走り抜ける風   作:ブリンカー

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30話

 次の日の放課後。トレーナー室でまわりと相談し、勝負服の発注をすませたステイシャーリーン。急いで発注したため、簡易的な勝負服になってしまったが、それでもG1レースにでれるという喜びの方が大きかったため、特に揉めることなくこの件は終わった。こだわる子は勝負服を選ぶだけで1週間かかったりするので、山内的にもステイシャーリーンがさくっと選んでくれて助かった。

 

 12月に入り、冬の選抜レースが行われた。この時期の選抜レースは来月の6月から始まるジュニア級のレースにむけて、中等部のウマ娘達も参加するようになる。トレーナー達にアピールして早いうちからチームに所属し、本格的なトレーニングをつみたいと思うようになる時期。

 

 山内は視察を行いながら去年のことを思い出す。まさかあそこまでお願いされるとは思っていなかった。泣きそうな顔で必死に頭を下げるステイシャーリーンとのやりとりも今となっては懐かしい。

 

 無名のウマ娘が重賞ウィナーになる。中等部のウマ娘たちにはステイシャーリーンの噂はある程度広まっているみたいだ。そんなシンデレラストーリーを夢見て、今回も山内の所にお願いしてくるウマ娘が結構な数がいたのだが、山内は全て断った。今は受け持っている3人をしっかりオープンクラスに引き上げることを第一目標にやっているので、スカウトするのであれば3月から動こうかと思っている。その旨を断った1人1人に説明すると、みな納得して諦めてくれた。

 

 トレーナー室に戻り、担当3人の今後を考える山内。ステイシャーリーンは予定通りホープフルSへ。ブリーズシャトルとマスカレードアイの2名もそれぞれ朝日杯とジュベナイルFに出走させようか悩んだが、現状だと厳しいだろうと判断し、今年いっぱいはレースを見送ることにした。特にブリーズシャトルに関しては、短距離のレースを中心になる予定だが、春のクラシック級ウマ娘が出場できる短距離G1レースはない。最低でもマイルになってしまうため、そこを目標に定めて調整していく必要がある。本格的にスプリント路線にシフトするのは早くても夏からだ。1月末のクロッカスステークス、2月末のマーガレットステークスと続いて4月中旬のアーリントンCの結果次第ではNHKマイルカップに行くかどうか。

 

 マスカレードアイは2月のクイーンCに出走し、結果次第で3月中旬に行われる上位にくいこむと、桜花賞の優先出走権を貰えるレースのどれかに出走する。重賞レースが続くが、ブリーズシャトルと比べて体ができるのが早いため、いい結果は残せるかもしれない。

 

ステイシャーリーンはホープフルSの結果次第だ。12月に控えたG1レース。たとえいい結果がでなかったとしても、大舞台を経験するというのは悪くない。ここの所レース続きだし、ホープフルSが終わった後は3月のレースまでトレーニング中心でいいかもしれない。

 

 3人の今後のプランをより明確にたて、ホープフルSに出場するステイシャーリーンのライバルをチェックしていく。流石にみなG1レースに出場するだけあって、どれも能力が高そうな子ばかりだ。ステイシャーリーンが友人と言っていたゴールドシチーのデータに関しては9月末のコスモス賞以来レースに出走してない。3か月の間にどれだけ成長しているかがわからない分、不気味な存在だと言える。初めての芝のレースで1着をとるあたり、良い才能を秘めているのだろう。

 

 それ以降も仕事をこなし、夜遅くに帰宅した山内。今年も残り1ヶ月をきった。ホープフルSが終われば、次の年がきて、3月のクラシック戦線と選抜レースが始まって・・月日がたつのは早いものだと山内は思いながら明日に備えて体を休めた。

 

 

 

 「―――以上が今後の方針だ。3月の選抜レースの走り次第だが、その時期に君達の後輩にあたる子達もスカウトしてチームの人数が増えるかもしれない。そのことを頭にいれておいてくれ」

 

 

 

 「おぉ~後輩ができるかもしれないのか。かっこ悪いとこみせられないね!」

 

 

 

 「見栄をはるつもりはないですが、それでも良い成績を収めたうえで迎えられたらうれしいですね」

 

 

 

 「ホープフルSで勝てるように頑張ります!」

 

 

 

 3連勝の勢いのままに次も勝ちたいステイシャーリーン。気合いは十分だ。それに友人のゴールドシチーも参戦してくるとなると負けられない。ここは勝負の世界。普段は仲良しでもレースは別。全力をだして戦うことが礼儀なのだと、ミーティング後の練習に臨むステイシャーリーン。

 

 

 (本当に我慢強い子達だ)

 

同期がG1レースにでるというのに、ブリーズシャトルとマスカレードアイは特に焦った様子もない。山内はその姿をみて地道なトレーニングを繰り返しこなしている2人に素直に感心する。同期がどんどん高見へ上っているのを間近でみていて、普通なら焦りや嫉妬の感情を覚えてもおかしくない。だが2人にはそれがない。闘争心がないともいえるかもしれないが、明確な目標を示してあげたことにより、それに向けてコツコツと努力を積み重ねることができる子達だ。3人とも仲がいいというのもあるかもしれない。ステイシャーリーンの活躍をうけて、――自分もいつかは。という気持ちがモチベーションにつながっているのだろう。

 

 この3人を受け持つことができたことを山内は感謝しながら、3人にたいして様々な指導を行い、自分のもてる全てを伝えていく。

 

 吐く息が白くなるこの季節。ジュニア級№1を決めるレースが行われる中山の地。それぞれのウマ娘の思いを抱え、決戦の日が近づいていた。

 

 

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