
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