栗毛に見事な白い流星の髪をもった彼女はそう答えると、缶をプシュッとあけてゴクゴクとジュースを飲み始めた。なんだかんだ言って喉が渇いていたのだろう。ステイシャーリーンは美味しそうにジュースを飲むメリルナイサーを眺めながら自分もココアを飲む。
「ありがとう。正直にいうとすごい喉が渇いていたんだよね。ははっ。もう半分も減っちゃった」
そう笑いながら、メリルナイサーは手に持っている缶を振りながら、残量を確認して、もう一度缶を口に運んだ。
「ステイシャーリーンさんはいくつなの?ここら辺に住んでいるってことはもしかしてトレセン学園に所属してたりする?」
「私、トレセン学園に所属しています。今年ジュニア級に上がってデビュー戦も終えました。」
「その表情だとデビュー戦は勝てたみたいだね。そして奇遇なことに僕も同じ学年。良かったらこれから仲良くしてよ。デビュー戦はどこで走ったの?」
「私は函館がデビュー戦だったよ。元々地元が北海道でトレーナーがせっかくだからって調整してくれたんだ」
「函館・・ねぇ・・。もしかしてシャーリーン、あっシャーリーンって呼んでもいいかな?僕もメリルって呼んでいいからさ。同学年にモデルやってるゴールドシチーって子がいるの知ってる?その子と知り合いだったりしない?」
「えっ、うん知り合いというか友達と言うか・・うん!友達だよ!」
ステイシャーリーンは一度だけしか遊んだことない子を友達と呼んでいいのかわからず、あいまいな返事になった。しかし振り返ってみると、ゴールドシチーはモデル業の関係でなかなか学校で合う事は少ないが、それでも廊下や食堂で会った時は声をかけてくれる。ならばそれはもう友達なのではなかろうか?ステイシャーリーンは少し考えた後、今度はしっかりと返事を返す。
「知り合ったのは最近?」
「うん。夏休みぐらいかな」
「なるほどねぇ・・道理で」
1人で納得するメリルナイサーに不思議な顔できょとんとするステイシャーリーン。
「いや、この前コスモス賞っていうオープン戦があったんだよね。その時にゴールドシチーも出ててさ。僕、彼女に負けちゃったんだ。僕のトレーナーいわく、ゴールドシチーは今回が芝のレースが初めてだし、函館競バ場も初めてだからマークする必要はないだろうって。でも結果はさっき言った通り。初めてのコースなのにすごい手慣れたように走っててさ。レース後気になって、控室に戻る途中の地下通路で聞いてみたんだ」
だんだん話が読めてきた。ステイシャーリーンはゴールドシチーと出会った時のことを思い出す。
―――最近できた友ダチに教えてもらったんだよね。ここのコースの走り方のコツ。その子のおかげかな―――
「て言っててさ」
自分のアドバイスが役にやったとは。ステイシャーリーンは嬉しくなってココアを飲むペースが早くなる。
「まさかこんなところにゴールドシチーの勝利の女神がいるとはね」
そう笑いながらメリルナイサーはステイシャーリーンにウインクをした後、缶に残ったジュースを飲み干す。ステイシャーリーンは確かにゴールドシチーに対してアドバイスを送った。トレーナーから教わったコースの特徴に自分でコースを走った時の感触や感じたことを話しただけなのだが。
しかしそのアドバイスのせい?で目の前にそのレースの敗者が現れたことに申し訳ない気持ちになり、縮こまるステイシャーリーン。
「シャーリーン今僕に対して申し訳ないとおもってない?勝負は時の運。この前は僕にツキがなかったのと努力が足りなかっただけさ。だけど今度同じ状況になった時は僕にもちょこっとだけ運を分けておくれよ?」
さわやかな笑顔でそういうと、メリルナイサーは立ち上がる。缶を空き缶用のゴミ箱に捨てると、再びステイシャーリーンの元へ戻ってくると、駆け足をゆっくりと始めた。すでに脚はリズムを取り始めている。自主練に戻る気なのだと一目でわかった。
「お金ありがとう。じゃあ僕はまだ走り込みがあるからこれで。また学校でね」
そう告げると、メリルナイサーはランニングコースに戻り、走り去って行った。
暖かい日差しはいつの間にか姿を消し、肌寒い風がステイシャーリーンの頬をかすめていく。すっかり冷えたココアを飲み干し、容器をゴミ箱に投げ捨てると、ステイシャーリーンは学園の方へと歩みを進めた。話した時間は短かったが、そんな風には感じないひとときだった。
寮へ戻り、お風呂やご飯を済ませたステイシャーリーンは布団にくるまり、目をつぶる。ここ1週間トレーニングをしていないため、寝付けない。いつもならレーニングでへとへとになって布団に入ったらすぐ寝れるのだが、疲労していないので、眠たくならないのだ。しかし明日から重賞レースに向けてトレーニングが始まる。否が応でも休んで供えねばとしばらく目を無理やりぎゅっと瞑って夢の中へいざなわれるのを待った。