函館の街を堪能した3人。心身ともにリフレッシュし、残りの合宿のトニーニングを最後まで乗り切ることができた。
――来年もまたきます。
竹井と別れの挨拶をすまし、新幹線に乗り込む。一回りも二回りもたくましくなれた気がするシャーリーン。一行は日が暮れる前にはトレセン学園に帰り着くことができた。
学園前で解散となり、寮に戻って休んだ。翌日。移動の疲れをとるためにオフとなっていたが、特別やることがあるわけではないので、体を休めるためにも久々に部屋でごろごろしようかと悩んでいたが、走りたい気持ちが抑えられなかったステイシャーリーンは着替えると、いつのまにかトラックにやってきてしまった。本格的な練習はせず、軽く走ってそのあとは散歩がてらジョギングしようと計画をたて、山内に電話で走る許可をとった。流すだけとはいえ、無理は禁物。怪我を防ぐためにアップをしていると、自分以外にもトレーニングをしているウマ娘がちらほらといた。
その中でもやたら目を引くような綺麗な金色の髪をしているウマ娘がいる。顔も整っていて、容姿端麗な子が多いと言われているウマ娘の中でも群を抜いて美人な顔立ちとスタイルにステイシャーリーンは目を奪われる。どこかで見たことあるような気がしたが、気のせいだと自分の調整に戻ろうとした時、金髪のウマ娘と目があった。一瞬の間のあと、ステイシャーリーンは気まずくなって、会釈をしてすかさず視線を外した。金髪ウマ娘も会釈だけすると、興味ないといわんばかりの態度で自分のトレーニングに集中し始めた。しかし、金髪のウマ娘は考えるような仕草をした後、ステイシャーリーンの方向に向かって歩き始めた。
(すごい綺麗な人だなぁ~)
ぼーっとしながら柔軟をするステイシャーリーン。アップが終わり、軽く走ろうかと思って準備をし始めた瞬間、後ろから声がかかった。
「あの。もしよかったらなんですけど・・アタシと併走してくれませんか?もし迷惑だったらほんと断ってくれていいんで」
「えっ・・私ですか?ええっと・・はい!大丈夫ですよ!」
まさか声をかけられると思っていなかったステイシャーリーンは驚いて思わず了承の返事をしていた。まじかでみるとかなりの美人だ。学園でもこんなに美人な子はそうそういないだろう。どぎまぎしていると、あちらから声がさらにかかる。
「アタシ、ゴールドシチーって言うんだ。一応モデルもやってる。あなたの名前は?」
「ステイシャーリーンです。今年ジュニア級に登録してこの前デビュー戦を終えました・・よろしくお願いします・・」
「マジ?うちらタメじゃん?アタシも今年からジュニア級なんだよね。これからタメ語で話さない?そっちのほうがシャーリーンも楽っしょ?」
「わかり・・うんわかった。よろしくねシチーちゃん」
「ん。よろしく」
それから2人は併走を始めた。ステイシャーリーンは心のどこかで油断していた。何ていったって自分はデビュー戦を勝利したウマ娘なのだ。そんな甘い気持ちで併走をしたが、結果は負け越しだった。5本走って勝てたのは1本だけ。負けレースはどれもあと一歩で勝てないという悔しい結果だった。ステイシャーリーンは悔しい気持ちでいると、最後の1本を終えたゴールドシチーが息を整えながらステイシャーリーンに近づいて話しかけた。
「シャーリーンありがと。まさかこんなにいい併走ができると思わなかった。このあと時間ある?よかったらウマックいかない?」
そう言われ、またもや二つ返事で返してしまったステイシャーリーン。着替えた後、近くのファストフード店に行き、二人でだらだらと時間を過ごす。
「シチーちゃんモデルもやってるんでしょ?トレーニングもやるとなると大変じゃない?」
「まぁ確かに大変だとは我ながら思うよ。実際トレーニングの時間もなかなか取れないし。自分でいうのもあれだけどアタシってルックスいいじゃん?トレーニングするにしてもまわりがほっとかないというか・・外野がうるさく感じちゃうんだよね・・今日は撮影の仕事がオフだったから休もうと思ったんだけどさ。ほら、今夏休みじゃん?人がすくない静かな環境でトレーニングできるチャンスかなって思って。その分日差しがやばくて肌の手入れめんどくさかったけどシャーリーンがいてくれていいトレーニングできた。感謝」
「私も今日すごく楽しかった。実は私走る前まではちょっと調子のってたんだよね・・この前のデビュー戦で1着とれて自信あったんだけどシチーちゃんに負けちゃって慢心はよくないなって思った」
「いうて少し前にデビュー戦だったんでしょ?レースの疲れも抜けてない状態であそこまで走れるの逆にすごいって。アタシなんか撮影の都合で6月にデビュー戦したんだけどダートよダート!芝を希望してたのに都合があわないから~って。もう4回も走ってるからねアタシ。流石に次から芝じゃないと走らないってトレーナーに文句言って次のレースを芝にしてもらったわ」
ステイシャーリーンは練習を重ねている自分と違って合間合間のトレーニングのゴールドシチーに勝ち越せなかったことに驚愕した。綺麗なだけでなく、走りの才能も相手の方があるかもしれない。不安な気持ちになったが、それでも会話を何とかつなぐ。
「ダート走るのはまた違ったコツがいるもんね。私も最初はダート走ったりしてたけど、テンでダメだったよ。」
「アタシも3戦走ってようやく勝利したかんね。んで次のG3で2着。負け続けでさ~。芝の方が走りやすいしアタシ芝のほうがあってると思うんだよね」
「シチーちゃんは芝の方があってると私も思うよ。だって今日の走りもすごかったし」
「でしょ?シャーリーンにも勝ち越しちゃったし自分の才能が恐ろしいわ」
むっとなりそうなステイシャーリーンだったが、なんとか堪える。そんな様子をにやにやとしながらゴールドシチーはさらに話しかける。
「いまシャーリーンムカってきたでしょ?アタシにはわかるよ。だってアタシも負けず嫌いだから。同じこと言われたら絶対むかつくし。もううちら友達だし気兼ねなく喋ろうよ。アタシ仕事の関係でなかなかこういった友達いなくてさ。もっとシャーリーンと仲良くなりたいんだ」
ステイシャーリーンは好意的な反応をくれるゴールドシチーに対し、嬉しくなった。さっきまで一瞬とはいえムカついていた相手に対してすぐに手の平を返した。ちょろいウマ娘である。
「正直いうと・・悔しかったぁ~~!!だってあんなに練習したのにぃ~」
「ははっ。マジうける。これも才能のなせる業ってやつ?負けた罰として今日のウマックシャーリーンの奢りでヨロです」
「えぇ~?そんなぁ~」
テーブルに突っ伏しながら悔しいと喚くステイシャーリーンにゴールドシチーは追い打ちをかけた。悲鳴をあげながら顔をあげたステイシャーリーンを見てゴールドシチーはさらに笑う。
「デビュー戦で勝ったんだし今懐温かいんでしょ?いいじゃん。新しくできた友達に還元しなよ。アタシも今度奢るからさ。そういえばどこで走ったの?」
「今度奢ってね。約束だよ!?私が走ったのは函館競バ場だよ」
「マジ?アタシ今度のレース会場函館なんだよね。コースの特徴とか注意するところとかあったら教えてくんない?」
「うん!函館のコースは―――」
それからも長い間しゃべり続けた。ゴールドシチーはポンポンと話題をだしてくれるのでステイシャーリーンも飽きることなく時間を過ごすことができた。気が付けば日が暮れ始めていたので寮に戻り、連絡先を交換して部屋に戻る。気まぐれな思い付きが新たな出会いを導いてくれた1日だった。勝手にハードな併走をしたことにより、次の日に山内に説教されることをこの時のステイシャーリーンは知る由もなかった。