「ハイ、折原ここの問題の答え言え〜。」
「は、はひ!何でしょうか?」
急に先生にあてられる。
つい先程まで居眠りしていた美優は慌てて返事をし、居眠りなんてしてなかったような表情を作る。しかし、鼻ちょうちんが鼻から出ているためバレバレだ。
「ほら、死んだドブネズミみたいな顔してないでとっとと目覚めろ。」
「し、死んだドブネズミとは失敬な!?この顔は爽やかイケメンサッカー少年の微笑みを表現しているんです!」
「けっ。くだらないこと言うな。」
美優が作った爽やかフェイス。全くそうは見えなかったらしい。
「で、答えはどうだ?」
一切授業の内容を理解していない美優。どこの問題を聞いているのかすら分からない。悩む美優。
「え~と…フランス革命ですかね?」
イチかバチかで答える。昨日ベルサイユのばらを読んでいてフランスが印象に残っていたのだ。
「不正解。オマエは何で数学の授業でそんなことを答える…。」
呆れたように教師は言う。美優に向けられる視線はとても冷たかった。
「そうですよ。まさかセンパイがここまでオツムが弱いとは僕も思いもしませんでした。」
隣の席でこういうのは海斗だ。
本当は一年生のはずなのだが、いつの間にやら二年の教室にいるようになった。名簿にも名前が書かれているらしい。美優が何故と理由を聞くと「二十四時間センパイの素晴らしい姿を見ていたかったので。」と答えてきた。美優はそっちの理由ではなく注意もされることなく二年の教室にいられる理由を知りたかったのだが、ソレについては笑ってはぐらかされてしまった。
「世の中には知らないほうがいいことがたくさんあるんですよ?」と。
それ以来美優はそのことについて触れないようにしている。何かそこしれぬ恐怖を感じたのだ。そういうことに関してだけは美優は鋭い。
「だってしょうがないじゃん。最近忙しいんだよ。」
「確かに、最近センパイは疲れてますよね。いつもなら僕が減らず口をたたいた時点で拳が飛んできますもん。」
「そうかな?デコピンくらいだもん。」
「……。」
否定も肯定もしないで黙っている海斗。
「えっ何で!別に私やってないよね!」
海斗を揺さぶるが何も言わない。
「ちょっと、なにか答えてよ〜!」
そこで美優は海斗の視線が美優の後ろに向けられていることに気がつく。
「で、私語は済んだか?」
数学教師の槇原がにっこり笑顔とともに言う。顔は笑顔だが額には青筋が浮かんでいる。
「あっ槇原センセイ。」
槇原の存在に気がついた美優は座り直す。お腹と背中に拳2つ分の間をあけ、まっすぐ座る姿はお手本として完璧だ。
「何か御用でしょうか?」
そう言うと美優は槇原Tに無言で教科書ではたかれる。その痛みに美優は悶絶する。
「馬鹿はほおっておいて授業を続けるぞ。」
「は~い。」
「ハイは伸ばさない。」
「ハイッ。」
団結の取れたクラスメイト達の返事。
美優は以前この光景を見ると不思議に思っていた。
この学校には基本的には普通の高校には進学できない札付きのワルやおバカさんが集まっている。なので授業はだいたい崩壊していた。
だが、槇原の授業では違った。
皆借りてきた猫のように大人しく従順になるのだ。
しかし、その疑問もすぐに解消されることになる。下駄箱に入れられた一枚の手紙によって…
「そういえば最近槇原先生とセンパイ仲良さそうだね!よく一緒に喋ってるし。」
海斗が授業終わりに話しかけてくる。
「そうかな。別によくないよ。できれば関わりたくないくらいだよ。」
「ふーん、じゃっなんで一緒によくいるの?」
海斗は執拗に問い詰めてくる。
言葉に詰まる美優。
ーソレは…
美優は槇原Tとイヤーな関わりができてしまったときのことを思い出す…