ステイシャーリーンは走り始めた。今回のレースは全員勝利経験のあるウマ娘だ。
それぞれが自信をもって走っているのがわかる。気迫で負けてはならないと、前にでるが、先行争いが激しく、とりたいポジションをとれなかった。ステイシャーリーンは前へ前へと走っていくが、第1コーナーに差し掛かるため、これ以上は無理だと判断し、順位を上げるのをやめてペースを戻した。今回は先行して前残りを狙うので、後半にとって置けるスタミナはできるだけとっておきたい。第2コーナーを曲がって平坦な道が続く。ステイシャーリーンはその時に備えて準備をし、身構えた。
(思った以上に展開が遅い。このままのペースだと予定地点で仕掛けた場合、他のウマ娘に差し切られる。今仕掛けさせるのは早すぎるか?だがシャーリーンは初動先頭集団に混ざれなかったものの、その分スタミナに余裕はあるはずだ)
山内は瞬時の判断を求められた。仕掛け時は今か。またはもう少し先か。こうして悩んでいる間にもレースは進んでいく。
第3コーナー前。残り1000メートル。山内は決断した。手をあげてサインを出す。サインが出たと同時に、ステイシャーリーンとほんの一瞬だけ目が合った気がした。その瞬間、ステイシャーリーンは徐々にペースをあげ、第3コーナーの坂に入る前に先頭にたった。
坂で失速するだろうと呼んでいた他のウマ娘達はさほど気にせず、力を温存し、ゆっくりと坂を上りながらコーナーに差し掛かる。仮に距離が離れても、十分巻き返せるとふんだ他のウマ娘達。 勝負はコーナー途中の坂の下り 好きにあのウマ娘を前で走らせていくのは気になるが、それでもここで追いかけて一緒に自滅するのはまずい。競争相手は他にもいるのだ。
互いに互いが牽制しあう形になって、ステイシャーリーンは坂をみるみる凄い速度で登っていく。誰よりも早く第三コーナーを曲がると、その脚を緩めることなく、一気に下りを駆け抜ける。しかし思った以上にスタミナを消費したのか、速度がでない。本人は全力で走っているつもりが、無意識に脚をゆるめてしまっていた。が、今回はそれが有利に働いた。急激な下りのコーナーのため、速度を出し切ると、たいていのウマ娘は遠心力に耐えられず、体が外にふられて外側を走ることになり、距離のロスにつながってしまう。ステイシャーリーンは体力の消耗で思った以上に速度がでなかったため、下りによってある程度の速度を維持しつつ、ロスなく第4コーナーを回ることができた。無意識のうちに息に余裕を取り戻したステイシャーリーンは、最後の直線で力を振り絞り、再びスパートをかける。
後方のウマ娘達も続々と直線に入り、スパートをかける。思った以上に先頭と差が開いたが、まだなんとかなる。それぞれが力を振り絞り、追い抜こうと走り、競り合う。
残り150メートル。ステイシャーリーンは限界を迎えていた。ゴールが果てしなく遠い。周りの歓声がやけにうるさく感じた。もう苦しいと感じてしまう自分がいる。脚を止めようか。そう思った瞬間、脳裏に友人の姿がよぎった。わざわざ応援にきてくれた友人。そんな彼女の前で無様な姿を見せるわけにはいかない。何よりトレーナーは自分を信じてくれているのだ。その期待に答えたい。
残り100メートル。ステイシャーリーンのフォームは崩れ始めた。明らかにばてているのが傍から見てもわかる。それでもステイシャーリーンの速度は落ちなかった。雄たけびを上げながら走り続けるステイシャーリーン。徐々に後ろから足音が近づいてくる。
「いけぇーーーーーーーー!!!」
山内が叫んだ。決着。ゴール板を通過したのはステイシャーリーン。2着との差は半バ身。ぎりぎりの勝利だった。歓声にこたえる余裕もなく、ステイシャーリーンは徐々に失速すると、その場にへたり込んだ。
苦しいレースだった。だけどこのレースで1番早かったのは自分だ。ステイシャリーンは息が整うと、いまだ鳴りやまぬ歓声にこたえるように人差し指を天に掲げた。その様子をみた観客の歓声はさらに強くなる。
辛勝ではあったが、それでも勝利は勝利。この日、2勝目をステイシャーリーンをあげることができた。
「おめでとうございます。見事な勝利でしたね」
「いえ・・今回はシャーリーンが本当に頑張ってくれました。私もまだまだだと痛感したレースでした」
「ご謙遜なさらず。山内トレーナーが彼女の力を見極め、それを活かして勝利したのならば、山内トレーナーの手腕も優れていたという事。彼女を信じてこの作戦をたてたのでしょう?」
今回は見立てが甘かった。山内の中ではもう少しペースが流れると思っていたのだが、実際はそうではなかった。仕掛け時がずれていたら、恐らく結果は違っただろう。瞬時に反応し、最後まで走り抜けてくれたステイシャーリーンに感謝するのであった。
「シャーリーン!最高にかっこよかった!!やってくれるぜこのやろ~!」
「最後まであきらめない姿。本当に凄かったです!」
控室でチームの2人と話すステイシャーリーン。脚のケアも終わり、競バ場を後にしようと外に出ると、友人ウマ娘と遠藤が待っていた。遠藤が頭を下げると、友人ウマ娘は少し笑顔でこちらに手を振っていた。
山内に――少しだけ話してきてもいいか。と確認をとり、了承を得た後、ステイシャーリーンは友人の方へと駆け足で友人の方へと駆けだした。あちらも同じように確認をとった後、ステイシャーリーンの方へ歩み寄ってきた。
「レースの後控室にきてくれてよかったのに」
「いやなんかそこまでいくと流石に悪いかなって。最後シャーリーンへろへろだったね。かっこ悪かった」
そうからかいながら、あどけない笑顔で冗談をいう友人。
「最後一生懸命だったんだもん、本当に苦しかったんだって!」
そう言いながら軽くぷんすかしながら反論するステイシャーリーン。
「ごめんごめんて」
「でも。最高にかっこよかった。私も・・私も頑張る。応援しにきたのになんだか私が元気貰っちゃった気がしたよ。今日はありがとうシャーリーン」
へへっと照れ隠しで返事をするシャーリーン。やがて二人は別れの挨拶を交わすと、互いのトレーナーの元に戻った。遠藤は再び頭を下げると、友人ウマ娘と遠藤は去って行った。
「僕たちも帰ろうか。祝勝会としてご飯を食べて帰ろう。もちろん僕のおごりで」
食べ放題を連呼し続ける3人を新幹線に間に合わなくなるとの理由で却下した山内。残念そうに耳をしょげらせる3人だったが、定食屋について頼んだメニューがくるないなや、喜んで食べ始めた。特にステイシャーリーンはレースでエネルギーを消費したのでガツガツと食べている。しっかりおかわりを繰り返したステイシャーリーン。今回は許してやるかと腹いっぱいになるまで食べさせてやるのであった。