走り抜ける風   作:ブリンカー

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13話

 選抜レースから一夜明け次の日。山内は悩んでいた。ステイシャーリーンはすでにデビュー戦は決まったものの、2人は特に決めていない。じっくり体をつくって焦らずいくか。デビューを早めて経験を積ませていくか。手腕が問われる瞬間である。本人達の気持ちも汲むべきだなとため息をついて休憩する。

 コーヒーを飲んでいると、昼休みをつげる長めのチャイム。ご飯前に飲むべきではなかったなと少し後悔しつつ、昼食をとるため食堂にむかった。

 

 学生が食べる席とトレーナーや各園職員が食べる席は別々に設けられている。山内は同僚のトレーナーと雑談しながら昼食を取り終えると、トレーナー室に戻り、少し仮眠を挟んで仕事に戻った。ステイシャーリーンの出走する函館2000メートルに出場を登録している他のウマ娘の情報を集める。2か月先の話なのでまだ登録者は少ないが、これから増えてくる可能性もある。強そうなウマ娘が出走登録をしている場合、競合を回避して登録してこない場合もこの世界では普通だ。重賞レースでもない限り、負けるとわかっているレースにのこのこ出てくるのは愚の骨頂である。

 

 

 ―――前回の選抜レースでシャーリーンもなかなかいい走りをした。できれば有力なウマ娘が出てこないほうが楽ではあるが・・流石にいまのとこはまだわからないか・・

 

 

 予想通り事前登録者が少なかったため、大した情報は集められなかったが、それでもこの時期のウマ娘は急激に化ける可能性をだれしもが秘めている。油断をせずにチェックしてマークし続ける必要がある。チェックリストに登録しているウマ娘を加えると、海外のウマ娘の最新トレーニング理論の確認。2時からはトレーナー向けの合同講習も控えている。それまでにやれることをしておかねばと気合いをいれて仕事に取り掛かった。

 

 

 

 

 

 昼過ぎに行われたトレーナー合同講習。6月はデビュー戦が始まる。初めてデビュー戦を迎えるウマ娘を担当する若手や新人トレーナーも当然いるため、そのための講習だ。山内などの経験をつんだトレーナーにはあまり関係ない講習だが、同時にウマ娘のレース用具を作成しているメーカーが学園に集まってそれぞれの製品をアピールする場でもあるのだ。山内や経験豊富なトレーナーにとってはむしろこっちがメインである。

 

 それぞれのメーカーはここぞとばかりに新商品を持ってきて売り込む。有名なトレーナーの元についている子は重賞やG1レースで勝利することが多い。逆に言えば勝てるからこそ有名トレーナーになるのだ。大舞台で勝利したウマ娘があの会社の商品を愛用している。会社からしたらとんでもない宣伝効果である。当然名の知れたトレーナーである山内の所にもドシドシと営業がかかってくる。

 

 人の波を退けた山内は――いつきても大人気ですね。と顔なじみの業者の人に笑顔で言われ、山内はおかげさまで――と困った顔で笑いながら、談笑する。

 

 

 「有望そうなトレーナーがいたら是非紹介してください。いい商品精一杯用意させてもらいますので」

 

 

 「そうだなぁ。そういえばサブトレーナー時代に同じチームに所属していた後輩が独立してトレーナーになるって言ってたんだよ。その子呼んでこようか?」

 

 

 「山内さんの推薦なら是非。オススメを用意しておりますのでお待ちしておりますね」

 

 

 

 こうやってつながりが増えていく。名門や大手のチームが勝ちやすいのはこういった要因も少なからずある。誰だっていきなりトレーナーデビューして無敗の3冠バの担当と初年度から巡り会って・・と、トレーナーなら一度は夢を見るものだ。しかし現実は甘くはない。なんのコネも実績もない新人など相手にされないのがほとんどだ。いきなり何もかもうまくいく。そう言ったスター街道を歩めるのはとびきりの才能をもったほんの一握り。自分はそんな才能はない。コツコツと経験を積み重ねてきたから今の自分があるのだ。こういった縁を大事にしていくこと。天狗にならないように自分に言い聞かせると、やってきた後輩とともに、新商品の説明を山内は受けた。

 

 

 

 

 「お疲れ様でーす!」

 

 

 

 授業を終えた3人がいつものようにやってきて、カルテ記入のルーティーンを終わらせてソファに座る。今日は選抜レースの後なので休養日。カルテ記入が終われば自由行動なのだが、3人はそのままトレーナー室に居座り続けた。

 

 

 

 「今日はオフだから別にここにいなくてもいいんだぞ。たまには青春を謳歌してきたらどうだ?」

 

 

 「明日どうせ休日なので練習終わりにみんなに出かけることにしたんです。だから別に今日でなくてもいいかなーって」

 

 

 「それよりもトレーナーさん。今日シューズメーカーや蹄鉄メーカーの方が学園にいらっしゃったのですよね?」

 

 

 「私も気になりました。シャトルちゃん新しい靴ほしいっていってたもんね」

 

 

 

 3人はの目当てはこれか。山内は引き出しにしまっておいたトレーニングシューズのカタログと蹄鉄のサンプル、ウマ娘用の栄養食や新作のスポーツドリンク。その他もろもろの商品をテーブルに置くと、3人は興味津々に見始めた。

 

 

 

 「これ美味しくない?いくら位で売ってるんだろ?」

 

 

 

 「勝手に食べちゃだめよシャトルちゃん。えっ?食べていい?じゃあ私も一つ・・それよりもシューズみなくていいの?」

 

 

 

 「この練習ウェアいいなぁ。学園のジャージも便利だけどこういった感じの服も・・普段使いにも使えそうだし・・」

 

 

 

 3人はわいわいと雑談を始める。(これは明日スポーツ用品店に行くな)と未来予知した山内は再びデスクに戻り、仕事を進める。騒がしいはずなのに1人で仕事をするよりも不思議と捗る。今日も忙しい一日だったが、いい一日だったと思いながら山内は仕上げにかかった。

 

 結局3人は下校のチャイムがなるまでトレーナー室に居座った。トレーナーも仕事を終えたため、一緒に部屋を後にする。雑談をしながら帰っていると、ごはんの話題になる。

 

 

 

 「そういえばトレーナーさんたまには奢ってくださいよ。こんなに可愛い愛バがお願いしてるんだから~お願いします!」

 

 

 

 ステイシャーリーンは手を合わせてすりすりしながら拝んでくる。つられて2人もお願いしてきた。――そうだなぁ~と山内は手を顎にあてて悩んだふりをする。トレーナーというのはかなりの高給取りだ。しかも担当したウマ娘が勝利すればさらにボーナスがでる。重賞など大きなレースならなおさらだ。トレーナーが過酷な職業なのにもかかわらず、人気の職種の理由にこれが一役買っている。山内も、もれなく金持ちといわれている部類だった。本人は節制してるのでそういった風に見えないが。しかしただ奢るとなると甘やかすだけとなる。山内は考えた。

 

 

 

 「ステイシャーリーンのデビュー戦の結果次第・・かな・・」

 

 

 

 「意地でも勝てシャーリーン!ていうか勝て!」

 

 

 

 「シャーリーンちゃん・・わかってるよね・・!?」

 

 

 

 突然2人からプレッシャーがかかるステイシャーリーン。気迫にびびりながらも約束をとりつけたステイシャーリーンは勝利する目標が1つ増えたと鼻息荒く帰宅するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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