走り抜ける風   作:ブリンカー

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3話

 スタンドについた二人は次のレースが始まるまで雑談に興じていた。趣味はなんだの最近あれにはまってるだの。話で盛り上がっているとどうやら次のレースの準備ができたようで、ウマ娘達が次々とゲートに入っていく。ステイシャーリーンは20~30分前はあそこに自分もいたのだと思うと、不思議な気持ちになった。

 

 

 

 「皆やっぱり緊張してますね・・」

 

 

 

 「ああ。さっきのレースの君もあんな風な顔付きで緊張していた様子だったよ」

 

 

 

 「私あんな緊張していたように見えましたか?」

 

 

 

 自分では冷静と思っていたステイシャーリーン。しかし他人からみたら緊張しているように見えたと言われた。ましてやウマ娘をよく観察しているトレーナーのいう事だ。レース直前の自分の感情はあてにならないと下をむいてため息をつくと、再び顔をあげてレースを見る。全員がゲートに収まって少しの間ができる。この瞬間だけは会場全体がシンっとした空気に包まれる。そして開いたゲートから一斉にウマ娘達が飛び出していく。

 

 

 

 「シャーリーンはどの子が勝つと思う?」

 

 

 

 視線をターフに固定したまま山内がシャーリーンに問いかける。シャーリーンが山内に視線を向けると問いかけられた若干陽気な声とは裏腹に、山内は双眼鏡を使いながら真剣な眼差しでレースを見ていた。

 

 

 

 「えっと・・わかりません。出走している子達のデータとかもわからないので・・自分の出走するレースの子達はある程度事前に調べて対策とかとったんですけど。このレースはちょっと正直わからないです」

 

 

 

 「ははっ。そんなかしこまらなくていいよ。別に君を試すとかそういうのじゃないんだ。勘でいいよ勘で」

 

 

 

 これもしかして試験的なやつなのかな――そう思っていたステイシャーリーンは内心を見透かされていたことに驚いたような恥ずかしいような気持になりながら直感で答える。

 

 

 

 「5番の子が勝つと思います」

 

 

 

 「その心は?」

 

 

 

 「なんとなく。なんとなくです」

 

 

 

 「なるほどね。ちなみに僕は3番か7番のどっちか」

 

 

 

 「二人予想なんてそんなのずるです」

 

 

 

 ステイシャーリーンは少し口を尖らせながら文句をいうとまぁまぁ――と宥める返事が返ってくる。そうこうしているうちに4コーナーを曲がり直線にはいったウマ娘達が必死にスパートをかけていく。ステイシャーリーンが予想していた5番のウマ娘はいい位置につけている。山内が予想していた先頭を走っている3番の逃げウマ娘は序盤ハイペースを作って走っていたのでスタミナは残っていないだろう。もしかして自分はトレーナーの才能があるのでは?ステイシャーリーンがそう思った瞬間、外からすごい勢いでやってきた7番の子が差し切って1着でゴールした。2着に1バ身差で3番ついで5番という結果だった。見事に当てた山内にステイシャーリーンは驚きを隠せない。

 

 

 

 「なんでわかったんですか?」

 

 

 

 「まずスタート時に3番はハナを取りに行った。その時点で1番の子と競り合っていたが競り勝ち先頭のポジションをとることができた。競り合い後にも拘わらず3番の子の表情と呼吸は乱れてなかった。しっかり練習してきたんだろうな。この時点である程度のスタミナを持っていることがわかる。そして序盤でハイペースを意図的に作り、自分が掛かっていると錯覚させ大幅リードを作り中盤を迎える。周りはこう思うだろう。こいつは最後に垂れてくる。ほうっといていい存在だ。しかし周りに気づかれないよう徐々にペース落とし自分の息を整える時間を作っていたんだ。そして最後に残した余力で逃げ切る。それが3番の子の勝つプランだったんだろう。しかしそれに気が付いていた子が1人いた」

 

 

 

 「それが7番の子って訳ですか」

 

 

 

 「そう。7番の子は後方待機していたのに途中明らかに捲ってきていた。このままでは届かないと思ったんだろう。実際その判断は正解だった。最初からああいう感性を持った子はなかなかいない。大したもんだよ」

 

 

 

 「鋭い感性を私はもっていなくてすみません」

 

 

 

 子供が拗ねるような言い方になってしまい、嫌味な奴だとステイシャーリーンは我ながら思ったがつい口にでてしまった。相対的に自分が下げられたような気持になり、言ってはいけないとわかりつつも言葉を発してしまう。

 

 

 

 「ごめんごめん。そういうつもりで言ったわけじゃないんだ。それにこれは観客席からみてわかった情報を元にして予想した結果。実際にレースを走るシャーリーンは先頭を走る子や自分の真後ろを走る子の顔や表情をみることができないだろう?だからあくまでトレーナー視点、観客視点でレース中に建てられた結果ということを忘れないでほしい。大事なのはレースが始まる前にどうするか。どう対策をとるか。トレーナーは自分の担当の子を勝たせるのが仕事なんだからシャーリーンが深く気にすることはないよ」

 

 

 

 「それに勝負勘というのかな。そういったものはもちろん最初からあったほうがいいことは確かだ。けどレースを重ねて徐々に培っていくことだってできる。君は君の長所を生かしつつ、少しずつ成長していけばいいんだ。君が他の子の羨ましがっている長所は他の子が逆に羨ましがっているかもしれないのだから。それに感情がでるのはいいことだ。ここ一番ででる勝負根性が強い子は感情豊かな子に多い。シャーリーンもラストスパートで諦めずに必死に走っていた。そういった子はみんな応援したくなる気持ちになるもんだ。ただレース中はラストスパートの時以外は思った感情が顔に出る癖は直したほうがいいね。レース中だと表情でその時の状態を読んでくる子もいるしそこは追々ね」

 

 

 

 「ハイ・・ワカリマシタ・・」

 

 

 

 多少言いくるめられたような気にもなったが、それでも全体的に褒められているのには間違いないだろう。ステイシャーリーンはくすぐったい気持ちになり、片言の返事になってしまって恥ずかしかったが、それでも褒められたということに喜びを隠せなかった。

 

 

 

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