よし今日はこのクラスの新しい仲間を紹介するぞ!折原入ってこい。」
「はーい。」
美優はヤーさんのような男性教師ー槇原に言われ、元気な返事とともに教室に入る
そしてもじもじしながら自己紹介。黒板に折原美優と名前を書く。
「おりはらみゆです。よろしくお願いします。」
そして美優は伏せていた顔を上げる。とびきりの笑顔とともに…。 それはまばゆくかわいい笑顔で誰でもその笑顔でノックアウトされるだろう。
見ている人がいれば…。
顔を上げた美優の目に飛び込んできたのは学級崩壊したクラスだった。
誰も美優のことなど見ていない。それぞれが周りの友人たちとおしゃべりしており、紙飛行機も飛び交っている。
ーわーお…誰も見てないじゃないか!緊張していて気づかなかった。
クラスの様子に驚く美優。友達作ろう計画は前途多難だ、などと考える。
「折原は一番後ろの窓ぎわの席に座ってくれ。」
「はい。」
返事に初めのような勢いが無くなっている。
新しい教室の様子にがっかりしているのだ。
美優は新しい学校に青春というものを期待していた。しかしこの学校には青春のセの字もない。
不良とギャル、レディースの群れ、廊下では不良同士のメンチの切り合い、カツアゲなど前の学校と寸分も違わない様子。
これでは友達とショッピングをしたりプリクラを撮ったりといった憧れの高校生活は出来ないじゃないか!
美優は絶望した。
そして、なんだかんだで休み時間。もちろん転校生がクラスの人気者になるなんてことはなく…。
ーヤバい。友達たくさん計画なんてできない!
放課後、結局誰とも話すことなく学校が終わる。
その時美優は友達を求めるゾンビと化していた。
片っ端から話しかける。だけど無視される。
「友、友、友がほしい。もう男でも女でもどっちでもいい!なんでもいいから友達がほしい!」
美優は土手で、西に沈んでいく夕日に向かって叫ぶ。
そんな時後ろから話しかけられた。
「僕を弟子にしてください!」
「わっ。」
その声に驚いて振り返ると小柄な男の子が立っていた。小学校6年ぐらいだろうか?いつの間にやら後ろにいた。
美優は少年に向かって優しく話しかける。
「小学生、もう暗いから帰ったほうがいいんじゃない?」
美優がそう言うと少年はむくれる。
「僕は小学生じゃなくて立派な高校生1年生だ!それに大野海斗っていう名前があります。小学生なんて呼ばないでください。」
腕を組んでムスッとしていて、ほっぺがリスのように膨らんでいる。
ーなんか、かわいい。
「でもすごい小さいじゃん、小学生にしか見えない。」
「僕のことを小学生小学生って馬鹿にしないでください。ほらこれ、」
そう言いながら桜ヶ丘高校の学生証を美優の眼前に突きだす。
「本当だ。しかも私と同じ学校なんだ。」
「分かってくれましたか?」
「うん。」
「それで、話を戻しますけど、僕を弟子にしてください!」
「えーなんで?」
美優は首をかしげる。聞かれた海斗は急におどおどし始める。
「そ、ソレは…。実は昨日見てたんです。あなた様がたった一人で不良3人組をボコボコにしていたところを!」
ーチッ、見られていたのか。もう不良から足を洗って平穏な学校生活を送ろうって思ってたのに。
美優はうーんとうなって考える。
ー不良に戻ってしまうきっかけはあらゆるところにあるらしい。
美優は、あるエピソードを思い出す。
あるところにА君(仮)がいた。А君は中・高ともに不良として生きており、ケンカもそこそこ強かった。
しかし、そんなА君は高校の途中で京都に転校することになる。そこで、折角だから更生しよう!などと考え、髪を黒に染めビアスを外した。
はじめは友人もでき、普通の高校生活を送れていた
しかしある日、高校の元同級生たちが修学旅行で京都にぞろぞろやって来た。
「おっАじゃねえか。久しぶりだな。」
А君一人なら問題無かった。
ただ、そこにはА君の新しい友人たちがいた。どぎつい金髪、口にはタバコ…そんな彼らに話しかけられたА君を不審に思う友人たち。
慌てて元同級生の不良仲間を追い出そうとしたが、もう遅い。
「お前ソレ新しい財布か?」
後ろを指差し聞いてくる。
「サイフ?何だよソレ。」
友人たちが怒りの声を上げる。
「違うか…。つーか、もしかしてお前ら知らないのか?」
「おい、やめろ!」
必死でА君が止めようとする。
「こいつ俺らの仲間だったんだぜ。」
「何を言ってるんだ!」
「ほら、これ見ろよ。」
差し出されたスマホの画面には笑いながら人を殴るА君の姿が…。
次の日からА君に話しかける人は一人もいなくなった。
そして、孤独となったА君は不良に逆戻りしてしまう……。
А君は修学旅行生に会いさえしなければそんな悲しいことにならなかっただろう。
こんな感じで防ぎようなくきっかけがやってくることもあれば、自らがまいた種によってきっかけがやってくることもある。
美優は喧嘩が強いという情報が漏れることは種になる可能性があり、「きっかけ」を運んでくやもしれない。
ー絶対にこんなことにはなりたくない。あんなのになんか一生戻りたくない!隠さなければ!
美優は胸中で強く思う。
「ワタシ、そんなことしてませんヨ。」
「いいえ。僕は確かに見ましたよ!さあ、弟子に!」
「本当だよ!信じてよ!世の中には同じ顔の人が3人いるんだよ!私に似た誰かでしょ!」
「正真正銘あなた様でした。さあ、さあ!」
誤魔化してもいっさい信じない海斗。美優のもとへグイグイにじり寄ってくる。
「むっきーさっきから違うって言ってるでしょうが!」
切れた美優は海斗から逃亡する。
「あっ逃げた。」
美優は猛ダッシュで走っていく。
「私がほしいのは友達で、弟子じゃないんだよ~!」
美優の魂の叫びが辺りにこだました。