走り抜ける風   作:ブリンカー

24 / 38
24話

 10月中旬。紫菊賞。デビュー戦を勝ち上がってきた1勝クラスのウマ娘が更なる高みを目指して京都競バ場に集った。ジュニア級ウマ娘の最長距離となる2000メートルのレースは1勝クラスから上となると、重賞を除けば、月に1回程度しかない。必然的に現時点でのスタミナ自慢がそろう事になる。レースが始まる前の控室では山内とステイシャーリーンの打ち合わせが行われていた。

 

 

 

 「いいかシャーリーン。勝負は第三コーナーの坂だ。上り坂でスタミナを温存しつつ、くだり坂でスピードをつけて走り抜ける。というのが定番の戦法だ。坂の頂上を下り始めたらレースが動くだろう。今回は逃げウマ娘がいないからスローペースになる可能性が高い。シャーリーンはキレのある脚を持っているわけではない。それは自分もわかっているだろう」

 

 

 

 ステイシャーリーンはコクコクと頷く。自分の長所と短所は山内の指導によってより明確にわかってきた。自分は切れ味鋭い脚を持っているウマ娘というわけではないが、その分スタミナがある。

 

 

 

 「今回は事前の練習通り先行でいく。比較的早いペースで仕掛けるサインをだすかもしれない。俺の合図がでたらそのままスパートをかけろ」

 

 

 

 「はい。今日も勝ちます。勝って帰ります!」

 

 

 

 「その意気だ」

 

 

 

 最終打ち合わせが終わると、山内は控室のドアをあける。―――はいっていいぞ。ブリーズシャトルとマスカレードアイを招き入れようと思ったのだが、どうやら2人とは別に来客がいるようだった。

 

 

 

 

 「ステイシャーリーンの友達がきているみたいなんだけど入れてもいいかな?トレーナー」

 

 

 

 「なんでもトレセン学園の中等部まで同じクラスだった子みたいで」

 

 

 

 「いいんじゃないか。友達に応援してもらった方がシャーリーンも喜ぶだろう」

 

 

 

 ―――なんかいいみたいですよ。

 

 

 ブリーズシャトルドアの外に身を乗り出して来客に返答する。ステイシャーリーンにはやってくる人物の想像がついていた。しかし間違っている可能性もあるので、顔には出さなかったが、それでも久々に会えると喜びが抑えきれなかった。

 

 

 

 ―――失礼します。

 

 

 女性と男性の声が重なるように挨拶をして部屋にはいってきた。その瞬間ステイシャーリーンは来客した女の子に向かって立ち上がり、駆け寄っていく。

 

 

 

 「シャーリーン。久しぶり。応援にきたよ」

 

 

 

 「やっぱり!〇〇ちゃん!来てくれたんだね!」

 

 

 

 「デビュー戦の函館は流石に遠かったけど、京都なら地元から近いからね。今日のレース期待してるから」

 

 

 

 「うん!私頑張るから見ててね!」

 

 

 

 トレセン学園の高等部にあがる前に学園を去った友人。その友人との久々の再会にステイシャーリーンは喜んだ。友人も皆の前でいきなり抱き着かれて照れているのか、顔が少し赤くなりつつも、嬉しそうだ。

 

 山内は2人の時間をとろうか提案をしたが、―――ご迷惑になるので大丈夫です。と逆に気を使ってもらう形となった。久々の再会に昔話に花が咲いている2人。ここにきてステイシャーリーンの調子にいい影響がありそうだと山内は喜んでいると、タイミングを見計らっていたのか、男性が声をかけてきた。

 

 

 

 「突然の来訪ですみません。はじめまして。カサマツトレセン学園で○○の担当しております遠藤と申します。山内さんのお噂はかねがね伺っております」

 

 

 

 「トレセン学園所属の山内です。こちらこそよろしくお願いします」

 

 

 

 こっちはこっちで大人同士の話が始まったとブリーズシャトルは呆れたような顔をしてマスカレードアイをみた。――そんな顔をしてはいけません。とマスカレードアイからお叱りを受けて、ブリーズシャトルは椅子に座って大人しくすることにした。

 

 

 

 

 

 パドックにてそれぞれのウマ娘がアピールをする。その様子を遠藤と山内は見ながら会話をしていた。

 

 

 

 「今回はどのような作戦でいくつもりで?」

 

 

 

 遠藤はまわりを見渡して、近くに他のトレーナーがいないことを確認してから山内に声をかける。作戦が漏れないように事前に確認してから聞いたのだろう。配慮のある人だと山内は遠藤に対する印象は控室の時よりもさらに良くなった。

 

 

 

 「今回は先行させていくつもりです。」

 

 

 

 「シャーリーンさんは差しや追い込みタイプの子と伺いましたが?」

 

 

 

 「ええ。ですが今回は逃げウマ娘がいないので。シャーリーンの癖を考えるとこれがベストだと」

 

 

 

 「なるほど・・前残りを」

 

 

 

 鋭い。山内は瞬時に自分の作戦を見抜いた遠藤を横目でみた。山内のそんな感情を尻目に、遠藤はパドックを見つめてウマ娘の様子をみている。

 

 ステイシャーリーンは後方からのレースを得意とするウマ娘だ。だが一瞬のキレ脚で勝負するタイプではなく、後方からスタミナですり潰すレース展開ができるスタミナ系のウマ娘だ。ハイペースなレースで前残りになりそうな展開になっても、持ち前のスタミナを活かして早めにスパートをかけることができるので、展開が早いレースには対応できても、逃げウマ娘がいないスローペースなレースだと、相手もスタミナを残してるので最終直線のよーいどんなスピード勝負になりやすい。そうなると加速力があまりないステイシャーリーンにとっては分が悪いのだ。故に今回は先行位置で早めに仕掛けてレースを動かし、多少スタミナは切れても前目を走って粘らせて、後方がスピードを出し切る前に勝負を終わらせようという算段だった。

 

 中央のレースとはいえ、わざわざ1勝クラスのウマ娘のデータをいちいちとっているわけではないはずだ。となると、与えられた少ないこの情報でステイシャーリーンの癖を見抜き、予想したということになる。

 

 もし仮にこの遠藤が中央にきたら、強力なライバルとなるだろう。年下とはいえ、山内は遠藤に畏敬の念を感じられずにはいられなかった。

 

 

 

 「遠藤トレーナーはこの作戦はどう思いますか?」

 

 

 

 「いい作戦だと思います。僕も同じ立場だったら同じ作戦をとったと思います。ただ山内トレーナー次第ですが、その先を見据えるとなると・・きつくなると考えたら頭が思いやられますね・・」

 

 

 

 いいトレーナーだ。山内は素直にそう思えた。

 

 通常、地方のトレーナーというのは中央と比べて格や質が落ちる。これは当たり前のことで、中央の方が試験は難しいが待遇もいい。なにより栄光を手にしたときの名誉が段違いなのである。G1ウマ娘を輩出したトレーナーという看板は何事にも代えられないのだ。そうなると、当然、中央を目指すトレーナーの方が多くなり、その中で競争が行われるため、選ばれたトレーナーは質が高くなる。地方のトレーナーは中央で試験に受かることができなかった者や、中央の条件を満たすことができなかったトレーナーが集まる。最初から地方1本で目指してやってくるトレーナーは極めて珍しいのだ。

 

 

 (在籍は地方だが、実力は中央レベルかもしれない。いやもしかしたらそれ以上の可能性も)

 

 

 山内は遠藤と意見交流をもっとしてみたいと思いつつも、まもなくレースがはじまりそうになったので、ステイシャーリーンが自分のサインをみやすそうな位置に移動する。

 

 

 (今の俺の仕事はあいつを勝たせることだ)

 

 

 雑念を振りほどき、スタートを待つ。瞬間、ゲートが開いて自分の愛バが走り始めると、山内はさらに集中してレースを見つめた。

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。