7月中旬。練習を朝できりあげ、一行は西の所属するシニアウマ娘が函館記念に出場するので函館競バ場に応援に来ていた。
「山内!それに3人も来てくれてありがとうな。あいつらもいいとこ見せるようにがんばるって言ってたから応援してやってくれ」
山内は西と挨拶を交わすと会話を続ける。難しそうな会話だったので、3人はそのまま深入りせず、近くにいたモモノスターを見つけ取り囲む。恥ずかしそうなモモノスターだったが、会話できる友達の来訪に嬉しいのか、笑顔が増え始めた。
「私もうすぐデビュー戦なんだ!ここで走るの!モモちゃんもしよかったら応援しにきてね!」
「うん。合宿は8月の初めまであるから応援にこれるよ。絶対シャーリーンの応援にくるから・・」
「なんかお熱いとこみせつけちゃってぇ~。私も混ぜろこのこの!」
「モモノさんのデビュー戦は確か10月でしたよね?私達もタイミングがあえば応援に行けるようトレーナーさんに掛け合ってみますね」
わいわいしているうちにあっという間に先輩ウマ娘の未勝利戦のレースが始まる前になった。
ゲート入りして・・飛び出した。何事もなくレースは後半にはいり、ラストの直線を迎える。先行ポジションをとっていた先輩ウマ娘はそのまま前のウマ娘を抜き去り1着でゴールした。
手を振り期待に答えたといわんばかりに笑顔で返事をする先輩をみて、応援していた一行のテンションは高まっていた。そして始まる運命の11R。満を持してパドックに現れたもう1人の先輩にステイシャーリーンは両手の握りこぶしを力いっぱい掲げて応援していた。少しだけ恥ずかしそうにしている先輩が印象的だった。
「シャーリーンもしっかりみておけ。2週間後には同じコースで走ることになるから見逃すな」
いつになく強い口調の山内。そののち、ゲートからウマ娘が一斉に飛び出しレースが始まった。直線を一気に駆けていき先頭争いをはじめる。16人のレースとなるとポジション争いも過酷で時折体がぶつかりそうになっている子達もいた。
ポジション争いも落ち着き第一、第二コーナーと曲がっていき、直線に入る。速いペースでレースが進んでいき、いつのまにか前方と後方で差ができている。後方勢にとってはあまりうれしくない展開だ。しかし先輩ウマ娘にとっては併走と同じような展開になったのでその経験が活きた。比較的早い段階でするするとまくっていき、外側のいいポジションで直線をむかえることができた。
「いっけ~!!先輩頑張れー!!」
「先輩そこだぁ~!!いけぇ~!!」
最後の直線に入った瞬間、観客たちが一斉に声をあげてそれぞれの推しウマ娘に声援を送る。そんな声に負けないようにステイシャーリーン達も負けじと声を張り上げて応援する。ラスト100メートル。大きな歓声に包まれる。そして、それぞれのウマ娘がゴール板を次々と駆け抜けた。
「ごめんねみんな。せっかく応援してくれたのに。あ~悔しいなぁ~」
3着。僅かに届かなかった。重賞で入着できるだけでも十分に凄い快挙だ。しかし、本人も西も行けると思っていただけに悔いが残る結果となった。
「先輩かっこよかったですよ。次はきっと勝てます!」
「そうですよ先輩!私もまた一緒に走るので一緒に練習しましょう!」
ブリーズシャトルとステイシャーリンはなんとか盛り上げようとポジティブな言葉をかけて必死に励ます。
「うん。ありがとね!トレーナー達の都合がよければまたお願いしちゃおっかな!みんな今日はありがとね!」
「山内今日はありがとな。俺らも応援にいけるようにするから。じゃあまた今度」
そう言って解散となり函館競バ場を去っていく。シンとなる帰りの車内。窓の外を見つめながらブリーズシャトルがポツリと呟く。
―――先輩。悔しかっただろうな。
あの時は強がっていたがその後きっと泣いたのだろう。すでにあの時声色が震えていたから。あんなに頑張っていたのに。ステイシャーリーンは自分が勝負の世界に身を置いていることを改めて感じていた。
「厳しい世界なんだ。ここは。だからみんな努力するんだ。勝つためにな」
山内が語り掛けるように喋りだす。
「君達も後悔のないようにしてほしい。だからと言って無理して怪我をしては元も子もない。限りある時間を大切にしていこう」
3人の凛々しい返事に満足気に頷いた山内は宿についた後、ステイシャーリーンの最後の調整プランを練るのであった。
「今まで真剣にやってたつもりだったけど・・いざ現実突きつけられるとびっくりしたな・・」
「ええ。今トレセン学園に残っている子達のことを考えると私達は恵まれていると思います。悔いのないように頑張りましょう」
「私も・・私も頑張る・・!」
夏のこの時期、トレセン学園に残っている子達は悲惨だ。中等部ならまだいい。スカウトを受けてなくてもまだ未来があるからだ。問題は高等部に上がった子だ。6月の選抜レースでスカウトを受けられなかった子はチームに所属していない。そうなるとチームで行われる合宿に参加できず、1人で過ごしたり、友達と過ごすことになる。夏を終えると、トレーナーの元で指導を受けてレベルアップしてきた子と、学園で自主練を黙々と行う子。勿論教官もいるので指導者がいないというわけではないが、どちらがより伸びているかは明白である。夏休み明けの模擬レースで周りの子達と自分の力の差を感じ、辞めていく子も多い時期なのだ。9月の選抜レースまで自主練できるほどのメンタルを持った子はこの年頃ではなかなかいない。
ステイシャーリーンは床に就きながら考えた。友達のこと、トレーナーのこと、そして両親のこと。応援してくれる人のためにも負けられない。ステイシャーリーンにとって今日は、1つのレースを見学したことによって ウマ娘 として精神的成長をとげることができた1日だった。
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