2人に懇願されてたじろぐ山内とお願いしますとひたすらに頭を下げ続ける二人。私も若い頃はあんな風だったな・・と先輩風を吹かしながら2人の様子を見守るステイシャーリーン。山内はステイシャーリーンに助けを求めて視線を移すが、顔を背けて視線を合わせないようにする様子をみて確信した。(コイツやったな)
山内が戻ってくる前、ステイシャーリーンは2人にここを訪ねてきた理由をきいていた。2人とも伸び悩んでおり、今回の選抜レースでも結果が出なかった。このままでは学園を去ってしまうことになる。そんな時に、風の噂でステイシャーリーンが山内トレーナーと仮契約を結んだ経緯を聞き、もしかしたらと望みをかけてやってきたらしい。
なんとかならないかと2人に相談を受けたステイシャーリーン。脳内にある言葉が浮かんでくる。
チームに最低3人必要 思い出したステイシャーリーンは山内の特徴を2人に教えてしまったのだ。――トレーナーは押しに弱い――
その結果がこれである。今に思えばトレーナーも事前にチェックしている子がいると言っていたし、スカウト候補がいたのだろう。選抜レースのあと、やけにトレーナーに声をかけてくる子が多かったのは噂のせいかと脳内でピースがつながったステイシャーリーンは老婆心をだしてしまったと反省していた。2人はステイシャーリーンの言葉を信じて必死にお願いしている。困っている山内に目をぎゅっとつぶって両手を合わせて謝った。
このままでは埒が明かないので2人には一旦帰ってもらった。2人が帰った後、ステイシャーリーンは愛想笑いでごまかそうとしたが、そうは問屋が卸さない。判決が言い渡された。
「罰として1週間学食のデザート及び、おやつ禁止」
「そんなぁ~・・」
天罰が下った。カルテに書く報告書をちょろまかせばいいのではと思ったが、トレーナーに迷惑をかけたのも事実。ステイシャーリーンは1週間素直に従った。
事件から1週間。訪問してきた2人の過去のレースを調べて、見た山内は悩んでいた。2人とも磨けばいいところまではいけるのではないか。それに一度顔見知りになった以上断るのも気まずい。おまけにお願い事までしているのだ。ここで断るのも酷というもの。観念した山内は放課後のチャイムが学園内に響き渡ると、仮契約書を2枚用意して訪問者を待つのであった。
「とういう訳で今日から仮契約を結ぶことになったブリーズシャトルとマスカレードアイだ」
「よろしく!シャーリーン!」
「よろしく願いしますシャーリーンちゃん」
「二人ともよろしくね!」
いつの間にか2人と仲良くなったステイシャーリーンは素直に嬉しかった。2人とも落選しても気まずいし、片方だけとなっても気まずい。一番いい結果を迎えることができた。トレーナーに感謝である。
「2人を受け入れたのはちゃんと理由もあってな。才能を感じたというのもあるが、一番の理由は路線がかぶらないということだ」
ステイシャーリーンはクラシック級からステイヤー路線、ブリーズシャトルはスプリント路線、マスカレードアイはティアラ路線を目指すということだ。それぞれの希望がちょうどばらけたのが一番大きいという。尤も、ステイシャーリーンは自分で路線を決めたわけではないのだが。
ただ路線がかぶらないとデメリットも存在する。チーム内で併走相手が組みにくいのだ。特にスプリント路線のブリーズシャトルとステイヤー路線のステイシャリーンはお互いの得意分野が離れている。それでも身内同士で同じレースにでて潰しあいをするよりは全然マシだ。
(年代がばらけていたら同じ路線でも問題ないんだけどな)
そこはしょうがないので追々考えていこうと山内は気持ちを切り替えて今後のプラン作成に精をだす。ステイシャーリーンの時のように、2人のカルテや能力検査、走り方の癖や問題点を洗い出してまとめていく。ステイシャーリーンはデビューに備えて本格的な練習を徐々に増やしてレースに耐えられるような体づくりを中心にトレーニングメニューを組む。2人の加入はステイシャーリーンにもいい刺激を与えたようで、いい調子をキープできているようだった。山内も仕事の量は確かに増えたが、それでも日々やりがいを感じて過ごすことができた。
少し時が過ぎ、4月。入学、及び進級の季節。高等部に上がったステイシャーリーンは同じクラスになったブリーズシャトルとマスカレードアイと喜びを分かち合っていた。いつもの友人達も同じクラスになることができ、ステイシャーリーンの学園ライフは充実の一途をたどっていた。
基本的に同じチームに所属している子は同じクラスになることが多い。理由として、合同で練習することが多いからである。学園としてもそちらの方が調整もしやすいので同じチームの子が固まることが多いのだ。尤も学園はそのことを公表していないので都市伝説的な扱いで生徒たちに広まっているだけだが、その噂は真実なのである。
「お疲れ様でーす!」
ブリーズシャトルを先頭にトレーナ室になだれ込んでくる3人。山内は少しずつ占領されつつあるトレーナー室を懐かしく思いつつ、――お疲れ様といつもの返事を返す。
3人は慣れた手つきでそれぞれのカルテを手に取って記入していく。
「そーいえばさー。実はトレーナーと仮契約する時に1週間シャーリーンを見張るって条件があったんだよね」
「えっなにそれ・・!?」
ステイシャーリーンは驚いてカルテに記入する筆が止まってしまう。
「ふふっ。あの時食堂で毎日会ってたでしょう?実はトレーナーさんにお願いされてたの。シャーリーンちゃんがデザートを食べてないか見張っておいてくれって」
とんだスパイ野郎どもである。思い返せばあの頃から二人と会話が増えた時期。何も気が付かなかった。先に裏切ったのはステイシャーリーンなのだが。
「まぁシャーリーンがしっかり約束を守ってくれてたみたいだし、信頼度が増える要素にはなったかな。それでもあの時は流石に呆れたけどね」
「でもシャーリーンのおかげで私達仮契約できたんです。シャーリーンをいじめないであげてください」
デスクワークをしながらやれやれといった表情で会話に混ざった山内の小言をブリーズシャトルがすかさずフォローする。――シャトルちゃんっ!とブリーズシャトルに抱き着くステイシャーリーン。スパイ野郎とは一体何だったのか。――可愛い奴めとうりうりされるステイシャーリーンと甘やかすブリーズシャトルを横目に見ながらマスカレードアイは淹れたてのコーヒーをトレーナーに持って行く。
「どうぞ。二人とも仲いいですね」
「ありがとう。まるで仲の良い姉妹のようだな。アイも少しの間くつろいでいてくれ」
―――わかりましたと返事をした後、マスカレードアイは2人が座っているソファに腰かけ、会話に混ざっていく。
黄色い声とキーボードをたたく音。山内は立ち上がり、今日の練習メニューを発表する。3人は返事をすると、準備を始める。慌ただしく移動を始める3人をみて山内は気合いを入れるのであった。