走り抜ける風   作:ブリンカー

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29話

 (勝つことができたか・・・問題は次だな・・)

 

 

 山内は歓声を浴びながらウィニングランをしている自分の愛バを眺めながら、すでに次のレース、ホープフルSのことを考えていた。

 

 ステイシャーリーンをマークし、事前情報をリサーチしていた他のトレーナーはこう思っただろう。――ステイシャーリーンは先行位置でレースをすると後半にばてる――

 

 事実、前回の紫菊賞では、ばてた姿でゴールしたのが印象的なレースだった。それから1ヶ月しかたっていないのであれば、スタミナを急激につけることは流石に無理な話である。勿論この1ヶ月レーニングを重ねたが、それでもここまでの走りをできたのは一重に山内の作戦が見事にはまったからである。

 

 今回の重賞レース、ステイシャーリーンが前回出走したレース同様、逃げウマ娘がいなかった。これが1つ。次にステイシャーリーンが先行位置のレースをすると、ばてるという情報がライバル達に行き届いていたこと。そして最後にステイシャーリーンが前回走った競バ場が今回と同じ京都競バ場の2000メートルで慣れていたということ。この3つの要素を加味して山内がたてた作戦は前半を飛ばして抜け出し、スタミナがもたないというライバルたちの固定概念を利用し、リードをつくり、後半にあえて失速し、そこで息を整える。失速した時点でライバルのマークから外れたステイシャーリーンはそのまま後半で二の脚をつかって逃げ切るというものだった。とどのつまり、死んだふり作戦。山内にしては珍しい搦め手だった。

 

 

 ―――その先を見据えるとなると・・きつくなると考えたら頭が思いやられますね―――

 

 

 遠藤トレーナーとの会話を思い出す山内。確かに勝つことはできた。が、あまりにも鮮やかに勝ちすぎた。次のホープフルSに出走する時のステイシャーリーンの戦績は3戦3勝。うち1勝は重賞。しかも勝っているレースは全て2000メートル。

1番人気、大本命は避けられないだろう。今までのマークの比ではないくらいきついレースになる。勝ち続けるとはそういうことなのだ。悩みの種が増えてしまったが、今は喜んでいる愛バを祝うため、控室へ向かっていくのであった。

 

 

 

 

 

 京都競バ場を後にし、前回と同じ定食屋で食事をすることになり、一行はぞろぞろと入店した。3人は前回と同じメニューを頼み、今か今かと待ちわびている。間もなく届いたメニュー。だが明らかにステイシャーリーンの量だけが多い。大盛りを頼んだ覚えはないはず(どうせあとからおかわりをしまくるのだが)だと、山内は店員に確認する。

 

 

 

 「お嬢ちゃんさっきテレビでやってたレースで勝った子だろ?それに前回あれだけ食って帰ったんだから覚えてるよ。今回はうちからの勝利祝いということで食ってくれ。食い切れなかったらのこしていいからよ。これからも応援しているよ」

 

 

 

 「この人ったら仕込みの途中なのにテレビにかじりついて見てて。前うちにきた子だ!って。ステイシャーリーンさんが勝った時はしゃぎすぎてて、その様子がおかしくてわらっちゃったわ」

 

 

 

 奥さんであろう方に当時の様子を暴露され、少し恥ずかしそうに笑いながらキッチンに戻って行った店主。新しいファンを獲得したステイシャーリーンは笑顔で挨拶すると、元気よく食べだす。

 

 

 自分の走りを応援してくれている人がいる。胸だけでなく、腹もいっぱいになったステイシャーリーンと一行。――またきます。と山内は会計をすますと、3人を引き連れてトレセン学園に戻り、解散となった。

 

 

 

 週が明けての学校。ステイシャーリーンはクラスで注目を浴びていた。なにせこのクラスから初めての重賞ウィナーが誕生したのだ。質問攻めにあい、恥ずかしげながら、嬉しそうな顔で質問に答えるステイシャーリーン。その姿をみてステイシャーリーンの友人達は――やれやれ。と呆れながら様子を見守っている。ちやほやされるのに慣れていないステイシャーリーンはこの日、有頂天なまま1日を終えることができた。

 

 

 

 「へぇ~。シャーリーンのトレーナーやるじゃん。アタシもシャーリーンのとこのチームに移籍しよっかな」

 

 

 

 「えぇ~!?ほんとに!?」

 

 

 

 「冗談冗談。嘘だって。シャーリーンほんと反応がうけるからついいじりたくなるわ」

 

 

 

 練習休みとモデル業の休みがちょうど被ってオフになったゴールドシチーはステイシャーリーンが先日重賞を勝ったということを学校で聞いたらしく、

 

 

 ―――シャーリーンとこのチームレースの後しばらく練習休みっしょ?どっかいかない?

 

 

 という流れになり、2人は現在に至る。ぷんすか怒るステイシャーリーンとそれをなだめるゴールドシチー。2人はファミレスで喋りながら互いに近況を話しあう。楽しい時間はあっという間に過ぎた。

 

 

 

 「そろそろいい時間だし返ろっか。今日はアタシが払うよ。勝利祝いってことで」

 

 

 

 「ほんと?ありがと~!ごちそうさまです!」

 

 

 

 店を後にしながら学園の寮に戻る2人。帰り道も会話は途切れることなく、わいわいと喋る2人。

 

 

 

 「あっ。そういえばシャーリーン次ホープフルSでるんだっけ?」

 

 

 

 「うん。まさかジュニア級でG1に出場できるなんて思ってもいなかった」

 

 

 

 「それ、実はアタシもでるんだよね」

 

 

 

 「えっ?」

 

 

 

 「まぁつまり今回はライバルってこと。手加減なしの真剣勝負ってことで一つヨロシク」

 

 

 「えぇ~!!さっきのファミレスの時いってくれたらよかったのにぃ~!」

 

 

 

 「シャーリーンならいいリアクションとってくれると思って黙ってたんだよね。あ~マジうける」

 

 

 

 お腹を押さえながら笑うゴールドシチー。まさかのライバル参戦に驚くステイシャーリーン。寮についた2人はそれぞれの部屋に戻るために別れようと手をあげて去っていく。去ろうとしたステイシャーリーン。しかしゴールドシチーは何か思い出したように振り返り、ステイシャーリーンに声をかけた。

 

 

 

 「そういえばシャーリーンの勝負服のこと聞くの忘れてたわ。届いたら今度写メで送ってよ」

 

 

 

 「勝負服・・?あっ・・・」

 

 

 

 「え・・あんたまさか・・」

 

 

 

 勝負服。それはG1に出場するウマ娘だけが身に着けることができる特別な服。いままでそんなものとは無縁な生活を送っていたステイシャーリーンはその存在をすっかり失念していた。

 

 

 

 「明日にでもトレーナーにいいなよ。まじで」

 

 

 

 焦るステイシャーリーンと心配しながらもその様子におかしくなったのかくすくすと笑うゴールドシチー。ステイシャーリーンは部屋に戻ってからもそわそわが収まらず、次の日、速攻で山内に連絡し、急いで勝負服を発注するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

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