ある晴れた昼下がり、美優は自分の下駄箱に入れられた手紙を発見した。
白い封筒に“折原さんへ”という文字。美優は気になって中身を見てみる。
中にはかわいい文字で“放課後体育小屋で待っています♡”と書いており、他にも体育小屋の鍵が入っていた。
それを見てガビーンという顔をする美優。
ーこ、この手紙はもしや…
脳裏に華やかなイメージが浮かび上がる。
「春」という文字と花吹雪。辺りはピンク色である。
バクバクする心臓を抑えてなんとか気持ちを落ち着ける。
ー告白…というやつではないか!?
告白…その甘酸っぱいような照れくさいような言葉に美優はうっとりする。
ーこの文字からみて相手は女の子だよね!どうしよう…私はそういう趣味ないんだけど…でも、
ここで顔がニヤリと変わる。端から見るとものすごく気持ち悪い。
ー可愛い女の子なら何でもアリだ!!
それからの授業は美優の頭に入らなかった。
あっという間に放課後となり美優はダッシュで体育小屋に向かう。
ー可愛い女の子が私を待っているんだ!
美優はそう考えるとどこからか力が湧いてきた。まだ手紙の相手が可愛い女の子と決まったわけではないのだが…。
オリンピック選手以上の走りで進む。周囲の人からは変な目で見られるが、まったくお構いなし。彼女の頭には手紙の相手のことしかない。
「すみませーん。遅れやした!」
鍵穴に鍵を突っ込みガチャリと体育小屋の鍵を開ける。
そこでふと美優は疑問に思う。
ーなんで鍵が渡されたんだ?別に開けといてもらえればそれでいいような…。
だが美優には考える頭がない。まあいっかとドアを開けた。
「うわっ埃くさいな。マスクしてくればよかった。で、どこだかわい子ちゃんは…。」
「かわい子ちゃんじゃなくて悪かったな。」
「わっ!」
美優は後ろから声をかけられた。少し低めで懐しい声…。
ーいつの間に後ろに!
美優は振り向き驚く。
ーていうか最近私は後ろを取られすぎじゃないか?海斗くんのときといい今のことといい…。やっぱり感覚がなまってるのかな。
美優はそんなことを考えながら少しずつ後ずさり。
「な、何のようですか?え~と…牧野先生?」
「はぁー。」
男ー槇原Tはため息を付きやれやれと首をふる。そして、可哀想なものでも見るような視線を美優に向けながら言う。
「お前は担任の名前すら覚えてないのか?俺はお前のクラスの担任の槇原だ。」
「へ?」
ー確かに見覚えがあるような気もしないでもないような…。そういえば担任はこんな感じだった気がする。
美優はもう一度槇原を観察する。
スーツの上からでも分かる引き締まった大柄な体。美優はスポーツでもやっていたのかな?と考える。体育教師のような雰囲気を放っているが数学教師だった気がする。
それと一つ気になる部分がある。眼鏡だ。マッチョなボディに黒縁の大きな眼鏡がかかっている。はっきり言って似合っていない。コンタクトにしたほうが良いんじゃないか?
「でもなんで担任が私にラブレターを?」
美優は聞く。
槇原はその素っ頓狂な問いを聞いて吹き出す。
「ラブレター?何言ってるんだお前。俺がお前なんかにそんなもんをやるはずないだろ。」
それを聞き、混乱する美優。
「アレ?えっ?」
そこでじっくり考える。
ー手紙には“放課後体育小屋で待ってます”としか書いていなかった…。つまり…告白だなんて誰も言っていなかった。私が勘違いしていただけだったんだ。
それに気が付き呆然とする。
「そんな、楽しみにしていたのに…!」
悲痛な声とともに地面に膝をつける。
「くだらねえことしてないでまずは俺の話を聞け。ほら鍵渡せよ。」
「ハイッ。」
美優は鍵を渡す。
「それでお話とは何でしょうか?」
「それはな、あっ話す前に注意だ。絶対に逃亡するなよ。分かったか?絶対だぞ。」
「へっへぇ…。」
絶対に逃亡するなという言葉にヤな予感を覚える。脳内では危険信号が点滅している。逃げるなら今のうちだぞと心のなかでもうひとりの美優が囁いてくる。
ー逃げたい。でも何かがそうさせてくれない。
逃げたら殺られるようなそんなオーラが発せられている。
恐怖を感じた美優は大人しくしていることにした。
「話ってのはなあ、お前に頼みがあるんだ。」
頭を掻きながら言う。
「頼み、ですか…。」
危険信号がどんどん大きくなっていく。
「ああ、それはなあ…。」
危険信号もっともっと大きくなる。
ー逃げなければ!絶対めんどくさいことに巻き込まれる!
槇原に対する恐怖より、これから巻き込まれてしまうであろうことへの「めんどくさい」という気持ちが勝った。
ーずらかるぜ!
美優はダッシュで出口へ走る。そしてドアを開けようとすると…。
ー開かない!まさか。
槇原の方を見るとニヤリと黒い笑みをたたえている。
「鍵、内側にも付けといて正解だったな。」
手に持っている2つの鍵をくるくる回しながら続ける。
「ここから出るにはこの鍵が必要だ。これ以外に予備もないからな。外にいる誰かに開けるよう頼むこともできない。これで話の続きができるな。」
笑みを浮かべるがその下に怒りが見られる顔。美優はもう黙ってうなずくことしかできなかった。