走り抜ける風   作:ブリンカー

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26話

 レースが終わって数日後、レースの疲労をとるため、ステイシャーリーンのみオフにして、2人のレーニングを見た後、再びトレーナー室に戻る山内。この季節はどのトレーナー室の明かりも夜遅くまで消えることはない。それほどまでに忙しい季節なのだ。

 

 コーヒーを入れて椅子に座った山内は、先日のステイシャーリーンのレースを映像で振り返る。改めてみると、負けてもおかしくないレースだった。スタミナ自慢のステイシャーリーンも最後は、ばてていたぐらいだ。相当な負担をかけていたのだろう。

 

 だが悪いことばかりではない。想定していた展開とは違う形で勝利したこの結果を次のレースで上手く利用できる可能性がある。これを使わない手はない。ステイシャーリーンの疲労からの回復量次第というところだが、選択肢は多いほどいい。山内はプランを練ると、サクサクと次の仕事に進んだ。

 

 11月に控えたブリーズシャトルとマスカレードアイの1勝クラスのレースの下準備も終わったころには、10時をとっくに回っていた。あまり根を詰めてやっても仕方ないと立ち上がると、帰りの準備を終え、トレーナー室を出て帰宅した。

 

 

 

 次の日、オフが終わって走ることができると意気込んているステイシャーリーン。チーム全体でオフならばまだしも、自分だけがオフとなり体を休めている間、走っているチームの2人を遠巻きにみて体がうずいていたのだ。充電も完了し、鼻息を荒くしながらトレーナー室で騒ぐステイシャーリーン。走る前から掛かってしまっているステイシャーリーンを山内は呼び止め、席に座らせる。なにかあるのかと不安な気持ちと今すぐ走りたい気持ちが入り混じったまま、ステイシャーリーンはソファに腰を下ろし、山内の言葉を待つ。

 

 

 

 「せっかくやる気をだしているというのにすまないね。3人とも聞いてくれ。ブリーズシャトルとマスカレードアイは前の説明通り、11月のレースに備えて調整内容の変わりはない。が、ステイシャーリーン。君は違う。シャーリーン。今君の体調はどうだ?疲労感はあるか?」

 

 

 

 「すっかり元気になりました!早く走りたいです!」

 

 

 

 「疲れは本当に全くないか?シャーリーンの体調次第で今年の目標レースが変わってくる。触診で脚の状態はある程度わかるが、体全体の疲労は君自身しかわからないからね。正直に教えてくれ」

 

 

 

 「全然大丈夫ですよ!ばっちりいけます!」

 

 

 

 「もう1回先日のレースを走れって言ってもか?」

 

 

 

 「まぁ・・なんとか・・?」

 

 

 

 自信なさげに顔を傾けながら――ははっ。乾いた笑いをしながら頬をぽりぽりとかいているステイシャーリーン。

 

 

 (やはり思った以上にタフな子だ。疲労は問題なさそうだが念のため)

 

 

 

 確認した山内はステイシャーリーンの様子をみて、思っていた今後のスケジュールを話し始めた。

 

 

 

 「シャーリーン。実は迷っていたことがあってね。当初の予定だと、シャーリーンは12月末に行われるホープフルSに直行する予定だったんだ。だが予定を変更してホープフルSの間に来月末に行われる京都ジュニアステークスにでてみないか?」

 

 

 

 茫然とするステイシャーリーン。

 

 

 (G1レース?わたしが?)

 

 

 1年前のこの時期を思い出す。模擬レースでも選抜レースでも勝てなくて自信を無くし、学園を去ろうと悩んでいた。そんな自分がここまでこれたのだ。自分の成長を実感したステイシャーリーンは遠くで聞こえる山内の声に気づかず、ここまで頑張ってきて本当に良かったと喜びをかみしめていた。

 

 

 ―――おーい。聞いてるかい?

 

 

 はっと我に返ったステイシャーリーンはロボットのようにカクカクと頷き返事を返す。山内に 明らかにきいてないなこいつ と言わんばかりの疑いの目で見られているステイシャーリーンだったが、とにかく頷き返事をすることでこの場を乗り切った。

 

 

 

 「まぁ・・そろそろ2人の練習を始めたい時間だし、また今度説明しよう。じゃあさっきの説明通り、シャーリーンは後3日追加で完全オフで。しっかり体休めてから練習開始するからね」

 

 

 

 「シャーリーンに負けないように私達も練習してくるね。いつか私もG1でるぞ~!」

 

 

 「シャーリーンちゃんにおいてかれないように頑張ってきますね。私だって負けませんよ」

 

 

 

 そう言ってぞろぞろと出ていく一行。置いてけぼりに去れたような感覚になり、ステイシャーリーンは 私も見学します とついていこうとするが

 

 

 

 「だめ。練習している様子みると走りたくなってうずうずしちゃうでしょ。体を完全に休めてからまた始動しよう。休むのもトレーニングの1つだよ」

 

 

 

 そう言われ、練習参加不可になってしまったステイシャーリーン。部屋に取り残され、ポツンと1人佇むステイシャーリーン。

 

 

 (とりあえず寮に戻ろう)

 

 

 とぼとぼと歩いて帰宅し、部屋でゴロゴロするステイシャーリーン。見たかった映画や漫画、好きなウマチューバーの動画を見るも、1日で全部見終わってしまった。今日はなんとかなったが、残りの2日はどうしようか。しかも明日から土日で学校も完全に休みだ。明日からの2日間の予定は未定。時間を潰すことができる何かが起きろと願いながらステイシャーリーンは床についた。

 

 

 

 当たり前のようになにもおきずに1日が流れた。今日を過ごせば明日から練習ができる。そう思っていても、今日という1日は果てしなく長い。気分転換に散歩でもしようと、トレセン学園の近くの散歩コースを歩いて気を紛らわすステイシャーリーン。秋の風が少し肌寒いが、自主練しているのだろう。中等部のジャージをきたウマ娘が時折、自分を追い越して走り去って行く姿をみて、懐かしい気持ちになりながら、飲み物を買ってベンチに座る。

 

 温かいココアを飲んでほっとしていると、ジャージをきたウマ娘がベンチの近くの自販機にやってきた。自主練の休憩タイムなのか、顔を少し赤らめて息が上がっている。自主練ウマ娘がお金を投入しようとした瞬間、くしゃみをし、自主練ウマ娘の手からお金が滑り落ちる。落ちていったお金は無慈悲にも自販機の下に吸い込まれていき、自主練ウマ娘は焦った様子で自販機の下に手を突っ込んでがさがさと探している。

 

 1~2分粘っていたが、どうやら諦めたようで、 はぁっ とため息をつきながら残念そうにとぼとぼとステイシャーリーンの座っているベンチを通り過ぎて走って行こうとした。

 

 

 

 「あの、よかったらこれつかってください」

 

 

 

 突然声をかけられた自主練ウマ娘はびくっとした後にこちらを見た。ステイシャーリーンは何故声をかけたのか、自分でもよくわからなかったが、もう声をかけてしまったものはしょうがない。賽は投げられたのだ。

 

 

 

 「いや・・なんか悪いし大丈夫ですよ」

 

 

 

 「私も大丈夫ですので!なんか残念そうにしてたのでどうぞつかってください」

 

 

 

 「ははは・・みられてたんだ。お恥ずかしい。じゃあお言葉に甘えていただきます」

 

 

 

 ごり押しで硬貨を渡すことに成功したステイシャーリーンは自主練ウマ娘が自販機で無事飲み物を買う様子を見届けると、独りよがりな満足感に浸りながら、残りのココアをちびちびと飲む。

 

 

 

 「あの。よかったらここ座ってもいいかい?」

 

 

 

 ステイシャーリーンは先ほど聞いた声の持ち主がステイシャーリーンの隣に座っていいかと許可を取りに来たのをみて、嬉しくなった。暇をつぶすのにはうってつけだ。少しこすい考えのステイシャーリーンとは裏腹に、自主練ウマ娘は感謝しながらステイシャーリーンの隣に座る。

 

 

 

 「そういえば。私ステイシャーリーンって言います」

 

 

 

 「私はメリルナイサー。よろしくね」

 

 




 投稿する前に自分でも確認してはいるのですが、それでも誤字脱字があるみたいで反省する毎日です。誤字脱字の指摘をしてくれる方や、本作品を読んでくれている方にに感謝申し上げます。
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