1話
日本ウマ娘トレーニングセンター学園。通称トレセン学園。多くのウマ娘が夢と栄光を追い集う場所。
名家の期待を背負ってやってくる者、寒門ながらその才能を見出されやってくる者、まだ見ぬ強敵とのレースを望んでやってくる者、理由は様々だがその多くは夢破れ、あるいは怪我で去っていく者が圧倒的に多い。華やかなレースやウイニングライブの裏にはそういった者も数多く存在する。それでも彼女達は夢を見る。何故なら彼女達はウマ娘なのだから。
ステイシャーリーンの母は地方のレースで走っていたウマ娘だったが、お世辞にも活躍したとは言えなかった。ある日、ステイシャーリーンが両親にトレセン学園に入学したいと言ってきた時、ステイシャーリーンの母は悩んだ。地元の草レースでは負け知らずでいつも1着。目を輝かせて褒めてとレース後、母の元へ息を弾ませながら駆け寄ってくる姿とは違い、真剣な眼差しだった。レースの厳しさは良く知っている。娘の夢を応援したい気持ちと自身の経験からそれは無謀な選択なんじゃないかという不安。ステイシャーリーンの母も幼いころは自分が1番だと思っていたが、中央のトレセン学園に入ることさえ叶わず、地方ですら活躍できなかった。
娘への返事を伸ばし伸ばしにして悩んでいたある日の夜、ステイシャーリーンの父は悩んでいる妻へ優しく語りかけた。
「いいじゃないか。ステイシャーリーンの夢を二人で応援しよう。夢に向かって一生懸命になることは素敵なことじゃないか。なに。もし夢破れたとしても夢にむかって努力したということがあの子の今後の人生の糧になってくれるはずさ」
こうして許可を得たステイシャーリーンは見事試験を合格して入学はできたのだが、驚きを隠せなかった。明らかにレベルが高い。整った設備や、自分より何倍も早そうなウマ娘がトラックを走っている姿をみて心が折れそうになった。才能の差に打ちひしがれて徐々に減っていく同級生。それでもステイシャーリーンは食らいつきながら2年間を過ごした。そして中等部最後の3年目の冬、体が本格化を迎えつつあるため、選抜レースに思い切ってでてみることにした。
「今日こそはいい結果が残せるといいな・・・」
ステイシャーリーンの誰にも聞こえない微かな独り言が会場の熱気に包まれ消えていった。年に4回だけ行われる選抜レース。トレーナーが決まっていないウマ娘達が力を示し、トゥインクルシリーズという夢の舞台に立つための試練の場。
選抜レースの距離は本格化を迎えたばかりのウマ娘達の体の負担を考慮して2000メートルまでと距離が決まっている。今回ステイシャーリーンが出走している距離は1600メートル。多くのウマ娘達が出走登録している距離。ステイシャーリーンも何となくこの距離でいいだろうという思いで登録した。
トレセン学園に所属するウマ娘達はトレーナーにスカウトされ、契約を結ばないとトゥインクルシリーズに出場ができない。名家のウマ娘などは事前に腕利きのトレーナー達がスカウトの交渉にやってきたりするのだが、生憎ステイシャーリーンは寒門の出。おまけにこれまでの模擬レースでもいい結果は出していない。このままではトゥインクルシリーズ出場さえ叶わないまま学園を去ることになってしまう。それだけはどうしても避けたかった。
―――――思った以上にいっぱい人が集まってきて緊張してきたぁ~・・・
―――――大丈夫・・大丈夫・・いつも通りに・・・
レース前の緊張からなのか、自分に言い聞かせるように独り言をいう子が多い。模擬レースなどで多少のギャラリーはいたものの、これほどまでに初めて大勢の人に見られる所で平常心で走ることができるのは難しい。しかしここで緊張していてはトゥインクルシリーズに出た時はもっとすごいのだろうなとステイシャーリーンはどこか冷静な自分がいることに気が付いた。
―――――いける・・!
ゲートに収まる直前に冷静さを取り戻せたステイシャーリーンは心の中でそう呟くと、開いたゲートから力強い一歩を踏み出して走り出した。模擬レースとは違う張り詰めた空気と力強い声援が会場に響く。まずまずのスタートをきれたと自身を褒めつつ周囲を軽く見回す。右隣に収まっていたウマ娘は緊張からなのか、どうやら出遅れたようで後方でもうすでに泣きそうな顔をして走っている。出走前はマークしている中の1人だったがこの分だと消して良さそうだと判断し、好位につくため少しペースをあげて先頭の集団にくいついていく。
3コーナーを過ぎたあたりで2番手にいたウマ娘が加速し始めた。慣れない緊張と声援で掛ったのだ。本人からしてみればここが仕掛け何処だと思っているが、あまりに早すぎた。つられて先頭にいた逃げウマ娘がハナは譲らないと加速していく。ステイシャーリーンは焦っていた。ついていくべきか?それともこのまま自分のペースを貫くべきか?冷静だと思っていたステイシャーリーンは自分自身もレースに呑まれていることに気が付かなかった。そして決断ができないまま直線を迎える。そこからはよく覚えていなかった。覚えていたのはゴール版を駆け抜ける前、複数のウマ娘達が自分よりも早くゴールしていたこと。
「やっぱりだめなのかなぁ・・・」
息を弾ませながら声にならない小さな上擦った涙声がポツンとターフにおちる。全力を出したつもりだった。少し先で1着をとって大きなガッツポーズをとって喜んでいるウマ娘を眺める。ただただ悔しく、そして羨ましかった。
本当に後がないウマ娘達にとってみれば、まだ1回目の選抜レースなのだからまだまだチャンスはあると言いたいところだが、ステイシャーリーンにとっては今が全て。未来のことなんてわからないし、薄々感じている才能に限界を感じて辞めてしまうかもしれない。それほどまでに彼女の心は弱っていた。来年から高等部。早い子は夏にはジュニア級にデビューする年だ。
―――――少し話を聞きたいんだけどいいかな?
―――――良ければ貴方をスカウトさせてほしいの
周りではレースで好成績を納めたウマ娘達が次々とトレーナーに声をかけられている。レースはこれだけではない。まだまだ他のウマ娘達のレースが詰まっているのだ。クールダウンをしようとトラックの隅に移動しクールダウンを1人始める。
これからどうしようかな。そんな気持ちで黄昏ていると、ゆったりとした足音が近づいてきてステイシャーリーンの前で立ち止まる。
「さっきのレースで走っていたステイシャリーンさん?で間違いないかな?良ければちょっと話をしたいんだけど」
「・・え?」
ステイシャーリーンが見上げると胸元にトレーナーバッジをつけた男性がそこに立っていた。
お読みいただきありがとうございます
初心者ですので誤字脱字、句読点の訂正、ここの言葉選びちがうよなどの指摘していただけるとありがたいです
本作は高等部からジュニア級がスタートという設定をとっていこうと思っています