走り抜ける風   作:ブリンカー

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11話

 5月。新参組2人の選抜レースまで残り1カ月。ステイシャーリーンもメイクデビューに備えてトレーニングを重ねていく。トレーニング内容も少しずつではあるが、ハードになっていく。怪我をしないラインを見極めて3人それぞれの個別メニューを組んでいるため、山内の負担は大きい物だったが、そこは流石と言うべきか。これまでの経験を活かして難なくこなし、自身の疲労を軽減できていた。並のトレーナーや新人トレーナーであればとっくに音を上げていただろう。

 

 理想的には山内のようにそれぞれのウマ娘にあった個別の練習メニューを組めるのが理想だが、経験の浅い新人トレーナーだと個別メニューを組むのにも時間がかかったり、ノウハウがなくて組めなかったりする。そうなってくると、チーム全体で同じ練習メニューを組むことが多くなってしまう。

 

 新人トレーナーが複数の担当を持つことが推奨されないのは、ウマ娘の管理がおろそかになってしまいがちになるからである。そういった新人のためにサブトレーナーというトレーナーの助手的な立ち位置で経験を積んで独り立ちするというパターンもある。大所帯のチームはこのサブトレーナーを複数つけて、1人1人に管理の目が届かないということがないように対策しているチームがほとんどだ。

 

 フレンドリーな感じなので、あまり目立たないが、山内はトリプルティアラウマ娘を輩出したこともあるトレーナーだ。山内聡という男はそれほどまでに有能だった。

 

 

 

 「今日はここまで。後、月末の日本ダービーをチームで観戦しにいくから予定は開けておくように。じゃあ解散」

 

 

 

 そういって山内は部室を後にした。3人は着替えながらわいわいと日本ダービーの話で盛り上がった。4月にも桜花賞を見学した時もすごかったが、やはり伝統ある日本ダービーは別格だ。

 

 

 

 「日本ダービーか~。やっぱ一度はあこがれちゃうよね!」

 

 

 

 「私はティアラ路線を目指すのであんまり関係ないですが、それでも憧れる気持ちはわかりますね」

 

 

 

 ブリーズシャトルが興奮気味に話す。ティアラ路線を目指しているマスカレードアイにとっては桜花賞のほうがモチベーションアップにつながっただろう。それでも興味津々といった様子だ。

 

 

 

 「日本ダービーかぁ・・」

 

 

 

 生涯に1度しか出られないレース。日本ダービーを取れれば他は何もいらないというウマ娘もかなり多い。それほどまでに栄誉あるレースなのだ。ステイシャーリーンも上手くいけば来年は走る可能性もあるかもしれない。しかし今は目の前のメイクデビュー戦と浮つきそうになる脳内を切り替えて、部室の鍵を閉めて後にした。

 

 

 

 

 

 迎えた日本ダービーの日。東京競バ場は人で溢れかえっていた。外には入場できずに空気だけでも味わおうと待機している人もかなり多い。それほどまでのビッグレースなのだ。3人は雰囲気にのまれそうになるが、引率の山内は落ち着いていた。

 

 

 

 「3人もG1レースに出ることになったらこれぐらいの観客に見られながら走ることになるんだ。しっかり空気を味わっておけよ」

 

 

 

 得意げになっている山内。トレーナーは調子にのると口調が少し砕けた感じになる。その癖をこの数カ月で見抜いている3人は(あっトレーナー調子に乗ってるな)と思ったが、意識がトレーナーに向いたことによって、気分が少し落ち着いた。

 前哨戦が次々と終わり、ついに始まる日本ダービー、選ばれた18人のウマ娘がゲートに収まっていく。スタートに湧く歓声。そこから3人は食い入るように見ていた。あっという間の2分半。気が付けばレースは終わり、1着をとったウマ娘が力強く手を掲げウィニングランをしている。いつか自分も。3人は胸に熱い思いを秘めたまま競バ場を後にした。

 

 

 

 「すごかったね・・・大舞台で走るってああいうことなんだね」

 

 

 

 「はい・・桜花賞の時もすごかったですがそれ以上の熱気でした」

 

 

 

 帰りの車内。いまだに興奮している2人が後部座席で騒ぐ中、ステイシャーリーンはボーとしていた。すごかった。語彙力が喪失してしまっているが、それほどまでに凄かったのだ。握りこぶしに少しだけ力が入る。

 

信号待ちの山内は3人の様子をちらりと確認すると、いい影響を受けてくれて満足したのか、微笑ましそうな顔をしている。学園にたどり着き、一旦トレーナー室に集合となった。校門前で解散になると思っていた3人はまだ何かあるのだろうかと思いながらトレーナーについていく。

 

 

 

 「今日の日本ダービー凄かったな。いつか君達も大舞台で走れるように一緒に頑張って行こう。そして・・ステイシャーリーンのメイクデビュー戦が決まったので報告します」

 

 ―――おおおおおおと3人のテンションが一気にあがる。特にステイシャーリーンはダービー効果もあいまってボルテージは最高潮になっていた。

 

 

 

 「8月初週の函館2000メートル右回り。これに決めた。7月中旬にある福島2000メートルも考えたんだが・・せっかくだから地元で走ったほうがいいだろうと思ってな。函館の方でいいか?」

 

 

 

 「函館のほうでお願いします。私頑張ります!」

 

 

 

 「わかった。じゃあ明日にでも登録しておこう。せっかくだからご両親にも報告しておくといい」

 

 

 

 「はい!今日の夜電話しておきます!」

 

 

 

 「良かったねシャーリーン!トレーナー!当然私達も応援にいっていいですよね!?」

 

 

 

 「もちろん。気持ちよく応援するためにも2人は選抜レースでしっかり勝ってもらうぞ!」

 

 

 

 「頑張ります!」

 

 

 

 ―――なんか気合いはいってきたぁ~!と漲るブリーズシャトルと口をきゅっと結んで両手で握りこぶしをつくって静かに気合いをいれるマスカレードアイ。二人も気合い十分のようだ。

 

 興奮冷めやらぬまま寮に戻った3人。ステイシャーリーンは寝間着に着替えた後、両親に電話をかけた。

 

 

 

 ―――あっもしもし!お母さん?今お父さんもそこにいるかな?うんうん!えっとね!私のデビュー戦が決まってその報告で・・うんっ、そう!場所が函館になったの!トレーナーさんがご両親の方が応援にくるかもしれないしせっかくだから地元の方がきやすいだろうって。あっ、日付は8月の―――

 

 

 

 嬉しそうに両親と話すステイシャーリーン。両親もまるで自分のように喜んでくれてるのがわかる。電話を終えてベットに寝ころびながら片手を掲げて握りこぶしをつくる。残り2か月。それまでにやれるだけのことをやろう。パタッとベットに着地した握りこぶしをほどいて毛布にくるまる。その日ステイシャーリーンは夢を見た。大歓声に包まれる中、最後の直線を駆け抜ける。夢か正夢か。その答えは未来のステイシャーリーンが教えてくれる。

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