走り抜ける風   作:ブリンカー

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20話

 歓声が競バ場に響く。ステイシャーリーンは息を整えながらウイニングランを行い、観客に手を振り、そして応援してくれた仲間の席をみる。勝った実感がいまだにわかないステイシャーリーンだったが、興奮しているブリーズシャトルを見ているうちに自分が1着だということを再確認した。Vサインをだすと、そのまま地下通路を通って控室に戻る。控室の前につくと、ステイシャーリンは仲間達からの祝福の声に包まれた。

 

 

 

 「おめでとー!シャーリーン!かっこよかったよ!」

 

 

 

 「おめでとうシャーリーンちゃん。私達も続けるように頑張ります」

 

 

 

 その後もやいやいと祝福され、舞い上がるステイシャーリーン。そして―――はいはい一応ここらへんでおしまい と山内に一旦区切りをつけられ、外に出ていった一行。もっとちやほやしてくれてもいいのにと思ったステイシャーリーンだったが、部屋に山内と2人きりになる。山内がタオルとカルテを取り出したのをみると、ステイシャーリーンは流れるようにすぐさま椅子に座った自分の脚を差し出した。

 

 

 

 「おめでとう。始まりの一歩を踏み出せたな。ここからがスタートだ。少しずつ登って行こう。脚のケアが終わったらご両親にもしっかりお礼を言いなさい。きっと喜ぶはずだ」

 

 

 

 「トレーナーさんなんかたんたんとしてますね。担当した子が初勝利を飾ったんだからもっとよろこんでくれてもいいんじゃないですか?」

 

 

 

 「バカ野郎。シャーリーンのご両親もいるんだぞ。俺がそっちのけで喜んだらそれはそれで違うだろうが。トレーナーというものは、こういう時は一歩下がって主役を引き立てないといけないと俺は思ってるんだよ」

 

 

 

 「そういうものなんですか・・?」 

 

 

 

 ステイシャーリーンは謎に包まれながらも、話しながら嬉しそうに脚のケアをしている山内を見て満足できた。ケアが終わり、山内がドアを開け、外で待機していたステイシャーリーンの両親を招きいれる。

 

 

 

 「シャーリーンさんの脚のケアを優先させていただいたので、少しだけお時間をいただきました。すみません」

 

 

 

 「とんでもないです!うちの娘を立派に育ててくれて山内さんには感謝の言葉もありません・・なんとお礼を申し上げればよいのか・・」

 

 

 

 「シャーリーンさんが今日のレースを勝てたのは本人のおかげです。私はその手伝いをしただけです。最後は本人自身の力で走ることしかできませんから」

 

 

 

 山内はステイシャリーンの両親と挨拶を交わして部屋の外にでる。気を聞かせてくれたのを理解したステイシャーリーンの両親は久々に親子水入らずの会話を楽しんだ。優しい父と優しい母。そんな両親を持てたことにステイシャーリーンは感謝と誇りを持てた。そして少し時がたち、まもなく控室を出る時間となった。立ち上がり、部屋をでようとしたステイシャーリーンと両親。ドアに近づいていったステイシャーリーンの母は、振り返り立ち止まる。きょとんとするステイシャーリーン。

 瞬間、母の匂いがステイシャリーンを包んだ。

 

 

 

 「シャーリーン。頑張ったね」

 

 

 

 ゆっくりと涙があふれた。希望をもってトレセン学園に入った事。周りの力の差に驚き、自信を無くした事。心が折れて学園を辞めそうになった事。トレーナーに出会った時の事。きついトレーニングの日々。そして幼い頃、草レースで1着をとって母に褒められた事。一瞬のうちにステイシャーリーンの記憶があふれ出した。かっこ悪い姿をみせまいと我慢する。しかしステイシャーリーンは徐々にこみあげてくる嗚咽が止めることができなかった。

 

 

 

 「お母さ・・わたし・・かった・・やっ・・かてた・・!」

 

 

 

 「うん。みてたよ。頑張ったね。シャーリーン」

 

 

 

昔と同じように抱きしめてくれる母。昔と比べてもう背の差はない。むしろステイシャーリーンの方が大きいくらいだ。それでもステイシャーリーンを包み込んだ匂いは、あの時と同じ変わらない優しい匂いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ウィニングライブも無事終わり、宿へ戻る一行。車の中でペンライトをいまだに振り回してはしゃぐ後ろの2人に山内は声をかける。

 

 

 

 

 「シャーリーンがかっこよくデビューを決めてくれたんだ。2人も後に続けるようにしよう」

 

 

 

 

 「シャーリーンちゃんのレースもですが、ライブも感動しました。私もあの舞台にたてるように頑張ります!」

 

 

 

 「そしてゆくゆくはでっかくG1レースでライブしたいな~!」

 

 

 

 気合い十分な2人。ステイシャーリーンもデビュー戦を勝利したとはいえ、競争バ生活は始まったばかり。次もレースも勝つと意気込みながら今日の晩御飯を想像してルンルン気分で帰り着いた。

 

 お風呂上り。ステイシャーリーンのために豪華な晩御飯を用意してくれた竹井にステイシャーリーンは感謝しながら完食すると部屋に戻った。これから2日はオフになると山内にいわれたので、3人で街に出かけて観光しようとわいわい計画をたてていると、電話が鳴りだす。電話に出ながら部屋をでる。聞こえた声は少し小さめだったが、はっきりと聞き取ることができた。

 

 

 

 「シャーリーンおめでとう。言うの遅れてゴメンね・・」

 

 

 

 「モモちゃん!ありがとう!私がんばったよ!」

 

 

 

 「競バ場の時はシャーリーンが皆に囲まれてなかなか言い出せなくて・・本当にそれだけなんだ。おめでとう。・・シャーリーン。いつか一緒に走ろう・・ターフで。その時まで私も頑張る」

 

 

 

 「ありがとう!私もモモちゃんと一緒に走れる日を楽しみにしてる!」

 

 

 

 ―――じゃあまた と途絶えた通話。短い通話だったが、ステイシャーリーンには新たな目標ができた。次も勝つという目標とは別に、友人と一緒に肩を並べて走るという目標だ。モモノスターはきっとあがってくる。それまでに自分を力をつけようと心に誓ったステイシャーリーン。そしてそれはそれ、と切り替え、部屋に戻り、再び街の探索計画に戻りはしゃぐステイシャーリーンであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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