11月末。ステイシャーリーンにとって初めての重賞レースがやってきた。チームの2人も先日行われた1勝クラスのレースに無事勝利し、2勝クラスに上がることができた。ステイシャーリーンは自分も勢いにのって勝てるように頬を両手で軽くたたいて気合いをいれた。
京都ジュニアステークス。文字通り京都競バ場で行われるレースで、ジュニア級の2000メートル以上の重賞レースはこのレースと12月末に行われるホープフルSの2つしかない。G3と重賞の中では一番グレードが低いものの、ステイシャーリーンが参加してきた今までのレースとは訳が違う。重賞レースを勝つことは大変な栄誉だ。誰もがその栄誉を目指し、しのぎを削り、魂をかけて走る。生半可なことでは到底勝利することはできない。その栄誉を掴むため、山内とステイシャーリーンは控室で最後の打ち合わせを行った。
「―――が、今回の作戦だ。・・・緊張してるか?」
「はい。今日のお客さんの数。すごかったですね。前の時と比べ物にならないくらい」
「ああ。なんていったって今日のメインレースだからな。重賞レースともなれば人は集まる。だけどG1レースはこの比じゃないぞ?有マ記念や日本ダービーなんか本当に人だらけだ。半年前にダービー見に行った時体験しただろ?」
「あの時は・・本当に人だらけでした」
「大舞台にでて走れるというのはそれだけで栄誉なことだ。だがそれ故にプレッシャーにのまれて自分の力を発揮できずに終わる子もいる。シャーリーン。観客を気にするなと言うのは無理な話かもしれない。だが今日のレース、楽しむということは忘れないでくれ」
「トレーナー・・・」
「お前はウマ娘で俺はトレーナー。一心同体だ。全力を尽くすぞ!」
「はい!!!」
パドックでそれぞれのウマ娘の紹介が終わり、いよいよゲート前に出走するウマ娘が集まってくる。ステイシャーリーンはゲート入り前、視線を感じていたが、それ以上に集中していた。
(トレーナーの言った通り、恐らくマークされる可能性があるかもしれない。だけどそんなの関係ない!私が勝つ!)
4の数字が刻まれた自分のゼッケンを握りしめ、研ぎ澄まされた集中力でゲートに入る。次々と他のウマ娘がゲートに入り、15人全員がゲートに収まるのを確認すると、ステイシャーリーンはスタート態勢をとった。
(開く!)
ガタンッ!とゲートが開いていち早く飛び出したステイシャーリーン。いいスタートをきれたのを実感すると、自分が集中できているのを感じた。前回よりも出走人数が多いので位置争いも激しく、理想のポジションをとるために、それぞれのウマ娘が争いはじめる。ぶつかりそうになりながらも、意地でも譲らないと言わんばかりの気迫が盛り上がっている観客をさらに白熱させる。
好スタートのおかげで作戦通り前目の位置をとることができたステイシャーリーン。そのまま第2コーナーを曲がり、集団は直線を迎えた。逃げウマ娘がいないこのレース。後半までスローペースな展開になる。走っている全員はそう思っていた。がここでまさかの展開が起きた。
直線の坂に入った瞬間、先頭を抜け出したステイシャーリーン。あまりにも早い仕掛けに観客はどよめき立った。序盤こそ飛び出しはしなかったものの、実質逃げの作戦をとっているようなものである。かといって、まくりというにはあまり早いしかけだった。
(かかったのか・・?いや、この4番の子は前回のレースで同じような作戦をとって勝ったはずだ。だがここからとばすとなると、どんなウマ娘も体力はもたない・・このポジションをキープする!)
6番ゼッケンのライバルウマ娘は自分のトレーナーを指示を確認し、集団から離れないように体力を温存して後半に備える。この4番のレース情報はしっかり頭に叩き込んできた。スタミナを活かしたレース展開。前回はごり押しに近い方法で勝利。その時は第3コーナーからのしかけだったはずだ。なにかしら作戦はあるだろうが、その策を上回って勝つ。6番ウマ娘とてここまで勝ち上がってきたのだ。それは決してまぐれによる勝利ではない。
(私にだってこの舞台で勝つだけの実力を持っているはずだ!)
6番ウマ娘は秘める闘志を内に閉じ込めたまま、レースが進む。ステイシャーリーンはぐんぐんと飛ばし、早くも第三コーナーに差し掛かった。そして坂を一気に下り、走り抜けていく。
他のウマ娘達はステイシャーリーンの走りをみてわずかに焦り始めた。前回と同様もしかしたら逃げ切るのではないか。しかしあの中盤を見ているだけに信じきれない。しかし絶対ないとは言い切れない。疑心暗鬼になった1人のウマ娘が焦ってスパートをかけようとした時、状況が再び動く。
ステイシャーリーンが明らかに失速していくのだ。フォームは乱れてはいないが、明らかに失速している。やはりもたなかったじゃないか。前回の勝利を意識して掛かっただけだ。ここで追いかけて脚を使うのは愚策。勝負は最後の直線だ。第3コーナーの坂を上るスピードに変化はなく、そのまま下りで勢いをつけて走っていく。集団は第4コーナーを曲がり、直線を迎えた。
(よし!脚は残っている!このままあの子を差し切る!)
集団から少しずつ差を広げていく、6番ウマ娘。他の子も頑張っているが、少しずつ脱落していき、残り150メートル。ついにその末脚がステイシャーリーンを射程圏内にとらえた。
(いける!!)
残りの力を振り絞り、スパートをかける6番ウマ娘。先頭を走る4番のウマ娘との差が・・・縮まらない。縮まらないのだ。
(何故?あの子はばてているはずだ!)
もがく6番ウマ娘。少しずつではあるが差は縮まっている。だが、先ほどまでとは縮まるペースが明らかに変わっている。このままでは差せない。残り100メートル。――勝てる。勝てるはずなんだ!焦りが6番ウマ娘を支配していく。前を走る4番のゼッケンに手が届かない。あのペースで走って何故ここまでスタミナがもつのか。フォームだって崩れていない。フォーム・・・?
(まさか・・・!!!)
気づいた時にはゴール板を通り過ぎていた。このレース、6番ウマ娘は誰よりも速かった。1名を除いて。
その勝者がゴール後に掲げた渾身のガッツポーズと表情は、前回の勝利時とは違ってわずかに余裕が見られた。1.5バ身。見事な逃げ切り勝ちを収めた勝者を称える大きな歓声がレース場に響く。
第○○回京都ジュニアステークス(GⅢ)
勝者 ステイシャーリーン
この日誕生した重賞ウィナーに京都競バ場から惜しみない拍手が送られた。