9月。新学期がはじまり、学園に活気が戻ってくる季節。そして秋の大レースの前哨戦が徐々に始まる季節でもある。夏で力をつけたもの、たっぷり休んで秋にそなえた者。様々である。始業式で久々に顔合わせした子達はそれぞれ再会を喜び、話に花を咲かせる。日焼けしている者も多く、休み前と比べて成長している様子の子も多い。少しだけ空席になっている教室にステイシャーリーンはは寂しさを覚えたが、ここは勝負の世界。去る者追わず。全員が勝者になることはできない。厳しい世界なのだ。
先生の話が終わり、解散となった。3人はトレーナー室に集合し、山内の元に集まる。
「なんか懐かしい感じだね。ひと夏来なかっただけなのにもう不思議な気持ち」
「夏の練習は合宿と部室しか利用していませんでしたからね。本当に久々です」
ブリーズシャトルはそう言いながらも、堂々とくつろぎ始めた。マスカレードアイはトレーナーにコーヒーを飲むか確認した後、コーヒーをいれて持って行く。ステイシャーリーンも懐かしい気持ちになりながらブリーズシャトルとともにくつろいだ。
「ここでのミーティングは久々だな。じゃあ早速今日の内容を確認していこう。今日はトレーニングの前に発表がある。3人の次のレースについてだ。まずマスカレードアイ。9月の中旬にメイクデビュー戦が決まった。場所は中山、距離は1600メートルだ。今からだと3週間程度しかないが、夏のトレーニング内容をみていけると踏んで登録した。しっかり調整していこう。次にブリーズシャトル。こちらは9月の下旬、場所は中京、距離は1200メートル。同じくいけるとみて登録した。マスカレードアイよりも調整の時間が長い分、モチベーションの維持が大変だろうが一緒に頑張ろう。そしてステイシャーリーン」
それぞれデビュー戦が決まった2人は喜びつつも、気を引き締めて返事を返した。2人のデビュー戦が決まって喜んでいたステイシャーリーンは自分も呼ばれると思っていなかったのか、少しだけ気の抜けた返事をした。
「10月中旬の京都競バ場で行われる紫菊賞だ。距離は前回と同じく2000メートル。今回はデビュー戦を勝ち上がってきたウマ娘達が相手だ。気を引き締めてかかるぞ」
レースまで約1ヶ月半とこの中では最長だ。しかしそんなことを気にもせず、ステイシャーリーンは、元気のよい返事をする。それぞれの目標を掲げられたこの日は3人ともいつもより集中してトレーニングに励むことができた。
9月の選抜レース。山内は視察にきていた。担当の3人は友達の応援のため、別の場所に行くようで、久々の1人での視察だ。この時期にトレーナーと契約できないウマ娘は必然的にジュニア級のレースに参加できないのと同じ意味をもつ。12月の選抜レースには中等部の子も続々と現れ始める。トレーナー側からしても、この時期まで残っているウマ娘よりは未来のありそうな中等部の子を選ぶのは必然。ジュニア級のウマ娘達にとってこれが実質ラストチャンスと言っても過言ではなかった。出走をするウマ娘誰もが目に闘志を宿しているようだった。
めぼしい子がいないかチェックをする。いくつかのレースを見て回っていると、ふと山内の目がとまった。体は小柄だが、気合いをいれている葦毛の子がいる。走りもなかなか悪くない、が、勢い余ったのか、徐々に失速して最後は後方でのゴールになった。
光る物を感じる。一瞬ではあるが、まるで風を切り裂くような素晴らしい走りだった。出走リストから名前を洗い出し、全てのレースが終わった後に、トレーナー室で確認をする。教官が各トレーナーにわかりやすいように個人のプロフィールや特徴をまとめているデータがあるので、それを引っ張りだして調べる。
小柄だが元気はつらつ。後方からのレースを得意としており、関西出身。そして気性に難あり。
山内はスカウトしてみようか悩んだ末に今回は見送ることにした。スカウトして仮にあの子がチームに入った場合、まずは身体能力のチェックやフォームの確認から始まる。ステイシャーリーン達と同じ学年。先に入部している3人はすでにデビュー戦を目前にしていて、そのうち1人は1勝クラスのレースにでる。地道なトレーニングをこつこつとしている最中に他の子はデビューをして走っていく。あの体だとデビューは当分先になるはずだ。当然焦るだろう。そういったウマ娘は朝早くにこっそりと隠れてトレーニングをしたり、夜ぎりぎりまで自主練する子が多い。自分の置かれている状況に焦り、トレーナーの把握していないところでトレーニングを重ねて取り返しのつかない怪我をする子も多いのだ。かといってジュニア戦線の本番を迎えるこの時期に、新人1人をつきっきりで面倒を見る余裕はない。トレーニング内容があまりに1人だけかけ離れているのも効率が悪い。
スカウトしたくなるほどの才能を感じたが、今のチームの状況を考えると、見送るしかないという結論にいたった。
(これもめぐり合わせか)
そう思いながら山内はため息をつく。秋になり、日も暮れる時間も早くなってきた。山内は立ち上がると、軽く伸びをしたあと、窓から差し込む夕日を見ながらコーヒーを飲む。マスカレードアイの入れてくれたコーヒーの方が上手いなと思いながら山内は3人分の今度のレースの作戦やデータ収集をこなしていった。