走り抜ける風   作:ブリンカー

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19話

 歓声とともにゲートから駆けだした9人のウマ娘。ハナを取りたいウマ娘の先頭争いを尻目に、ステイシャーリーンは悠々と自分の理想ポジションにつくことができた。数日前に降った雨の影響か、一歩一歩踏み出すための足取りは重い。返しウマの時で確認はしていたが、全力で走っているとこうも違うものなのかと思いながらホームストレッチの直線を駆け抜け、第一コーナーに入り始めた。

 

 

 

 ―――いいかシャーリーン。今回のレース、第一と第二コーナーを曲がるときはピッチ走法に切り替えろ。雨の影響を受けた洋芝は滑りやすい。足元が不安定な状態で大とびのままカーブを迎えると姿勢の制御が難しい。ピッチ走法で無理なく走れ。その際順位は抜かされても構わない。そのかわり―――

 

 

 

 ステイシャーリーンは今まで習ってきたストライド走法をピッチ走法に切り替える。小刻みな走り方は違和感を感じたが、それでもポジションをキープしたまま向こう正面の直線を迎えることができた。

 

 

 

 「頑張れシャーリーン!トレーナーも応援しようよ!」

 

 

 

 「しっ!シャトルちゃん今は静かに」

 

 

 

 観客席の前方にいる一行。そしてその集団からほんの少しだけ離れた場所にいる山内。ステイシャーリーンと同じぐらい集中していた山内は、つぶさにレースを観察し、集中していた。そして勝負所とみて、手をあげてサインを出す。それぞれのトレーナー達もまた、自分の担当ウマ娘に状況に応じてサインをだす。レースは生き物だ。常に変化し、状況が変わり続ける。その複雑な生き物を上手く操り、モノにするのは至難の業だ。それでも勝利のために挑み続ける。戦っているのはターフで走っているウマ娘達だけではない。

 

 

 

 (思った以上に早い・・!)向こう正面の直線の中盤を走っていたステイシャーリーンはトレーナーからの合図を確認しながらそう思った。しかしここまでやってれたのはトレーナーのおかげだ。迷うことなく一瞬でギアを入れ少しずつ加速していく。

 

 捲るように走り始めたステイシャーリーンに観客達はどよめき始めた。デビュー戦で捲りという戦法はなかなか見かけないのもあるのだろう。なんかすごいのがやってきたという気持ちと期待で応援に熱が入り始める。観客の声援と後ろからやってきたステイシャーリーンに驚いたのか、先頭集団の数人も抜かせまいとムキになって張り合ってくる。そしてそのまま第三コーナーを迎える。

 

 

 (ここでコイツを調子づかせるわけには行かない・・!勝つのは私だ!)

 

 

 ステイシャーリーンに張り合ったウマ娘は内側は譲らない。いいポジションをとらせまいと速度を維持したまま第三コーナーに入った。その外側を走らされる形になった。

 

 

 (コイツはカーブの時にピッチ走法で走っていた。つまりカーブが苦手なんだ・・!スタミナはもつ・・ここで差をつける!)

 

 

 ステイシャーリーンをちぎろうと加速していくライバルウマ娘。この日のために厳しいトレーニングを積んできたのだ。絶対に勝つという意志の元、走る。しかし第4コーナーに差し掛かるもなかなかちぎれない。

 

 

 (何故ちぎれない?隣を走っているこいつは何故下がって行かない?)

 

 

 ライバルウマ娘は焦っていた。そして改めて隣をみる。そこには大とびでリズムよく前を見つめてただ走っているウマ娘の姿があった。

 

 

 (コイツ・・・!!ここにきて大とびを・・!!)

 

 

 ステイシャーリーンは前半とはうって変わって大とびで走っていた。ステイシャーリーンは元々最短コースをとるつもりはなかった。山内からマークしにくる他のライバルがいいポジションを取らせてくれないだろうと言われたのを念頭においてこのポジションをとったのだ。最内に比べて外側はロスがあるため、余分なスタミナロスは当然ある。しかしその分遠心力への負担が軽くなり、スピードもだすことができる。雨で重バ場。ラストスパートで再加速するための余力を残している

者はいるだろうか。そしてここは直線の短い函館競バ場。再加速してスピードがのるころにはゴールにたどり着いているだろう。速度を維持したままステイシャーリーンは最後の直線を迎える。ステイシャーリーンの特徴を活かした山内の作戦が見事にはまった形となった。

 

 

 ―――まだだ!と、くらいつくライバルウマ娘。その直後、足元が急にふらつき始める。まっすぐ走れない。息が苦しい。目の前のウマ娘が遠のいていく。第三コーナーからの予想外の競り合いと雨上がりの重馬場で余分にスタミナを削られたことを自覚したのは今だった。力を失い、ずるずると下がっていく。――いやだぁ~!と叫びながら最後はバ群に呑み込まれていった。

 

 

 

 熱い、ステイシャーリーンの背中を風が押す。直線に入った直後に応援席にいたチームメイトの姿が見えた。答える暇と余裕なんて全くない。それでも声はステイシャーリーンに届いていた。残り200メートルを切った。もはや後ろにいる他の子の足音すら聞こえない。息が苦しい。聞こえるのは自分の鼓動だけ。しかしそれでも速度は緩むことなく脚は前に進む。前へ。そしてまた一歩前へ。

 

 

 

 (見ろ。私だけを見ろ!!!!!!!!)

 

 

 

 わぁあああと雄たけびを上げながらゴールへ駆け抜けるステイシャーリーン。服は泥だらけ。息も絶え絶え。あの日みたかっこよく駆け抜けていたスターウマ娘とは程遠い。それでもこの時は確かに。ステイシャーリーンが主役だった。

 

 泥だらけのシンデレラ。トゥインクルステージの歴史に1人の勝者の名前が刻まれた。

 

 

 

 

 

 

 

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