巨大な猪の魔獣が特急列車の如く轟音と唸りを上げ迫り来る。
「当たるかよっ! ヒョオオオオオッ! 幼女活殺拳 『南斗水鳥拳 飛燕流舞』ッ!! 」
それを華麗に空に飛び上がり躱し舞を舞うように両手を交差し、ソードボアへとオーラの斬撃を繰り出すオレ。
無数の斬撃がソードボアの槍のような毛皮を切り刻み破壊する。
しかし、鎧の表皮を幾ばくか剥がす程度で致命には到らない。
「相変わらず硬ってえ。前より強化されてるな。あらよっとぉっ!」
ソードボアが振り返り再び豪速の突進で突っ込むのを身を翻し、回避する。
ヤツの鋭い大牙の大剣が樹々を根こそぎ薙ぎ倒し蹂躙する。
「まさに猪突猛進ってやつだな。だけどそんなんじゃオレは倒せないぜっ! 幼女活殺拳『雷光回し蹴り』ッ!!」
ソードボアの突進を回避したオレは脚にオーラを纏わせ雷光の稲光りさながらダイナミックキックをヤツのガラ空きの胴体にお見舞いしてやる。
ズッドオオオンッッッ
身体強化された渾身の蹴り技の一撃がヒット。ソードボアの巨体が衝撃で激しく揺れ動く。
手応えありだぜっ!!
「んっ!?」
だが、ヤツはジロリとオレを隻眼で
次の瞬間、ヤツの針山の毛皮がブワアアと倍に膨張し逆立ち、全四方に勢いよく無数に針が射出された。
「ぐわぁあああッッッ!!?」
針槍の嵐がオレを襲う。
とっさに身を縮みガードしたが、肩と脇腹を貫かられ吹き飛ばされる。
コイツ! プロテクションごとブチ抜いて来やがったかっ!
ソードボアが後ろ脚を蹴り上げ跳躍し、オレを牙で追撃してくる。
ちょっ! 回復っ! 回復が間に合わないっ! リジェネレーションの回復が追い付かないっ!
「ハイヒールッ! ハイヒールッ! ハイヒールッ! 」
何度も回復するもガードの上からガリガリと牙の連続突きで削られ堪ったもんじゃない。
トドメとばかり振り抜きの薙ぎ払いの牙が迫り来るのに合わせて瞬時に力を溜め反撃する。
「この豚野郎っ、いつまでも調子に乗ってんじゃねえっ!! はぁぁあああああっ!! 幼女活殺拳 『武技崩天』」
残像が見えるほどの速い肘鉄を連発し、その後蹴りを二発、裏拳をかます。
「『武技破岩』」
敵の身体を駆け上がるように連続して踏みつけ強烈な蹴りの連撃を放つ。
「『武技千烈』」
鋭い蹴りを連発しサマーソルトで蹴り上げて、踵落としで追い打ちをする。
「『武技龍迅』」
頭突き、アッパー、振り下ろし、拳による怒涛の連打のラッシュを穿つ。
「『武技虎砲』」
エレガントに跳躍、身体を切り揉み大回転しながらのオーラを纏わせたスクリュー両掌底の一撃を叩き込む。
怒涛の連殺コンボを喰らい樹々を薙ぎ倒し大きく吹き飛ばされるソードボア。
「はぁっ……はぁっ……はぁっ……か、回復、ハイヒールッ! あ、やっべえ…………魔力使い過ぎて、回復出来ねえ……くっ、チクショウめ…………どんだけ強くなってんだよアイツ…………」
荒く息を吐き片膝を着き、忌々しい猪野郎を睨む。
薙ぎ倒された何本もの大木がガラガラと崩れて、傷だらけの巨体を震わせ起き上がるソードボア。
お互い満身創痍。息も絶え絶え。オレもアイツも体力も魔力もスッカラカンだ。
バスターソードボアが後ろ脚の蹴爪を踏むこむ。
オレもカクカク震える脚に力を入れて前に踏むこむ。
睨み合う両者。
ラストアタック。
オレとソードボアが勢いよく駆け出し─────
火球が放たれ、ソードボアに命中。出鼻を挫かれたソードボアが慌てて突進を止めた。
「なっ!? 何だッッッ!!?」
オレも急ブレーキをかけて慌ててストップする。
不意をつかれ炎に纏われたソードボアはそのまま脱兎のごとく森林の奥深くに悲鳴の雄叫びを上げ逃げていき姿を消した。
それをぽかーんと見送っていたオレは第三者の気配に気付くのに遅れてしまった。
片手をかざし佇む存在。
ソードボアを追い払ったその人物はオレのよく見知った女性であり、オレの───
「─────母ちゃ……ん……」
くるりとオレに向き直ったその顔は今までに見たことない鬼の形相、般若がいた。
そしてオレにゆっくり近くと、
バシッッッ
平手打ちを喰らった。
「……お昼寝してるには様子がおかしいから、まさかと思ったけど……いつからこんな事続けたてたの……?ラウア」
ジンジンと痛む頬。魔猪と戦ったダメージより痛く感じる。
「──母ちゃ、マ、ママン──」
オレはもうテンパって頭が真っ白状態で、言い訳すら浮かんでけないくらいに混乱していた。
ただ目の前で仁王立ちする母親が怖かった。
「……ずっと続けていたのね。隠れて私に見つからないように。バルバルも手懐けて。こんな危険な事を、ずっと前から……ッッッ」
ママンが再び手振り上げた。
オレはビクッと身体を震わし、平手打ちが来るのを覚悟し眼をギュッと瞑った。
しかし、いつまで経っても衝撃は来ず、代わりに柔らかく暖かいものがオレの身体をそっと包み込んだ。
ママンがオレを抱き締めていた。
「……馬鹿。死んじゃったらどうするの? ママをひとりにさせる気なの? あなたが無事でいてくれているだけで私はいいのに……それだけでいいのに……」
泣いていた。
ママンが泣いていた。静かに涙を流していた。
オレを優しく抱き締めながら母が泣いていた。
******
「……つまり、あなたはここではない別の世界から来た転生者、その生まれ変わりと言うのね?」
自宅。
あれから連れて帰って来られたオレは今生の母上に洗いざらい顛末を白状した。
地球という惑星から転生したであろう異世界の魂がこの世界でのオレとして産まれたこと。前世は男で、ムサいおっさんだったこと
強くなりたくて小さい頃から、今も小さいが、魔力の鍛錬を行っていたこと。
そして調子に乗って魔物と戦って修行していたこと。
それをじっと聴いていたママンが深く溜め息を吐いた。
……ああ、オレの異世界生活は終わったかもしれない。
今生とはいえ、実母が自ら産んだ可愛い子供、それも娘に訳分からん男の、おっさんの魂が宿っていたなんて。
気味悪がられ、嫌われる。追放、家から追い出されるかもしれん。
オレは考え込むママンをチラチラ伺い見るしかない。
「……輪廻転生。魂は星に還り、星の下に新しい生命となり再び宿る。古来よりエルフ族に語り継がれる伝承だけど、前世の記憶がそのまま残っている話というのは聞いたことないわ。なるほど、だから幼い頃から妙に理解が早く柔軟さに長けていたのね。それならいろいろ辻褄が合うし……」
ママンがうんうんと、自己完結したかのように仕切りに頷く。
「……あ、あの御母上様?」
恐る恐る上目遣いで訊ねるオレ。今、生殺与奪の権はママンが握っているのだ。機嫌を損ねたらアウトだろう。
「何、その変な呼び方? もしかしてそんなことでビクビクしていたの? ……はあ……あなたは本当にお馬鹿な子ね……」
そう言ってママンは立ち上がりビクつくオレを抱き締めて来た。
あ、なんか落ち着いていく……
「ラウア……前世とか生まれ変わりとか、何であれそんなことどうでもいいの。あなたは私の娘。世界でただひとりの私の愛しい娘なんだから」
これが母。
ああ、なんだか懐かしい。
前世の両親とはとても折り合いが悪くて高校の時、家を出てずっと一人暮らしだったからな。ずっと昔に忘れていた感覚が蘇る。
親ってこんなに暖かいものだったのか。
そうして抱き締められていたら知らぬ間にオレの瞼から涙がボロッボロッと溢れ出ていた。
「ごめんなさいママ……ごめんなさいママ……ごめんなさい……」
オレはいつまでもママンに抱かれながら胸元の中で泣き続けた。
だが、オレは異世界を舐めていた。
この後、オレは異世界の厳しさと絶望感を味わうことになる。
ママンが倒れたのだ。