向かえた運命の日。少しだけ2人より早く目覚めたステイシャーリーンはいつもより寝起きがよいことに不安を覚えながら静かに着替え始める。自分に緊張しないようにと言い聞かせながら寝たはずが、どうしても無理だった。
「おはようございますシャーリーンちゃん。今日は最後まで精一杯応援します。頑張ってください」
起こさないようにと静かにしていたつもりだったが、気が付いたマスカレードアイが起き上がりながら声をかけてきた。ブリーズシャトルも続けてあくびをしながら挨拶をする。起こした形になって申し訳ないと思いながらも、少しだけ緊張が和らいだステイシャーリーンは笑顔で返事をすると、準備に取り掛かった。
「いやぁ話には聞いてたけどまさか本当に山内トレーナーがシャーリーンの担当トレーナーだなんて・・父さんは信じられないよ。」
控室で改めてトレーナー挨拶をしている両親。子供のころの授業参観のようだとステイシャーリーンは恥ずかしいようなうれしいような気持になったステイシャーリーン。呼んでおいたのは自分なのに、いざ来てもらうとなんだかそれはそれでという感じだろう。盛り上がるトレーナーと両親。いつまで続くのかと思っていた矢先、ステイシャーリーンの母が、夫に退出を促して部屋を去ろうとする。自分もレースの世界に身を置いていたので、集中する時間も必要と気を聞かせてくれたのだろう。
「トレーナーさんがいい人そうで安心しました。シャーリーン。今日のレース。悔いのないように走ってきなさい。では私達はこれで」
そう言って去って行ったステイシャーリーンの両親。父の方はもう少し話したいような素振りを見せたが、妻の意図に気が付いたのだろう。頭をさげて観客席の方へ去って行った。
「いいご両親だな。今日のレース。いいとこみせてやれるよう頑張るぞ」
「はいっ!」
控室の外で待機していたブリーズシャトルとマスカレードアイが入れ替わるように入ってくる。そして少し遅れてはいってきた友人にステイシャーリーンは歓喜の声をあげる。
「リーンちゃん応援にきたよ!私の仇をしっかりとってよねー!」
「先輩それだとまるで先輩が敗れ―――」
「ん?」
「イヤ何でもないっす・・っす・・」
「先輩達きてくれたんですか!?ありがとうございます!」
西のチームに所属している先輩ウマ娘達。そして何やら緊張している様子のモモノスターだ。
「まるで自分のレースみたいにこの子なんか緊張しちゃってさ。リーンちゃんちょっと声かけてあげてよ」
立場が逆転している不思議な状況だが、ステイシャーリーンは気にせず声をかける。
「モモちゃんもきてくれたの?ありがとう。私頑張るから応援してね!」
「シャーリーン・・頑張って・・ね・なんかうまく言えな・・くて・ごめんね」
「うん!ありがとう!」
小さい声でぼそぼそと喋るモモノスターにステイシャーリーンは笑顔で返事をすると、つられて笑顔になるモモノスター。ステイシャーリーンは、良い緊張感のままパドックへ向かうことができた。
パドックにて、レースに出場するウマ娘がそれぞれ順番にアピールしていく中、ステイシャーリーンの出番が来た。いつかみた日本ダービーのパドックでかっこよくポーズを決めていたウマ娘のようにポーズを決めたかったが、特に決めていたポーズがある訳でもないので、くるりと何周かした後におじきをして戻っていくステイシャーリーン。その様子をみて山内と、応援にきていた竹井は笑顔になりながら会話をしていた。
「ははっ。お前のとこの子はしまらねぇ感じだったな。まぁでもシャーリーンちゃんの性格を考えればらしいっちゃらしいか」
「ええ。でも特に緊張している様子ではなかったので一安心です」
「そいつはなにより。しかし、トモの仕上がりもいい感じだった。今日の夕飯は豪華につくるよう指示してきたんだ。期待に答えてくれよ山内」
「はい。期待していてください」
地下通路を歩いて本バ場に向かう。蹄鉄をはめたシューズの音がやけに響く。ステイシャーリーンは深呼吸しながら少しずつ歩んでいく。あと少しで出口というところで正面にこちらを向いて立っている人影をみつけ顔を見上げる。山内だった。
「無事今日この日を迎えられたことを俺は嬉しく思う。ステイシャーリーン。思い切って走ってこい。今お前が出せる全てを出し切ってこい」
真剣な顔の山内の言葉に静かに頷いて返事をしたステイシャーリーン。
「私。勝ってきます」
そう呟き、再び歩き始める。ステイシャーリーンの体は間もなく光に包まれた。
ファンファーレが鳴り響く場内に徐々に緊張と期待が高まっていく。日本ダービーのように観客が一杯なわけでもない。すごいウマ娘がそろっているわけではない。毎週のように行われる数ある中のデビュー戦のうちの1つ。しかしその1つのデビュー戦にもドラマがある。誰も結末を知らない1つの物語が今始まろうとしていた。