走り抜ける風   作:ブリンカー

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32話

 (遅れを取り戻さないと・・!)

 

 ステイシャーリーンは最初の出遅れを何とか取り戻そうと前へ出ようとする。

 外枠だったため無理に先行争いに加わらなくていいと事前に山内に言われていたが、スタートを出遅れ焦ってかかってしまっていたステイシャーリーンはそのことを失念していた。無理やり前にでるとあっという間に他のウマ娘に蓋をされ、それ以上前にすすむことができない。じわりじわりと隊列が完成しつつ、最初の急坂を迎える。ここはゴール前にも入る坂なので最後までスタミナ配分を考えて走る必要がある。だがそんな余裕は今のステイシャーリーンにはなかった。

 

 (内に閉じ込められた!?)

 

 坂を超え、第1コーナーに入る。15人の走りはけたましい地鳴りをあげながらカーブを曲がっていく。第二コーナーの入口で順位を上げて位置をあげたいステイシャーリーンだったが、自分の外にはぴったりと蓋をして好きにさせまいとしているライバルウマ娘。コーナーを終え、直線に移っても相変わらず包囲網が崩れる様子はない。思ったレースができない、させてもらえない。ステイシャーリーンはレースの中で初めて不自由を感じていた。

 

 

 ――ステイシャーリーンへのマークきつすぎないか?前も横も壁だぞ?

 

 

 ――そらレース成績考えたら一番マークしないといけないのはステイシャーリーンだしな。結果的にそうなるだろ

 

 

 ――でもステイシャーリーンは逃げ以外の戦法ならどこからでも競バできるからなんとかなるだろ!頑張れステイシャーリーン!

 

 

 (これは・・)

 

まさかここまでマークされるとは。山内は焦っていた。しかし他のウマ娘達にとっては自分が勝つとなるとステイシャーリーンを抑えておかないと勝ち目がないという判断なのだろう。応援しているファンの声を聞きながらステイシャーリーンを見つめる。このレースで1番期待されている愛バを信じながら。

 

 

 (スタミナは温存できてるけど自分の仕掛けたいときにしかけられない!)

 

 

 ステイシャーリーンはスタミナが自慢のウマ娘だ。その代わりキレる脚を持っていない。すなわち一瞬の勝負になると弱い部分がでてきてしまうことになる。ステイシャーリーンの必勝法はスローペースな展開を無理やり自分で動かしてスタミナ勝負に持ち込むことである。レースの後半、自分が主体となってレースを動かし勝ってきたステイシャーリーンにとってなすがままにペースを握られるというのは経験したことがない展開だった。

 

 

 (何とか抜け出したいけど・・!)

 

 

 中山競バ場の2000メートルはクラシック級のレース皐月賞と同じレース場。最初の先行争いこそ激しくなりがちなものの、それ以降はペースが落ち着く傾向がある。捲りが得意なステイシャーリーンにとっては絶好のレース場ともいえるのだが、囲まれている以上、その戦法も使えない。ずるずると第3コーナーまで進み、レースも終盤に差し掛かる。集団の様子は変わらず、団子状態のまま最終直線に入った。

 

 

 (前があかない・・!差し切れない・・!)

 

 得意のスタミナ勝負に持ち込めないまま最後の直線を迎えた。中山の直線は短い。次々とスパートをかけていくライバルウマ娘。

 

 

 (せめて隣が垂れてくれれば!)

 

 

 進路が開くことを期待していたステイシャーリーンだったが、このレースはG1。ジュニア級の中で選ばれし15人ウマ娘なのだ。精鋭中の精鋭が集うこのレースで落ちてくるウマ娘はいなかった。

 

 

 (まだ走れる!!私はまだ走れるのに・・!)

 

 

 こんなに苦しいレースは初めてだ。スタートを出遅れなければ。道中冷静だったなら。存分に力を発揮できないままゴール板を通過したステイシャーリーン。1着をとったゴールドシチーが歓声に答えながらこちらに歩み寄ってくる。

 

 

 「今回は・・アタシの勝ちだね。まぁ色々思う事あるだろうけど今度話そーよ」

 

 

 

 そういうと再び歓声にこたえるため、ウィニングランを始めたゴールドシチー。普段から輝いている彼女だが、今はやけに眩しく感じたステイシャーリーンだった。

 

 

 

 「お疲れ様」

 

 

 

 地下通路を通り力なくとぼとぼと控室へ歩いていくと、入口前で山内がステイシャーリーンに声をかけた。無言でうつむくステイシャーリーン。山内は部屋に入るよう促すと、いつものように脚の状態チェックをする。その間もステイシャーリーンは無言のままだった。

 

 

 

 「初G1はどうだった」

 

 

 

 「・・・・」

 

 

 

 「悔しかったか」

 

 

 

 「・・・かった」

 

 

 

 「悔しかったです・・」

 

 

 

 ケアが終わった後ぽろぽろと泣き出すステイシャーリーン。汗で濡れていた膝部分の勝負服が少しずつ湿っていく。

 

 

 

 「私、・・初G1で・・1番人気で・・ここ最近みんなからちやほやされて・・舞い上がってたんですきっと。それで私今回も勝てると思いこんじゃって。心のどこかで油断してたんです」

 

 

 

 「うん」

 

 

 

 「みんないっぱい応援してくれたのに・・期待に答えられなくて・・」

 

 

 

 「うん」

 

 

 

 「すみませんトレーナーさん・・私がもっと頑張ってれば・・私がもっと・・」

 

 

 

 「・・・言いたいことは全部いえたか?」

 

 

 

 「・・えっ?」

 

 

 

 思ってもみなかった台詞にステイシャーリーンは顔をあげる。そこには穏やかな顔で山内がこちらを見つめる姿があった。

 

 

 

 「誰もが生涯無敗で現役を終えることなんてできない。仮にいたとしてもそれは滅多に表れることはない。おとぎ話にでてくるようなウマ娘なら話は別だがな。確かに今日のステイシャーリーンのレースはお粗末だった。だがそれはシャーリーンだけが原因じゃない。俺がもっと事前にケアしておけば勝てた可能性だってある。このレースが最後ってわけじゃない。今日の悔しさを糧に頑張ろう。シャーリーンはここで引退するわけじゃないだろ?」

 

 

 

 山内の言葉にさらに泣き崩れるステイシャーリーン。今日は負けてしまった。だけど次がある。この悔しさをクラシック級で晴らす時まで今よりもっと速くなる。そう心に誓ったステイシャーリーン。

 

 

 初G1は掲示板にものれず完敗した。ステイシャーリーンはジュニア級最後のレースを8着というほろ苦い結果で終える形となった。

 

 

 

 

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